20.追跡! スターレンジャーを追え!①
「まさかアタッシュケースに発信機が付けられているとは思いもしなかったわ。よく気づけたわね、レッド」
スターピンクの言葉に、スターレッドが車を運転しながら頷く。
「ああ。行動が不自然だったからな」
「そうだっけ?」
「あの蜘蛛の怪人、スパイダーレディって言ったか? 彼女は俺たちが来るのを予想して、ビルに糸を張ってたわけだろ」
「そうね。明らかに対策されてたわ」
「その割に、驚くほどあっさりと引いていった。いくらタコの怪人が電撃で痺れたといっても、お前とスターブルーが人質に取られていたんだ。俺たちは不利な状況だった」
「それは、まぁ、反省しているわ」
スターピンクがばつが悪そうに言う。
「本当だろうな?」
「次は大丈夫よ。気をつけながら突っ込むから」
結局突っ込むのかよ……、と内心では思いつつ、スターレッドは話を続ける。
長年の付き合いから、言っても仕方がないとわかっているのだ。
反省すれども、学習はせず。それがスターピンクという人物である。
「まだ戦える状況であったにもかかわらず、彼女たちは退却した。それも重要なはずのアタッシュケースを置いて」
怪人たちがいなくなった後、アタッシュケースを持って、スターイエローが戻ってきた。
彼女の話によると、ジョーカーの構成員は、あっさりとアタッシュケースを置いて逃げていったらしい。
「そう聞くと、あからさまに怪しいわね」
「だろ? 案の定、発信機が付けられていたわけだ」
ちなみに、発信機はその辺に止まっていた車に付けてきた。ジョーカーはその車を追うことになるだろう。
車の持ち主は困ったことになるかもしれないが、そんなことはスターレッドの知ったことではないのだ。
「無事何とかなってよかったわ」
「まぁな……」
「何よ、その煮え切らない返事は?」
「いや、あまりにも奴らの行動があからさまだったから、気になって」
「まだ、何かあるってこと? でもレーダーには怪人達の反応はないわよ。ねぇ、ブルー」
「……」
「ブルー?」
返事がないのを怪訝に思い、スターピンクが後ろを振り向く。
後部座席に座っていたスターブルーはハッとして、スターピンクの方を見た。
「あ、ああ。悪い。ちょっと考えごとしてた」
「どうしたんだよ、ぼんやりして」
スターレッドが尋ねる。
どうも、怪人たちと戦闘をした後から、スターブルーの様子がおかしい。
「いや、あのスパイダーレディという怪人なんだけど……」
「あの怪人がどうした?」
「どこかで会ったことがある気がするんだ」
「会ったってどこで?」
「それが思い出せなくて……」
「気のせいじゃないか? 女の怪人に出会ったこと自体、今日が初めてだろ?」
「そのはずなんだけど……」
スターブルーはまだ首をひねっている。
「そういえば、あの怪人、確かにブルーに甘かったわね」
スターピンクがつぶやく。
「そうか?」
「だって、ブルーが壁に激突しそうになった時、糸を使って助けてたじゃない?」
スターレッドは先程の戦闘を思い出す。
あの時はスターブルーを捕まえるために網を放ったのかと思っていたが、言われてみればスターピンクの言うとおりかもしれない。
「その後もなんだか親しげな感じだったし。私そばで見てたけど、笑いかけられてなかった?」
「そうなのか?」
「いや……」
スターブルーが曖昧な返事をする。
「お前、俺たちの知らないところで怪人をナンパしてるんじゃないだろうな?」
スターレッドが茶化すと、スターブルーがあきれた声を出す。
「そんなことするわけないだろ、お前じゃあるまいし」
「そうよね。ブルーはそんなことしないわよね」
すぐにスターピンクが同意する。
「俺だって、怪人をナンパなんかしてないだろ?」
「それは今まで女性の怪人に会わなかったからでしょ。それに、あんた今日ちょっと手を抜いてなかった?」
「気のせいだろ」
「いや、絶対に手を抜いてたわ。それにブルーもグリーンも相手が女性だからって思いっきり油断してたでしょ!」
「それは……」
「早々に敵に捕まったお前が言うなよ」
スターレッドが憮然として言い返す。
そもそもスターピンクが捕まったせいで、自分たちは手が出しにくくなったのだ。彼女にとやかく言われる筋合いはない。
しかし、スターレッドの言葉を無視して、スターピンクは続ける。
「そういえば、最初に怪人が現れたときから、皆デレデレしてたわ!」
「言いがかりだ!」
スターレッドが叫ぶ。
「なによ、ちょっとスタイルがいいからって。どうせ彼女たちの胸でも見てたんでしょ」
どうやらスターピンクは、あのタコの怪人が言ったことを、かなり気にしているようだ。面倒だな、スターレッドは心の中でつぶやく。
「そんなことするわけないだろ。それよりも、お前がアホなことで怪人と張り合ったりするから、場の空気が変になったんだろ。ブルーなんかは迷惑してたぞ」
「……その話はやめてくれ」
スターブルーが即座に言う。
あのやりとりが相当嫌だったのだろう。声のトーンが低い。
しかし、スターピンクは全く気にする様子がない。
「ブルーもブルーよ。私の味方をしてくれないんだもの。誰も援護してくれないし」
あんな地雷まみれの会話に、誰が参加するか。
内心ではそうぼやきつつ、無視を決め込むスターレッド。
「ねぇ、イエローもひどいと思うでしょ?」
スターピンクがスターイエローに同意を求める。
しかし返事はない。スターイエローは……すやすやと眠りの世界に入っている。子どもはもう寝る時間なのだ。
「ううっ」
代わりに、一番後ろの席で寝かされているスターグリーンが、苦しげに呻き声を上げた。
◆◇◆◇◆
「白鳥、大丈夫?」
「だ、だじょぶぶ……」
舌が回っていない。
やはり、あの電撃かなりキツいものだったようだ。
何が命に別状はないよ、紅一君ったら!
「私、これからスターレンジャーを追跡してくるから、白鳥は構成員と一緒に基地に戻っておいて」
あのビルから脱出した後、白鳥を抱えて構成員たちと合流した。
ここまでくれば、スターレンジャーのレーダーの範囲外のはず。
すでに私は怪人化を解き、生富綾の姿に戻っている。
白鳥を運ぶよう、側にいた構成員に目で合図する。
構成員は無言で頷くと、彼女を抱きかかえ車に乗せた。
「ぎをづげでねん……」
白鳥が心配そうな表情で私を見る。
「うん、わかってる。大丈夫よ」
白鳥を安心させるように力強く頷く私。
しかし、白鳥はまだ不安そうだ。何か言いたそうな目をしてこちらを見ている。
どうしたのかしら? 今日はやけにナーバスになってるわね。
彼女の態度を不思議に思いつつも、先程白鳥を運んでくれた構成員に声をかける。
「じゃあ、白鳥のこと任せたわよ」
「かしこまりました。ご安心ください」
意外にも温かみのある声。
思わず、返事をした構成員の顔をまじまじと見る。
あれ? コイツ、スターレンジャーが出てきた時に一番ノリが良かった構成員だ。確か鈴木って言ったっけ。
構成員って、機械的、事務的なヤツが多いけど、コイツはちゃんとしているわね。
怪人と構成員の関係は微妙だ。構成員の役割は怪人のサポートである。命令する立場である怪人は、構成員のことを下に見ている。
一方構成員はというと……、同じく怪人を見下しているのだ。なぜなら、怪人は人間ではない。いくらすごい力を持っていても、所詮化け物である。
恐れはあるものの、構成員が怪人を見る目には憐れみと侮蔑が入り混じっている。
大幹部の私は、どちらかというと恐怖の目で見られることが多い。だから、私もそれらしい振る舞いをしているんだけど……。
彼なら白鳥をちゃんと運んでくれそうね。
幾分安心した気持ちで、白鳥を乗せた車が遠ざかっていくのを見届ける。
一人だと、やっぱり心細いわね……。いや、気合いを入れなくちゃ。今からが本番なんだから!
私は自分の指から伸びている糸の動きを確認する。発信器とは別の場所に伸びている。
どうやら、アタッシュケースの方はバレたみたいね。あれはおとりだし、問題ないけど。
本命はスターレンジャーに付けた糸だ。さっきの戦闘時にこっそり付着させておいた。この糸をたどっていけば、きっと彼らの居場所に辿り着けるに違いない。
私は糸が伸びている方向へと、駆けだした。
次回、木曜日に更新。
「追跡! スターレンジャーを追え!②」