21.告白! デートへの誘い
「スターレンジャー? 何それ?」
すっとぼけて言う。……動揺しているの、顔に出てないわよね。
「俺も詳しくは知らねぇんだが、子供向けのヒーロー番組ってあるだろ? 特急戦隊スピードレンジャーとか。そんなヒーロー番組からそっくりそのまま抜け出てきたような格好をした連中らしいぜ」
この世界にも戦隊モノのヒーロー番組はある。もちろんスターレンジャーではないけど。
変身して悪の組織と戦うヒーローたちは、お子様に大人気だ。
スピードレンジャーは龍司が子供の頃に流行っていた番組ね。私は世代が違うので見たことはないけど、ヒーローが形の変わるバイクを乗り回していて、大ヒットしたらしい。戦隊モノの中では一番有名だ。
しかし……。思わず、龍司の顔をまじまじと見る。
コイツ、それでバイクが好きなんじゃ……。まさかね……。
「その変な連中がどうかしたの?」
「……末端怪人が、そいつらにやられたらしい。立て続けに何人もだ」
龍司の眼光が鋭いものに変わる。
「怪人が……。それは本当なの?」
「ああ、間違いねぇ。スターレンジャーと名乗る奴らが怪人をやった犯人だとわかったのは、ここ数日のことだ。お前が知らねぇのも無理はないが……」
龍司の瞳が真っ直ぐに私の目を見つめる。その真剣な表情。ドキリとする。
「綾、気をつけろよ。お前は、戦闘はからっきしなんだ。奴らと遭遇しても、絶対に戦おうとするな」
「う、うん。わかってる」
コクコクと何度も頷く。
でも、危ないのは私じゃなくて龍司なんじゃ……。だって、怪人ドラゴンフライヤーは、大幹部の中で一番最初にスターレンジャーに倒されてたし……。
心配になって、彼をジッと見る。
「ん、なんだ?」
「龍司の方こそ、無茶しないでよ」
私の知らない間に、スターレンジャーにやられちゃうとか絶対にやめてよ。
「はぁ? 俺がそんな奴らにやられるわけねぇだろ。お前じゃあるまいし」
「そんなのわからないでしょ! 怪人が何人も倒されているんだったら、あんたがそうなってもおかしくないんだから」
「おい、俺はジョーカーの大幹部だぜ? 末端怪人と一緒にすんな」
不機嫌そうな顔。
「でも……」
不安で仕方がない。だって、龍司は無鉄砲なところがあるもの。
重苦しい沈黙。
私の心配が伝わったのだろうか。
龍司は表情をゆるめ、安心させるように言う。
「そんな顔すんなって。大丈夫だ、無茶はしねぇ。それでいいだろ?」
「うん。絶対だからね」
「おう」
龍司の力強い言葉に、少し落ち着きを取り戻す。
大丈夫。龍司はいざとなったら飛べるし、スターレンジャーと遭遇したところで、そう簡単にやられはしない。
「……まぁ、こんなこと初めてだし、お前が不安になるのもわかるけどよ」
彼が私の頭を優しく叩く。
「お前のことは俺がちゃんと守ってやるから、安心しろ」
龍司がいたずらっ子のようにニカッと笑う。
……コイツは昔から全然変わらない。龍司の笑顔を見ているとホッとする。
「……うん」
コクリと静かに頷く。
きっと大丈夫、私も龍司も。
「……じゃあ、俺そろそろ帰るわ」
龍司がゆっくりと立ち上がり、玄関へと向かう。
私も、足を引きずりながら、彼の後をついて行く。
「痛いなら、無理しなくてもいいんだぜ?」
「ううん。見送る」
玄関ドアを開けて外に出ると、うるさく蝉の鳴く声が聞こえた。
「じゃあな」
そう言って、龍司は南雲公園の方へと歩いて行く。その背に思わず声をかける。
「あの、龍司。今日はありがとう」
「おう、早く足治せよ」
彼は片手を上げると、振り向きもせずそのまま帰って行った。
◆◇◆◇◆
龍司が去った後も、私はスターレンジャーのことを考えていた。
今までのんびりとしていたけど、このままじゃダメだ。ボーッとしてたら、私の周囲の人間がスターレンジャーに殺されてしまうかもしれない。
私、ジョーカーは嫌いだけど、怪人は嫌いじゃない。もちろん話の通じないヤツもいるけど。
人付き合いの悪い私は、仲の良い怪人がほとんどいない。それでも、何年も一緒にやってきたのだ。それなりに愛着はある。
私がスターレンジャーを味方にできたとしても、助かるのが私だけじゃダメ。他の怪人たちも助けてもらわなきゃ。
もちろん、怪人たちが私と同じようにジョーカーを抜けたいと思っているかどうかはわからない。でも皆勝手に体を改造したジョーカーのことは恨んでいるし、自由になれるとわかればきっと……。
そのためには、やっぱり薬をなんとかしなきゃ。ある男に探らせてはいるけど、うまくいっていない。ジョーカーにとって、薬の製法は最高機密だから、警備も厳しいのだ。
紅一君たち、スターレンジャーは頼りにしていいのだろうか? 残念ながら、私はイマイチ彼らのことがわかっていない。
よく知らない人間に自分の命を預けるなんて、できない。少なくとも、信頼できるかどうかは確かめなきゃ。
紅一君たちが転校してきてからまだ2週間ぐらいしか経っていないっていうのに、考えないといけないことが多すぎる。
舞の記憶では、スターレンジャーが現れるのはあと5・6年は先の話だったのに。
こうなったら手段を選んでいられない。一刻も早く、紅一君たちに接触する必要がある。
……さて、どうする?
◆◇◆◇◆
「俺に用事って、何?」
紅一君が不思議そうな顔をして私を見ている。
周りには誰もいない。ここにいるのは私と紅一君だけだ。
それもそのはず、ここは学校の屋上。生徒は立ち入り禁止になっている。
「ごめんなさい。こんなところに呼び出しちゃって。ちょっと、人がいるところでは話しにくい内容だったの」
「それは別に構わないけど、どうしたの? そんなに改まって」
紅一君は、何で呼ばれたのかわからない様子だ。
「実は、私……」
……だめだ。緊張してきた。心臓がドキドキする。どうしよう?
「うん?」
「その……」
言葉が続けられない。
「あのね……」
は、早く言わなきゃ。
「……生富さん、大丈夫?」
私のあまりな様子に、紅一君が心配そうな顔を向けてくる。
……勇気を出すのよ、綾。ためらっている暇はないんだから。
意を決して、口を開く。
「紅一君、お願い! 私に蒼二君のこと紹介しで」
げっ、噛んだ。
「コホン。紅一君、私に蒼二君のこと紹介してくれないかしら?」
TAKE2。何事もなかったかのように、言い直す私。
対する紅一君は、目を丸くしている。
「蒼二を、生富さんに?」
あっ、そういえば、紅一君、私と蒼二君が出会ったこと知ってるのかしら? 知ってる前提で話しちゃったけど。
「あの、実は私この間、マルワンで蒼二君と会って……」
慌てて説明する。
「それは、桃から聞いたけど……」
あっさり。……なんだ、知ってたのか。
「実は、あの時から私、蒼二君のことが気になって仕方がないの」
嘘は言ってないわよ、嘘は。私にとって、スターブルーは気になる人だもの。
「こんなこといきなり頼むのもどうかと思うけど、どうしても、もう一度彼に会いたくって……」
どうなのかしら、これ? あまりにも唐突で、変に思われないかしら。
「ダ、ダメかしら?」
「……」
チラッと彼を見る。紅一君はさっきから黙りこくっている。
相変わらず、何を考えているのかさっぱりわからない。
……お願い、何か言って。
ヤキモキしていると、彼はいつものように爽やかに微笑んだ。
「わかった。蒼二に聞いてみるよ。会わせてあげられるかどうかは、あいつの返答次第だけど」
「ホント? ありがとう、紅一君!」
よかった! これで何とかなるかもしれない。
緊張が抜けて、思わず顔が緩んでしまう。
「それにしても……」
紅一君が私をジッと見てくる。
「えっ、何?」
「いや、生富さんには片思いしてる相手がいるって聞いてたから」
何それ! あっ、さては桃ちゃんね。私が龍司のこと好きだって言いふらしているんでしょ。後で厳重に注意しとかなきゃ。
「それは桃ちゃんたちの勘違いなの。私、アイツに片思いなんかしてないわ」
全く、ひどい誤解だわ!
「そうなの?」
「そうよ! じゃないと、蒼二君を紹介してなんて、紅一君に頼まないでしょ」
強い口調で言う。これだけはちゃんと言っておかないと。
「それもそうだね。でも、正直驚いたな。生富さんがこんなことを俺に頼むなんて。蒼二のどういうところが気に入ったの?」
「そ、そんなこと聞く?」
そんなこと答えられるはずもない。
「ああ、ごめん。デリカシーがなかったね。しかし、蒼二のヤツも隅に置けないな」
紅一君が茶化すように言う。
「もう! からかわないでよ、紅一君」
「ごめん、ごめん。ちゃんと引き受けるから、安心してよ。できるだけ早く返事するからさ。生富さんも、結果が気になるだろ?」
「……うん」
それは、とても。
「任せておいてよ。生富さんのこと、蒼二には上手く伝えておくからさ」
そう言って、紅一君はイタズラっぽくウィンクした。
◆◇◆◇◆
その日の夜。ドキドキして待つ私に、紅一君からRINEが届いた。
“蒼二も生富さんが気になるってさ。デートに誘いたいって言ってるけど、どうする?”
次回は日曜日に更新。
これは遊びじゃない、戦いだ!
デートに向けて闘志を燃やす綾。
スターブルーの運命はいかに?
次回、『決戦! Dランドのデート①』