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02.衝撃! 私はスパイダーレディ

 私は“生富綾(いくとみあや)”ではなかった? 私は“如月舞(きさらぎまい)”だった? ……自分で言っててワケがわからない。だめだ、少し落ち着かないと。


 “如月舞”は私。っていうか、以前の私? よくわからないけど、とにかく私には“如月舞”の記憶がある。


 舞は普通の女子高生だった。えっ、普通ってどんなだって?

 んー、そうね……。ほら、学校のクラスっていくつかのグループに分かれるじゃない? その中のパッとしないっていうか、地味な子ばかりでくっついている女子のグループを想像してみてよ。そうそう、舞はそのグループにいたの。どう? これでわかった?


 よくある少女漫画のようにかっこいい男の子との運命的な出会いがあったわけでもないし、はたまた少年漫画のように秘められた才能に目覚めてスポーツをやっていたわけでもない。でも、舞は友達が好きだったし、学校に行くのもそれなりに楽しかったみたい。


 家族との仲もいたって良好。もちろん、親をうるさく思うことはあった。でも、だからといって嫌いになるほどではない。兄弟仲も悪くなかった。すごく仲がいいってわけでもなかったけど。


 そう。舞には三つ年上の兄と、十歳年下の弟がいた。兄は鬱陶しかったけど、年の離れた弟はそれなりに可愛かった。よく一緒に遊んであげたっけ。『星座戦隊スターレンジャー』を真似たヒーローごっこで。


『星座戦隊スターレンジャー』っていうのは、舞の弟が大好きだったヒーロー番組のこと。いわゆる戦隊ものっていうジャンル。戦隊ものっていうのは……ほら、5人のヒーロー(ヒロイン)が変身して、悪の組織と戦うやつ。休みの日の朝にやってるでしょ。知らない?


 舞の弟のお気に入りは、もちろんリーダーであるスターレッド。「情熱の赤き星、スターレッド参上!」とか「星の裁きを受けてみよ!」って叫びながらいつも舞を殴ってたっけ。子供ってやつは、加減を知らないから困るわ。


 そのスターレッドがスターピンクと一緒に、今日私の高校に転校してきたのだ。それだけじゃない。なんと私が彼らに倒される怪人、スパイダーレディだったのだ。もうパニック!

 どういうことだって? ……私の方が聞きたいってば。つまり、舞の記憶にある『星座戦隊スターレンジャー』の登場人物が、私と今日やってきた転校生にそっくりだったってこと。


 違う人間の記憶があるってだけでも変な感じなのに、その記憶の中で、今の私は物語の登場人物だっていうんだから。しかも私は悪役として死ぬ運命。あー、もうワケわかんない。


 登場人物だけじゃない。その他のことについても一致する部分がいくつもある。


 例えば『星座戦隊スターレンジャー』に出てくる世界征服を企む悪の組織。

 “ジョーカー”っていうんだけど、この世界に存在する。っていうか私、そこの組織にいるし。幹部だし。


『星座戦隊スターレンジャー』に出てくる怪人も、知り合いだ。

 怪人っていうのはジョーカーがつくりだした、人に昆虫等の遺伝子を組み込んだ改造人間のこと。私、スパイダーレディは蜘蛛の怪人なの。


 舞の記憶では、スパイダーレディは妖艶な雰囲気を漂わせた美女で、人間の姿の時はその美貌で多くの者を誘惑していた。男をたぶらかす典型的な悪女って感じ。

 えっ? 私? さぁ、どうかな?


 そういえば、ヒーローの一人であるスターブルーもスパイダーレディに見事に騙されていた。彼はスパイダーレディの人間の姿――生富綾の色香に惑わされて、ある重要な情報を彼女にしゃべってしまう。それによってスターレンジャーは窮地に立たされてしまうのだ。


 その失敗がネットで面白おかしく取り上げられて、スターブルーは◎△□×(下品なので自主規制)なんてあだ名をつけられていた。それまではクールなキャラで通ってたのに、あわれなヤツ……。


 でも結局、スパイダーレディは物語終盤であっさりとスターレンジャーに倒されてしまう。もともと戦闘はそれほど得意じゃなかったみたい。

 つまり、私はこのままいけばスターレンジャーに殺されてしまうってこと?

 げっ、冗談じゃない。なんとかしなきゃ。


 けど、舞の記憶をどこまで信じていいのか……。というのも少し気になる点がある。


 さっきも言ったとおり、今日来た転校生は星野紅一(ほしのこういち)星野桃(ほしのもも)。つまり、スターレッドとスターピンクの変身前の姿。

『星座戦隊スターレンジャー』は、イケメン俳優や美人女優、アイドルなんかが登場人物を演じているんだけど、あの二人、そっくりとまではいかないものの、劇中の俳優さんたちによく似てた。でも、年齢が全然違う。こんなに若いのはおかしいのだ。


 そう。スパイダーレディやスターレンジャーの年齢は、大体20代前半から半ばぐらいの設定だった。高校生ではないし、星野紅一と生富綾は顔見知りでもなかった。それにジョーカーについても、私と舞の記憶が食い違っている部分がある。


 そもそも、舞の記憶ってちょっと曖昧なのよね。しかも、感情が伴わない。本当に単なる記憶って感じ。だから、舞に戻りたいという気持ちはない。

 だって、私は私。生富綾なんだから。でも舞の記憶を思い出したせいで、今までの自分とは少し変わってしまったみたい。これから私はどうなるんだろう? 


 あー、やめやめ。そんなこと考えても意味がない。舞の記憶が正しければ、私はスターレンジャーに殺されちゃうんだから。これからのことを真剣に考えなきゃ。


 重要なのは、スターレンジャーに殺されなくても、ジョーカーにいる限り、私に未来はないということ。悪の組織なんだから当然だけど、このままジョーカーの命令なんか聞いていたら、私の身は間違いなく破滅だ。


 でも、ジョーカーから逃れるのはとても難しい。一番の問題は薬よね。改造人間である私は、ジョーカーの作る薬を飲み続けなければ、死んでしまう。


 それもこれも、ジョーカーの改造人間技術が不完全なせい。手術に適合できる人間ってほとんどいないの。たいていの者は怪人にすらなれず、ものを考えることができない人形になってしまう。成功したとしても薬がないと死んでしまうし……。本当、ジョーカーはろくな事をしないわ。


 とにかく、改造人間は薬を飲み続けないと昆虫化が進み、心と体が壊れてしまうの。

 ね、最悪でしょ? だから怪人はジョーカーの命令に逆らえない。


 まずは薬の作り方を手に入れなくちゃ。じゃないと私は死んでしまう。本当は普通の人間に戻りたいんだけど、そんな方法あると思えないし……。

 とにかく、私が生きていける保証がないうちに、スターレンジャーにジョーカーを倒してもらっては困るわ。となると、今後の方針は、


1.薬の製法を突き止め、薬を作れる人間を確保(至急!)

2.スターレンジャーとの戦闘を避ける。

3.なるべく、スターレンジャーの怒りを買わない。

4.最終的にスターレンジャーがジョーカーを倒せるよう、密かにサポートする。


 こんなところね。正直、かなり厳しい。でも、やるしかないのよね。だって、ジョーカーの奴隷として生き続けるのも、スターレンジャーに殺されるのも、どっちも嫌だもん。覚悟を決めなきゃ。


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