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05.不穏! 女子トイレの密談

 東館4Fのトイレは、近くに使われている教室がないため、利用するものがほとんどいない。職員室からも遠く、教師もめったにこないため、真由(まゆ)たちはこのトイレをよく利用していた。

 使い勝手には少し難があるビューラーで器用にまつげをカールさせながら、真由は、隣でメイクをしている二人の友人に話しかける。


「今日の生富(いくとみ)さぁ、あれどう思う?」

「あー、あれね。普段と態度が違いすぎてツッコミどころしかなかったわ」


 ややぽっちゃり体型の少女――鈴木花菜(すずきかな)がすぐに反応する。彼女は愛嬌のある顔立ちをしており、金髪に近い茶髪を胸のあたりまで伸ばしている。いかにもギャルという容姿だ。真由とは中学の頃からの知り合いで、気心が知れている。


結愛(ゆあ)、キャラが違いすぎてもはや別人かと思った~」


 語尾を伸ばす独特のしゃべり方で、小柄な少女――真壁結愛(まかべゆあ)も同意する。長い髪に、ぱっちりとした瞳、ぷっくらとした唇。彼女はまるで人形のような外見をしている。可愛らしい見た目に反して毒舌で、時折人をギョッとさせることがあった。


「わかる! “迷惑かけてごめんね”だっけ? おまえ誰だよって感じ」

「そうそう。結愛たちには謝ったことなんかないくせにさ~」

「相手がイケメンだとあれかよ。どんだけ媚びてんだ? マジありえねぇわ」

「ホント感じ悪いよね~」


 二人の口調には、あるクラスメイト――生富綾に対する反感がありありと表われていた。それも無理もないことだ。


 生富綾という少女は、クラスでは浮いた存在だ。人と一切関わろうとせず、親しい友人もいない。にもかかわらず、学校で彼女のことを知らない人間はいない。それだけ、彼女の容姿は人目を引くものだった。


 長くて艶やかな黒髪に形のよいアーモンド型の大きな瞳。右目の下の泣きぼくろは、彼女のけだるそうな表情や女性的な体つきと相まって、妙に色っぽい。鼻筋の通った顔立ちは完璧に整っており、どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせている。

 彼女を見たら、10人中10人が美人だと言うだろう。あんな性格にもかかわらず、頻繁に男子に告白されているという。


 生富綾の人付き合いの悪さは筋金入りだ。真由は1年の時も彼女と同じクラスだったが、全員参加のはずの合唱コンクールの練習に彼女は一度も来なかった。体育祭の後片付けにも文化祭の準備にもだ。あの田村でさえ空気を読んで参加していたというのに。


 無口、無愛想、無関心、それが生富綾という人間だ。そんな奴が、イケメン転校生に対しては妙に愛想良く振る舞っていたのだ。真由たちじゃなくても許せないだろう。


「知ってる? 3年の木村先輩。生富に告ってフラれたらしいよ」


 もったいぶった様子で、真由はとっておきの情報を投下する。


「えっ、マジで?」

「木村先輩って、バスケ部の~?」

「そう。バスケ部の元キャプテン」

「それどこ情報よ」


 花菜が信じられないといった顔できく。


「2組の重友(しげとも)から聞いた。校舎裏で生富が先輩に告られているのを見たんだって」

「嘘……。私憧れてたのに」

「なにそれ、がっかり~。木村先輩って見る目ないんだ~」


 二人のテンションはだだ下がりだ。


 それもそのはず。木村先輩は、去年までバスケ部のキャプテンだった人物だ。3年になったため2年にキャプテンの座を譲ったが、その実力は折り紙付きで、現在もチームのエースを務めている。

 背が高い上に、なかなかのイケメンで、当然女子の人気も高い。下級生の中にも花菜のように憧れているものは多かった。


 その先輩がなんでよりにもよって生富に?


「どうせ生富が色目使ったんでしょ。顔だけはいいからさぁ、あいつ」


 嘲るような声で、真由が言う。


「え~、顔いいかなぁ? 真由の方が全然可愛いよ~」

「えっ、そう?」


 結愛の言葉に、真由のテンションが少し上がる。


 実際、真由は美しい少女だった。目鼻立ちがはっきりとした派手な顔立ちをしており、顎のラインまで伸ばしたワンレンのストーレートボブが大人っぽい。167㎝ある高めの身長に、スラリとした手足。モデルにスカウトされたことだってある。しかも、クラスの女子のリーダーなのだ。

 美人だが、いつも独りぼっちの生富とは比べものにならない。


「そうそう~。あいつ陰気だしさぁ」

「私もそう思う。……木村先輩、あんなやつのどこがいいのよ」


 花菜はよほど木村先輩のことがショックだったようだ。ぶつぶつと一人でなにかをつぶやいている。


「でもさぁ、私ほどじゃなくても、あいつもそこそこ可愛いし。このままじゃ、紅一君も危ないんじゃない?」

「確かに。紅一君、転校してきたばかりだから、あいつの本性知らないもんね~」

「ありえない。紅一君まであいつを好きになるなんて……ありえない」


 結愛と花菜は不安そうだ。真由は本題に入る。


「どうする? 紅一君に忠告する?」

「それは駄目~。私たちが性格悪いって思われちゃう~」

「だよねー。じゃあ、どうする? このまま、あいつのすること見とく?」

「そんなんありえないし。ねぇ、真由。あいつにはっきり言ってやろうよ。調子に乗るなって」

「生富を呼び出すってこと?」

「そう! だってあいつ、明らかに紅一君のこと狙ってんじゃん? 今のうちに釘刺しといた方がいいって」

「結愛も賛成~。ああいうタイプはぁ、ちゃんと言わないとわからないって~」


 そうよね、そうよね。二人の提案に、()()()()真由はのる。


「そうよね。今回のことはひどすぎるもんね。……それにしても、呼び出したら、あいつどんな顔するかな?」

「さぁ? さすがに少しは慌てるんじゃないの?」

「どうかな~? でも面白そう~」


 3人は、示し合わせたようにクスクス笑う。


「まぁ、これは生富本人のためでもあるしね。知っといた方がいいじゃない? 自分がどう思われてるかさぁ」

「人生勉強ってやつ? 私たちって親切」

「優しいよね~」


 再び楽しそうに笑い合う。どうやって呼び出すかを話し合った後、少女たちは別れた。


◆◇◆◇◆


 結局、昨日はスターピンクに会えなかった。クラスメイトと部活を見学するということで、一緒に帰らないことになったのだ。紅一君はごめんと謝っていた。


 ここ星華高校(せいかこうこう)では、一年生は必ずどこかの部活に入らないといけないことになっている。“生徒同士の親睦を深めるため”とか“勉強以外のことも経験してほしい”という学校の思いかららしい。


 そのわりには、部活への参加については適当で、部に所属しているものの実際は幽霊部員だという生徒も多い。

 なら、最初から強制にしなきゃいいのに。ちなみに二年生以上は受験勉強のため、強制加入が免除されている。


 私も、我が街(わがまち)研究部(通称街研(まちけん))という謎の部に所属している。私たちが住んでいるこの街の歴史、噂、ニュースなどを調べる部活だ。

 最初の数回しか行ってないけど、その時の部員数は私を入れてたったの5人だった。2年生になったので、部を辞めることができるのだが、手続きが面倒でそのままにしている。


 その街研から、招集があった。曰く、新しい部員が入ったので、歓迎会を開きたいとのことだった。

 ……正直かったるい。ジョーカーの任務もあるし、放課後は何かと忙しいのだ。

 幽霊部員の私にまでちゃんと声をかけてくれるのはありがたいけど、放っておいてほしい。歓迎会は来週らしい。いつものようにサボろうかな。


 帰り支度をして、靴箱を開けたとき、ひらりと白い紙が舞い落ちた。拾い上げて見てみると、カクカクとした不自然な文字で何か書かれている。その内容を見て私は固まる。


『あなたの秘密を知っています。明日の放課後、校舎裏に来てください』


 ……何これ!


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