表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/67

16.運命? 彼が噂のスターブルー②

 目的のアジアンスイーツのお店に到着したが、そこには大行列ができていた。


「やっぱり混んでるね」

「オープンしたばかりだからね。順番待ちの用紙に名前を書いて、買い物でもしに行かない? 時間が経ってからまた戻ってこようよ」


 遠崎さんの言うように用紙に名前と人数を書いて、私たちは買い物をすることにした。


「どこ行く?」

「私、雑貨が見たい」

「あ、私も」


 私と桃ちゃんの意見が採用され、雑貨を見に行くことになった。途中、若者向けファッションブランドの店の前に飾ってある服をチェックしながら歩く。

 もう夏のセールも終盤にさしかかっている。今年はあまり服を買っていない。また、今度一人で買いにこようかな。


 お目当ての雑貨屋に着く。広いフロアにかわいらしい小物が所狭しと並べられており、お手頃価格で売っている。

 こういう店って見だしたら止まらないのよね。ずっといても飽きない。


 この間、サンフランシスコでティーカップを買ってから、私の中の買い物熱が高まっているの。私の家って何もないのよね。生活必需品のみ。殺風景というかなんというか。

 別に誰を招くわけじゃないからいいっちゃいいんだけど、せっかくだから可愛い小物なんかを取り揃えてみたい。とりあえず、食器類から買ってみようかな。


「生富さん、何かいいのあった?」

「うーん、まだ探し中。お皿を買いたいんだけど……」

「お皿を?」


 遠崎さんが不思議そうな顔をする。

 あっ、そうか。


「私一人暮らしをしているの。だから、お皿が欲しいのよね」

「えっ、そうなの? 高校生で一人暮らしって珍しいね」

「ええ。まぁ色々あって」


 適当にぼやかす。遠崎さんもなんとなく雰囲気を察してか、それ以上は聞いてこなかった。黙って一緒に食器のコーナーを見る。


「これなんかいいんじゃない? かわいいけど」

「えっ、どれどれ?」


 遠崎さんが指さしたのは、変テコな動物の絵がワンポイントとして入ったお皿。北欧作家の絵ね。色合いも独特で、個性的。


 北欧のものってシンプルでかわいいのが多いよね。私、北欧雑貨って好き。


「ホントだ、かわいい。うん、これにする。ありがとう、遠崎さん」


 私はさっそくレジに行って、お皿を買う。

 ふふ、いい買い物しちゃった。


 そういえば桃ちゃんはどこに行ったんだろう。キョロキョロと辺りを見回す。


 あっ、いた! 和食器のところだ。

 有田焼や九谷焼といった焼き物を真剣に見ている。なかなか渋いチョイスだ。


「何か買うの?」

「あっ、生富先輩。これとこれのどっちにしようか迷ってるんですけど。うーん、やっぱりこっち方がイメージに合うわ。決めた! こっちにします」


 そう言うと、桃ちゃんは九谷焼の焼き物をもって、レジへと向かって行った。


 ……。それ、おちょこととっくり……。


 きっと、誰かへのプレゼントよね。父親? それとも年上の彼氏とか? 

 む、気になる。後で聞いてみようっと。


 ◆◇◆◇◆


 雑貨屋の後は、桃ちゃんの提案でアクセサリーを見に行くことになった。


 私も新しいピアスが欲しいのよね。

 学校では一応禁止されているけど、それほどうるさく言われない。教師は見て見ぬ振りをしている。

 相川さん達なんか、堂々とつけているし。まぁ、私もだけど。


 アクセサリーショップへ行く途中、急に桃ちゃんが驚いた声を上げた。


「あれ、蒼二(そうじ)! どうしてここにいるの?」


 えっ、スターブルー?


「桃! お前こそどうして」


 声がした方に目を向ける。


 浅黒の肌に、涼しげな目。

 私の予想通り、書店で会った男の子がそこにいた。手にスマホをもって、休憩スペースの椅子に座っている。


「言わなかったっけ? 今日、部活の先輩達とマルワンに行くって」

「そういえばそんなことを言ってたような気が……」


 ブルーは桃ちゃんと話をしていたが、後ろにいる私に気がついて、驚いた顔をして立ち上がる。


「……君は」

「さきほどはどうも」


 私は軽く会釈をする。

 あっさりと再会したわね……。

 しかし、さっきと違って、彼の正体がスターブルーだと知ってしまった後だと、どうにもやりにくい。


「えっ、生富先輩、蒼二(そうじ)のこと知ってるんですか?」


 桃ちゃんが驚いた顔をする。……知ってるも何も、因縁の相手です。


「知ってるというか。書店で本を取るのに困ってたら、彼が助けてくれたの」

「へー。さすが蒼二ね」


 桃ちゃんが感心したような、ややあきれたような顔をする。


「いや、別に……」


 素っ気ない返答。


「彼、桃ちゃんの知り合いなの?」


 遠崎さんが、ウズウズしながら桃ちゃんに質問した。

 そりゃ、気になるわよね。彼、すごくカッコイイし。


 桃ちゃんはニッコリと笑って言う。


「ええ。彼の名前は星野蒼二(ほしのそうじ)。私や紅一の従兄弟なんです」

「えっ、桃ちゃんの従兄弟!」


 遠崎さんが驚く。

 スターブルーは、私たちの方を向いて静かに微笑むと、軽く会釈をした。


星野蒼二(ほしのそうじ)です。従姉妹の桃がいつもお世話になっています」

「あっ、ご丁寧にどうも。遠崎さくらです。桃ちゃんの部活の先輩をしています」

「……生富綾です」


 私たちも、軽く挨拶をする。

 ブルーは私を見て、なんともいえない微妙な顔をしてつぶやいた。


「そうか……」


 ……。


「ところで、蒼二はどうしてここに? 1人で買い物?」

「いや、友達と一緒だったんだけど、今は別行動中。暇だからスマホを見てた」

「へー。友達ってどんな人?」

「一言でいうと、“騒がしいヤツ”だな」

「ふーん。それなら、私たちは早く行った方がよさそうね」

「……そうだな」

「じゃあね、蒼二」

「ああ、紅一によろしくな」


 彼に小さく手を振った後、桃ちゃんがこちらを振り返った。


「行きましょう、先輩」

「ええ」

「そうね」


 私たちはその場を去る。なんとなく、彼がまだこちらを見ている気がした。


 ◆◇◆◇◆


 アジアンスイーツの店に戻ると、ほどなく店内に案内された。私たちは注文をして、くつろぐ。


「桃ちゃん、さっき、“おちょこととっくり”を買ってたよね? あれ、誰かへのプレゼント?」


 私は、気になったことを早速聞いてみる。


 どうなの? 彼氏へのプレゼントなの? スターグリーンだったりして。


 私の知っているとおりだと、今の時点で成人しているのは彼だけだ。スターグリーンは確か警察官だった。もう就職しているだろうか?


「あれですか? いえ、プレゼントじゃないですよ」

「えっ、じゃあ、自分用? でも私たちまだお酒飲めないよね? どうやって使うの?」

「あれは、武将の命日に使うんです」


 ……はて?


「武将の命日に?」

「ええ。武将の肖像画を写真立てに入れて、おちょこととっくりにお酒を入れて写真立ての前に飾るの。一緒に飲んでいる気がするでしょ?」


 得意そうな顔をして、私たちに同意を求めてくる。


 ……そういうものかしら? よくわからない。


「へ、へー」

「それは、また……」


 私と遠崎さんは何ともいえない反応をしてしまう。どう返したらいいのかわからないのだ。

 微妙な沈黙が続いた後、ずいっと遠崎さんが前に身を乗り出し、桃ちゃんを見て真剣な顔をした。


 な、何? 遠崎さん、どうしたの?


「ところで、前から思ってたんだけど、桃ちゃんって、男同士の恋愛に興味がある人なの?」


 遠崎さん、勇気ある! それは、私も前から気になってたのよね。


「えっ?」


 桃ちゃんは、キョトンとした顔をする。しかし、すぐにクスクス笑い出した。


「やだー、違いますよ。私は、男女の恋愛の方が好きです」


 えっ、違うの? てっきり、そうだと思ってた。


「私、男同士の恋愛というより、友情が好きなんです。さらに言えば、“努力”、“友情”、“勝利”が大好きなんです!」


 拳を握りしめて桃ちゃんが力説する。

 “努力”、“友情”、“勝利”ね。まぁ、ヒーローには必須かもしれない。


「あと、熱い戦いも大好きです。血湧き肉躍るっていうか、戦っている時って、全身の血液が沸騰してたまらないの。強い相手を見るとワクワクしちゃう」

「そ、そう……」


 何、この子。戦闘狂なの? 強敵にワクワクするって、どっかの戦闘民族か何か? 私、こんなの相手にしないといけないの? 絶対、嫌なんだけど。


「命を削り合う強敵との戦い。そして戦いの中で芽生える友情。ドキドキしちゃう!」


 桃ちゃんのテンションがどんどん上がっていく。


「な、なるほど」


 私のテンションはどんどん下がっていく。


「戦国武将とかが好きなのも、その影響ですね」


 ……そうですか。でも、私としては、戦国武将は、友情というより謀略や裏切りのイメージの方が強いんだけど、どうかしら?


「ねぇ、生富さん。桃ちゃんってちょっと変わっているわね」


 こっそり、遠崎さんが私にささやく。


 ちょっとじゃないわよ、すごく変よ、変!


 ……おかしい。絶対におかしい。彼女は私の知っているスターピンクと違う。


 私は舞の記憶からスターピンクの情報を引っ張り出す。


 スターピンクはスターレッドの妹でしっかりもの。暴走しがちな兄を戦闘面でも生活面でもきっちりサポートする。

 レッドはこのピンクに頭が上がらない。彼は結構なシスコンなのだ。


 ……紅一君はどうなんだろ?


 スターピンクは、鈍感な兄とは違い、自分がモテることをしっかり自覚している。

 ちゃっかりした所があって、その魅力を盾にして、周囲の男をいいように使っていた。小悪魔系なのよね、スターピンクは。

 作中で男を翻弄するキャラといったらスパイダーレディだけど、スターピンクもそうだ。


 そんなある意味ヒロインらしくない性格のピンクだけど、意外に人気があった。最近は、ちょっとひねくれたキャラの方が受けたりするのだ。


 もちろん、桃ちゃんは可愛らしいし、男子からもモテる。小悪魔と言えなくはないけど……。なんか違うのよね。


 あなたは一体何者なの……という思いを込めて、桃ちゃんをジーッと見つめる。

 すると、桃ちゃんは不思議そうな顔をして、小首をかしげた。


「そういえば、紅一君、大丈夫かしら?」

 

 遠崎さんの心配そうな声。えっ、紅一君?

次回は木曜日に更新。


 スイーツとおしゃべりを楽しむ三人。

 話題は紅一と蒼二のことになる。

 しかし、桃から出てくるのは、彼らの“ろくでもない話”ばかりで……。


 次回、『恐怖! 星野家の人々』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ