33.エピローグ
(スターレンジャー、そしてこれは……)
彼の元には、様々な報告がよせられる。
いくつもの情報を精査していると、否が応でも気付く。
スターレンジャーだけではない。
ジョーカーを脅かすものは他にもいる。外部にも内部にも……。
いくつもの綻びが見える。
一つ一つは小さいが、それは確実に組織を蝕んでいく。
最近、考えずにはいられない。
……全てが崩壊したとき、果たして自分はどこに立っているだろうか、と。
◆◇◆◇◆
(チッ、面倒くせぇな)
組織からの連絡は、いつも彼を不愉快にさせる。
せっかくのツーリングが台無しだ。
とはいえ、そろそろ切り上げようかとは思っていたところだ。
先程からどうも雲行きが怪しい。
晴れ渡っていたはずの空は、いつの間にか灰色の雲に覆われていた。
仕方がない、引き返すか。
愛機にまたがり、今日も彼は駆け抜ける。
◆◇◆◇◆
(相変わらず対応が遅いわね。こんなんじゃ、いつか足元をすくわれるわよ)
大きな組織ではありがちなことだが、
ジョーカーはどうも危機意識に欠けている。
力さえあればどうとでもなると思っているのだろうか?
その考えの甘さがおかしかった。
そんなことよりも、今は試合に集中しなくては。
とっておきの相手とのデスマッチだ。
精一杯、会場を盛り上げなくてはなるまい。
マスクを被り、リングへと向かう。
まぶしいライトの光とともに、人々の歓声が彼を迎えた。
◆◇◆◇◆
(ほう? これは……)
今日の相手も手応えがなかった。
いつもこうだ。彼と渡り合える者などどこにもいない。
彼は常に一人だった。
最近は一族の者もやってこない。
あきらめた……というわけではないだろう。
最強の看板はそう簡単に捨てられるものではない。
案外もう近くまで迫っているのかもしれない。
それまでは何をして暇を潰そうか。
組織の端末を見て、彼は冷たく笑う。
さて、これは記憶する価値があるだろうか?
◆◇◆◇◆
(いよいよね。一体どうなっちゃうんだろう?)
彼女はベッドの上にだらしなく寝そべっていた。
いつもはこうやっているとくつろげるのに
今日はどうしても心が波立つ。
果たして自分はうまくやれるだろうか?
これからのことを考えると、不安でたまらない。
彼女は自分を落ち着かせるかのように、
近くにあったクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
◆◇◆◇◆
とあるビルの一室。生物の温かみが感じられないコンクリートの壁には窓一つなく、機能のみを追求した白いインテリアは、その部屋をより一層人間味のないものにしていた。
その寒々とした部屋の中、大きな円卓を囲むようにして5人の男女が椅子に座っている。統一感のある部屋とは逆に、男女の年齢や外見はてんでばらばらだった。
一人は30代前半の男性。髪をオールバッグにし、ダークグレーのスーツを隙なく着こなしている。切れ長の眼に整った細面の顔立ちは、知的さを感じさせる反面、どこか冷たい印象を与える。
一人は真っ赤に染めた髪を逆立たせた、20歳ぐらいの青年。足を机に投げ出している様は、いかにもふてぶてしい。黒を基調とした派手な柄の服にごてごてとしたシルバーアクセサリーを身につけている。端整な顔立ちをしているが、鋭い目つきと不敵な面構えは、不良少年がそのまま大人になったかのような風貌を思わせる。
一人は鍛え上げられた筋肉をもつ男。短く刈り込まれたダークブラウンの髪に彫りの深い精悍な顔立ち。年齢は30代半ばぐらいだろうか。小洒落たスポーツウェアを着ており、逞しく大きな体からは丸太のような手足が生えている。しかしその仕草はなぜか女性的で、見る者に強烈な違和感を抱かせる。
一人は飄々とした雰囲気を漂わせる年老いた男。白く長い髪を後ろでひとつに束ね、まるで仙人のような白い髭を生やしている。変わった紋が入った中国風の道着を着ており、体格は小柄だが、鷹のような鋭い眼光は、年齢特有の弱々しさを全く感じさせない。
一人は10代半ばくらいの美しい少女。学生服を大人っぽく着こなしている。アーモンド型の大きな瞳に上品な顔立ち、長くて美しい黒髪は、良家の子女をも思わせる。しかし、右目の下の小さな泣きぼくろや気だるそうな表情が、どこか蠱惑的な雰囲気を醸しだしている。
5人は何をしゃべるでもなく、ただ黙り込んでいる。
重々しい空気が部屋を支配していた。
時計の長針が12の文字をさす。
それと同時に、ダークグレーのスーツを着た男が厳かに口を開いた。
「それでは今から“スターレンジャー対策会議”を始める」
残りの男女は静かに頷くと、一斉に彼に視線を集中させた。
――ジョーカーの大幹部とスターレンジャーとの戦いの火蓋が、今切られようとしていた。
これにて一章完結です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただけたでしょうか?
二章は、書きたまってから定期更新する予定です。(詳細は活動報告にUPします)
また読んでいただけたら嬉しいです。
では、次は二章「大幹部VSスターレンジャー」でお会いしましょう。