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06.注目! 怪人たちのスター “ビッグ5”

 本部の中央エレベーターに乗り込む。


 目指すは、ジョーカー本部の地下にある怪人の居住区。


 怪人はこの居住区に住んでいる。比呂田市の地下には怪人たちの通路が張り巡らされていて、任務の時はこの地下通路を使う。

 もちろん出入り口の管理はとっても厳しい。ジョーカーの構成員でさえ許可証がないと入れないくらいだもの。


 居住区“バグズシティ”、そこは怪人たちの楽園。

 私の副官である中幹部もそこに住んでいる。


 中幹部は、私たち大幹部と同じように人間の姿をもつ怪人。能力的には、大幹部と中幹部はほとんど変わらない。


 違う点と言ったら、その姿。大幹部と違って、中幹部は普段怪人の姿をしているの。必要な時だけ、人間の姿に変わる。


 現在、中幹部の人数は30人。各部隊に7・8人ほど置かれていて、何人かが副官として大幹部の補助をしている。

 私の偵察部隊の副官は白鳥(しらとり)速水(はやみ)江戸川(えどがわ)の3人。寮にいてくれたらいいけど……。


 エレベーターが下層に降りていく。


 怪人たちはずっと地下で暮らしていて、任務以外で外に出ることはほとんどない。独自のコミュニティを作って、協力しあって生きている。

 もちろん、中幹部も。中幹部は人間の姿になれるから、外出することもあるけど、やっぱり普段は地下の町で暮らしている。

 

 大幹部だけが仲間はずれ。


 ……時々壁を感じることがあるの。怪人たちが仲間だと思っているのは、中幹部までなんじゃないかって。怪人でありながら、人間として暮らす私たち大幹部は異質な存在なのよ。


 実際、怪人たちへの影響力も大幹部より中幹部の方が大きい。普段から一緒に暮らしているんだから当然と言えば当然なんだけど。


 その中でも、特に影響力が大きいのが、“ビッグ(ファイブ)”と呼ばれる5人の中幹部。彼らは言ってみれば怪人たちのスターだ。


 “ビッグ5”が優れているのは、怪人としての能力じゃない。もちろん中幹部だから能力も高いけど、彼らが尊敬されている理由は別にある。


 “ビッグ5”は、怪人たちに()()()()をもたらした。それが怪人たちを惹きつけてやまないの。


 “ビッグ5”が何をもたらしたかって?


 それはね


 ――娯楽よ。

 

 ジョーカーには5大娯楽といわれる、怪人たちの楽しみがある。“ビッグ5”は、その娯楽の生みの親なの。


//////////////////////////////////////////////////////


1つ “集え強者よ 限界を超えろ” 

 格闘部隊中幹部 ロッキーによる

 怪人格闘場 “ZERO(ゼロ)


1つ “俺のスピードについてこれるか?” 

 飛行部隊中幹部 鈴鹿(すずか)セナによる

 怪人エアレース “空飛野郎(そらとびやろう)


1つ “いつかスターを超えた伝説になる” 

 偵察部隊中幹部 クリケットによる

 怪人バンド “INSECTS(インセクツ)


1つ “命短し、恋せよ乙女” 

 偵察部隊中幹部 速水(はやみ)まさみによる

 怪人合コン “女王の部屋(クィーンズルーム)


1つ “真実は吾輩の頭の中にある”

 暗殺部隊中幹部 秋舘文春(あきたちふみはる)による

 怪人ゴシップ誌 “プライデー”


//////////////////////////////////////////////////////


 “ビッグ5”がもたらした娯楽によって、“バグズシティ”は劇的に変わった。それまでは地味な町だったのに、今では様々な建造物が建てられ、整備され、町中が活気に満ちている。


 それだけじゃない。娯楽ができてから、怪人たちも変に暴れたりしなくなったし、任務で暴走することも減った。娯楽を知って怪人たちは人間らしくなったの。


 ジョーカーがなんだ。怪人がなんだ。俺たちは好きに生きる!――を実行したのが“ビッグ5”。


 それはすさまじい熱意でやり遂げていった。勝手に訓練所を改造したり、どこかから物資を集めてきたり、怪人を招集したり。あの5人はとにかく行動力があるの。素直に尊敬してしまう。


 今ではすっかり怪人たちは娯楽のとりこ。もちろん、任務もちゃんとこなしている。上につけ込まれる隙は与えない、というのが皆の方針だから。

 元老院のヤツらはこのことを知らない。アイツら、私たちのことなんて興味ないもの。


 カマキリソルジャーは知ってるけど、上に報告する気はないみたい。怪人たちが、勝手に外に出たり、ジョーカーの規則も破っても、放置。バレないようにやれとやんわり注意しているようだけど。


 そもそもカマキリソルジャーも、ジョーカーに忠誠を誓っているわけじゃないのよね。


 とにかく、この5大娯楽を知らないと、怪人たちの話にはついていけない。それ程、“ビッグ5”の娯楽の影響力はすごいの。


 5大娯楽はどれも人気だけど、私のオススメはやっぱり“INSECTS(インセクツ)”のライブ!


 “INSECTS(インセクツ)”は音楽好きの怪人5人がやっているバンドで、なんといってもクリケットの歌がすごいの。あの歌は彼にしか歌えない、そういう類のすごさ。控えめに言って、彼は最高ね!


 クリケットに感化されて、バンドをやりはじめた怪人は山ほどいる。中にはイイ線いってるヤツもいるけど、やっぱりクリケットは別格なの。


 実は私、“INSECTS(インセクツ)”のファンクラブ入ってるの。会員ナンバー3。なんと一桁! えへへ。これ、すごくうらやましがられるの。今やファンクラブの人数は1,000人を超してるんだから。つまり、怪人たちのほとんどがクリケットのファンってわけ。


 実は、今日は“INSECTS(インセクツ)”が新曲のプロモーションをする日なの。見たかったんだけど、もう遅いわよね……。

 帰りにちょっと覗いていこうかな。何かやってるかもしれないし。


 あっ、エレベーターが止まった。


 さて、白鳥たち女子寮にいるかしら? あいつらすぐどこかに行くんだから……。


◆◇◆◇◆


 ジョーカーの寮はエレベーターから真っ直ぐ進んだ場所、“バグズシティ”の中心にある。一昔前の西洋式の建物といったデザインで、レトロかつモダンな雰囲気がとてもお洒落。

 怪人たちは皆この寮に住むことになっている。寮は部隊ごとにわかれているけど、女子寮は一つだけしかない。これは女性の人数が少ないため。つまり四つに分けるほど、人がいないのだ。


 女子寮に着いた私は、談話室に行き扉を開ける。


 「あら、トミー。どうしたのん?」


 部屋にいた女性が不思議そうに私を見た。


 年齢は20代半ば。ワンレンのロングヘアに、太めの眉毛とたらこ唇。目から顎までのラインがふっくらしており、まるで平安時代の美人画のようなおっとりとした顔立ちをしている。しかし彼女が着ているのは十二単ではなく、バブル時代の真っ赤なスーツ。顔と服装が全くマッチしていない。


 彼女の名前は白鳥(しらとり)さわ子。タコの怪人で、私の部隊の副官である。


 どうでもいいけど、トミーって呼ばないでほしい。四羽商事の富井君と被ってて、なんか嫌なの。


「ちょっと任務の話をね。白鳥はどうして人間の姿をしているの?」


 中幹部は大幹部と違って、普段は怪人の姿をしている。白鳥もいつもは怪人の姿をしているのに……。

 

 不思議に思って聞くと、彼女はウフンと色っぽく笑って答えた。


「実は、今、長時間人間の姿になる練習をしているのよん。外で働いてみようと思って」

「働く? 外で?」


 確かに中幹部なら外で働けなくもないけど……。

 私が驚いていると、彼女はニンマリと笑った。


「そうよん。占い師をやるの。神秘的でしょ? 迷える仔羊を私のパワーで救うのよん」

「占い師……」


 本気かしら?


「トミーも占ってあげるわよん。気になるでしょ、彼との相性」

「へ? 彼って誰のこと?」

「あら、決まってるじゃないの。ドラゴン…「ちょっと!」


 白鳥を睨み付ける。


「勘違いしないで。アイツはそんなんじゃないってば」

「あら、そうなのん?」

「そうよ。迷惑だから、そういうのはやめて!」 

「迷惑ね……」

 

 白鳥が首をかしげる。


「人間、素直が一番よん」

「……どういう意味よ」

「別に、深い意味はないわよん」


 プフフと白鳥が笑う。


 むっ、何よその笑いは……。

 正直イラッとするが、スルーする。

 私は大人なのだ。こんなことにいちいち目くじら立てたりしない。


「それで? 任務の話ってなんなのん?」

「それが大変なの。私たちの部隊に、スターレンジャーを探れという命令が下されたのよ」


 私が勢い込んで言うと、白鳥はその小さな目をパチクリさせた。

次回、木曜日に更新。

「秘技! 白鳥の恋愛法(仮)」

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