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第5話 勇者じゃないよ、パン屋だよ

ひとまず最終話です。

※その予定でしたけれど少し延長したいと思います。

 詳しくは後書きにて。


※9月2日、延長により最後の部分を加筆修正しました。


「はぁ……、大丈夫かな」


 今日は午前の販売を中止して冒険者ギルドへやって来た。

 昨日のワイバーンの件で手続きがあるらしい。


「ソフィアさん、こんにちはー」


 建物の中へ入るとさっきまで賑やかだったギルド内が静まり返って、そこにいた冒険者たちが私を見つめている。


(あぁ、やっぱり……)


 この雰囲気には覚えがある。


「クリムさん、おはようございます。昨日はお疲れ様でした」

「いえ、私がお役に立てたようでよかったですよ。ところであのBランク冒険者たちは?」

「それでしたら大丈夫です。クリムさんの戦いを見た後、3人とも何も言わずにタルコットを出たと連絡を受けました」



 ――ガチャ。



 ソフィアさんと話しているとギルドの扉が開いてベルトランドさんが入って来た。


「ベルトランドさんも呼ばれてたのですか?」

「おお、クリムか。昨日は助かったよ。私も手続きと後は……説明だな」


 そう言って周囲をチラッと見て軽くため息をつくベルトランドさん。

 そして冒険者ギルド内の冒険者に向かって静かに語り出す。


「君たちの中で東のアヴェハイム帝国のことを知っている者はいるかね?」

「あ、俺は知ってます」

「俺も知ってますよ。騒乱があった国ですよね?」

「そうだ。我がカウベルス家は元々あの国の貴族だったんだよ」


 アヴェハイム帝国。

 ここタルコットより東にある軍事に秀でた国だった。

 そこへ突如として魔王が軍勢を率いて襲い掛かって来たのだ。


 帝国も兵士や冒険者が一丸となって迎え撃ったが魔王の軍勢は強く防戦一方で帝国が崩壊するのも時間の問題だった。


「その時に光の女神様が助けてくれたんですよね?」

「魔王と戦っていた勇者や聖女様を助けたんだよな!」


 冒険者たちはその時のことを熱く語り出す。

 やっぱり強い者の話はどこの世界でもネタになるらしいね。


「金色の髪に白い鎧の女神様。それが彼女、クリムだよ」


 ギルド内が一瞬静まり返る。



「「えぇーーっっ!」」



 その場にいた全員が驚いて私を見た。

 金髪なんて他にもいるし白い鎧ってエプロンしてただけだよ?

 それよりも光の女神様なんて二つ名は恥ずかし過ぎる!


「こんな可愛い娘が……」

「クリムちゃんが強いのは知ってたけどそんなに!?」

「けど国を救った英雄が何でタルコットなんて小さな街にいるんだ?」

「ふむ。それこそが私が伝えたい内容だな」


 魔王を倒してからみんなの私を見る目が変わっちゃったんだよね。

 近所のお店のご主人やパン屋に買いに来てくれていたお客さんに声をかけるとビクッと何かに怯えるように私を見てたし……。

 パン屋も徐々に客足が遠のいて最後はお店を閉めるしかなかったもん。


「最初からクリムが冒険者なら問題なかったんだがパン屋の娘だしな。強すぎる力は時として恐怖の対象になってしまう。さっきの君たちのようにね」


 ベルトランドさんがそう言うと俯く冒険者たち。


「結局、帝国としては国民の声を無視できず帝国を救ったクリムを国外追放にしたんだよ。その時に諫めようとした私や他の貴族も軒並み追放されてな。タルコットのギルド長もアヴェハイム帝国出身で私と同じように追放された身だ」

「ベルトランドさんが私を擁護なんてするからですよ? あまり無理しないように言ったのに」

「しかし国を救ったクリムを追放だなんて馬鹿げている。それに私も以前からアヴェハイム帝国のやり方はあまり好きになれんかったしな」


 ベルトランドさんにつられて一緒に笑ってしまう。


「さて、私は潮時かな。ソフィアさん、みなさん今日までありがとう」


 みんなの方を向いて頭を下げる。

 アヴェハイム帝国のように怯える目はあまり見たくないもんね。

 それなら少しでも早く街を出た方がいい。


 そう思ったんだけれど……。


「え、クリムちゃん、どこか行くのかい?」

「街を出て行くような言い方に聞こえたけど違うよな?」

「……え?」


 私が思ってた反応と違って思わず聞き返す。


「みんな私の力を見たでしょ? 怖くないの?」

「街を救ってくれたことに感謝はするが怖くはないよな」

「ああ、驚いたのはあるが別にクリムちゃんだし」

「そうですよ。クリムさんが強いのはみんな知ってますからね」

「それより今日のパンはまだなのかい? うちでカミさんが待ってるんだよ」

「俺はいつものチョコパンを頼むよ」


 私のパンが焼き上がるのを待ってくれる人たちがいるだけでこんなに幸せな気持ちになるなんて……。

 アヴェハイム帝国の時みたいに出て行かなくていいんだと知って思わず涙が込み上げて来る。

 ベルトランドさんを見ると優しい笑顔を浮かべて私を見ていた。


「あの、みなさん本当にありがとうございます! パンはこれから焼いて午後にはお店を開けますのでいつでもお待ちしていますね!」


 涙を拭いながら頭を下げる。


「ところで魔王を倒したって聞いたけど、武器も持たずにどうやって倒したんだ?」

「どうって、普通に殴っただけですよ?」


 みんなの前に細腕を出してグッと力を込める。


「確か勇者と聖女様と一緒に戦ってたんだよな? その2人は?」


 そう言えば倒れてた人たちがいたけれどアレが勇者なんだよねぇ。

 私が魔王の元へ向かった時にはすでに半泣き状態だったよ。


「少しだけお仕置きして放置してきたよ」


 その時の様子を少しと言うかは別として。

 あまりかかわったらダメな人たちっぽいしね。



「「「ええぇぇーーーっっ!」」」



 賑やかなギルド内に今日1番の大きな声が響いた。

 でも横にいた女の子はちょっと可愛かったかも?


(アレがなければねぇ……)


 まさか顔を赤くして「お姉さま!」と迫って来るとは思わなかったよ。

 可愛いものは好きだけど恋愛対象は男性だけだっての!


「クリムちゃんって本当に何者なんだろうね?」

「え、私ですか?」


 この答えはいつも決まっている。


「私はただのパン屋ですよ」


最後までお読みいただきありがとうございます。


当初は全5話で完結させる予定でしたけれど最終話を投稿した後、みなさんの反応をみて驚くやら感謝するやらでニヤニヤしっぱなしでした。

なのでもう少しだけ延長してみたいと思います。

拙い文章ですけれど最後までお付き合いのほど宜しくお願いします。


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