第30話 特殊個体の魔物
「もう1度、聞いてもいいですか?」
ギルド職員と冒険者たちが私に集まって聞いてくる。
ちなみに床で倒れている冒険者たちは邪魔なので隅っこに移動させた。
「詳しくって言われてもそんなにないですよ?」
「それでもぜひっ!」
冒険者という生き物は冒険談がお好きみたい。
ジャイアントトロールと力比べをしたことや大木をへし折ったこと、最後に上空から踵落としで決めたことを話すと熱い眼差しが私に注がれる。
キラキラした冒険者の瞳がとっても眩しいよ。
ここでギルド職員の1人が私の冒険者カード見て話しかけてくる。
「あの、お嬢さんの名前にクリムってあるけれどまさか……」
「私の名前がどうかしましたか?」
「勇者と魔王を倒したっていう伝説の……?」
なぜか私はアヴェハイムで伝説になってました!
「伝説は知らないけど勇者と魔王を倒したのは確かに私ですね」
そう言うと全員が呆然としている。
「クリム様、今まで生意気な態度で申し訳ありませんでした!」
最初に受付カウンターで応対したギルド職員が全力で頭を下げた。
この言葉に続いて他のギルド職員も謝ってくる。
そして敬称が「様」になったよ。
「何かわからないけど頭を上げて下さい!」
「で、でも……、ギルド職員としてあるまじき行為を」
このままじゃ先に進まないんですけど。
「普通に受付してくれれば大丈夫ですから。ね?」
「ほ、本当に許して……?」
「もう怒ってないから大丈夫ですよ」
ずっと頭を下げているギルド職員がようやく頭を上げる。
そして目に涙を浮かべてついには泣き出した。
「う、うぅ、うわあぁぁぁん」
うん、面倒臭い。
まださっきの方が少しマシだった気がする。
小さい子供をあやすように優しくを心がけて何とか落ち着かせた。
「う、ぐすっ、もう怒ってない?」
「怒ってない、怒ってない。だから買い取りして」
私はあなたのお母さんですか?
早く買い取りしてもらって帰りたいんですけど。
「ゴホン……。失礼しましたクリムさん」
顔を洗ってスッキリした姿で現れたギルド職員のピートさん。
ようやく先に進めるみたいで嬉しい。
ちなみに敬称は「様」から「さん」にお願いしておいた。
「ジャイアントトロールの買い取りですがこちらへどうぞ」
そう言われてアヴェハイムの解体作業場へ案内してもらう。
さすがアヴェハイム帝国の解体作業場は凄く大きいね。
ユーウィンも凄かったけれど倍以上はあるかも。
「ゼイアさーん! お客様を連れて来ましたよー」
ギルド職員のピートさんが誰かの名前を呼んでいる。
すると1人の男性がこちらにやって来た。
「おぅ、お前が来るなんて珍しいな? 俺に客ってこの女の子か?」
「そうです。名前はクリムさんであの生ける伝説ですよ!」
「なにっ! こんな女の子があの伝説の!?」
あの、伝説って連呼されると凄く恥ずかしいんですが。
2人の声を聞きつけて作業員の人も集まって来る。
中には握手を求められてそれに応えたら行列ができました。
なんですか、ここは握手会場ですか?
1人10秒でお願いします。
最後に並んでた人に握手をするとそのまま自己紹介が始まる。
「クリムさんだな。俺はここの責任者でゼイアだ」
「よろしくお願いします」
「2人してこんな場所に何の用なんだ?」
ここでピートさんが事情を説明してくれる。
「なにっ! あのジャイアントトロールだと!」
「それをクリムさんが討伐して持ち込んでくれたんです」
「本当に特殊個体のジャイアントトロールなのか?」
「上でも確認したけれどゼイアさんにも確認と買い取りをお願いしたくて」
「なるほど、わかった!」
ゼイアさんに指示された場所へジャイアントトロールを取り出すと騒然とする解体作業場。
しばらくあちこちを確認してゼイアさんが戻って来る。
「確かにありゃ特殊個体の奴だ」
「やっぱり! クリムさんお手柄ですよ!」
ピートさん、最初に出会った時と違い過ぎて誰だかわかんないよ。
けれど素直に喜んでおこう。
興味津々でジャイアントトロールを眺めているゼイアさんに話しかける。
「ゼイアさん、これの買い取りをお願いしたいんですけど」
「おう、任せてくれ! 全部買い取りでかまわんのか? 必要な部位があるなら取り分けておくが?」
私のメインはパン屋だし素材をもらってもねぇ。
でもあの部位は少し確保しておきたい。
「これの肉って食べれますよね?」
「もちろんだ。部位にもよるが料理屋なら1人前で金貨30枚は取られるぞ」
「そんなに? ワイバーンとかギガントカメレオンより高いんですね」
「こいつは特殊個体だからな。普通なら金貨10枚くらいだ」
やっぱり特殊みたいな珍しいものは高いと。
1人で納得しているとゼイアさんが聞いてくる。
「ワイバーンとギガントカメレオンの名前が出たが食べたことあるのか?」
「どっちも倒して買い取りをお願いしたことあるから」
「さすが伝説のクリムさんはすげーな!」
他の作業員の人たちからも拍手された。
アヴェハイムの冒険者ギルドは高ランクが多いからそんなに珍しくないと思ったけれど脅威度が高い魔物はそうじゃないのかな。
「それじゃ、ジャイアントトロールの買い取りはお願いします」
「急ぎでやるから今日の夕方過ぎにでも来てくれ」
「わかりました。しばらく観光してから顔を出しますね」
ゼイアさんたちとはここで別れて受付へ戻る。
ついでに観光で食べ物が美味しいお店を聞くためだ。
「買い取りが終わるまで観光したいんだけど、おすすめのお店とかあれば教えてもらえませんか?」
ピートさんに聞くとなぜか申し訳なさそうな顔で俯いてしまう。
「あの、クリムさん。観光の前にお願いしたいことが」
「なんですか?」
「床で意識を失くして倒れている冒険者たちが受けた依頼がたくさんありまして……」
うん、何だか嫌な予感がしてきた。
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