17.恐怖! 星野家の人々
紅一君は、今日、部長と一緒に怪人の調査に行ってるはず。
部長、はりきってたもんね。遠崎さんの心配もわかる気がする。
でも、紅一君ならうまくやるんじゃない?
そう言おうとしたとき、店員がこのお店の名物、“バブルワッフル”を運んできた。
「わぁ、美味しそう!」
私たちのテンションが上がる。
“バブルワッフル”は、香港発祥のスイーツ。“バブル”という名前があらわすように、まるでたくさんのベビーカステラがくっついたような、でこぼこのワッフル生地をしている。
生地の上にアイスクリームなどたっぷりとトッピングがのっていて、ポップな見た目がかわいらしい。
私たちは記事に載せるための写真を撮る(一応、今日は街研の活動なのだ!)と、早速“バブルワッフル”を口に入れる。
うん、モチモチしていてとってもボリューミー! 生地の温かさとアイスクリームの冷たさがマッチしていて美味しい! 見た目もかわいいから、記事をつくるにはよさそうね。
まぁ、私は美味しければ見た目はどうでもいいんだけど。
……えっと、なんだっけ? 紅一君の話だっけ? ごめん、食べるのに夢中になっちゃった。
「平気ですよ。お兄ちゃん、部長のこと気に入ってたみたいだし」
桃ちゃんが美味しそうにワッフルを食べながら言う。
「えっ、紅一君が?」
それはなんというか意外。びっくりして聞き返しちゃった。
「波長が合ったんじゃないかしら。お兄ちゃん、ああ見えてかなり変わり者だから」
「紅一君が変わり者……。全然想像できないけど」
うんうん、私も遠崎さんと同じ意見。桃ちゃんは変わってると思うけど(失礼!)、紅一君はそんな風には全然見えない。
紅一君といえば、イケメンで爽やかなイメージ。
誰にでも親切だし、クラスでの人気も高い。すでに、女子の間でファンクラブができているほどだ。
勉強もスポーツもできるみたいだし、それでいて性格もいいなんて、すごいわよね。
でも、完璧すぎて、逆に人間味がないのよね。何考えているか全然わからないし。
そもそも、彼ってスターレッドでしょう? あんな変な格好して正義のために戦っているのよね?
その行動が、まず理解できない。正義とか本気で言ってるのかしら? ちょっと正気を疑うわ。
……紅一君たち、本当にスターレンジャーなのよね? 私の思い込みじゃないわよね?
「……むしろ、私は部長の方が心配だわ」
ボソリと桃ちゃんがつぶやいた。
ん? 何か言った? よく聞こえなかったけど。
「お兄ちゃんはね、昔から突拍子もないことやらかしては、周りに迷惑をかけてたの。なまじ能力が高いせいで、誰も止めることができないんです。ついには、大人達にも恐れられていたわ」
ふーん。火の玉レッドだものね。あり得ない話ではないか。
「ついたあだ名が、“赤い悪魔”」
「あ、悪魔?」
遠崎さんがびっくりして聞き返す。
「そう。大変だったんです、色々と」
桃ちゃんがうんざりした顔で言う。よほど嫌な思い出があるようだ。
“赤い悪魔”ね。“白い悪魔”ならうちの組織にもいるけど……。
「私と蒼二はお兄ちゃんに巻き込まれて、いつもひどい目にあってたわ」
今度はとても遠い目をしている。……大丈夫?
「へー、紅一君、やんちゃだったのね。意外! 全然そういう風には見えないもの。生富さん、クラスではどうなの? そういうところあったりする?」
「ううん、全然普通よ。むしろ皆に頼りにされているぐらい」
紅一君ウォッチャーの私が言うんだから、間違いない。
既にクラスに馴染んでるし、リーダーシップを発揮して、皆をぐいぐい引っ張っている。私とはえらい違いだ。
「……見かけがああだからわかりにくいけど、とんでもない性格しているんですよ。先輩たちも、気をつけてくださいね」
急に真顔になって、桃ちゃんがこっちを見つめてくる。
……そんな目で見ないで、恐いから。
どうやら、紅一君には私の知らない一面があるらしい。ふむ。
「それにしても、さっき会った桃ちゃんの従兄弟、カッコよかったわよね。蒼二君だっけ? びっくりしちゃった」
遠崎さんがウットリした様子で言う。ああいうのが好みなのかしら?
でも、確かにブルーはカッコいい。スターレンジャーの中でも、一番のイケメン俳優が演じてたし、女性人気も高かった。スパイダーレディとの一件も、ネタにされつつ、なんやかんや言って皆から愛されてたし。舞もブルーのキャラはお気に入りだったのよね。
逆にスパイダーレディに対するブーイングはすごかった。スターブルーがかわいそうとか、悪女とか。
……私って、どこでも嫌われているわね。どうでもいいけど。
「確かに、カッコよかったわね。私も書店で会ったとき、びっくりしちゃった」
「そういえば、生富さん、彼に本をとってもらったって言ってたもんね。いいなぁ」
「そうね。ラッキーだったわ」
遠崎さんに話を合わせる。……知らないって、幸せね。
「でもさー、彼、生富さんのこと気にしてなかった? なんか見つめてたような気がしたんだけど。どうする、どうする? これを機に付き合う事になったら」
「あはは。ないない、絶対にないって」
あったら、困ります。
「そうかなー。素敵だと思うけど。ねぇ、桃ちゃん。蒼二君って、いくつなの? 私たちと同い年?」
「蒼二は今17歳で、先輩達と同じ学年です」
「へー、じゃあ高2か。どこの学校?」
「桜陽高校ですね」
「うわー、頭いいんだぁ」
遠崎さんが驚くのも無理はない。
桜陽高校は県内でも指折りの進学校で、毎年超難関大学といわれるT大合格者を多数輩出しているような高校だ。この辺りでは “T大に行きたきゃ桜陽高校に行け”とまで言われている。
私たちが通う星華高校も十分進学校なんだけど、桜陽高校は頭一つ飛び抜けているのよね。
「ねぇねぇ、蒼二君ってどんな子なの? クールそうな感じだったけど」
遠崎さんがグイグイ質問する。よっぽど彼に興味があるのね。
「蒼二ですか? クールって言うより、ボーッとしてるって言った方がピンとくるかな。昔から大人しくて物静かな子だったんだけど、お兄ちゃんと一緒にいたせいで、周りから目をつけられていたの」
「へぇー……」
紅一君、何やってんだ?
「蒼二って何でもできるんですよ。学校での成績も常にトップだったし。ちょっとおっとりしたところがあるけど、優しい性格をしているから、女の子にもモテてたの」
そりゃあモテるでしょうね。あれだけカッコよければ。
それにしても、おっとりしていて優しいとは、原作のスターブルーとは大分違う。原作のブルーはどちらかと言えば、クールで冷たいイメージだものね。
でも……。
私は書店で出会った時の、彼の優しそうな笑顔を思い浮かべる。
桃ちゃんの話は、私が受けた彼の印象とピッタリ一致する。
「蒼二はいいヤツよ。だけど……」
ん? 何、その顔。
「友達がね、変なヤツばかりなの。蒼二は常識的でマトモなヤツなんだけど、周りがひどすぎるせいで、蒼二に恋した女の子は皆逃げていったわ。今日の友達も絶対変なヤツよ。間違いないわ」
確信をもって、桃ちゃんが言う。そ、そうですか。
「蒼二と関わるとろくな事がないの。なまじ蒼二は悪くないせいで、周りはどうすることもできないし。その影響力はすさまじく、ついには、大人達にも恐れられていたわ」
ふーん。スターブルーにそんな設定あったかしら? スパイダーレディ関連以外は普通の人だったと思うけど……。
「ついたあだ名が、“変人ホイホイ”」
「へ、変人ホイホイ!?」
ぶっ。
や、やばっ。紅茶吹き出しちゃった。
「そう、大変だったんです。色々と」
桃ちゃんがうんざりした顔で言う。よほど嫌な思い出があるようだ。
……私、その変人に入ってないわよね? ねぇ、入ってないわよね?
「私とお兄ちゃんは蒼二に巻き込まれて、いつもひどい目にあっていたわ」
今度はとても遠い目をしている。……大丈夫?
「……そこまで言われると、蒼二君の友人とやらを見てみたくなるわね」
遠崎さんが言う。
「代表的なのが、うちのお兄ちゃんですよ」
「……」
……聞けば聞くほど、星野家の謎が深まるばかり。スターレンジャーとの今後が不安になる私だった。
◆◇◆◇◆
マルワンのビルを出ると、どことなく周りが騒がしい。一体どうしたんだろう?
「何かしら? 何か周りが騒がしいような……」
気になって周りの様子を伺っていると、私たちの側に居た男の人たちの会話が耳に入ってきた。少し興奮した様子だ。
「どうしたんだ?」
「殴り合いだ。殴り合い」
「あっちの方で誰かがケンカしてるってよ」
「ちょっと見に行こうぜ」
ケンカね……。
若者が多いだけあって、この辺りは治安が良くない。特に駅の周辺は毎日のようにトラブルが発生している。こういうのは関わり合いにならないのが一番ね。
さっさと帰ろうって、二人に声をかけようとしたところ――
「今の聞いたわよね? 私たちも見に行くわよ」
――なぜか遠崎さんがいまだかつてないほど生き生きとしていた。
次回は日曜日に更新。
二人の勢いに押されて、ケンカを見に行くことになった綾(弱い)。
騒ぎの中心にいるのは綾のよく知るあの男で……
次回、『暴走! スピードスター ドラゴンフライヤー参上!』