31.爆発! 俺たちがスターレンジャーだ!
とある廃工場跡。放棄されて長い年月が経っているのか、壁の一部は剥がれ落ち、雨風に打たれた塗装は茶色く錆びついている。
人里離れた山奥に、ポツンとたたずむその様子は、まるで世間から見捨てられたかのような、物寂しい雰囲気を漂わせていた。
その工場跡の真ん中にある、大きなコンクリートの煙突。高く高くそびえ立つその煙突の先端に、黒い影が肘をついて寝そべっている。
黒い外殻に覆われた体に黄色の縞模様、エメラルドグリーンの大きな眼。
ジョーカーの大幹部――ドラゴンフライヤーである。
彼は、退屈げにあくびをしながら、煙突下の風景を眺めていた。
(チッ、まだ終わらねぇのかよ……)
彼の今日の任務は、ジョーカーの怪人からあるモノを預かり、とある場所へと届けるというもの。つまりは、いつもと代わり映えのしない、つまらない任務だ。
しかし、約束の場所にはまだ誰もいない。どうやら早く来すぎてしまったようだ。彼は、特にすることもなく、完全に暇を持て余していた。
工場の内部では、怪人と戦闘員を連れた、ジョーカーの構成員が怪しげな連中と取引をしていることだろう。
(おっ、やっと出てきたか)
どうやら取引が終わったらしい。工場の中からゾロゾロと人が出てきた。戦闘員の1人が大きなアタッシュケースを持たされている。ドラゴンフライヤーは、煙突から怪人達のいる場所まで降り立とうとした。
と、その時――
「そこまでよ! 悪党ども」
どこからともなく声が聞こえてきた。若い女性の声だ。飛び降りるのを止めて、声がした方向に眼をやる。工場の屋根の上に5つの人影が見えた。
(なんだぁ? あのイカれた連中は?)
ドラゴンフライヤーは5人の姿を見て、絶句した。
……そいつらは、頭がおかしいとしか思えない格好をしていた。
赤、青、ピンク、黄、緑といった原色に近い派手なスーツとヘルメット。頭と胸の部分には服と同色のキラキラ光る石がはめ込まれている。何かの装置だろうか? 皆一様に、腕と腰にはごついブレスレットとベルトをはめている。
5人の背格好はバラバラで、黄色のスーツを着ている者だけが異様に背が低い。まさか、子供か?
まるで、特撮もののヒーロー番組から抜け出してきたような姿。そんなふざけた格好をした奴らが、屋根の上から怪人たちに向かって叫んでいる。目を疑うような光景だ。
しかし、ドラゴンフライヤーにはその正体に心当たりがあった。最近、ジョーカーでは彼らの噂でもちきりだからだ。“スターレンジャー”、奴らがそうに違いない。
「な、なんだ? 一体?」
「どこだ? どこにいるんだ?」
怪人達は、まだキョロキョロと辺りを見回している。どうやら、声の主を見つけられていないらしい。
(そこの屋根の上だ、アホ)
ドラゴンフライヤーは、心の中でツッコミを入れる。どうもジョーカーの末端の連中は質が悪い。
「ここよ! 斜め前の屋根の上よ!」
見つけてもらえないことに業を煮やしたのか、ピンク色のスーツ姿の女が自ら自分達の居場所を叫んだ。
「な、なにぃ!」
「なんでそんなところに!」
「お前ら、一体何者だ!」
怪人達が驚いた様子で口々に叫ぶ。その叫びを待ってましたと言わんばかりに、赤色のスーツ姿の男が得意げに叫んだ。
「悪の陰にジョーカーあり。正義の星にはスターレンジャーあり!」
そして、それぞれが謎のポーズを取りながら、名乗りを上げていく。
「情熱の赤き星、スターレッド!」
赤色のスーツ姿の男が堂々とした声で叫ぶ。
「知性の青き星、スターブルー!」
青色のスーツ姿の男が淡々とした声で叫ぶ。
「愛情のピンクの星、スターピンク!」
ピンク色のスーツ姿の女が愛らしい声で叫ぶ。
「輝きの黄色の星、スターイエロー!」
黄色のスーツ姿の子供(?)が楽しそうに叫ぶ。
「い、癒やしの緑の星、スターグリーン……」
緑色のスーツ姿の男が自信なげに叫ぶ。
『5人そろって、スターレンジャー!』
最後に、5人が声をそろえて爆発するように叫ぶ。いや実際何か爆発した。煙のようなものが後ろから出ている。
「……」
怪人達が呆けている。どう反応したらいいのかわからないようだ。
それはドラゴンフライヤーとて同じだった。人間は己の想像を超えたものと遭遇したとき、動けなくなってしまうらしい。……自分たちは怪人だが。
「星の裁きを受けてみよ! とおっ!」
スターレッドがそう叫び、屋根から下へと飛び降りる。それに合わせて、他のレンジャー達も次々と下へと飛び降りた。
怪人達はその様子を見て、後ずさりした。本能が“コイツらはヤバい”と察知したのだろう。
その気持ちはよくわかる、ドラゴンフライヤーは珍しく怪人達に共感した。
「ふざけやがって。お前らが最近、我らジョーカーの邪魔をしているスターレンジャーとかいう奴らだな。この怪人アリ男がやっつけてやるわ! 取り囲め!」
我に返った怪人――アリ男が怒りの声を上げた。なかなか順応力が高い。
命令通り、末端戦闘員たちがスターレンジャーを取り囲む。
「やれ!」
「イーッ!」
末端戦闘員が次々とスターレンジャーに飛びかかる。しかし、次の瞬間には、後ろに吹き飛ばされていた。
(なんだ? 奴らのあの力は)
ドラゴンフライヤーが目を見張る。末端戦闘員とはいえ、彼らは改造手術を受けた人間だ。普通の人間よりも強い。
しかし、スターレンジャーは戦闘員の攻撃を軽々とかわし、その鋭い拳や蹴りで圧倒している。
一体どんな腕力と脚力をしているのだろうか? 大きく後ろに吹き飛ばされた戦闘員は、それっきり立てないでいる。どうやら身体に深刻なダメージを負っているようだ。
人数ではこちらが圧倒的に有利だったはず。にもかかわらず、もはや立っている戦闘員は一人もいない。
「おのれぇ!」
アリ男が怒りの咆哮を上げ、自らスターレンジャーに突っ込んでいく。狙いはスターイエローだ。拳に力をため、その小さな体めがけて渾身の力を込めて振り下ろす。
フワリ。スターイエローが軽やかに飛び上がりそれを避ける。そして、前のめりにバランスを崩したアリ男の頭をまるで踏み台にするかのように足で踏みつけた。
アリ男が前にたたらを踏む。すると今度は、近くに回り込んでいたスターブルーがアリ男の顔面を下から上へと思いっきり蹴り上げた。
ふべっ!
情けない声を出して、アリ男の体が宙を舞う。そして容赦なく地面にたたきつけられた。
すぐに立ち上がるが、すでに顔面はひしゃげ、多量の血がポタポタと垂れている。
その隙を逃すまいと、スターピンクがアリ男に向かって、突っ込んでいく。
「なめるなぁ!」
アリ男はそう叫ぶと、スターピンクめがけて口から黄色い液体を吐き出した。強力な蟻酸だ。あたれば、スーツごと肌を灼くだろう。
寸前の所でスターピンクがそれを避ける。だが、アリ男は次の攻撃に移っていた。
アリ男の拳がまともにきまる。そのままピンクは後ろに吹っ飛ばされた。
「スターピンク!」
スターグリーンが悲痛な叫びを上げ、スターピンクに駆け寄る。アリ男が得意げにニタリと笑う。しかし、次の瞬間、その笑みを凍り付かせ前に倒れた。
スターレッドがこっそりとアリ男の後ろに回り込み、強烈な一撃をアリ男の後頭部に打ち込んだのだ。倒れたアリ男はそのまま動かなくなった。
「スターグリーン! スターピンクは無事か?」
「大丈夫よ、大したことはないわ」
スターレッドがかけた声に、スターグリーンではなく当のスターピンクが答える。
「油断するなよ。相手は怪人なんだからな」
「わかってる。今度からは気をつけるわ」
ホッとした声でスターレッドが言うと、スターピンクはツンとした声で答えた。
「やれやれ。無事終わったようだな」
2人の様子を見てスターブルーは笑うと、戦闘員が持っていたアタッシュケースに手をかけた。――と、その時
どごっ。
スターブルーの体が大きく後ろに吹き飛ばされ、背中からまともに壁にたたきつけらる。
一体何が起こったのか確認しようとするスターレンジャーの耳に、小馬鹿にしたような声が響いた。
「よぉ、楽しそうなことしてるじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ」
先程までスターブルーが立っていたその場所には、ニヤニヤと笑いながらアタッシュケースの側に降り立つ怪人――ドラゴンフライヤーの姿があった。
次回は日曜日に更新。
……こいつら、色々とヤベェな。
次回、『激突! ドラゴンフライヤー VS スターレンジャー』