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第27話 謁見の間

「私がクリムです」


 ここはアヴェハイム帝国、謁見(えっけん)の間。

 そして目の前の豪華な椅子に偉そうな男性が座っている。


()はトレネン・ヴィオ・フレードリクである」

「ふーん」


 魔王戦で見たような気がするけれど正直どうでもいい。

 私の返事が気に入らないのか周囲の男性たちが騒いでいる。


「何だあの小娘はっ!」

「陛下の前であの態度とは何様のつもりだっ!」


 たぶん大臣や貴族だと思うけれど作法なんて知らないって。

 しかも追い出したのはアヴェハイム側なんだから(うやま)う気持ちなんて微塵(みじん)もない。


「質問なんだけど手紙に書いてあった弁償って何のこと?」

「お前が魔王との戦いで壊した城の修繕費用のことだ」

「何で私が弁償しなきゃならないのよ!?」


 街は未だに復旧作業が続いているのに城は綺麗に修繕されていた。

 おじさんやおばさんたちが言っていたけれど職人たちを無理やり城へ招集して突貫工事をさせたのだろう。


「あれは勇者と魔王が戦って壊したんじゃない。請求するなら勇者と魔王なんじゃないの!?」

「うぐっ、それは……」

「しかも先に手を出したのはアヴェハイムなんでしょ?」

「ま、まあな……」

「侵攻に失敗して報復されて領民はホントいい迷惑だよ!」


 国王を目の前にして言いたい放題だ。

 目の前でふんぞり返っている人のせいで私もお店を失ったんだし。


「へ、陛下になんたる無礼を!」

「騎士たちよ、あの女を不敬罪(ふけいざい)で捕らえよっ!」


 大臣たちが声を上げると10人ほどの騎士たちが飛び出して来た。

 私が逃げられないように取り囲んで各々武器を向けている。


「……へぇ、私と戦うんだぁ?」


 腰を落として足元に力を入れる。

 理不尽なことを言われて気が立っているからね。


「どうなっても知らないよ?」


 言い終わった瞬間、敵に近づき拳を当て――。



「やめーーいっ!」



 何者かの声に驚いて急ブレーキをかけて寸前で立ち止まる。

 いつの間にか私が目の前に立っていて驚く大臣。


「な、な……」


 私の最初の狙いは騎士をけしかけた大臣だったんだよね。

 (まばた)きするより早く私の拳が目の前にあって腰を抜かしたのか床にへたり込む偉そうな大臣。


「命拾いしたわね? 次はどうなるか知らないよ?」


 そう言って軽くデコピンで済ませてあげた。

 まあ最初から手加減はするつもりだし。


 私を取り囲んでいた騎士たちもあたふたしていたけれど大丈夫?

 それでも王様を守るために選ばれた騎士なの?


 そう思っていたらさっきの声が聞こえる。


「その者に手出しは無用だ。見た目は少女だが魔王を上回るのだぞ?」


 その言葉に騎士たちだけでなく大臣や貴族たちも後退(あとずさ)りをする。

 私に手を出さないなら、こっちだって何もしないよ?

 別に無差別に暴れてる訳じゃないからね。


「ところであなたは誰なの?」


 大声で私を止めたのは王様の隣にいる男性だった。


「私は帝国の宰相(さいしょう)だ。少し話があるんだがよいか?」


 宰相って国政の補佐をしてる偉い人だよね?

 そんな人が私に何の話があるんだろう。


「ええ、どうぞ。弁償とかの話なら帰るよ?」


 そう答えるとまた周囲がざわついている。

 静かにさせてやろうかしら。


「魔王との戦いで勇者が使っていた剣だが覚えているか?」


 確か私が勇者から奪い取って真っ二つにした剣だよね。


「覚えてるけど、それがどうしたの?」

「あの剣はアヴェハイム帝国の聖剣でな。勇者に貸しておったのだ」

「ふーん、それで?」

「それをお前は折ったのだ。アヴェハイム帝国の宝だった聖剣をな」

「えっ?」


 あれ、何だかおかしな展開になってる?

 この宰相が何を言いたいのかわからないけれど嫌な予感がする。


「だってあの時は勇者が私に剣を向けて来たから」

「もちろん勇者も責任を取り全財産没収のうえ追放になった」


 勇者って私と同じで追放になったんだ。

 あんな生意気な人が勇者だなんて呆れるよ。


「お前にも聖剣を破壊した責任を取ってもらわねばならん」

「ち、ちょっと待って……」

「しかもお前は魔王を勝手に逃がしたな?」

「あれはアヴェハイムが先に手を出したから……」


 ここから宰相の独壇場だった。

 理由はあるけれど剣を折ったのも魔王を逃がしたのも確かに私。

 しかも国の宝だったと言われると少し悪い気もしてくる。


「それでも帝国を救ったのは事実。ひとつお前に提案がある」

「な、なによ?」

「勇者が追放となって我が国の冒険者ギルドでは人手不足でな。しばらく勇者の穴埋めをしてもらいたい」

「はい?」


 詳しく聞けばあの戦争では冒険者たちも参加したらしい。

 ただ怪我や死亡で仕事を受けられる者が減ってしまい冒険者ギルドでは人手が足りなくなってしまったから私に受けてほしいと。


「まあそれでいいならやってみるけど……」

「それでよい。冒険者ギルドの案件が片付けば聖剣の件は不問にしよう」


 いまいち釈然としないけれど仕方ないか。


「これで終わりなら帰っていいよね?」

「ああ、かまわんが帝国にいる間は連絡を取れるよう宿はこちらで決めておいた。もちろん宿泊費用はこちら持つ。では頼んだぞ」


 もう何もないようなので謁見の間を後にする。

 帰り際に大臣や貴族を見ると私と目を合わせないよう(うつむ)いていた。


「はぁ、変なことになっちゃったよ……」


最後までお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宰相の言ってることって一見一理あるように見えて意味不明のハチャメチャなんですよね。主人公は無視しても特に問題無いだろうけど、この若干の胸糞展開感、どうなっちゃうんでしょう?
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