表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/67

18.暴走! スピードスター ドラゴンフライヤー参上!①

 どうしよう? なんか変なスイッチ入っちゃってるみたいなんだけど。


「でも、こういうのには関わらない方がいいんじゃ……」


 さりげなく彼女を止めようとする。しかし私の常識的な意見は即座に却下された。


「何言ってるのよ。こんな面白そうなこと、見逃す手はないわ」


 ……。遠崎さんの性格が少しわかってきた気がする。

 今度は桃ちゃんの方に同意を試みる。


「桃ちゃんも、危ないからやめといた方がいいと思うわよね?」

「男同士の殴り合いのケンカ。そして芽生える友情。……素敵!」


 ……。だめだ、こっちもアクセル全開だ。

 私の意見がおかしいのだろうか? 段々自分の常識に自信がなくなってくる。


 結局、暴走する2人を止めるすべもなく、ケンカを見に行くことになった。騒ぎのする方へと歩いて行く。……どうなってもしらないよ?


 マルワンから歩いてすぐの場所、路上で二人の男が殴り合いのケンカをしていた。

 殴り合いのケンカといっても、一方的に片方が片方を殴っているだけなので、そういっていいのかは疑問だ。既に勝負はついている。


 一人は肩上まで伸ばした金髪を後ろでくくっている20代くらいの青年。ホストのような服を着ている。顔立ちは……よくわからない。というのも、殴られて顔面がボコボコになっているためだ。


 もう一人は真っ赤な髪を逆立てた鋭い目つきの青年。端正な顔立ちをしているが、目つきの悪さがそれを台無しにしている。身長は190㎝近くあるだろうか? とにかくでかい。黒を基調とした派手な柄の服とごてごてとしたシルバーアクセサリーを身につけている。


 赤髪の男は、ぐったりする金髪頭の胸ぐらを掴み、無理矢理立たせた。


「てめぇ、誰にケンカ売ったと思ってんだ? ああ?」

「うう……」

「おいおい、さっきまでの威勢はどうした? 何とか言えよ」

「す……」

「あ?」

「す……せ……」

「聞こえねぇな?」

「す…ませんで…た」

「はぁ? 何だって?」

「すみ…ません…でした」

「……チッ」


 赤髪の男はつまらなそうな顔して、相手の胸ぐらを離す。ドサッと金髪頭はその場に崩れ落ちた。もはやピクリとも動かない。大丈夫かな、あの人。


「……なんだ、てめぇら。見せもんじゃねぇぞ」


 赤髪の男は、今度は遠巻きに見ている野次馬たちにガンをつけると、鋭い声で怒鳴りつけた。

 周りの人間が蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。


「私たちも行こう」

「う、うん」

「そうですね」


 遠崎さん達を促して後ろを向く。面倒なことにならないうちに、私も早くこの場を離れなきゃ。

 しかし、私の行動は、赤髪の男が発した一言で台無しにされてしまう。


「ん? 綾じゃねぇか。こんなところで何してるんだ?」


 ば、ばかっ。せっかく他人のフリをしてたのに。少しは空気を読みなさいよ。


「えっ、生富先輩の知り合い?」

「うそ……」


 ほら、二人がびっくりした顔でこっちを見ている。どうしてくれるのよ?


「ううん、全然知らない人。さあ、行きましょう」


 私はニッコリと微笑んで、強引にその場を去ろうとする。しかし、そんな私に容赦ない言葉がかけられた。


「おい。無視すんなよ、綾。感じ悪ィぞ」


 そう言って、赤髪の男がこっちに寄ってくる。

 あー、もう!

 クルリと男の方を振り向いて睨み付けてやる。


龍司(りゅうじ)こそこんなところで何してるのよ。街中でケンカなんて恥ずかしいと思わないの?」


 私が噛みつくと、彼は不愉快そうな顔をした。


「俺のせいじゃねぇよ。向こうから絡んできたから仕方なくやっただけだ。ったく、女の前だからってイキりやがって。相手を見てからケンカ売れっつーの」


 赤髪の男の名前は、赤池龍司(あかいけりゅうじ)。ジョーカーの大幹部の1人で、怪人名はドラゴンフライヤー。ドラゴンフライ、すなわちトンボの怪人だ。

 私とは5年前からの知り合いで、不本意ながらそれなりに長い付き合いだ。今ちょうど20歳だっけ?


 仕方なくであそこまでする? 相手が死んじゃったらどうするつもりよ。

 あの金髪頭もどうしてこんなのにケンカ売ったんだか。バカじゃないの?


「よく言うわ、ノリノリでケンカしてたくせに……」


 金髪頭の方をチラリと見る。さっきから全然動かない。


「あの人、大丈夫なの?」


 心配になって聞く。しかし、龍司は気にもしていない様子だ。私の問いに軽い調子で答える。


「大丈夫だろ。ちゃんと手加減したし」


 手加減ねぇ。本当かしら……?

 そんな私の心配をよそに、龍司がこちらをジロジロ見てくる。……な、何よ?


「お前、今日の服、気合い入ってんなぁ? まさか男とデートか?」

「ち、違うわよ。変なこと言わないでよ」


 ちょっと、二人がいる前でなんてこと言うのよ!


「だろうな」


 慌てる私に、龍司がしたり顔で笑う。

 ムッ。何それ。私がデートなんてあり得ないってこと? わかってて聞いたって? ふざけないでよ。


「ちょっと、それどういう意味よ」

「さぁ? どういう意味だろうな?」


 私がにじり寄ると、龍司はわざとらしくすっとぼけた顔をした。


 ……ムカつく!


 一言二言、文句を言ってやろうと口を開きかけたその時、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 どうやら誰かが通報したようだ。


「げっ、サツだ。俺もう行くわ。じゃあな、綾」


 慌てた様子で龍司がその場を去って行く。


「ちょ、ちょっと」


 どうすんのよ、この後。二人になんて説明すればいいのよ。


 戸惑っている間にも、サイレンの音が近づいてくる。

 ここにいたら、まずい。

 私は特大のため息をついた後、この場からすぐに離れるように二人を促すのだった。


 ◆◇◆◇◆


「ねぇねぇ、あれ誰? 生富さんとどういう関係?」

「名前で呼び合ってましたよね?」


 私は遠崎さんたちから質問攻めにあっていた。もちろん、龍司のせいだ。


「えーっと、アイツはなんていうか……」


 歯切れの悪い私。

 どうしよう? アイツとの関係をどう説明したら……。


「もしかして、生富さんの彼氏? 親密な様子だったものね」

「はぁ? 違うわよ、あんなの彼氏じゃないってば」


 なんで、私がアイツと。失礼しちゃうわ!


「じゃあ、どういう関係なのよ?」


 遠崎さん、遠慮がないわね……。桃ちゃんもこちらをジーッと見ている。

 うっ、これはなんとかごまかさないと。


「ア、アイツは、実は私の恩人なの!」

「えっ、恩人?」


 二人が驚いた顔をする。


「そう。私、小学生の頃に変な男に絡まれちゃって。無理矢理どこかに連れて行かれそうになったの。その時、私を助けてくれたのがアイツ、龍司よ」


 どうよ、このベタベタな話は。なかなかイイ線いってるんじゃない?


「龍司は、変な男を追っ払ってくれて、泣いている私を家まで送ってくれたの。恐そうに見えて、実は優しいヤツなの。龍司には本当に感謝しているわ。アイツに助けてもらってなかったら、今頃、私どうなってたか……」


 ついでに龍司の株を上げておく。龍司が危ないヤツって思われたら、私もそういう人だと思われてしまうもの。


「……」

「……」


 二人は沈黙している。あ、あれ? 今の話、ダメだった?

 ど、どうしよう? こうなったら、動物を登場させてみる? 子犬がいいかしら……。


「あ、あの……」

「すっごーい! そんな少女漫画みたいな展開、本当にあるんだ」

「素敵! じゃあ、あの人は生富先輩のヒーローなんですね!」


 二人が目をキラキラと輝かせて言う。興奮しているようだ。

 どうやら、今の話はアリだったらしい。私はホッとする。


 でも、ちょっと感心しすぎでは……。


「ヒーローって、それはちょっと大げさ……」

「いいえ、そんなことはありません! 生富先輩のために、危険をかえりみず、危ないヤツに立ち向かったなんて素敵じゃないですか!」

「そうよ、素敵な出会いじゃない。いいなー、私もそんな出会いしてみたい」


 桃ちゃんの言葉に、遠崎さんがすぐに同意する。


「そんな憧れるほどのものじゃ……」


 素敵も何も、全部嘘なのに……。

 それに忘れているようだけど、アイツさっきケンカ相手をボコボコにしてたわよ。それはいいの?


 私が戸惑っていると、桃ちゃんが興味津々って目で私を見つめてきた。


 な、なに?


「それで、生富先輩は彼のこと、どう思ってるんです?」

「えっ、どうとは?」


 私の反応に、遠崎さんがすぐにツッコミを入れる。


「またまたぁ。そんな風に助けられたなら、当然、そこで終わらないわよね。あの人、恐そうだったけど、カッコよかったし。どうなの、好きなの?」


 えっ、好き? なんで? どうしてそうなるの?


「好きなわけないでしょ! 変なこと言わないで」


 ついつい、声を荒げてしまう。


「むっ、この反応! どう思う? 桃ちゃん」

「これはクロですね! ムキになって否定するところが逆に怪しい……」

「だよね。生富さん、観念して吐いちゃいなさい!」


 二人はとても楽しそうだ。ニヤニヤしながら、私に迫ってくる。


 こ、こいつら……。


 もう! なんなのよ、なんなのよ。この展開は! なぜ私がこんな目に。


「もう、いい加減にして! 龍司とは何にもないってば!」


 私は涙目になりながら叫ぶ。


 アイツ、今度会ったら絶対タダじゃおかないから! 

次回は木曜日に更新。


 怪人名:ドラゴンフライヤー、人間名:赤池龍司。

 どこまでも空気を読まない男。

 彼の発するあまりに失礼な言葉に、綾がブチ切れる!


 次回、『暴走! スピードスター ドラゴンフライヤー参上!②』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ