第34話 怒ると怖い
「こんばんはー」
冒険者ギルドへ入ると夕方にもかかわらず静かだった。
本来ならこの時間帯は依頼達成や魔物の買い取りで賑やかなはずなのに。
何かあったのかなと中へ入ると髭の冒険者が私の目の前にやって来る。
私と戦闘になった時、最後に扉へ蹴り飛ばした冒険者だ。
「あんたが魔王や勇者を倒した人か?」
「そうだけど私に何か用なの?」
やる気なら相手になるけれど今度は怪我じゃ済まないかもよ。
そう思っていると突然、私に頭を下げる。
「さっきはすいませんでした、クリムさん!」
その言葉に続いて他の冒険者たちも頭を下げた。
何があったのか知らないけれど突然の状況に頭が追い付かない。
「まさかこんなお嬢さんがクリムさんだとは思いもよらず申し訳ない」
少し警戒したけれど敵対する様子はないみたい。
どうして私に突っ掛かってきたのか聞いてみるとアヴェハイムの冒険者ギルドも昔はどこの街にもある普通の冒険者ギルドだったらしい。
「勇者がギルドに来るようになって変になっちまったんだ」
「面倒な依頼は俺たちに押し付けて自分は簡単な依頼しかやらねぇ」
「そうそう。勇者なんだから依頼料が高いのは当たり前だと言って数倍以上の依頼料を脅し取ったって話もよく聞いたしな」
「俺なんか依頼が受けれなくて収入がないから野宿生活だぜ」
「他にも他人の恋人を寝取って逆らったら重症を負わせたとか」
冒険者たちの口から出るのは勇者への愚痴が止まらない。
最初の頃は冒険者やギルド職員たちが勇者に注意をしたらしいけれどアヴェハイム帝国直々で招いたこともあって強く言えなかった。
「それでイライラしてたところにクリムさんがやって来て……」
「俺たちも少し脅かすだけのつもりだったんだ」
そこまで言うと、また頭を下げる冒険者たち。
まあ理由はわかったけれど女の子にあの態度はダメでしょ。
「私が普通の女の子だったら怪我じゃ済まなかったかもしれないよ?」
「いや、本当にクリムさんには申し訳ない」
「次に弱い者いじめをしてるところを見かけたら……」
「大丈夫だ。もうあんなことはしない」
甘い気もするけれど本当に反省しているみたいだし今回は許してあげるか。
元を辿ればあの勇者のせいでもあるっぽいし。
私はそう思ったんだけれど……。
「あなたたち……、私のお姉さまに何をしたのですか?」
私の背後から地獄の底から響くような声が聞こえてくる。
振り向いたら鬼……じゃなくてリコットさんが立っていた。
その姿に驚いて冒険者たちが後退りを始める。
「もう1度聞きます。私のお姉さまに何をした?」
「ひっ……」
冒険者たちが怯えてるんですけれど!?
リコットさんの変わり様に宿で見た女の子だと思えない。
私からも一言、説明をしておく必要があるかも。
「リコットさん、この人たちだけど……」
「お姉さまは気にしないで用事を済ませて下さいね?」
……鬼が無理やり笑顔を作っているようで怖い。
私たちが話している隙を見て1人の冒険者が逃げ出す。
「私から逃げられるとでも……?」
リコットさんが魔法を唱えると逃げ出した冒険者の体が硬直したように動かなくなった。
しかもよく見ると魔法は冒険者ギルド全体に広がっているみたいですべての冒険者たちが動けなくなっている。
うん、私はここにいちゃダメな気がしてきた。
リコットさんは聖女様だし1人でも大丈夫だよね。
「それじゃ、私は解体作業場へ向かうね。リコットさん、またねー」
「はい、お姉さま!」
冒険者たちの「行かないで!」と懇願するような目が私に向けられているような気がするけれど冒険者同士で解決してもらう方がいいと思うんだよね。
しばらくすると受付の方から雷が落ちる音と悲鳴が聞こえる。
私は何も見てないし聞いてないと言うことで。
「ゼイアさん、こんばんは」
解体作業場へ到着したので責任者のゼイアさんに声をかける。
「おう、クリムさんか。待ってたぜ。ついでに他の魔物も終わってるぞ」
さすがアヴェハイムの解体作業場。
大きくて作業員が多いから仕事が早いね!
「それじゃ買い取りの説明をするがいいか?」
「はい、お願いします」
ここから魔物の部位と買い取り金額がずらっと並ぶ。
素材にはそんな興味はないので買い取り価格はゼイアさんにお任せだ。
「――と言うことでジャイアントトロールの買い取り金額は金貨2550枚だ」
「えっ、そんなに?」
「こいつは特殊個体だから高額なんだよ。通常なら金貨1500枚ぐらいか」
さすが特殊個体は高価な素材になるのね。
それ以外の魔物たちも買い取りはすべて終わって最終的には金貨3000枚を超えてたよ。
「また面白い魔物を倒したらぜひうちに買い取らせてくれ」
「私のメインは冒険者じゃなくてパン屋だから」
「なにっ、そうなのか!?」
他の作業員も驚いていたけれどそんなものかな。
早く新作のパンをお店に出してのんびり暮らしたいよ。
その前に明日は火山に向かわなきゃ。
「なぁ、クリムさん。さっきからギルドの方で何か叫び声が聞こえるんだが何かあったのか?」
「たぶんリコットさんがギルドに来てるからかも」
「ああ……」
それだけで何かを察したのかゼイアさんが遠くを見ていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ブックマークや☆☆☆評価をいただけると作者はとても喜びます!
タップするだけで終わりますのでよろしくお願いします。




