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20.暴走! スピードスター ドラゴンフライヤー参上!③

 それから10分も経たないうちに、龍司が戻ってきた。


「おっ、ちゃんと待ってたな。感心、感心」


 ムカッ。蹴っ飛ばしてやりたい。


「もう、龍司! 一体何なの」

「そう、怒んなって。ほら家まで送ってやるから」

「送るってどうや……。わっ。ちょ、ちょっと。やめてよ」


 龍司が私を無理矢理、横抱きに持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこっていうやつだ。

 バ、バカじゃないの、コイツ!


「暴れんなって。しっかり捕まっておけよ」


 私の抗議を無視して、龍司が浮上していく。

 うっ、やばい。彼の首にしがみつく。


「お前の家は、どっちだ? 確か最近引っ越したんだよな」


 建物があんなに小さくなっている。落ちたら確実に死ぬ距離だ。別に高所恐怖症ではないけど、普通に恐い。


「……南雲公園(なぐもこうえん)の近く。雲山通(くもやまどお)りにある」

「ああ、あの坂上峠(さかがみとうげ)の近くか。あそこのアップダウン、走ってて面白いんだぜ」

「へぇー……」


 そんなこと知らないわよ。いいからさっさと下ろして。


「そら、落ちないように気をつけろよ」


 そういうと、龍司は私の家を目指して進み出した。うぅ、泣きそう。

 私の心の叫びを無視して、グングンと飛んでいく。


 しばらくの間、龍司の首にギュッとしがみついていた。しかし、時間が経ってくると、徐々に気持ちが落ち着いてくる。


 うん、思ったよりも大丈夫みたい。ほとんど揺れないし、安定感がある。最初は恐かったけど、だんだん慣れてきた。

今、一体どの辺なんだろう? 恐る恐る、下の景色を見る。


「わぁ!」


 思わず感嘆の声を上げる。


 ――幻想的な光景が目の前に広がっていた。色とりどりの光の粒が、面という面を埋め尽くしキラキラと輝いている。とりわけ多くの光が集まっているあの一角は、私が先程までいた町だろうか。地にいたときは圧倒的なネオンの光で輝いていた町は、空の上では小さな光の粒となって、雄大な景観の一部として溶け込んでいた。


 ……こういう景色を見ていると、自分がとてもちっぽけな存在に感じてしまう。


「あんまりはしゃぐなよ。落っこちても知らねぇぞ」

「……」


 コイツの言葉は無視ね、無視。

 ……でも気のせいだろうか、さっきよりもゆっくり飛んでくれている気がするのは。


 しばらく物も言わず、その幻想的な景色に見とれていた。


 いいな、空を飛べるって。

 龍司はその大きな眼で、いつもどんな景色をみているのだろう? 想像もつかない。


 そうこうしているうちに、見慣れた風景が目に飛び込んでくる。

 もうすぐ南雲公園(なぐもこうえん)だ。そう思った途端、現実に引き戻される。


 なんだかこの体勢がとても恥ずかしくなってきた。早く下りたい。


 私の願いが届いたのか、ほどなくして南雲公園に着いた。誰もいないことは確認済みだ。地面に下りたと同時に、彼からパッと離れる。


 龍司が変身をとく。

 逆立てた真っ赤な髪に鋭い目つき、そして不敵な面構え。いつもの龍司だ。


「ここから家まで近いのか?」

「うん、歩いて10分ぐらい」

「そうか。なら早く行こうぜ」

「えっ。1人で大丈夫よ。近いし」

「夜道なんだ。女が1人で帰るのは危険だろ」

「私は強いし、大丈夫よ」


 ジョーカーの大幹部よ、私は。


「そういう問題じゃねぇだろ。ほら、さっさと行くぞ」


 そう言って、またスタスタと歩き出す。


 もう! あんた、私の家の場所知らないでしょ。どこ行くつもりよ。

 仕方がないから、私もヒョコヒョコと歩き出す。龍司が歩いているのとは逆方向に。

 龍司は立ち止まると、そそくさと私の後ろをついてきた。……ばか。


 しばらく無言で歩く。いつもどおりの道を、いつもより長い時間をかけて。足はまだ痛い。とろとろ歩く私の後を、龍司は文句も言わずついてくる。やっと家に着いた。


「ここが今の私の家よ」


 私の家はジョーカーが用意したアパートだ。1Kの小さな部屋。築20年にしては、建物内はわりと綺麗だ。私以外の部屋は、ジョーカーに関係ない一般人が住んでいる。


 普通じゃない点は、私の部屋に地下通路につながる穴があることだろうか。脱出に使えるみたいだけど、正直、そんな通路を使う事態には陥りたくない。


 鍵を使って部屋の扉を開けた後、アパートを興味深そうに見ている龍司に声をかけた。


「どうぞ中に入って。お茶ぐらい出すわ」


◆◇◆◇◆


「へぇ」


 龍司が私の部屋を見回す。なんだか笑ったような気がした。


「なによ」

「いや、なんもねー部屋だなと思って」

「別にいいでしょ。私は、必要なものしか部屋に置かないタイプなの」

「……必要なものねぇ」


 龍司がおかしそうに笑う。何なの、さっきから。失礼しちゃうわ。


「いいから、座って。コーヒーでいい?」

「コーヒーか。なぁ、ビールねぇの? ビール」

「あるわけないでしょ!」

「冗談だって、冗談。コーヒーでいいぜ」


 龍司はニヤニヤ笑っている。

 コイツ、すぐにふざけるんだから。


「じゃあ、ちょっと待ってて」

「おう」


 龍司が小さなテーブルの前にどかっと座る。

 あっ、そうだ。


「言っとくけど、絶対に私のものに触らないでよ」

「んなことしねーよ。そもそもなんもねーだろ、この部屋」

「わからないでしょ。勝手に引き出しを開けたり……」

「おい! 俺をなんだと思ってんだ」

「知らなーい」


 そう言い捨てて、キッチンにお湯を沸かしに行く。


「ったく……」


 後ろから龍司が舌打ちする音が聞こえた。おかしくなって、クスクス笑ってしまう。

 少し言い過ぎたかしら。龍司には、ついつい軽口をたたきたくなってしまうのよね。


 なんだかくすぐったい気持ちになりながら、お湯を沸かし、コーヒーを入れる準備をする。私の分は紅茶だ。

 あっ、この前サンフランシスコで買ったチョコレートがあるんだった。ダークチョコだから、甘い物が苦手な龍司でも大丈夫だろう。あれを出しちゃおう。


 色々買っておいてよかった。B・Bとの観光や遠崎さんたちとの買い物を思い出し、口元が自然と笑みの形になる。


「はい、どうぞ」

「おう」


 小さなテーブルの上に、できたてのコーヒーと紅茶を注いだカップと、皿に盛ったお菓子をのせる。龍司は私の置いたコーヒーのカップを見ながら、つぶやいた。


「なんか、意外だな」

「なにが?」

「いや、お前のことだから客用のカップなんか持ってねぇと思ってた。しかもこれ、そっちのやつとセットだろ? 誰か家に来たりするのか?」


 なかなか鋭いところをつく。彼の言うとおり、この前まで、きちんとした客用のカップはなかった。

 人が来ることを想定していないから、必要最低限しか食器をそろえていなかったのだ。


「……誰も。そのカップはアメリカの任務に行ったときに、買ったの」

「アメリカの任務? ああ、マルカトラズ連邦刑務所のやつか。B・Bの奴と一緒だったていう」

「よく知ってるわね。その通りよ」

「B・Bの奴が自慢してたからな。お前とアメリカでデートしたって」

「えっ! B・Bが?」

「ああ。あいつ、“綾ちゃんと仲良くなったのよ”ってうるさかったんだぜ」

「へ、へぇー」

「別に聞いてもいないこと、ベラベラとしゃべってたな」

「ベラベラって……。B・B、どんなこと話してたの?」


 B・B……、まさか余計なことしゃべってるんじゃないでしょうね。


「どんなって、別に。お前と買い物しただの、何食っただの、どうでもいい話だったな」

「それだけ?」

「それ以外に何かあるのか?」

「……別に」


 どうやら、好み云々の話はしていないようだ。セーフ。

 あからさまにホッとする私を見て、龍司が怪訝そうな顔をする。


「お前、最近変じゃないか?」

「……どこが?」

「今まで付き合い悪かったのに、急にB・Bの誘いに乗るし。この間も、学校の奴と出かけてただろ?」

「失礼ね。私だって、たまには人付き合いぐらいするわよ」

「お前、今まで俺とぐらいしか出かけなかったじゃねぇか。それに、雰囲気も今までと違うしな」

「……」


 確かに、今までの私は誰かと遊ぶなんてことなかった。例外は龍司くらいだ。


 コイツとは私が小学生の頃からの付き合いだし、当時はよく遊んでもらった。龍司は目つきは悪いが、面倒見はいいのだ。今でもその関係がずっと続いている。


 でも、雰囲気が違うか。B・Bにも言われたけど、自分じゃよくわからない。やっぱり変なのかしら……。

 返す言葉が見つからず、困って黙り込んでいると、彼は柔らかい声で言った。


「そんな顔するなよ。別に悪いって言ってるんじゃねぇんだ。むしろ、お前が人と関わりを持つのは、いいことなんじゃねぇの?」

「なによ、それ……」


 コイツは、たまにこうやって、私の保護者みたいな態度をとることがある。

 そんな時、私はなんだかとても――泣きたい気分になってしまうのだ。


 沈黙が流れる。なんともいえない空気の中、コーヒーを飲んでいた龍司が、口を開いた。


「そういえば、お前、スターレンジャーって知ってるか?」

「えっ?」


 私は驚いて、顔を上げる。今、スターレンジャーって言った?

次回は木曜日に更新。


 龍司からスターレンジャーの話を聞いて不安になる綾。

 もはや一刻の猶予もない。

 そう思った綾が取った行動とは?


 次回、『告白! デートへの誘い』

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