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30.不幸! 悩めるエリート カマキリソルジャー登場!②

 切れ長の瞳に整った細面の顔立ち。年齢は30代前半。

 きれいに整えられたオールバックの髪、皺一つないダークグレーのスーツ、ピカピカに磨き上げられた革靴。どれ一つとっても、隙がない。


 いかにもデキるビジネスマンといった容貌、我らがリーダー、カマキリソルジャーである。

 人間の姿の時は、鎌倉切人(かまくらきりと)という名前で、四羽商事(よつはねしょうじ)の課長職についている。


「べつに……」


 そしらぬ顔をして、先程まで座っていたソファに腰掛ける。

 こういうのは、堂々としている方がバレないのだ。


 彼はそれ以上追求せず、対面の椅子に腰掛けた。


「MRFの件はどうだった?」


 また、眉間に皺が寄っている。もはや、これが標準装備ね。


「カマキリソルジャーが言ってたとおりだったわ。あいつ、数字をいじってこちらに報告していたみたい。組織への上納金をちょろまかしてたわ」


 カマキリソルジャーの顔がますます渋いものになる。


「やはりそうか……。あいつは自分の能力を過信して、組織をなめていたようだからな」


 でっぷりとした山田という男の態度を思い出す。

 確かにあいつ、私のことなめくさっていたわね。……最後は、ずっと怯えてたけど。


「大分脅しておいたから、もう大丈夫だと思うけど。はい、これがその不正の証拠書類」


 私は、山田から巻き上げてきた証拠書類を鞄から出して、カマキリソルジャーに渡す。彼は、その書類に目を通すと、ため息をついた。


「よくもまぁ、これだけ隠していたものだな」


 私も見たけど、結構な額よね。重罪よ、重罪。


「……それで、あいつはなぜ組織を裏切るような真似をしてたんだ?」

「どうやら、ヤツには多額の借金があったみたいね。会社の利益だけでは、返せなかったみたい。その証拠もそこにあるわよ」


 そう、山田には借金があった。それは確かだ。けど、その借金も、こういう時のために用意されたものだった。……山田を脅していたヤツに。


 ソイツのことは、山田から聞き出すことができた。が、報告すべきかどうか判断がつかない。自分の中でまだ整理ができていないのだ。

 困った私は、とりあえず自分の胸の内にしまっておくことにした。


「確かにあるな。……わかったのはそれだけか?」


 カマキリソルジャーの質問に、ドキッとする。平常心、平常心。


「私が探れたのはそれだけだけど……。他に何かあるの?」

「いや。ただ、思っていた以上に額が大きかったから気になってな。これだけの利益を上げるとなると、大量の商品を売りさばかなきゃいけないはずだ。MRFの商品は、モノがモノだけに、そう簡単に売れるものじゃない。なら、一体どこの誰に売ったのか? ……調べる必要があるな」


 MRFの商品って、化学兵器とかヤバいものばかりだもんね。厳重な取り扱いが求められるし、国に隠れて売るとなると販売ルートが確立していないと難しい。そんな取引を、ジョーカーが把握していないのは、問題よね、やっぱり。


 ……売った先を知ったら、コイツ、どんな顔をするかしら?


「それで、アイツをどうするつもり? やっぱり処分するの?」

「いや、あいつにはまだ使い途がある。今はこちらもごたついているし、処分は後になるだろうな」

「……ごたついているってどういうこと?」

「お前にも連絡がいっていると思うが、“スターレンジャー”と名乗る奴らが怪人を倒して回っていてな。その対応について上がもめているんだ」


 やっぱり! そうじゃないかと思った。……でも変ね。


「なんで上がもめるの? 対応なんて、“スターレンジャー”を倒すか捕まえるかのどちらかでしょ?」

「ああ。一応生け捕りにして正体や目的を吐かせるということで意見は一致している」

「じゃあ、問題ないじゃない?」


 なにモタモタしているのかしら。まぁ、私にとってはそっちの方が都合がいいけど。


「それが……。誰がその指揮をとるか、捕まえた後の対応をどうするかでもめているんだ」


 カマキリソルジャーがうんざりした顔をする。彼はいつも元老院のクソジジィどもに振り回されているのだ。


「誰が指揮をとるかって、どうせカマキリソルジャーや私たち大幹部がやるんでしょ。あいつらは命令するだけじゃない。それに、そんなことは捕まえてから考えればいい話でしょ」

「その通りなんだが、どうやら“スターレンジャー”を捕まえて手柄を立てれば、他の者たちを出し抜けると、元老院の老人どもは考えているようだな」

「なにそれ? グズグズしている間にも怪人たちは死んでいるっていうのに。バカじゃないの!」


 ついつい声を荒げてしまう。


 正直、私は末端の怪人たちに仲間意識をもっているわけではないけど、それでもその死が軽く扱われているのには、ムッとする。


 そもそも彼らはなりたくて怪人になったわけじゃない。無理矢理、怪人に変えられてしまったジョーカーの被害者なのだ。それなのに、諸悪の根源にいいように使われているなんて。


 ……腹が立つったらないわ。


「スパイダーレディ、口の利き方には気をつけろ。誰が何を聞いているかわかったものじゃないんだぞ」


 カマキリソルジャーが恐い顔をする。


「この部屋、そういうの防止しているんでしょ。大丈夫よ」


 防音設備は十分なはずだ。それに、人の気配も感じない。


「それでもだ」


 まるで子供を諭すような言い方。……気に入らないわ。


「……わかったわよ」


 わざと不機嫌そうに言う。


 カマキリソルジャーは眉をひそめたが、何事もなかったかのように話を進める。


「とにかく命令がなきゃ、俺らは動くことができない。やれることといえば、せいぜい怪人たちに注意を促すくらいだな」


 その連絡は確かにきていた。けど、怪人たちは頭悪いから言うこと聞かないわよ。特に小幹部より下は理性ってものが欠けているもの。


「ただ、上もそういつまでも放置できないだろう。実際、こちらにも多大な被害が出ているんだからな。近いうちに大幹部を招集する予定だ。そこで“スターレンジャー”の対応について話し合う」

「大幹部会議か……。ビーのヤツ、ちゃんと来るんでしょうね」


 私は、大幹部の一人、キラービーの顔を思い浮かべる。ヤツは蜂の怪人で、ジョーカーにくる前から、殺し屋だったという物騒な経歴の持ち主だ。サボりの常習犯でもある。


「事が事だからな。今回は絶対に参加してもらう」


 カマキリソルジャーの決意に満ちた顔。


 うーん。そうは言っても、ビーの場合、ボケてるから来ないのであって、会議の重要性は関係ないのよね。そもそも会議の存在を忘れてるんだから、どうしようもないじゃない? カマキリソルジャーは一体どうするつもりなのかしら……。


「それにしても、カマキリソルジャーも大変ね。“スターレンジャー”もそうだけど、元老院の相手もしなきゃいけないなんて。私なら絶対に嫌だわ」

「……そう思うならもっと協力してくれないか」


 しみじみと言う私に、カマキリソルジャーは納得いかないといった表情をした。


「あら、私はいつもちゃんと協力しているわよ。非協力的なのは、ビーとドラゴンフライヤーじゃない」


 ビーは会議に来ない上に、ジョーカーの任務に無関心。龍司は、カマキリソルジャーに反抗的なのだ。


「なぁ、ドラゴンフライヤーのやつは、なぜあんなに俺に突っかかってくるんだ? 非常にやりにくいんだが……」


 カマキリソルジャーが困惑した表情をする。……本当にね、どうしてかしら?


「知らない。なんか気に入らないみたいね。心当たりないの?」

「ない」


 即答である。


 ……そういうところじゃないかしら? 龍司がカマキリソルジャーを気に入らないのは。


「ふーん。ま、機会があったら聞いとくわ」


 気のない返事をする。


「そうしてくれ。それから、わかっているとは思うが、“スターレンジャー”と遭遇しても、手を出すな。すぐに俺に報告しろ」


 カマキリソルジャーが真剣な表情で念を押してくる。


 わかってるってば。大丈夫、絶対に手を出さないから安心して。


「わかったわ」


 私は静かに頷いた。


「それとMRFの件だが……」


 プルルルル。突然、部屋にコール音が鳴り響く。

 私たちは話を中断して、電話の方を見た。


「……どうぞ」

「すまないな」


 カマキリソルジャーが立ち上がり、電話を取りに行く。


「……ああ。ああ、そうだ。どうかしたのか?」


 何かトラブルかしら? カマキリソルジャー、苦い顔をしているけど。


「また、富井(とみい)か……。わかった。すぐに戻る」


 トミーか……。これは間違いなくトラブルね。


 トミーっていうのは、カマキリソルジャーの部下のあだ名。本名は富井誠一(とみいせいいち)。彼は、ジョーカーとは一切関係ない。四羽商事の一般社員だ。


 入社して今年で三年目なんだけど、すでに数々の伝説を打ち立てているらしい。カマキリソルジャーとは別の意味で有名人。社員食堂でもよく話題になっている。

 特技は“火のない所に煙を立てる”こと。四羽商事始まって以来のトラブルメーカーなんだって。……よくこの会社に入れたわね。


 あっ、電話が終わったみたい。


「すまない、用事ができたので、すぐに仕事に戻らなくてはならない」


 疲れた顔をしている。

 ……トミー、今度は何をやらかしたのかしら?


「別に構わないわ。トミーの所に行ってあげて」

「トミーってお前……。まぁ、いい。それよりも、今回のMRFの件だが、俺から上に報告しておく」

「えっ、ホント? なら、報告書の作成はしなくてもいい?」

「ああ」


 やった、ラッキー! 


 私、報告書の作成大嫌いなの。だって、カマキリソルジャーったら、私の書いた報告書、添削して戻してくるのよ。

 ここの表現はおかしいとか、文章の意味がわからないとか。赤ペンで色々書き込まれて返ってくるの。彼のOKがでるまで、終わらないのよ。イライラしちゃう。


 コイツ、自分が怪人たちに“赤○ン先生”って呼ばれているの、知っているのかしら? 


 そういえば、龍司の報告書も添削しまくってたわよね。真っ赤っかになって返ってきた報告書を見て、アイツ絶句してたもの。すぐにブチ切れて怒鳴り込みに行ってたけど。


 その報告書を見たけど、カマキリソルジャーの容赦ないコメントが書かれていたわ。あれはちょっと面白かった。

 

「それじゃあ、私は帰らしてもらうわね」

「ああ。スターレンジャーの件、忘れるんじゃないぞ」

「わかってるわ。カマキリソルジャーもお仕事頑張ってね!」


 私がそう言うと、彼は微妙な顔をした。そんな彼を一人残して、私は応接室を後にしたのだった。

次回は木曜日に更新。


 ついに彼らが登場。


 次回、『爆発! 俺たちがスターレンジャーだ!』

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