第4話 クリムvsワイバーン
「どんな状況だ!?」
ベルトランドさんが冒険者ギルドへ入るとタルコットに所属している冒険者たちが大勢集まって相談をしている。
「カウベルス様、発見されたワイバーンですが少々マズいことになっています」
ワイバーンとは前肢が翼に変化した2足の魔物でドラゴンで下位種にあたる。
とは言え大きさは普通の魔物の比ではなく危険な魔物であることに間違いない。
そんなワイバーンがダカの森で他の魔物を捕食しながら暴れ回りタルコットへ少しずつ近づいていて、このままだと街の人間もワイバーンの餌になり兼ねないのだ。
「冒険者ギルドとしては緊急クエストとして依頼を出そうと思いますがワイバーンは脅威度Bです。この街に所属している冒険者の最高はCランクなので――」
ソフィアさんがそこまで言うとジャコたちが前に出て来る。
「俺たちはBランク冒険者だ。手伝ってやってもいいが依頼料は金貨1000枚だ!」
「そ、そんな大金、タルコットの冒険者ギルドでは無理です! それに通常でしたらその半分ほどのはず……」
「ならワイバーンが暴れ回って街が壊されてもいいのかよ?」
「うっ、それは……」
ジャコの言い分に腹が立つが間違ってはいない。
このままだとタルコットの街はワイバーンに蹂躙されるのも時間の問題だ。
「はぁ、あなたたちが怖いなら私が行くけど?」
後ろで話を聞いていたけれどタルコット所属の冒険者ではかなり厳しいだろうし、ジャコたちが渋るなら私が出るしかない。
本職はパン職人なんだけれど仕方ないか。
「なんだと!? 俺たちがワイバーンを怖いだと?」
「そうじゃないの? だから法外な金額を要求したんでしょ?」
「てめぇ……」
私を睨みつけるジャコと仲間たち。
「大変です!」
冒険者の報告で街の外へ向かうと近くの木々が倒れる様子が見えた。
さすがにこのまま先へ進ませる訳にはいかない。
「まさか2匹もワイバーンがいるなんてね」
ずっと1匹だったと思っていたワイバーンだが2匹で暴れ回っていたのだ。
そのうちの1匹は地上で魔物を食い散らかしながら歩いて、もう1匹は空を旋回しながら餌となる魔物を探している。
「クリムちゃん、さすがに2匹は無理だ!」
「みんなクリムさんが強いのは知ってるけど危険だよ!?」
「クリムさん、ここは冒険者ギルドとして彼らの指定する金額をお支払いできるように上司と掛け合いますから無理をなさらないで!」
タルコットの街の人が危険だと私を引き留めるけれど私のお店があるし、いつも私のパンを美味しいって言ってくれる大切な人たちが暮らしてるもんね。
過去のことを思い出して不安になるけれど頭を振って追い出す。
「ああ、大丈夫ですから……っとその前にこれだけ持っててもらえます?」
大事な商売道具のエプロンを外すとソフィアさんに預ける。
さすがにワイバーンと戦って埃まみれのエプロンでパンを焼きたくないもん。
「カウベルス様、クリムさんを止めて下さい!」
「いや、クリムなら大丈夫だろう」
ワイバーンが暴れている森へ近づいていく。
さすがに空を飛んでるのは面倒だし先に地上で暴れてる奴から倒そうかな。
「あのクソガキ、何をするつもりだ?」
「武器も持たずにワイバーンに近づいていくぞ!?」
ジャコたちがクリムの様子を見ていると目の前から姿が消える。
「んなっ! どこへ行ったクソガキ!?」
――ズゥゥン。
ジャコが叫ぶと同時に大きな音がするとさっきまで暴れ回っていたワイバーンが地面に倒れていて横にはクリムが腕を回して立っている。
ジャコだけでなく冒険者や住人も何が起きたのか理解できず呆然としていた。
視線の先にいる少女は空を見上げて何かを確認すると近くに落ちていた少女の倍以上もある大岩に手を伸ばし片手で持ち上げる。
「まさか……」
ジャコがそう思った瞬間、飛んでいるワイバーン目掛けて投げつける。
もの凄い速度で飛んでくる大岩を避け切れず頭に直撃して落下するワイバーン。
地面へ墜落すると凄まじい地響きと砂煙で何も見えなくなった。
――少し前の時間。
「確かワイバーンって高く売れるんだよね。ならあまり傷付けずに倒す方がいいかな」
空を飛んでいる方は面倒だから先に地面で暴れている方から倒してしまおう。
私の大事な素材を荒らし回ってくれたお仕置きもしたいしね。
腕と足にグッと力を入れてワイバーンに駆け寄ると顎の下から殴りつける。
ボキボキと何かが砕けた音がしたからもう大丈夫かな。
「さて、次はあいつだけどどうしようか」
ジャンプすれば届くと思うんだけれどスカートだし下着を見られるのは乙女としてちょっとねぇ?
何かないかなと見渡すと手頃な感じの大きな岩を見つけた。
「これがちょうどよさそうな感じね」
あとはワイバーン目掛けて投げつけると見事に命中して落ちてくる。
念のためにちゃんと殴って倒しておいたよ。
そして2匹のワイバーンの尻尾を持って引き摺りながらみんなの元へ戻るとベルトランドさん以外の全員が目を見開いたまま固まっていました。
「クリム、ご苦労さん。キミならやれると思ったよ」
「私は冒険者じゃないんですからね?」
「明日はたくさんパンを仕入れるからそれで許してくれんか」
「やったぁ! まいどありがとうございます!」
そう言ってベルトランドさんと笑い合っているとジャコが声をかけてくる。
「な、何が起きたんだ?……お前は一体何者なんだよ?」
ジャコや仲間たちが青褪めた顔で私に聞いてくる。
今まで何度も聞かれたけれど私の答えはひとつしかない。
「私はただのパン屋だよ?」
「……」
静寂が支配したのも束の間、
「「「絶対に嘘だぁぁぁーーーっっ!」」」
ジャコだけでなく冒険者や住人の叫ぶ声がタルコットに響き渡った。
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