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32.激突! ドラゴンフライヤー VS スターレンジャー

「上から見てたぜ。まさか素手で怪人をヤっちまうとはな。すごいじゃねぇか。お前ら一体何者だ?」


 肩をすくめ、おどけた調子でドラゴンフライヤーが尋ねる。まるで、友人に話しかけるような気軽な様子だ。スターピンクが彼を睨み付けた。


「そういうあなたこそ何者よ? よくもスターブルーをやってくれたわね!」

「先に手を出したのはお前らだろ? 責められる筋合いはねぇな。それよりも、俺のこと知らねぇのか? 俺らの組織のことは、知らねぇわけねぇよなぁ?」

「ふん! もちろん知ってるわよ。“ジョーカー”が悪の組織で、滅ぼすべき相手だってことはね! でも、いちいち末端の怪人のことまで知るわけないでしょ!」


(へぇ? やはりジョーカーのことは知っているんだな。しかし……)


「俺を末端とは、言ってくれるじゃねぇか? これでも、ジョーカーの大幹部の1人なんだぜ?」

「大幹部!?」


 スターグリーンが驚きの声を上げる。


「そうだ。大幹部のドラゴンフライヤー様だ。どうだ? ちっとは驚いたか?」


 ドラゴンフライヤーが不敵に笑い、一歩前に出る。スターレンジャーが一斉に身構えた。


「さて、次はお前達の番だぜ」


 ドラゴンフライヤーは刃のような鋭い目つきでスターレンジャーを睨み付けた。そこには、先程までのふざけた様子は全くない。


「さぁ、答えてもらおうか。お前ら何者だ? なぜこんなことをしている?」

「しれたこと。悪を滅ぼし、正義をつらぬく。それこそが我らの使命!」


 間髪入れず、スターピンクが答える。


「……それ、本気で言ってるのか?」


 ドラゴンフライヤーの困惑した顔。スターピンクは得意げに言った。


「当たり前でしょ。もっとも、あなたみたいな悪党には、私たちの崇高な使命は理解できないでしょうけど。大幹部というなら好都合。生け捕りにしてジョーカーの根城を吐かせてやるわ」


 取り付く島もないとはこのことだ。


(話が通じる相手じゃねぇな……)


 ドラゴンフライヤーは会話をあきらめ、戦闘態勢に入る。獰猛な笑みを浮かべながら、胸の前で両手を合わせ、指の関節を鳴らした。


「そうかよ。いいぜ、やれるもんならやって……」


 先手必勝! スターイエローが疾風のように走り込み、跳ぶ。

 狙いはドラゴンフライヤーの首だ! 刺すような鋭い蹴りがドラゴンフライヤーの背後から放たれる。

 ドラゴンフライヤーは、素早く体を捻り、なんなくそれを避けた。

 しかし、スターイエローの攻撃はとまらない。地面に着地したと同時に素早く反転すると、再びドラゴンフライヤーに跳びかかる。


「おっと」


 ドラゴンフライヤーは後ろに倒れるようにしてその蹴りを避けると、その体勢から空へと飛び上がる。右手にはアタッシュケースを握っている。


「人が話している途中に蹴りかかってくるたぁ、随分なご挨拶だな」


 ドラゴンフライヤーはニヤリと笑うと、そのまま空高く舞い上がった。そして、十分な高さまで飛んだ後、今度はスターイエローめがけて猛スピードで急降下しだした。


 ――来るっ! スターイエローが身構える。


 ドカッ。


「ぐげっ」


 ドラゴンフライヤーの弾丸のような突撃。スターグリーンがなすすべもなく後ろに吹き飛ばされる。

 スターグリーンは、そのまま近くにあったゴミ山に見事に突っ込み、ジタバタともがいた。


 どうやら、ドラゴンフライヤーは、最初からスターグリーンを狙っていたようだ。


「よくもスターグリーンを!」


 スターピンクが猛牛のように突っ込んでいく。固く握られた岩のような拳が、ドラゴンフライヤーむけて突き出される――が、しかし


「よっと」


 攻撃を読んでいたドラゴンフライヤーに、あっさりと避けられてしまう。彼は、再び空へと飛び立つ。


「くっ、卑怯よ! 逃げてばっかりいないで、降りてきなさいよ!」


 スターピンクが苛立った声で叫ぶ。ドラゴンフライヤーは鼻で笑った。


「へっ、ケンカに卑怯もクソもあるかよ。そもそも、5対1は卑怯じゃねぇのかよ?」


 ドラゴンフライヤーの指摘に、スターピンクはなぜか勝ち誇った顔をする。

 なんだ? ドラゴンフライヤーは身構えた。


 ビシッ! 彼女は、指をドラゴンフライヤーの方へ突き出し、堂々と言い放つ。


「勘違いしないでよね。私たちは1の力を5分割にして戦ってるだけなんだから!」

「……お前、何言ってんだ?」


 ドラゴンフライヤーがあきれた顔をする。大丈夫か、こいつ? そう思ったその時――


 パシッ。


「っぶねぇ!」


 背後から矢のような速さで石が跳んできた。手のひらサイズほどある石だ。頭に当たる直前に、ドラゴンフライヤーは左手で石を受け止める。


「おいおい、一体どんな肩してやがるんだ?」


 ドラゴンフライヤーは顔をしかめた。地面からここまでかなりの距離がある。しかし、その石はありえないスピードで、ドラゴンフライヤーを正確に狙ってきた。


「そっちこそ、後ろに目でもあるのか?」


 スターレッドも負けじと言い返す。スターイエローの蹴りといい、自分が投げた石といい、死角をついていたはず。それなのに、ドラゴンフライヤーは軽々かわしている。まるで見えているかのように――


「さぁな? あるのかもしれねぇな」


 おどけた声。そして再びドラゴンフライヤーが空高く飛び上がった。

 またか! 今度はスターレンジャー全員が身構えた。

 ドラゴンフライヤーはニヤリと笑うと、今まで以上に速度を上げながら、突っ込んでいく。


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


 何も起きない。

 なぜだ? スターレンジャーが不思議に思って、構えをとく。

 ……ドラゴンフライヤーの姿はどこにもなかった。


 慌てて、キョロキョロと周りを見渡す。

 いた、あそこだ! 自分たちから遠く離れた位置を飛んでいる。右手にはアタッシュケース、左腕にはアリ男を抱きかかえて。


「悪ィが、時間切れだ。俺は忙しいんでな。また暇なときに遊んでやるよ」


 そう叫ぶと、ドラゴンフライヤーは目にもとまらぬ速さで、その場を去って行った。


「ちょ、ちょっとぉ、戻ってきなさいよ! これからがいいところでしょー!」


 スターピンクの不満げな声を残して。


◆◇◆◇◆


(やっべぇ。間に合うか、これ)


 ドラゴンフライヤーは焦っていた。スターレンジャーと戦っていたせいで、時間が押している。彼のスピードをもってしても、今からではギリギリだ。


(しかし、あいつらが噂のスターレンジャーか。聞いていた以上にヤベェ奴らだったな)


 はっきり言って、言動も服装もおかしかった。しかし、なによりもおかしいのは、奴らの戦闘能力だ。アリ男との戦いを見ていたが、スターレンジャーは予想外の強さだった。

 そもそも、怪人に傷をつけられる時点で、おかしいのだ。怪人の肌は固い殻に包まれており、普通の人間ならばかすり傷一つ負わすことはできない。もちろん、銃などの武器を使えば別だが。


 スターレンジャーは素手で戦っていた。にもかかわらず、アリ男は深手を負わされたのだ。自分も奴らの攻撃を受けるとただではすまないだろう。B・Bほどの固さがあれば、また違うかもしれないが。


 それだけではない。頑丈さも異常だった。怪人の攻撃をまともに受けたにもかかわらず、奴らはピンピンしていた。ありえないことだ。


(上は、あいつらをどうするつもりなんだ?)


 スターレンジャーに対しては、今のところ何も命令が出ていない。注意しろ、手を出すな、とだけ連絡がきていた。何体も怪人がやられているというのに、悠長なことだ。また元老院が、くだらないことでもめているのかもしれない。


(殺せと言われれば、その命令に従わなければならないが……)


 ドラゴンフライヤーは険しい顔をする。自分は人を殺したことがない。任務でそのように命じられたこともないし、そうするつもりもない。

 彼の任務は大抵が後方支援だった。彼の能力的なものもあるのだろう。戦闘向きの能力を持った怪人は他にいる。

 しかし、必要があれば容赦なく命令が下るだろう。正直、気が進まない。むろん任務でも私生活でも、相手を病院送りにしたことは幾度となくある。しかし、人を殺すとなると話は全く別だった。


(報告もしなきゃならねぇし。面倒だな)


 アタッシュケースを届けた後で、いったん基地に行かねばなるまい。今回の件は、無視していいものではない。アリ男の治療も必要だ。命に別状はないみたいだが、放っておいて治るケガでもなさそうだ。


(にしても重いな、こいつ。あいつとは大違いだ)


 先日自分が運んだ、意地っ張りな少女の顔を思い浮かべる。夜景を見て、珍しくはしゃいでいた。


(今度は、星が綺麗に見える場所にでも連れて行ってやるかな)


 そんな他愛もないことを考えると、気持ちが落ち着いてくる。ドラゴンフライヤーは目的地へと全速力で飛んでいった。

次回は木曜日に更新。


 一章の終わり。


 次回、『エピローグ』

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