第33話 聖女様、登場
聖女のイメージってお淑やかな感じだけれどパッとしなかったので少し変わった要素を足してみました。
「き、きゃーーっ!」
女の子が目を覚まして叫び声をあげる。
ちょっと待って。
叫びたいのは私の方なんだけれど?
私から顔を背けて「純潔が……」とか「神に仕える……」とかブツブツと声が聞こえるけれど私の純潔はどうなるの?
しばらくすると私の方を振り向く女の子。
その表情は今まで出会ったどんな魔物よりもおっかない。
私を睨みながら地獄の底から響くような声で話し出す。
「私を聖女リコット・バーデと知っての振る舞い。到底許すことなどできません。あなたのピーをピーしてピーーー!」
さっきからピーピーとうるさいです。
あと顔が凄く近くてちょっと恥ずかしい。
「あの、リコットさん……でしたっけ。この手を離してくれない?」
「……えっ、お、お姉さまですか?」
お姉さまって誰のことですか?
そう思ったけれどこのフレーズには聞き覚えがある。
確か魔王戦で勇者の近くにいた女の子がそう呼んでいた気が……。
リコットさんも完全に目が覚めたみたい。
「ま、まさかさっきのキスは夢じゃなくて……」
目を見開きながら独り言が聞こえるけれど今は無視しておこう。
すると何を思ったのか今度は可愛い表情で私を見上げるリコットさん。
「お姉さま。今度こそ記憶に残るキスを――」
タコのように唇を突き出して迫って来るリコットさんの腕を振り解いて離れた。
思ったよりも力が強くてびっくりしたよ。
「あーん、お姉さまのいじわるっ!」
「誰がお姉さまなのよ。私はあなたが誰か知らないんだけど?」
私がそう言うとベッドから起き出して衣服の乱れを整える。
「紹介が遅れて申し訳ありません。私はアヴェハイム帝国の聖女リコット・バーデと言います。魔王との戦いでは助けていただき本当に感謝致します」
そう言って丁寧にお辞儀をする女の子。
肩まで伸びた艶やかな白い髪に金色の瞳。
幼く見える顔立ちだけれど全身から溢れるオーラは気品すら感じる。
「ご丁寧にどうも。私はタルコットでパン屋をやっているクリムです。今回は城からの呼び出しでアヴェハイムへ来ました」
相手は聖女様だし私もきちんと自己紹介をしておく。
さっきのは何かの間違いってことにしておいた。
「ところで聖女様はどうしてこの部屋に?」
私が1番気になっていたことを聞いてみる。
「私のことは聖女様ではなくリコットとお呼びください、お姉さま?」
「わかりました、リコットさん。できれば私のこともクリ――」
「イヤです」
はい、秒で却下されました。
考える余地のない気迫に押されて何も言えない私。
「お姉さまがアヴェハイムへ来ることはバカに聞いて知りました」
「バカって誰のことなの?」
「バカと言えばアヴェハイムのトレネン国王に決まってるじゃないですか」
いや、そんなことも知らないの?みたいな目で見られても。
仮にも自分の国のトップをバカ呼ばわりって……。
この娘を聖女にしたのは誰なのよ。
私の中の聖女イメージが完全に崩れた。
「お姉さまを驚かせようと布団に潜り込んだらそのまま寝てしまって」
確かにこのベッドは清潔にされてて気持ちいいもんね。
ポカポカ陽気で眠ってしまうのはわかるけれど驚かせるのは勘弁してほしい。
「もう十分に驚いたからそろそろ帰ってくれない?」
「えっ、なぜですかお姉さま?」
私ってそんなに変なことを言ったかな?
驚かせる目的が終わったんだから用事はないはずなんだけれど。
「夕方に出かける予定があるからそれまでひと眠りしようと思ってね」
「そうでしたか。ではご一緒しますね、お姉さま」
リコットさんはそう言ってベッドに入り私の寝る場所を空けてくれる。
いや、あなたはさっきまで寝てたよね?
「さぁ、お姉さま……。あぁ、リコットは今から大人の女性への階段を――」
「……」
バカなことを言ってるリコットさんを無言でベッドから摘まみだす。
女性同士でどうやって大人の階段を上るのよ。
「大丈夫です、お姉さま。私の魔法で……」
私の考えが読めたのか魔法を唱え始めると部屋全体が怪しいピンクに光り出す。
数秒ほどして私に両手を向けて魔法を発動すると私の体が輝いた。
「ふぅ、これで儀式は終わりました」
「リコットさん、私に何かしたのかな?」
「これは聖女にだけ伝わる秘術で性転換の魔法です」
「……はい?」
そんなバカなと思うけれど魔物や魔法が存在する異世界。
思いもよらない魔法があっても不思議ではない。
慌てて自分の体を確認する。
1番わかりやすいのは……、あの場所だよね。
リコットさんに背を向けてスカートを捲り下半身を見た。
「きゃーーっ! なにコレっ!?」
今までの人生で自分の体に付いてなかったモノが揺れてました。
しかもこのサイズってかなり大き……ってそれどころじゃない。
「さぁ、お姉さま。これで私たちの子供を――」
――ガンッ!
「早く戻しなさいっ! さもないと叩くわよ!?」
「お、お姉さま……、もう叩いてますぅ」
涙目になって抗議をしてくるリコットさん。
そんなことは知らないよ。
腕をぐるぐる回しながら近づくと私が本気だとわかって慌てだす。
「じ、冗談ですっ! これは幻惑魔法の一種で魔法は解除しました!」
その声にもう1度、今度はゆっくりと下半身を見ると何もなかった。
ホッと安心しつつも、もう少しちゃんと見ておけば……じゃなくて。
「今度、こんなことしたら許さないからね?」
「は、はい、もうしませんから許して下さいっ!」
ちょっとアホっぽいけれど今日のところは許してあげよう。
「さて私は本当に寝るから帰ってくれない?」
だいぶ時間を無駄にしたけれど1時間くらいは寝れると思う。
そう思って窓の外を見ると夕焼け空にアヴェハイムの城がシルエットに浮かび上がってとても綺麗だったよ。
「あの、お姉さま……。ごめんなさい」
悲しい現実を見つつ冒険者ギルドへ向かう準備を始めた。
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