09.注意! トラブルメーカー“生富綾”②
「綾ちゃんの世話係ねぇ。あんた5年前に組織に入ったんだっけ?」
「ああ。俺が15の時だ。綾は10歳だったな」
「へー。あんたは高校生、綾ちゃんは小学生か。カマキリちゃんもよくあんたを世話係に任命したわね。あんた、どうせ不良だったんでしょ?」
「だったら悪ィかよ? オカマよりマシだろ?」
「あら、オカマは誰にも迷惑かけないけど、不良は周りに迷惑かけまくりじゃない。一緒にしないで欲しいわ」
「うっせえ。お前の場合、周りに迷惑かけてねぇわけがねぇ。絶対ヤバい生き方してきてんだろ? 見りゃあ、わかる」
龍司が決めつける。B・Bは苦笑した。
「失礼ねぇ。自分のことを棚に上げて。まぁ、いいわ。それよりも綾ちゃんよ。小さい頃から組織にいて、しかも世話係が不良だなんて……。よくマトモに育ったわね」
考えれば考えるほど、不憫だ。
もうちょっと何とかならなかったのだろうか?
「そりゃあ、俺のおかげだろ? 現に綾のヤツ、俺に懐いてるしな」
得意げに龍司が言う。
確かにその通りなのだが……。
「……不思議よね。絶対におかしいわ」
「なんでだよ。俺はちゃんと綾の面倒を見てるだろうが」
「そりゃそうだけど……、やっぱりかわいそうだわ」
「お前なぁ……。言っとくけどな、俺が出会ったときの綾は、とんでもねぇクソガキだったんだぜ」
「そうなの?」
「ああ。わがままだわ、生意気だわ、常に上から目線で偉そうな口きくしよぉ。とにかく手がつけられなかったんだ」
「へー、綾ちゃんがねぇ……」
それはB・Bがもつ綾のイメージとは少し異なる。
B・Bの知る綾は、自分の興味のないものには無関心で冷く、ことさら人と関わりをもとうとしない子だ。気難しい子ではあるが、ワガママで手がかかるという感じではない。
だがあり得ない話ではないとも思う。
綾は幼い頃に手術を受けて以来、ずっとジョーカーの中で育ってきた。
外に出ることも許されず、研究所内で暮らしていた彼女に、一般常識が身につくとは思えない。
それに、綾は初期の改造人間手術の唯一の成功例でもあった。
その時期の改造人間手術は技術が未熟で、綾以外の者はことごとく死んだと聞いている。
ジョーカーにおいても、彼女は特殊な存在だったのだ。
周囲の扱いも普通ではなかっただろう。
「大変だったぜ、あいつの相手は。しかも、あの能力。相性が悪いんだよな」
「確かにトンボって、蜘蛛に食べられているイメージがあるわね……」
羽が生えている昆虫にとって、蜘蛛は天敵だろう。あの糸に絡め取られれば、動くことができなくなってしまう。
綾の能力はなんだかんだいって強力なのだ。本人にやる気がないので、忘れがちではあるが……。
「あんたも、そのうち綾ちゃんに食べられちゃうかもね」
綾があんぐりと大口を開け、糸で捉えた龍司を飲み込むイメージを頭に浮かべながらB・Bが言う。
「縁起でもねぇこと言うな」
龍司が嫌そうな顔をする。B・Bは軽く笑った。
だが、綾と龍司では、色々な意味で綾に軍配が上がりそうな気がする。
別に龍司が弱いと言うわけではない。要は相性の問題なのだ。
「それで、結局どうやって仲良くなったの?」
「は?」
「綾ちゃん、手がつけられない子だったんでしょ。どうやって仲良くなったのよ? 何かあったの? きっかけとか」
「……さぁ、どうだったかな? 覚えてねぇ」
龍司がしれっとした顔で言う。
あやしい……。
「ま、いいじゃねぇか、細けぇことは。あいつに俺の偉大さが伝わり、あいつは俺に懐いた。それだけだ。相変わらず、態度は生意気だったけどな」
そう言うと、龍司は懐かしそうな顔をした。
よく見ると、その口元には笑みが浮かんでいる。
きっと龍司が上手くやったのだろう。この男はなんだかんだいって面倒見がいい。部隊の怪人にも慕われている。
B・Bの目には、二人の関係がとても微笑ましいものに映っている。
まぁ、正直言うと、少しじれったい気もするが……。
再び新しいビールがテーブルに置かれる。キンキンに冷えたビールだ。
龍司はうまそうにそれを飲むと、満足げな表情をした。
「あんたが綾ちゃんの面倒を見てきたのはわかったけどさ」
B・Bもビールを一気に飲む。頭がキーンとした。
「いつまでも子供じゃないのよ、綾ちゃんは」
「は? どういう意味だよ?」
「子供だ子供だと思っていても、気がついたらあっという間に大人になって、こちらの手を離れていってしまうものなの。あんたも高をくくってると、後で泣くはめになるわよ」
B・Bが実感を込めて言う。その言い方に、龍司が怪訝な顔をする。
「なんだぁ? お前、泣いたことがあるような言い草だな?」
「そりゃあ、私ぐらい生きていると人生色々あるのよ」
「へぇ? そういやぁ、お前、組織にくる前は何やってたんだ?」
「私? 私はプロレスの仕事を真面目にやってたわよ?」
「ホワイトデビルだっけか? でも最近だろ、こっちで活躍しだしたのは。その前はどうなんだよ?」
「あら、いきなりスターになれるわけじゃないのよ。そういうのは長い下積み時代があってこそなの」
「下積みねぇ……」
龍司が腑に落ちないという顔をするが、B・Bは構わず続けた。
「私のことはいいじゃない。問題は、あんたと綾ちゃんのことでしょ」
「別に俺らに問題なんかねぇだろ。お前がそういう風に話を持っていこうとしているだけだ」
「そんなことないわよ」
「いいや、そんなことある。余計なことすんなよ。面倒だからな」
ピシャリと龍司が言う。
「余計なことって何よ?」
「余計なことは余計なことだよ。とにかく、俺と綾のことに口出ししてくんな。わかったな?」
龍司が念押しする。
「……つまらないわ」
B・Bは大きくため息をついた。
◆◇◆◇◆
さて、どうしよう。
ジョーカー本部から帰ってきた後、私は頭を悩ませていた。もちろん、スターレンジャーを探る任務について。
私の部隊でやるとは言ったものの、全くのノープラン。
スターレンジャーの正体をジョーカーにバラすわけにはいかない。でも、何の成果も持ち帰らなかったら、それはそれでまずいことになる。
情報を取捨選択して伝えてみる? どの程度までならOKかしら……。
腕を組みながら、部屋をウロウロと歩き回る。何かいいアイデアが降ってこないかな。
諦めて、考えるのは明日にしようと思った時、スマホの着信音が鳴った。
チラッ。横目で見る。
あっ、蒼二君からだ!
すぐにメッセージを確認する。
“こんばんは。今、比呂田水族館でクラゲの特別展がやってるって、知ってる?”
クラゲ? クラゲがどうしたんだろ?
“クラゲ? 知らない”
“とてもきれいらしいよ。海の宝石っていうぐらいだから”
“へー、海の宝石”
“珍しいクラゲも展示されてるんだって”
クラゲ。蒼二君にクラゲ……。何か似合うわね。
海にフワフワ漂う蒼二君とクラゲを想像して、一人でニヤニヤしてしまう。
“面白そう。見てみたい”
“なら、今度一緒に見に行かない?”
……。
“行きたい!”
“よかった。じゃあ、一緒に行こう”
“うん”
しばらく蒼二君とRINEでやりとりする。
来週の火曜日に、一緒に水族館に行くことになった。
友達とお出かけ……。
マルワン、Dランドときて、これで三回目だ。
嘘みたい! 最近の私ってば、とても充実している。
まるで普通の高校生みたい。
楽しい気持ちになって、ついステップを踏んでしまう。
何着ていこうかなー。
あまり気合いを入れすぎてもダメよね。変に思われるもん。
そういえば、男の子と二人で出かけるなんて初めてね。
そこまで考えて、はたと立ち止まる。
……友達でいいのよね?
蒼二君がそう言ってたんだし。友達になって、たくさん遊びに行こうって。
でも……。
蒼二君ってスターブルーなのよね。
私が任務で探らなきゃいけない相手。
そんな相手とのんきに遊んでていいのかしら?
嬉しくって、ついOKしちゃったけど……。
なんだかどんどん不安になってくる。
あっ、でもちょっと待って。
よく考えたら、蒼二君と会うことは、スターレンジャーを探ることと同じじゃない?
もとはといえば、彼を探るために友達になったんだし。
ということは、水族館に遊びに行くのも、任務の一環になる。
それなら仕方ない。遊びじゃない。これは仕事なのだ。
よし! 頑張ろう!
私は自分をそう納得させ、任務のための情報収集を開始した。
次回、日曜日に更新。
「提案! 聖地巡礼」




