13.相談! ジョーカーを倒すには…①
今日は楽しかったな。
ベッドの上で寝そべりながら、蒼二君と水族館で遊んだことを思い返す。二人で出かけるのは今日が初めてだったけど、前みたいに緊張することもなく、楽しむことができた。
途中ちょっとしたハプニングがあったけど……。
ハプニング……。
顔が熱くなるのを感じる。
ち、違うの。アレはびっくりしただけなの。だって、あんなに顔が近くにあったんだもの。
それに、ほら。蒼二君って、カッコイイし。あんなの、誰だってああなるわ。
そ、それにしてもあれね。蒼二君って、全然スターブルーっぽくないわよね。外見は目立つけど、中身は普通の男の子って感じ。性格も温厚だし、なんでヒーローなんかやっているんだろう?
今日の彼からは、スターブルーとなって戦っている姿は想像できない。
むしろ、あまり想像したくない。
ただそれを言うと、蒼二君だけじゃなくて、紅一君や桃ちゃんがヒーローをやってる理由も謎だ。
舞の記憶にあるように、単に“正義のため”だったりするのかしら? あまりにもあんまりな理由だけど……。
でも、彼らがスターレンジャーをやる動機はかなり重要ね。彼らが“白の組織”のようにジョーカーや怪人に対して強い恨みを抱いていた場合、怪人である私は受け入れてもらえないかもしれないもの。
できれば彼らの事情をよく調べてから話し合いたいところだけど……。
残念ながら、今のところ紅一君たちのことはよくわかっていない。
調べてみたけど、うまくいかなかったのだ。とりあえず、学校に忍び込んで彼らに関する書類を見てみたり、役所に行って戸籍や住民票を探ったりはした。
でも、わかったことといえば、紅一君たちがアメリカから転入してきたということと、住民票の世帯主が白川弘樹という人物になっていることぐらい。日本国籍ではないのか、戸籍は確認できなかった。
ちなみに、学校の書類に載っていた紅一君たちの親の勤務先はデタラメだった。電話をかけたら、そんな人物この会社に存在しないって。
……怪しすぎるでしょ。
成果といったら、白川弘樹のことだけ。白川弘樹の名には、聞き覚えがある。黒田博士の偽名だ。
黒田博士というのは、数年前にジョーカーから逃げ出した裏切り者の博士。舞の記憶でも白川弘樹という偽名を使っていたから間違いない。
彼のことは私も気になっていた。昆虫化を抑える薬について、私は彼を当てにしているのだ。黒田博士は生化学分野の世界的権威で、天才と呼ばれている人物。彼なら薬といわず私の体を治せるかもしれない。
彼が紅一君たちと一緒に行動していると確認できたのは大きい。
けど、少しひっかかっていることがある。
そもそも、黒田博士は数年前までジョーカーにいて怪人の手術に携わっていた。つまり、私たち大幹部の名前や素性を知っていてもおかしくない立場にいたのだ。
実際、B・Bやキラービーの手術は彼が行っている。ジョーカーがどれだけ情報を制限していたかはわからないけど、黒田博士はある程度こちらの内情も知っているはず。
それなのに、彼と一緒にいるスターレンジャーは、ジョーカーの内部情報をよくわかっていないような行動をとっている。一体なぜ?
心当たりはある。舞の記憶にある黒田博士は記憶喪失だった。部分的にしかジョーカーのことを覚えていなかった。だから、私たちの世界の黒田博士も記憶喪失なのかもしれない。
だけど……。この前の大幹部での会議の内容を思い出す。
スターレンジャーのレーダーを作ったのは、黒田博士のはずよね。怪人を探知するためのKT波に反応するレーダーなんて、怪人のことをよく知る彼じゃないと作れないもの。それなのに、肝心のジョーカーに関することは覚えていない。そんなことって、あるのかしら?
うーん……。
やっぱり、紅一君たちや黒田博士と直接話してみないことにはわかりそうにない。自分一人で調べられる事なんてたかがしれているもの。
彼らに自分の正体を打ち明け、協力を求める。そうしないと話が進まない。ちまちま探っている時間はもうない。すでにジョーカーは動き出しているし、私にはスターレンジャーを探る任務も課されている。
やるなら早くしなきゃ、手遅れになる。それは、わかっている。
でも……。
もし失敗したら? スターレンジャーにはわかってもらえず、ジョーカーにも裏切ったことがバレたら? きっとただではすまない。私は処分される。
ブルリと身を震わす。
……そのことを考えると恐くてたまらない。ジョーカーを裏切った怪人の末路は何度も見てきた。あんな風にはなりたくない。
どうしようもなく不安になって、ベッドの側に置いてあるクマのぬいぐるみを手に取り、ギュッと抱きしめる。昔からこうすると気持ちが落ち着く。
……龍司に相談しちゃダメかな。
思い浮かぶのは、守ってやると言った彼の笑顔。
だって、何かあれば俺に言えって言ってた。なんといっても龍司は頼りになるし、信頼できるもの。きっと力になってくれる。巻き込んでしまうのは気が引けるけど……。
ううん、遅かれ早かれ龍司にはスターレンジャーのことを話すつもりだったもの。なら早いほうがいい。
あらかじめ話しておけば、龍司がスターレンジャーと戦って死んじゃうこともない。
うん、やっぱり龍司に相談しよう。スターレンジャーとの交渉はそれからね。
ちょっぴり元気が出た私は、スマホを手に取りRINEを打ち始めた。
◆◇◆◇◆
「俺に相談したい事って何だ?」
ここは私の家。ローテーブルを挟んで、龍司が私の真向かいに座っている。
彼を呼び出したのは、他でもない私だ。
スターレンジャーと協力して、ジョーカーを倒す。
そのことを相談するために、龍司を私の家に呼び出したのだ。
もちろん、全てを打ち明ける気はない。
舞の記憶とか言い出したら、ややこしいことになっちゃうもの。
「あのね、あの……」
つい口ごもってしまう。内容が内容なだけに、言いづらい。
そんな私の様子に龍司が苦笑する。
「んな構えんなよ。どうせ、あれだろ? スターレンジャーの任務のことだろ?」
違う。
「まったく仕方ねぇな、お前は。最初から、素直に言えばいいのによ」
違うってば。
「安心しろ、助けてやる。なんせ俺は心が広いからな」
そう言って、どこか得意げに笑う。
……だめだ、完全に誤解している。
「違うの。今日相談したいのは別のことなの」
「はぁ? 別のこと?」
龍司は呆気にとられた顔をした後、
「何だよ? 別のことって」
ムッとした表情をする。
そんなに不機嫌にならなくても……。
「あのね、驚かないで聞いてほしいんだけど」
「いいから、早く言え」
もう! せわしないんだから。
こっちは、まだ心の準備ができていないっていうのに……。
でもここまできて言わないわけにもいかない。
深呼吸一つ、気持ちを落ち着かせる。
そして、一気に言葉を吐き出した。
「私ね、スターレンジャーに協力してジョーカーを倒そうと思うの!」
あっ、龍司が固まった。
次回、日曜日に更新。
「相談! ジョーカーを倒すには…②」