第41話 カレンの好きなパン
「はぁ……」
あの後、冒険者たちのことはリコットに任せておいた。
レッドドラゴンは解体作業場へ運んで買い取りをお願いしてある。
もの凄い値段になるってゼイアさんが驚いてたっけ。
「どうしようかな……」
今の私を悩ませているのは宿へ帰った時に受付の女性から渡された1通の手紙だ。
綺麗な装飾と王家の印が入った手紙なんて碌なもんじゃない。
何かを感じたのか肩の上でくつろいでいたカレンが私の顔を覗き込む。
『クリム様、どうされたのですか?』
カレンが鳥の姿をしている時は念話で話すようにお願いしてある。
さすがに人が多い場所で鳥が言葉を話すと怖がられるかもしれない。
今は私たち以外に誰もいないけれど普段から慣れておくために念話で会話をしているのだ。
「この手紙なんだけど城から呼ばれてるんだよね」
ほぼ間違いなくレッドドラゴンと祠の件だと思う。
レッドドラゴンは倒したから大丈夫なんだけれど問題は守護神様が私の従者になったことだよ。
それをどうやって説明していいのやら。
『クリム様、もしかして俺が一緒だとご迷惑に?』
「ううん、そんなこと絶対にないよ。カレンには色々と助けてほしいし」
私は異世界の人間だからこの世界の知識って知らないことが多い。
そんな時に守護神と呼ばれて数百年以上も生きているカレンが一緒だと凄く心強いのだ。
とりあえず城で話を聞いて後はその場の流れで決めようかな。
「よしっ、お風呂に入ってさっぱりしてからご飯にしよう!」
カレンにも一緒に入るか聞いてみたけれど大丈夫らしい。
まあ守護神様だし汚れるって概念がないのかも。
のんびり湯船に浸かって今日の疲れを癒した後はパンの時間だ。
「カレンってパンを食べたことはある?」
『いえ、知っていますけれど実際に食べたことはありません』
「もしよかったら一緒に食べる?」
『そんな、クリム様の手を煩わせるなんて! 買い物なら俺が行きますよ?』
「ううん、そうじゃなくて。カレンには私のことを知っておいてほしいの」
そう言うと肩の上でなぜか感激して目をウルウルさせている。
人の姿の時はあんなにイケメンなのに鳥の姿の時は凄く可愛い。
「これが私のパンを作る魔法だよ」
目の前のお皿に色々な種類のパンを作り出した。
お店で出している物から最新作まで取り揃えてある。
『これがクリム様の魔法……ですか?』
「そうだよ。タルコットって街でパン屋をやってるの」
『えっ、クリム様は勇者やどこかの国の聖女なのでは?』
「そんな偉い人たちとは違ってただの平民だよ。がっかりさせちゃったかな?」
『そんなことはありません! クリム様がどのような身分の方であろうとも私の主には変わりませんから』
そう言って私の頬に頭を擦り付けてくる。
ヤバい、この鳥、めっちゃ可愛いんですけど!
カレンは私の肩から降りると人の姿に変身してパンを1つ手に取る。
しばらく色々な角度から眺めると半分に割って残り半分を口に頬張った。
「どう? 無理しないでいいからね?」
ゆっくりとパンを噛みしめるカレン。
その姿を見ていると何だか緊張してくるんだけど。
「う、うまい……です。うまいですよコレ!?」
そう言って残り半分も口の中に放り込む。
カレンが美味しいって言ってくれてよかったよ。
「いまカレンが食べたのはクリームパン。私の1番大好きなパンだよ」
「くりぃむぱん……。まさかクリム様のお名前を冠している!?」
「そうだよ。私の名前の元になってるパンなの」
「そ、そんな……。クリム様の分身とも言えるパンを俺は1口で……すみませんっ!」
カレンが私の前で床に頭を付けて謝っている。
いや、頭を上げて!?
「カレン、大丈夫だから! 私の好きなパンをカレンに知ってほしかっただけなの。私こそ説明が下手でごめんね」
私もカレンに頭を下げるとオロオロしている姿がちょっと可愛い。
もう少し見ていたいけれど気の毒なので頭を上げて笑ってみせた。
「カレンが美味しいって言ってくれて嬉しいよ。他にも色々なパンがあるから食べて」
「はいっ、ありがとうございます!」
「そうだ! これもカレンに食べてみてほしいんだけど」
そう言って目の前に作り出したひとつのパン。
外側はカラっと揚げて中身の具にはカレーを入れたパン。
「カレンの名前の由来になった私の大好きなパンのひとつだよ」
「俺の名前の……?」
「少し熱いから気を付けて食べてね」
カレンにカレーパンを手渡すとゆっくり食べ始める。
最初は外側の食感を確かめるように、そのまま中身の具に驚きながらも静かに食べている。
「どうかな? この世界にはない食べ物だから口に合わない時は無理しなくていいからね?」
「うまいです……。このパン、凄くうまいですよっ!」
アッと言う間に無くなったので追加で5個ほど出してみる。
カレンの食べっぷりを見てたら私も食べたくなってきた。
「クリム様の出すパンはどれもうまいけど俺はこれが1番好きです」
カレンが手に取ったパンはカレーパンじゃなくてクリームパン。
私がこの世界へ転生した時、名前をどうするか悩んで1番最初に思い付いた大好きなパンだった。
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