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17.高慢? 女王 “速水まさみ” ②

「こんなもんでいいんじゃない?」

「そうね。カマキリソルジャーには、この内容を伝えるわ。正式に確定したらまた連絡する」


 ふーっ、やっと終わった。

 大変だったわ。組み合わせを考えるのって大変ね。

 追跡と戦闘能力だけじゃなくて、人間関係も考慮しないといけないんだもの。


 怪人たちにも色々な性格の者がいる。お互い仲良しってヤツもいれば、仲が悪いヤツもいる。そこは人間と変わらない。

 だから、能力的な組み合わせは問題なくても、この二人で組ませるのはちょっと……なんてこともある。チームプレイは大変なのだ。


 さて、これをどうやってカマキリソルジャーに報告しようかな。


 私が考え込んでいる横で、メアリがバッグを背負う。後ろに天使の羽がついたかわいらしいリュックサックタイプのバッグだ。


 このバッグ、メアリのお気に入りなのよね。外に出るときはいつもこのバッグと一緒だ。背負うと羽が生えているよう見えて、本当の天使みたいに愛らしい。今日着ている白いワンピースにもよく似合っている。


「メアリもこれから出かけるの?」


 私が聞くと、


「トモダチと遊ぶ」


 ソワソワした様子でメアリが答える。

 友達っていうのは、白鳥が言っていた同い年の女の子のことね、きっと。

 あっ、そうだ。忘れないうちに……と。


 ゴソゴソ。私は自分のバッグから、リボンでかわいくラッピングされた包みを取り出し、メアリに差し出す。


「メアリ、これあげる」

「……何、これ?」


 きょとんとするメアリ。


「このあいだ、比呂田水族館に行ってきたの。その時にスタンプをいっぱい買ったから、メアリにもあげようと思って」

「スタンプ? サカナ?」


 包みを光で透かして、中を見ようとする。

 でも、何の絵かはわからなかったようだ。


「それはチンアナゴとニシキアナゴよ。水族館の人気者なんだから」

「アナゴ……?」


 メアリが微妙な顔をする。

 きっと地味な茶色の魚を思い浮かべたに違いない。

 違うの、もっとカワイイヤツなの。


「あら、よかったじゃないの。メアリン」


 白鳥がメアリに笑いかける。


「二つある」

「うん。だから一つは友達にあげて」


 じっと包みを見つめるメアリ。


「わかった」


 コクンと小さく頷く。


「ふーん。あんたにしては、気が利いてるじゃない」


 隣で私たちのやり取りを見ていた速水が失礼な言葉を言い放つ。

 ()()()()()ってどういう意味よ?


「気をつけて出かけるのよ」

「うん……」


 私が声をかけると、メアリは頷いてバッグに包みを大事そうにしまう。

 そして、こちらを見るとモジモジしながら言った。


「トミー、ありがとう」

「どういたしまして」


 そのかわいらしい様子に、思わず笑顔になる。

 うんうん。毒を吐いていないメアリは、とてもかわいいのよね。


「メアリ、行くわよ」


 速水がメアリに声をかける。どうやら途中まで一緒に行くらしい。

 意外かもしれないけど、速水はメアリには優しいのだ。私にはああだけど。


「わかった」


 メアリがトコトコと速水の方に歩いて行く。

 二人が並んで歩いて行くのを、後ろから見送る。


 その姿はまるで親子のようだ。

 ……こんなこと考えているのがバレたら、速水に怒られるだろうけど。


 仕方ない。姉妹ということにしておこう。そうしよう。


◆◇◆◇◆


「ねぇ、トミー。ハヤミンって、何しに出かけるか知ってる?」


 二人の姿が見えなくなった後で、白鳥が笑いながら話しかけてきた。


「えっ、知らないけど、何かあるの?」


 なんで笑っているの?


「実はね、ハヤミン、好きな人に会いに行ってるのよん」


 白鳥がおかしくてたまらないといった口調で言う。


「うそ! あの速水が?」

「あら、ハヤミンだって女なのよん。好きな相手ぐらいいるわよん」

「だって、速水よ? アイツ、男を道具としか見てないっていうか、そういう感情とは無縁だと思ってた」


 私は常々、速水の血は青色だと思っていたのだ。


「プフフフフ。ああ見えて意外と純情なのよん」


 純情……。速水が? にわかには信じられない。


「で? で? 相手の男はどんなヤツなの?」

「どんなんだと思う?」


 白鳥がニチャアと笑う。


「もったいぶらないで、教えてよ」


 もう! じらすんだから。


 あの速水が好きになる相手でしょ。

 どうせ、金持ちの御曹司とか、イケメンIT社長とか、そういうのじゃないの?

 アイツ、理想が高そうだもの。生半可な男じゃ、満足できないに違いない。


「それがねぇ、年下なのよん。それも地味な感じの男の子」

「年下? どれくらい下なの?」

「11歳下よん」

「ええっ! じゃあ相手は高校生?」

「そうよん。驚きでしょ?」


 あの速水が、高校生の男の子と……?

 意外すぎる。


 ふと、高校生男子を四つん這いにして、その上に腰掛ける女王速水の姿が頭に浮かぶ。

 ……ダメだ、これアウトなヤツだ。


「それって大丈夫なの?」

「なにが?」

「だって、未成年だし、付き合うとなると色々と問題があるんじゃ……」


 色々イケないことをしているのでは……。


「付き合ってないから大丈夫よん、きっと」

「付き合ってない!? ということは……」

「そう、ハヤミンの片思いよん」


 なんと……!


「その子、演劇やってるみたいなんだけど、ハヤミンったら、せっせと通いつめてるみたいよ」

「あの速水が……」


 どうしよう? 胸がいっぱいになってきた。


 だって、あの速水がよ。

 傲岸不遜、唯我独尊のあの速水が、好きな人のためにせっせと通いつめているなんて……! 

 年下に対して、切ない片思いをしてるなんて……!


 底値だった速水の好感度が、私の中で爆上がりしていく。


「恋はミラクルなのよん」

「恋はミラクル……」


 私も! 私も素敵な恋がしたい!

 

 それにしても……


「なんで白鳥はそんなこと知ってるの?」


 速水が自分から語るとは思えないんだけど。


「この間外出したときに、たまたまハヤミンを見かけたの。気になって、後をつけたのよん」


 さらりとそんなことを言う。

 なるほどー、後をつけたのか。なるほど、なるほど。


 よくやった、白鳥!


「……悪いヤツねぇ」

「プフフ、まぁねん」


 二人でニヤニヤ笑う。


「ねぇ、今度私も連れてってよ。速水の好きな男を見てみたいわ」

「いいわよん。でも、みんなには内緒よん。ハヤミン怒ると恐いから」

「わかってるって。ここだけの話ってやつでしょ」

「そういうこと」


 二人で笑いながら頷きあう。


 ――果たして、ここだけの話が本当にここだけだったことがあるだろうか?


「そういえば、外出で思い出したけど、占いの方はどうなの? うまくいってるの?」


 確か前に占い師として外で働くって言ってたわよね。


「まぁ、ぼちぼちねん。この間も、恋に悩む少年を救ったのよん」

「恋に悩む少年?」

「そうよん。向こうから声をかけてきたの。色々と思い悩んでいたから、たくさんアドバイスをしてあげたのよん」


 恋愛相談ってことか。

 しかし、自ら進んで白鳥に声をかけるとは、その男の子もなかなかのヤツね。


「アドバイスって、どんなの?」

「積極的にアプローチすることをすすめたわん」

「積極的にアプローチ……」


 ふいに白鳥と杉本の馴れ初めを思い出す。

 まさかアレをすすめたんじゃ……。


「やっぱり恋愛は積極性が大事よねん」

「……」


 いくら積極性が大事とは言っても、アレは犯罪なのでは?

 しかも、男女逆なら、ますますシャレにならない……。


「その、大丈夫なの?」

「なにが?」

「その、あまり積極的にいくと、相手の女の子が困るんじゃ……」

「あら、そんなことはないわん。相手の子もニブチンのようだから、ちょうどいいのよん」


 ニブチン……。


「そうなの?」

「そうよ。プフフフフ」


 なぜか白鳥が私の顔を見て笑う。


「どうかした?」

「べつにん」


 白鳥はまだニヤニヤしている。


 ……変なヤツ。


 まぁいい。心配したって仕方がない。

 白鳥の相談者がまともな人であることを祈ろう。私ができるのはそれだけだ。


 ――その日の夜、白鳥のせいで犯罪者が生まれないよう、ちゃんと空に祈っておいた。

次回、日曜日に更新。


「勝負! 白鳥 VS スターピンク」

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