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22.決戦! Dランドのデート①

 よし! 今日は決戦の日。気合いを入れていかなきゃ。

 部屋に置いてある大きな鏡の前で私は念入りにチェックを行う。


 今日の私は、デニムのショートパンツに、ゆるめの白T、麦わら帽子にスニーカーといった、動きやすい格好。鮮やかなレモン色のショルダーミニバッグがポイントね。


 何を隠そう、今から遊園地に行く予定なの。もちろん、浮かれてなどいない。今回は遊びじゃないんだから。

 いや、端から見れば遊びなんだけど、私からすればそうじゃない。だって、遊園地に行くメンバーが、紅一君、桃ちゃん、私、蒼二君の4人なんだから。


 先日、紅一君に“蒼二君を紹介して”ってお願いしたところ、彼からデートのお誘いがきたの。もちろん、私に断る理由はない。すぐにOKした。

 ただ、いきなり二人でっていうのも何だから、紅一君と桃ちゃんも一緒に来ることになった。行き先はあの有名なDランド。


 Dランドっていうのは、比呂田市から電車ですぐの所にある有名なテーマパーク。かわいらしいキャラクターと細部までこだわって作り込まれた世界観が人気なの。

 紅一君たちは行ったことがないんだって。それで遊びに行こうって話になったわけ。


 目の前の鏡を見る。そこには、硬い表情をした少女が映っている。 


 ……上手くやらなくちゃ。今日は彼らのことをよく知るチャンスなんだから。


 私は舞の記憶でしか、彼らのことを知らない。家族、育った場所、性格、ものの考え方。信頼できる相手かどうか、実際の彼らを見て判断しないと……。

 最初の計画とは違ったけど、四人で遊びに行くのは、むしろ好都合。さりげなく質問して、情報を聞き出すつもり。


 最初は蒼二君にターゲットを絞ろうと思っていた。紅一君は得体の知れないところがあるし、桃ちゃんは暴走しがち。蒼二君が一番マトモそうじゃない? 少ししか会ってないけど、いい人そうだったし。


 それにスターブルーはスパイダーレディにとって、最重要人物。彼の動きは常に把握しておく必要がある。それが、アイツ、龍司を救うことにもつながるし。


 実は、龍司――怪人ドラゴンフライヤーもスターブルーに倒されているの。

 そもそも、それが原因で、スパイダーレディはスターブルーに近づいたんだから。


 スパイダーレディとスターブルーの話は印象的だったから、よく覚えている。


 ――ドラゴンフライヤーがスターブルーに倒されたこと、それが悲劇の始まり。


 ドラゴンフライヤーが倒されたことを知ったスパイダーレディは、激しく怒り狂う。彼の名を呼び、泣き叫びながら。……二人は恋人同士だったの。もちろん、物語の中での話だけど。


 恋人を失ったスパイダーレディは、スターブルーに復讐を誓う。そして、執念で彼の正体をつきとめるの。すなわち、星野蒼二がスターブルーの変身前の姿であるということを。


 彼女は、手始めに、自分をチンピラに襲わせ星野蒼二に近づくと、彼の理想の女性として振る舞い、徐々に仲を深めていった。そして、計画どおり、星野蒼二の恋人になることに成功するの。

 この時のスターブルーの浮かれようが、普段のクールな彼のイメージとかけ離れていたから、ネットでネタにされてしまったのよね。


 星野蒼二の信頼を得た生富綾は、スターレンジャーの情報をうまく聞き出し、ジョーカーに流す。秘密基地の場所なんかもバレてしまって、スターレンジャーはピンチに陥るんだっけ。


 でも、スパイダーレディの復讐の恐いところはそこじゃない。彼女は、復讐の仕上げとして、スターレンジャーに一人で挑みかかるの。そして何も知らないスターブルーに自分を殺すよう仕向けた。


 彼女の思惑どおり、スターブルーはスパイダーレディーに致命傷を負わせてしまう。そして、死ぬ直前、スパイダーレディは生富綾の姿に戻り、スターブルーに全てを暴露するの。


 自分はお前なんか愛していない、これはドラゴンフライヤーのための復讐だってね。

 そして笑いながら死んでいく。自分と同じように愛する者を失う苦しみを味わえと言って。


 その時のスターブルーの表情といったら……。


 もちろん、子供番組だったから、マイルドな感じで仕上げられてたし、スターブルーも落ち込んでいる描写はあったけど、その後は普通の様子で話は進んでいった。

 でも、裏設定では、スターブルーはこのことで心に深い傷を負い、生涯女性を愛せず独身で過ごしたと書いてあった。


 ……制作者はスターブルーに恨みでもあるのかしら?


 ホント救いようのない話ね。


 でも、この話で誰が一番悪いかというと、アイツよ、ドラゴンフライヤーよ。

 アイツがあっさりスターレンジャーに倒されてしまうのが悪い。


 だって、スパイダーレディは彼のこと心配してたのよ。一人じゃ危険だって。それなのに、ドラゴンフライヤーは“大丈夫だ”って言って、スターレンジャーを倒しに行っちゃったの。

 その結果が返り討ち。ホントにドラゴンフライヤーはダメなヤツだわ。


 あんたが死んじゃったら、スパイダーレディは不幸になるに決まってるじゃない。どうしてそんな簡単なことがわからないのよ。ホントにバカなんだから。


 とにかく、そんな未来は絶対に阻止! スターレンジャーにアイツを殺させたりはしないし、私もスターレンジャーに殺されない。そのためなら私、何でもやるんだから!


◆◇◆◇◆


 無事Dランドに到着。皆はどこだろう? 確かゲート前の噴水で待ち合わせなんだけど、人が多いから……。


 でも三人はすぐに見つかった。だって、すごく目立っているんだもん。周囲の人も、チラチラと彼らのこと見てるし。


 桃ちゃんは、麦わら帽子に花柄のワンピース、そしてサンダルといった夏らしい格好をしている。かわいらしい服は華奢で可憐な雰囲気の彼女にとてもよく似合っている。私の場合、こういう服は絶対に似合わないからうらやましい。


 紅一君は、Tシャツに細身のカーゴパンツといったラフな格好。キャップを後ろ被りしている。私服姿は初めて見たけど、やっぱりカッコイイ。服装のせいか、いつもよりヤンチャな感じがする。


 蒼二君は、白のポロシャツにスキニーパンツをはいている。ポロシャツをお洒落に着こなすなんてさすが! 全然オジサンぽくないし。


 紅一君たちって、なんか一般人とは違うオーラみたいなのが出てるのよね。自然と目がいくっていうか…。何なのかしら、あれ。


「こっちです、生富先輩!」


 あっ、桃ちゃんが私に気がついたみたい。手を振っている。

 私も手を振り返し、彼女たちの元へと駆け寄った。


「おはよう、桃ちゃん、紅一君」


 桃ちゃんと紅一君に笑いかける。そして、蒼二君の方を見て、ペコリとお辞儀した。


「あの、生富綾です。今日はよろしくお願いします」

「……星野蒼二です。こちらこそよろしく」


 どことなく緊張している様子で、彼が頭を下げる。


 さて、こういうのは最初が肝心。できるだけいい印象を与えなきゃ。

 私はスイッチを切り替える。今日の私は恋する乙女……。


 蒼二君の顔色をうかがうように、おずおずと話を切り出す。


「いきなり会いたいだなんて言って、ごめんなさい。私、前会ったときから蒼二君のことが忘れられなくって……。思い切って、紅一君に相談したの。突然のことで驚いたでしょ?」

「うん、それは少し。でも俺も君のことが気になってたから……」

「ホント? 嬉しい……。私、今日、蒼二君に会えるのとても楽しみにしていたの」


 そう言って、ニッコリと笑う。我ながら、役者である。

 ……私、地獄に落ちないかしら?


「ありがとう。俺も楽しみにしてた」


 照れたような顔で蒼二君が微笑む。

 ……そんな顔されたら、冷静ではいられなくなってしまう。困ったわ……。


「生富さん、今日の格好、素敵だね」


 紅一君が私の方を見て、にこやかに笑いかけてきた。

 こちらは全く照れている様子がない。


「いつも可愛いけど、今日は一段とかわ……イテッ。何すんだよ!」


 紅一君が桃ちゃんをムッとした顔で睨み付ける。どうやら、桃ちゃんが紅一君の足を蹴っ飛ばしたらしい。彼女は、負けじと紅一君を睨み返した。


「お兄ちゃんがデレデレしてみっともない顔するからでしょ!」

「俺がいつデレデレしたよ」

「今、してたじゃない!」


 お互いに睨み合う。

 二人の間には火花が散っている。


 ……へぇ、紅一君でもこんな顔もするのね。

 彼はいつもニコニコしていて、何というか掴み所がない。こんな風にあからさまに感情を出すのは初めて見た。


「生富さん、ごめん。妹はこのとおり凶暴なんだ」


 紅一君が私の方に向き直り、ニッコリと笑う。いつもの笑顔だけど、若干顔が引きつっている。桃ちゃんの頭をギリギリ押さえつけているし。


「性格がアレなやつだけど、仲良くしてやってほしい」

「アレな性格はお兄ちゃんの方でしょ!」


 桃ちゃんが紅一君の手を払いのけた。

 なんだか、二人ともいつもと雰囲気が違う。こっちの方が素なのかしら。


 蒼二君はというと、あきれた様子で二人を見ている。まるで“やれやれ、またか”とでもいいたそうな顔だ。


「二人って、仲良いのね」

『どこが!』


 私が思ったことを口に出すと、二人が声を揃えて抗議する。


「ふふ。ほら、息ぴったり! でも、兄妹っていうより、恋人同士のケンカみたい」


 痴話ゲンカってこんな感じじゃない? ケンカの原因も、ちょっとそれっぽいし。


 しかし、私がそう言うと、二人は微妙な顔して黙り込んでしまった。

 ……あ、あれ? なにかまずいこと言った?


「ご、ごめんなさい。変なこと言っちゃったかしら?」


 狼狽える私。黙る二人。

 蒼二君がため息をついた。


「気にしないで、生富さん。こいつら、いつもこうなんだ。……お前らもバカやってないで、行くぞ。さあ、生富さんも行こう」


 そう言って、私たちに声をかける。

 あっ、今のちょっと原作のブルーっぽい。妙なことで感心してしまう。


 彼の提案に従って、私たちは、Dランドの中に入ることにした。

次回は木曜日に更新。


 蒼二から子供の頃の話を聞く綾。

 なんだか三人はとっても仲が良さそうで……


 次回、『決戦! Dランドのデート②』

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