第38話 卵の守護神様
「誰なのよ?」
どこからか私を呼ぶ声が聞こえる。
辺りを見渡しても誰の姿も見えない。
リコットを連れて早く街へ帰らなきゃいけないのに!
『落ち着くのだ少女よ』
「悠長に落ち着いていられないのよ!」
不思議な声を辿っていくと私が持っている卵にぶつかる。
「もしかして卵が喋ってる?」
まさかロンシスタの卵って話せるの?
スーパーで売ってるパック入りの卵が一斉に喋り出したら恐怖だよ。
『倒れているのはアヴェハイムの聖女だな?』
「そうだけど? 大怪我をしてるから早く街へ帰らなきゃいけないのよ。用事なら後で聞くから」
『慌てるな。我を救ってくれた礼に治療してやろう。我を聖女に持たせるがよい』
偉そうな卵だけれどリコットを治療してくれるなら誰でもいい。
言われたとおりリコットの腕の中へ卵を持たせる。
「えっ?」
卵を持たせた瞬間、卵から光が溢れてリコットの体を包み込む。
幻想的な雰囲気に見ていることしかできない。
しばらくするとグッタリしていたリコットの顔色に血の気が戻ってきた。
「う、うーん。お、お姉さま……?」
「気が付いた?」
「は、はい。えっとレッドドラゴンは?」
「もう大丈夫よ。2匹とも倒したから」
そう言って倒れたままになっているレッドドラゴンの方へ指を指す。
「国どころか大陸さえ危ういと思っていた2匹のレッドドラゴンを本当に倒してしまわれるなんて……。本当にお姉さまは凄い……です」
キラキラした目で私を見つめるのは止めてくれない?
「それに私の恰好ってもしかして……」
街へ連れて帰るつもりでお姫様抱っこのままだったことを忘れていた。
女性同士だと恥ずかしいと思うし慌てて降ろそうとする。
「ごめんね、リコット。すぐに降ろすから」
「いいえ、もうしばらくはこのままでお願いします」
そう言って私の首に手を回して抱きついてくる。
さすがに怪我人を無理やり放り出すわけにもいかないし。
「大人しくしてるのよ?」
「はい、お姉さま!」
素直な返事が聞こえたけれど私は聞き逃さなかった。
小さな声で「布が邪魔なのよ!」と……。
ジト目でリコットを見るけれど私の胸に顔を埋めて見えていないフリをしているのでしばらくはこのままにしておこう。
変なことをしたら火口に捨てるからね?
「ところで卵の声は誰なの?」
『我はアヴェハイムの地を守る守護神だ』
そんなに偉い卵様なんだ。
「その守護神様はここで何をしてるの?」
『我を解放する者を待っておる』
「解放してどうするの?」
『我が解放されればアヴェハイムの地に加護を与えることができる。そうすることで魔物の脅威に晒されることなく繁栄してきたのだ』
「えっ?」
アヴェハイムって魔王に攻め込まれてたよね?
しかも周辺には魔物も多いしジャイアントトロールなんかもいたよ。
「お姉さま、そこは私が説明します」
「リコット、もう体は平気? それなら降りて――」
「イヤです」
真剣な顔をして却下された。
いまいち納得がいかないけれど先に話を聞いておきたい。
「アヴェハイム帝国は元々、戦争から離れた平和な国だったのです」
「えっ、そんな風に思えないんだけど?」
リコットの話だと先々代の国王の頃から守護神様の教えを守らずに領土拡大のため戦争を始めるようになったらしい。
最初の頃は守護神様の加護もあって連戦連勝で軍事国家と呼ばれるまでになったけれど数年前から負け続けるようになって国が疲弊しだした。
「宰相や大臣たちは守護神様の加護が消えかかっているのが敗戦の原因だと考えたみたいです。そこで目を付けたのが魔王や勇者を圧倒する力を持つお姉さまでした」
「ちょ、ちょっと待って? あの人たちは私に守護神様を何とかしてもらおうと無理やりアヴェハイムに呼んだの?」
「私はその監視役として……ごめんなさい、お姉さま」
私の腕の中で泣きそうな顔で真相を語るリコット。
宰相が滅茶苦茶なことを言って私をこの国に引き留めたのはコレだったのね。
『ふむ。我の知らぬところでそんなことになっておったとは……。我への祈りが滞っておったのもそう言うことか』
「守護神様、申し訳ございません」
そう言えば儀式の時に祠へ来るって言っていたのは守護神様に祈りを捧げるためだったね。
『昔のアヴェハイム国王は魔術に長けた英傑であったが……、もはやこれまでか』
アレを英傑と言うなら領民全員が勇者だよ?
守護神様は卵姿のままだけれど落ち込んでいるようにも見える。
『話は変わるがそこの少女よ。お主は聖女と違って不思議な魂をしておるな』
「え、私ですか?」
確かにロンシスタの住人じゃなくて日本人だし。
そう言う意味では不思議な魂になるのかな。
『まだ幼体だったとは言えあのレッドドラゴンを圧倒するとは見事だ』
あんなに凄かったのに子供だったの!?
大人になったレッドドラゴンってどれだけ強いのよ!
『我に魔力を注いでみよ。最低限の魔力を示すことができればしばしの間、お主の役に立ってやろう。あのレッドドラゴンから守ってくれた礼だと思うがよい』
助けたお礼に私の役に立ってくれるみたいだけれど偉そうじゃない?
この場合は低姿勢でお願いするものだと思うんだけれど。
「お姉さま、無理をなさらないで下さい」
「どう言うこと?」
「前回、守護神様が解放されたのは300年前になります。その時の記録では聖女や神官が数百人以上集まって祈りを捧げて魔力を供給したとか」
「そんなに魔力が必要なんだ!?」
卵様を見ると何となく神々しく思えてくる。
私のパンを作る魔法程度では役に立たないかも。
『我を守る殻に例え砂粒ほどのヒビでも入れることができればよしとする』
どうなるかわからないけれど、やってみますかね。
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