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27.絶品! 中華料理店 “大河” ②

 入ってきた男の人を見る。身長は低めだけど、肩幅があって、がっしりとしている。髪はツーブロックの短めの刈り上げカットで、金髪と黒のツートンカラー。

 体つきとは反対に、目が大きくて愛嬌のある可愛らしい顔立ち。この人、母親似ね。おばさんにそっくり。

 ストリート系のカジュアルな服装を上手に着こなしている。中々おしゃれだ。


 ……この人はきっと、般若の顔がプリントされたTシャツなんか着ないんだろうな。


 あっ、こっちにやってくる。


「おい、どうしたんだよ? うぉっ」


 彼は私に気付いて、のけぞった。


「おいおい、どういう風の吹き回しだ? お前が俺んちに女連れてくるなんて」

「うっせぇな。んなこと、どうでもいいだろ?」


 ……ちょっと! ちゃんと説明してよ。誤解されるでしょ。


 でも、龍司は煩わしそうにしているだけ。何も言おうとしない。


 もう! 私は笑顔を作って、ニッコリと彼に笑いかける。


「初めまして。龍司のお友達ですよね? 私、生富綾って言います」


 彼が私を見て、あんぐりと口を開ける。


「しかも、無茶苦茶カワイイ子じゃんか。どこで捕まえたんだ?」

「別に。綾は、そんなんじゃねぇよ」

「龍司とはバイト先が一緒なんです。それで“今日はご飯を一緒に食べに行こう”って話になって」

「へぇー。バイト先がねぇ……。どんなバイト?」


 ジョーカーです。


「配達業務です」

「へー、配達業務。そんなバイトやってたんだコイツ」


 そう言いながら、彼は私の隣の席に座る。


「俺は、大河英吉(おおかわえいきち)っていうんだ。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」


 ニッコリ。完全によそ行きモードになる私。


「ねぇ、綾ちゃん。本当にこいつとは何でもないの?」


 綾ちゃん……。


「ええ。ただのバイト仲間です」

「そうか、よかった。コイツ女癖悪いから気をつけた方がいいよ」

「英吉、てめぇ。ふざけんなよ」


 龍司が睨み付けるが、英吉さんは完全無視だ。


「でも龍司のバイト先にこんなカワイイ子がいるなんて知らなかったなぁ。綾ちゃん、彼氏とかいるの?」

「いえ、いませんけど……」

「本当に? ちょっと信じられないなぁ。こんなにカワイイのに」


 彼がニヘラと笑う。


「でも、それならさ、俺と……ふべっ」


 あっ、英吉さんの顔におしぼりが……。


「てめぇ、いい加減にしろよ。さっきから」


 龍司の不機嫌そうな顔。

 さっきのおしぼりは、龍司が投げたのね。


「綾、お前こっちに来い。こいつ、女となると見境ねぇからな」


 そう言って、手招きをする。


 バンッ!


「龍司、てめぇ、ふざけてんじゃねぇぞ!」


 英吉さんが、乱暴に机を叩き、立ち上がる。龍司もそれに応じて、立ち上がった。


「ああ? ふざけてんのはそっちだろうが。みっともねぇ面しやがって。どんだけ女に飢えてんだ? てめぇは!」

「なんだとコラ!」

「お? やる気か?」

「上等だ!」


 二人とも胸ぐらを掴んで、今にも殴り合いをしそうな勢いだ。

 さすが龍司の友達ね。気が短いわ。


「二人ともいい加減にしてちょうだい! 喧嘩をするなら出ていってもらうわよ!」


 おばさんの一喝。


「……」

「……」


 無言で睨み合う二人。


「……チッ」


 先に龍司が手を離し、私の隣の席に座る。

 英吉さんは何か言いたそうな顔をしたけど、黙って向かいの席に座った。


「はい、八宝菜に、麻婆豆腐、お待ちどうさま」

「わぁ、美味しそう!」


 いい匂い。早速、お皿に取り分ける。


「だろ? 俺んちの麻婆豆腐は他とひと味違うんだぜ。担々麺なんかもオススメだけど、頼んだ?」

「ええ、龍司に聞いて、黒胡麻担々麺を頼みました。あと、チャーシュー麺も」


 今日は一応ラーメンの日だものね。

 龍司は麻婆豆腐をガツガツ食べている。


 あっ、ずるい! 私も麻婆豆腐を一口、口に入れる。


 んー、辛い! 美味しいけど、たくさんは無理かも。


「龍司とはバイト仲間ってことだけど、本当にそれだけ? こいつ、さっきからうぜぇけど」

「うぜぇのはてめぇだろうが」


 麻婆豆腐を食べながら龍司が言う。

 こんなに辛いの、よくその勢いで食べれるわね。


「龍司とは私が小学生の頃からの知り合いなので、それなりに親しいんです」

「えっ? どういうこと? バイトの知り合いじゃないの?」

「実は、そのバイト先っていうのが私の家なんです。私の親が会社の関係者で……。私が住んでいたところに龍司がバイトで通うようになったのが出会いのきっかけですね」


 実際は、私が住んでいたジョーカーの研究所に、龍司が改造人間のサンプルとして連れてこられたのが出会いのきっかけだけど、本当のことなんか言えるわけない。


「その時から俺はこいつの面倒を色々みてやってんだぜ?」


 龍司が偉そうに言う。


「お前が面倒をねぇ……。ちょっと信じられねぇな。……綾ちゃん、今いくつ?」

「私? 16ですけど」

「えっ、高校生? 大人っぽいね」


 英吉さんが驚いた顔で、私をまじまじと見る。


「そうですか?」


 えへへ、大人っぽいって言われちゃった。


「龍司と出会ったのはどれくらい前?」

「5年程前ですね」

「5年前か……。しかし、5年前っていったら、こいつ、かなり荒れてなかった?」

「おい、余計なこと言うな」


 英吉さんの言葉に、龍司が顔をしかめる。


 荒れてたかしら? ずっとこんな感じだったような気がするけど……。


「そうですか? 私が会った時は今の龍司でしたよ」

「今の龍司って、どんな?」


 えっーと……。


「一言でいえばバカですね。後先考えずに突っ走るし、誰彼構わず喧嘩を売る。しかも、態度はでかいし女にはだらしない。取り柄と言えば、喧嘩が強いことぐらいかしら?」

「あはは。こいつのことよくわかってるねー、綾ちゃん」


 龍司が、怒りでこめかみをピクピクさせる。


「おい、お前ら、ふざけんなよ。綾、てめぇ、肝心なとこ省いてんじゃねぇぞ!」


 ……なんのことかしら?


「英吉さん。龍司が英吉さんのこと、なんて言ってたか知りたくありません?」

「えっ、こいつが俺のこと? なんだなんだ、なんて言ってたんだ?」

「おい、綾。お前、何言ってんだ。いい加減にしろよコラ」


 焦る龍司。面白い。


「あのね……」

「やめろっつってんだろ!」


 その後、龍司が本格的に怒りだしたので、私と英吉さんで宥めながら、楽しくご飯を食べた。


◆◇◆◇◆


 ――はぁ、暇すぎて死にそう……。


 受付嬢はすっかり退屈していた。なにせ、今日は朝から客が4人しか来ていない。机の下でこっそりとスマホをいじっているが、それももう限界だった。


 MRF株式会社のエントランスホール。白を基調としたインテリアに、黒いモダンな椅子。温かみをプラスするために、木目調の机を使い、所々に観葉植物を飾っている。光が差し込むように設計されたホールは、日の光を受けて、キラキラと輝いてる。


 そのホールに訪れた客を笑顔で迎え、要件を伺い、スムーズに案内をする。それが、受付嬢である彼女の仕事だ。しかし、今日はその仕事を行う相手がいない。


 昨日はあんなにも慌ただしかったのに……。この仕事は、忙しい日と暇な日の落差が激しすぎる。


 仕方がない。もう一度、机の掃除でもするか。そう思って立ち上がろうとした時、エントランスのドアが開いた。


 来客だ! 一瞬で気持ちを切り替え、よそ行きの顔を作る。受付嬢はプロだった。


 さて、誰がやってきたのか? 記憶を引っ張り出す準備をする。しかし、受付嬢の意気込みは無駄となった。来訪者は、初めて見る顔だったからだ。


 ――うわぁ、きれいな人。芸能人みたい


 思わず、心の中で感嘆の声を上げる。その来訪者は、受付嬢が今まで見てきた誰よりも美しかった。


 眼鏡をかけた若い女性だ。髪をアップにし、シンプルなネイビーのスーツをシャープに着こなしている。上品で知的な印象。しかし、どことなく艶めいた雰囲気が漂う。よく見ると右目の下にほくろがあり、それが彼女によく似合っていた。


 受付嬢は自分の中で好奇心がむくむくと頭をもたげるのを感じた。しかし、表情には一切出さない。それができるくらいには、彼女はこの仕事に長く就いていた。


「いらっしゃいませ。どちらにお取り次ぎいたしましょう?」


 決まり切った笑顔に、決まり切った挨拶。まるでロボットのよう。写真にでも撮れば、金太郎飴みたいにいつも同じ顔で写るに違いない。


 その女性は感じのいい笑顔を浮かべると、要件を切り出した。


「お世話になっております。四羽重工業株式会社の佐藤と申します。山田社長と本日3時のお約束で参りました」


 よく通る美しい声。しかし、彼女から発された言葉は、受付嬢に少なからず困惑をもたらした。四羽重工業株式会社といったら、日本最大の機械メーカーであり、この会社の主要取引先だ。しかし、このような若い女性が一人で社長に会いに来るということは今までになかった。


「四羽重工株式会社の佐藤様ですね。少々お待ちいただけますでしょうか?」


 本当にアポイントメントをとっているのだろうか? 内線電話を繋げて確認する。すると、確かに社長との約束が入っていることがわかった。

 この謎の美女は一体何者なのか? そんな疑問を抱きながらも、受付嬢はいつもの調子で案内する。


「お待たせいたしました、佐藤様。係の者がご案内いたしますので、恐れ入りますが、ロビーの椅子にお掛けになって、もうしばらくお待ちください」

「承知いたしました。ありがとうございます」


 静かに微笑むと、女性はロビーの椅子へと歩いて行き、腰を掛ける。しばらくして、案内役の者が到着し、女性に声をかけた。


 案内役とともに、受付の前を女性が通る。彼女は受付嬢の方を見ると、ニコリとあでやかに微笑んだ。


 ――やだ。私、どうしてこんなにドキドキするんだろう?


 女性は軽く会釈すると、案内役についてエレベーターホールへと歩いて行ってしまった。受付嬢は惚けた顔で、女性が去っていった方をいつまでもいつまでも見つめていた。

次回は日曜日に更新。


 受付の人、やたらこっちを見てたけど、なんだったのかしら?

 それにしても今回の任務は気が重い。

 まさかジョーカーを裏切る奴がいるなんて……。


 次回、『困惑? ジョーカーよりも恐いもの』

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