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第8話 初めての旅

メインストーリーの続きとなります。


「ところで、相談って何でしょう?」


 私が冒険者ギルドへ来たのはワイバーンの手続きのため。

 みんなの気持ちが嬉しくてつい忘れてたよ。


「クリムさん、昨日のワイバーンですけど素材が高価過ぎてタルコットの冒険者ギルドでは買い取りできないんです」

「……え?」

「ワイバーン1匹でも手に余るのに2匹となるとギルドの年間予算が吹っ飛びます。それに素材を売りに出してもこの小さな街では買い手も見つからないかと」


 確かに魔物を倒しても買い手がいなければ冒険者ギルドも商売にならない。

 それなら大きな街の冒険者ギルドならあるいは。


「ワイバーン2匹を買い取りしてくれそうで1番近い街ってどこですか?」

「ここから1番近い街はユーウィンですね」


 名前は聞いたことあるけれど見知らぬ街。

 新しいパンの素材を探す旅もたまにはいいかも。


「それじゃ早速準備して明日にでも出発しますね」

「ワイバーン2匹ならかなり高額になると思うので頑張って下さいね!」




 ☆☆☆




「準備オッケーかな」


 翌朝、ワイバーン2匹と旅の荷物を<無限収納(ストレージ)>に放り込んで準備完了だ。

 留守の間は商業ギルドのライマンさんにパンの販売をお願いしてある。


「クリムさんが留守の間は私たちがしっかりお店を開けておきますので安心して行って来て下さいね!」


 商業ギルドの職員さんたちも張り切ってくれているので安心である。

 ちなみに多めに作ったパンは時間停止の魔法の鞄(マジックバッグ)に入れてライマンさんに預けてあるので大丈夫。


「それじゃ行って来まーす!」


 ベルトランドさんやソフィアさん、街の人たちに手を振ってタルコットを出発する。

 普通に歩いて行けば今日の夕方には到着するかな。


「急ぎの旅でもないしのんびり行こうっと」


 ずっとパン作りばっかりしていたから街道の景色が新鮮だね。

 お腹が減ったらパンを食べつつ旅を続けているとゴブリンが私の姿を見て欲情してたから近くの大木を引っこ抜いて薙ぎ払ったり、巨大な蟻(ジャイアントアント)が群れで襲ってきたから巣ごと全滅させたりと至って平和な旅だ。


 もちろん倒した魔物は素材になるから持っていくようにソフィアさんに言われているので<無限収納(ストレージ)>に収納済み。


 その後は何事もなく旅を続けていると遠くから叫び声が聞こえる。

 慌てて道を急ぐと1台の荷馬車が魔物に襲われているのが見えた。


「大丈夫ですかっ!?」


 近づくと1人の男性が荷馬車の横で倒れている。

 よく見ると怪我をしているのか地面が赤く染まっているが今はそれどころではない。


『グルルゥゥゥ!』


 視線の先には3メートルを超える殺人熊(キラーベア)が荷馬車を漁っている。

 そして急に現れた私に驚いて警戒モードだ。

 しばらく睨みあうと私を餌だと認識したのか突進してくるキラーベア。


「遅いって!」


 速攻で懐に入って打撃を与えると低い唸り声をあげて地面に倒れる。


「ふぅ、本当に魔物が多いなぁ」


 倒れたおじさんに駆け寄って声をかけると意識はまだある。

 すぐに<無限収納>から回復薬を取り出して飲ませると痛みが引いてきたのか表情が落ち着いてそのまま意識を失った。


「さすがに放置はできないよね」


 荷馬車に繋がれていた馬を落ち着かせると、荒らされた荷物を集めて荷馬車の横へ置いていく。

 しばらくすると意識が戻ったのかおじさんが目を覚ました。


「う、うーん……、ここは?」

「ここは街道から少し外れた場所ですよ。キラーベアに襲われてたんだけど覚えてますか?」

「キラーベア……、そうだ! 私はあいつに襲われて……」


 そこまで言うとおじさんが急に起き上がるが怪我が治りきっていないので痛みのために地面に膝をつく。


「うぐっ……」

「もう倒したから大丈夫ですよ」


 ひとまず安心させなきゃね。

 私がそう言うと驚いた顔でこちらを見る。


「お嬢ちゃんが、1人でかい?」

「そうですよ」


 私の見た目で魔物を倒したって言うと普通の人は驚くよね。

 しばらく唖然としていたけれどすぐに私の方を見て頭を下げた。


「本当にありがとう! お嬢ちゃんは私の命の恩人だ」


 こうして見知らぬ人に面と向かってお礼を言われると照れるよ。


「いえ、通りかかっただけなので気にしないで下さい!」

「そんな訳にはいかない! ああ、私はユーウィンで商人をしているオーウェンだよ」

「私はタルコットでパン屋をやってるクリムです」

「えっ、冒険者じゃないのかい!?」


 まあパン屋の少女がキラーベアを倒すのは変だよね。

 兼業で冒険者もやっていると伝えるとホッとした顔をするオーウェンさん。


 手持ちの回復薬で傷もだいぶ治ったようなのでユーウィンへ出発する。

 私がユーウィンへ向かっていると話すとお礼に荷馬車に乗せてくれるらしいのでお言葉に甘えちゃおう。


「クリムちゃん、本当に強いね! あのキラーベアって脅威度Cに近い魔物のはずだよ」


 この世界、ロンシスタでは魔物にランク付けがされている。

 1番弱いとされているスライムの脅威度Fからドラゴンの脅威度Sまで。

 もっと上位の魔物も存在するけれど滅多に姿を現すことはない。


「ところでユーウィンへは何をしに行くんだい?」

「タルコットで取れた魔物の素材を売りに行くんです」


 私がそう伝えるとオーウェンさんの目が光る。

 さっきまでの優しいおじさんから商人の顔つきになった。


「ほう、それってどんな魔物か教えてもらえるのかな?」

「えっとワイバーン2匹ですよ」


 別に隠すほどでもないので正直に伝える。



 ――ヒヒーン!



「オーウェンさん、手綱(たづな)、手綱っ!」


 魔物の名前を出すとオーウェンさんが驚いて馬の手綱を引っ張った。

 そのせいで馬も驚いてその場で立ち止まる。


「あ、いや、ごめんごめん。私の聞き間違いでなければワイバーンが2匹と聞こえたんだけど?」

「はい、間違いなくワイバーン2匹ですよ」


 それが何か?と頭をちょこんと傾けている私の顔を不思議そうに見ているオーウェンさん。


「あぁ、なるほど。クリムちゃんの住んでいるタルコットの冒険者たちが倒したワイバーン2匹を代表で売りに行くんだね? ついクリムちゃん1人でワイバーンを倒したのかと勘違いしちゃったよ、はは」


 何か違う方向に納得したみたいだけど笑顔で返事をしておいた。


「でもワイバーン2匹となればかなりの高額になると思うよ?」

「そうなんですか? タルコットでは初めてらしくて相場がわからないんです」

「大きさや損傷具合にもよるけど1匹で金貨700枚くらいかな」

「そんなに!?」


 私のパンが1個銅貨1枚くらいだから……7万個分。


 ちなみにロンシスタでは鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨の6種類が共通貨幣として流通している。

 金貨1枚がだいたい1万円で銅貨1枚が100円くらいの認識だ。

 うむむ、と唸っているとオーウェンさんが声をかけてくる。


「クリムちゃん、先に見えるのがユーウィンの街だよ」


最後までお読みいただきありがとうございます。

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