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16.高慢? 女王 “速水まさみ” ①

「トミー、白鳥から聞いたけど、あのスターレンジャーを探るって本当?」


 派手な顔立ちの美女が私に声をかける。180㎝近くある高い身長、ゆるく巻いたロングヘアにダイナマイトボディ。まるで女王のような雰囲気を醸し出すゴージャスな美人。副官の速水まさみだ。


 ここはジョーカー本部のミーティングルーム。スターレンジャーを探る方法を話し合うために、私が副官たちを呼び出したの。


「本当よ。上からスターレンジャーのことを探れという任務が出ているの。それで、私たち偵察部隊に命令が下されたってわけ」

「チッ、また面倒な任務を押し付けられてきたわね」


 速水が毒づくと、


「トミー、ろくなことしない」


 隣にいる少女もそれに同意する。


 同じく副官の江戸川メアリだ。


 江戸川メアリは10歳で、ただいまジョーカーの怪人の中では最年少。ショートカットの巻き毛が特徴的な彼女は、まるで宗教画に出てくる天使がちょっぴり成長したかのような、愛らしい容姿をしている。


 それにしても、二人の言いよう。まるで私が悪いみたいじゃない。


「私のせいじゃないわよ。だいたい偵察任務なんだから、私たちの部隊にその任務が下されるのは当然でしょ」

「そこをうまくやるのが、あんたの仕事でしょ。あんたの誘惑の力は何のためにあると思ってるの。大幹部の男どもを操れなくてどうするのよ」


 むかっ。速水め、相変わらず偉そうね。人の苦労も知らないで。


「そんなの無理よ。誘惑なんて、アイツらに効くわけないもの」

「なんでよ」

「だって、ビーやカマキリソルジャーは枯れてるし、B・Bは女性に興味がないもの」

「はっ」


 速水が鼻で笑う。

 なによ!


「無能なヤツほどこう言うのよね。私のせいじゃない、悪いのは向こうだって。自分の能力の無さを棚に上げて、他人のせいにするのよ。要は、あんたに色気がないだけでしょ」


 なんですって!


「誰の色気がないって?」

「あんたよ、あんた。第一ドラゴンフライヤーはどうなのよ? さすがのあんたでも、あいつぐらいは落とせるでしょ」

「アイツぐらいって何よ。その言い方は龍司に失礼でしょ!」


 龍司をバカにしないで。


「はいはい、悪かったわね。でも、仲良いんだしさ、あいつをパパーッと誘惑して、面倒な仕事押し付けちゃいなさいよ。そのための男でしょうが」


 どのための男よ。


「バカ言わないで。そんなことできるわけないでしょ」

「あら、どうして?」

「どうしてって……。当然でしょ、そんなの」


 冗談でもそんなことできるわけない。

 それに仲が良いって言ったってアイツは……。


 先日のことを思い出し、暗い気持ちになる。


「別にどうだっていいでしょ。放っておいて!」


 ついつい強い口調で言う。

 速水はその形のいい眉をひそめた。


「なーに一人で怒ってんのよ。変なヤツね」

「……別に怒ってなんかないわ」


 ただイライラしているだけよ。


「ハヤミン、それぐらいにしとくのよん。そもそもトミーに、男を誘惑するなんてことできるわけないでしょ」

「トミー、色気ゼロ。仕方ない」


 険悪な雰囲気に耐えかねたのか、白鳥とメアリがフォローに回る。

 ……フォロー?


「とにかく、私たちがスターレンジャーの調査をすることは決まったことなの。そのことについてはとやかく言わないで」


 きっぱりと言い放つ。

 速水は一瞬何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わず肩をすくめた。


「まぁ、いいわ。早く本題に入ってちょうだい。私、忙しいんだから」

「何がそんなに忙しいのよ?」

「見たらわかるでしょ? 今日はこれから外へ出かける予定なのよ。それに、明日の合コンのセッティングもしなきゃならないんだから」


 なるほど。それで人間の姿をしているのね。納得。


 今日の彼女はシャツにタイトスカートというOL風の格好をしている。いつもよりかなり地味な服装だが、体の線が出ていてどうにも色っぽい。大ぶりのピアスと真っ赤なネイルも目立っている。


 ……コイツが着ると、どんな服でもこういう仕上がりになるわね。


 合コンのセッティングというのは、怪人同士の合コンのことだろう。


 ジョーカー内の合コンは、全て速水が取り仕切っている。彼女は“合コンの鬼”と呼ばれ、怪人たちから畏怖されているのだ。

 ジョーカーの怪人は、恋人が欲しかったら、速水に逆らってはいけない。……いろんな意味で、危険な女である。


「仕方ないわね。それじゃあ、今から作戦を説明するわ」


 速水の言うことにいちいち目くじら立てていたら、日が暮れてしまう。

 私だって、忙しいのだ。


 気持ちを切り替えて、今回の作戦を説明する。


「まず、この作戦は中幹部以上で行うわ。理由は、スターレンジャーが怪人を探知できるレーダーをもっている可能性があるからよ」

「ああ、カマキリソルジャーから連絡がきてたやつね。あのKT波に反応するっていう」


 速水の言葉に私は頷く。


「そうよ。だからヤツらに気づかれず後をつけるには、人間の姿でいる必要があるわ」

「人間の姿なら本当に大丈夫なのん?」


 白鳥が首をかしげる。


「絶対とは言えないけど……。私たち大幹部の正体もバレてないみたいだし、とりあえずその前提で動くしかないんじゃないかしら?」

「まったく、いつも適当なんだから! こっちは命がけだって言うのに」


 速水が憤慨する。


 その気持ちはわかる。偵察という行為には危険が伴う。しかも相手の情報が少なければ少ないほど、その危険度は増す。

 ……にもかかわらず、いつも上からの命令は“とりあえず探ってこい”ばかり。要するに丸投げ。もうちょっと何かほしいわよね。


 私たちの部隊は戦闘能力がそれほど高くないものだから、他の部隊から軽んじられているところがある。しかも、女性の比率が高いから、なめられがち。


 まぁ、速水なんかは他の部隊だろうが何だろうが男をこき使いまくっているので、どっちもどっちかもしれないけど。


「それで、どうやってスターレンジャーをおびき寄せるつもり?」


 速水の質問を受けて、私は机の上に置いていた紙を広げて見せる。


「カマキリソルジャーにスターレンジャーが現れた場所の分布図をもらったわ。彼らがよく現れる場所でダミーの取引を行おうと思うの。その取引には私と偵察部隊の中幹部が怪人の姿で付き添うわ」

「ダミーの取引……。じゃあ、本物の取引はどうするのん?」

「本物の取引には他の部隊の中幹部以上が付き添う。こっちは人間の姿でね」


 白鳥の質問に答える私。

 それを聞いて、速水がつぶやいた。


「もし、奴らがKT波に反応するレーダーを使っているならば、ダミーの方に現れるってことか……」

「そう。それでスターレンジャーが現れたら、適当に戦った後に、戦闘を離脱。距離をとったところで人間の姿に戻る。あとは、私たちの能力を使って、スターレンジャーを追跡するってわけ」

「スターレンジャーと戦わないといけないのねん……」


 白鳥が厳しい表情をする。

 相手は私たちに匹敵する力を持っている上に、5人いる。

 気は抜けない。


「幸い、ヤツらは私たちの能力を知らないみたいだから、その点では有利に進められると思うわ」


 偵察部隊はトリッキーな能力を持つ者が多い。

 しかも今回は待ち伏せの形をとるのだ。事前に準備をしておくことができる。

 よほどのことがない限り、やられることはないだろう。


「ちなみに小幹部以下の怪人たちには、お休みしてもらうか、遠い場所の任務についてもらうことになっているわ」

「ふーん。でもそれって大変じゃない。早く捕まえないと、任務が滞るんじゃないの」


 速水が眉をひそめる。


「そのとおりよ。だから、あまり長い間この作戦を行うことはできないわ」

「でも、現れるか現れないかは結局運なのねん」

「まぁ……そうね」


 白鳥が言うように、現れるかどうかはスターレンジャー次第。

 正直行き当たりばったり感はいなめない。だけど、他に思いつかなかったし。


「全く、素晴らしい作戦だこと」


 速水が嫌みったらしく言う。

 むっ!


「じゃあ、速水。アンタだったら、どんな素晴らしい作戦を立てるっていうのよ?」


 ムキになって言い返す私。

 速水は肩をすくめてみせた。


「別に何も立てないわ。スターレンジャーが捕まろうが、捕まらなかろうが、私にとってはどうでもいいもの」

「そんなこと言って、作戦すら立てられない無能なんじゃないの?」

「それはあんたでしょ」

「なんですって!」


 カッとなって声を荒げる。

 ホントにコイツは……!


「二人ともやめなさいよ。みっともないわよん」

「ケンカ、よくない」


 白鳥とメアリが仲裁に入る。


「ふん。大体作戦はわかったわ。それで、どんなメンバーでいつ作戦を始めるの?」


 速水が面白くなさそうな顔で尋ねてくる。

 無視したい気持ちにかられるが、グッとこらえる。


 我慢よ、我慢。大人になるの、綾。


「それを話し合おうと思って。ダミーの取引一つにつき、中幹部以上を二人付けようと思うの」

「組み合わせはよく考えないとダメねん」


 白鳥の言うとおりだ。今回は追跡だから、それに適した人間を配置しなくては。

 それに、スターレンジャーとは交戦することになるから、ヤツらと渡り合える組み合わせにしないといけない。


「二人ずつのグループに分かれると、4組しかできないわよ。他の部隊から中幹部を引っ張ってきて、私たちの部隊と混合でグループを作った方がいいんじゃないの? それにその方が戦闘面でも安全でしょ」


 速水の提案に、私は首を振る。


「それがダメなの。私もカマキリソルジャーに聞いてみたんだけど、他の部隊の中幹部は、今回の作戦で穴があく任務のフォローをするんだって。だから、こっちには人員を割けないの」

「運の要素がますます強まるわね。やる気あるのかしら……」


 速水が顔をしかめる。


 上の無茶ぶりはいつものことだ。スターレンジャーは捕まえたいけど、取引から得られる利益も惜しいのだろう。


 ただ、これについては私も強く言わなかったのよね。だって、他の部隊が関わると、面倒なことになるもの。スターレンジャーのことについては、私が掌握しておきたいの。


「じゃあ、組み合わせを考えるわよ」

次回、木曜日に更新。

「高慢? 女王 “速水まさみ”②」

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