第22話 クリムvs盗賊 その2
クリム無双の続きです。
あまり過激な表現にならないよう抑えめにしています。
それでも物語の都合上ある程度はお許しを。
「おいおい、俺たちの相手は子供かよ?」
馬車の前へ回ると私の姿を見て盗賊たちがバカにする。
うん、きっとそう言うだろうと思ってた。
知ってたけれど別に怒らないわけじゃないよ?
「お嬢ちゃん、本当に俺たちと戦うのか? 今すぐに謝るなら殺さずに俺たちが飼ってやるけど抵抗するなら痛い思いをした後に酷いことをされるぞ?」
私を飼って酷いことをするって言っちゃうんだ。
まあ私も日本人の時は25歳だし盗賊たちの言葉が何を意味しているのかはわかる。
こんな奴らに手加減は無用だね。
「それでも俺たちと戦う気か? よく見れば武器もないが魔法術士か?」
「違うよー」
魔法は使えるけれど「パンを作る魔法」だしね。
他にも使い方を聞いたような気がするけれど忘れたし。
ちなみに武器は苦手です。
だって……斬ったら血が出て怖いじゃない?
「私の武器はこれだけですよ」
そう言って両拳を胸の前でガツンと合わせる。
私の態度を見て大笑いする盗賊たち。
「お嬢ちゃん、後で泣いても知らんぞ? 忠告はしたからな?」
「お気遣いありがとう。そんなことはいいから早く来なさい」
挑発すると私みたいな子供にバカにされて腹が立ったのか大声で仲間に叫ぶ。
「よーし、お前らっ! あのガキを最初に捕まえた奴は1番に犯――」
――ドスッ!
「……う、お、おぐっっ」
最後まで言わせないうちに距離を縮めて掌底を鳩尾に叩きこんだ。
体を「く」の字に曲げて口から何か液体が漏れている。
これは痛そう……。
言葉を出すこともできずにその場で崩れ落ちる下品な盗賊。
そんな盗賊を見ながらカウントする私。
「まずは1人目っと」
周囲を見渡すとザっと7~8人の盗賊たちがいるけれど問題なし。
「な、何が起きた……?」
「知らねえ……、気付いたら仲間が倒れてた……」
「見た目と侮るな! こいつはヤバいぞ!」
その言葉を聞いて動揺していた盗賊たちもすぐに我に返る。
さすが元兵士だけあって訓練されてるね!
後ろで未だに狼狽えているのは平民が盗賊になったのかな?
「くそっ、死ねぇーっ!」
私を殺すつもりで斬りかかって来る盗賊。
さっきまでは生かして飼われる予定だったのに予定変更?
上段から斬りつけてくる剣をステップで躱して手首に手刀を打ち込む。
ボキッと変な音がしたけど我慢してよ?
「うぐわぁぁーーっ!」
男の子がそんなことで大声を出さないでよ!……って無理か。
最初に斬りかかって来たのはそっちだし自業自得ってことで。
次に倒す盗賊に目をやると違う方向から矢が飛んでくるのが見えた。
狙いは私じゃなくて馬車を引く馬だ。
馬が暴れているうちにって考えたかもしれないけれど止めてほしい。
この馬にはアヴェハイムまで頑張ってもらわなきゃいけないのに。
馬に矢が刺さる前に掴んでそのまま相手の太もも目掛けて投げ返す。
「うぎゃぁーーっ!」
痛いよね?
あなたが使った弓矢が当たったらそれだけ痛いんだよ?
それにちゃんと貫通してるから大丈夫でしょ。
「なっ!? お、お前は何者なんだ?」
「私? ただのパン屋だけど?」
「……」
そう答えるとなぜか怪訝な顔をする盗賊たち。
はいはい、言い直しますよ。
「パン屋兼冒険者だけど?」
「……」
結局、黙ったままですか、そうですか。
私の正面に立っていた盗賊と目が合うと剣を振り上げて襲って来る。
「う、うわーーっ!」
そんなに手が震えてちゃ力が入らないよ。
しかも目をギュッと閉じて走って来てるし当たらないんじゃ?
案の定、体ごと剣筋を避けるとそのまま前のめりに倒れこむ盗賊。
そのまま剣を取り上げて片足を軽く踏み潰すと残りの盗賊へ目を向ける。
「さて残りは4人かな。あ、逃げても無駄だからね?」
私がそう言うと盗賊たちは怯えて完全に戦意喪失していた。
いや、怯える側が違うと思うんですけれど。
ゆっくり近寄ると盗賊たちは武器を捨てて地面に跪いた。
「す、すいませんでした! お願いだからこ、殺さないで……」
私に向かって懇願する1人の盗賊。
たぶん正規の兵士じゃなくて元は平民だったのかもしれない。
「あなた達が襲った人たちの中にもそう言って泣いていた人、いたよね?」
「……」
「男は殺して女子供はそのまま自分たちの快楽のために弄んだでしょ? しかも泣いても許してもらえずに。それなのに立場が逆転したら許してもらえると思ってるの?」
この人たちに何があったのかは知らない。
本当は普通に生活していただけの平民だったかもしれないけれど元平民であって今は立派な盗賊なのだ。
今ここで許して解放してもまた同じことを繰り返す可能性だってある。
ちゃんと裁きを受けられる場所に連れて行って後はそこで判断してもらおう。
「う、ううぅぅ……」
がっくりと項垂れる盗賊たち。
御者台の上で小さく丸くなって隠れていた御者のおじさんに声をかけて丈夫なロープを借りて盗賊たちを縛っておいた。
「私は後方の応援に行くけど逃げないでね? 逃げたら……」
ここまで言って適当な大木に目を付けると優しく抱きしめて、そのまま両手で抱きしめ潰すと大きな音を立てて倒れる大木。
「……こうなるよ?」
ニッコリ笑顔で盗賊たちに言っておく。
無言で頷く盗賊たち。
「……あ、悪魔だ」
今、ボソッと言った奴、ちょっと前へ出て来なさい!
命を取らないだけマシだと思ってほしいよね。
「私はパン屋だよ!」
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