第21話 クリムvs盗賊 その1
お待たせしました、ここからしばらく無双のお時間です。
あまり過激な表現にならないようにしましたけれどある程度はご容赦ください。
「みんな、起きろっ!」
幌馬車の外から慌てたような声が聞こえる。
さっき眠りについたばかりだって言うのに……。
「俺たち以外の客は馬車の中に入るんだ!」
ラウルさんが外で寝ていた若いお兄さんとアモルドさんに伝えると2人が慌てて馬車の中へ入って来た。
女性たちはその慌ただしい雰囲気に恐怖で怯えている。
私が代表して青い顔をしているお兄さんに聞いてみる。
「何があったのですか?」
「あ、ああ、たぶん盗賊だ……」
「盗賊?」
幌馬車の隙間から外を覗くと暗闇の中に大勢の男たちが見えた。
まだ襲って来る気配はないが各々が武器を手にしている。
「俺たちの要求を伝える! 馬車の荷物と武器を全部寄こせ! ついでに着ている鎧や服も全部だ。下着だけは勘弁してやるがな」
盗賊が幌馬車に逃げ込んだ乗客にも聞こえるような大きな声で叫ぶと盗賊たちはゲラゲラと笑い出す。
「あとは馬車の中にいる女子供もだ! 抵抗しなけりゃ殺しはしねぇ!」
たぶん男性たちが馬車内へ逃げ込む時に中を見られたのだろう。
その声を聞いてビクッと体を硬直させる女性たち。
今は殺されなくても奴らに捕まればどうなるのかなんて誰でもわかる。
「護衛がいるみたいだが俺たちは20人以上いるんだ! お前たちに勝ち目はねぇよ!」
違う場所の隙間から外を覗くと確かに盗賊たちが馬車を取り囲んでいた。
いくらラウルさんたちが強いと言っても見えていない場所から馬車が襲われれば何のための護衛かわからない。
どうしようか悩んでいるとアモルドさんが口を開く。
「私も護衛の方たちと協力して戦います!」
盗賊の要求は金品と荷物に女子供。
盗賊の意見を飲めば妻子を失うのだからアモルドさんも必死だ。
抵抗せずに妻子を目の前で連れ去られるより抵抗して死んだ方がマシだという覚悟が見える。
そんなアモルドさんを見て若い女性たちがお兄さんを見る。
昨日あんなに仲良くなったんだから私たちのために戦ってくれるのかもと淡い恋心と期待を込めて。
「ぼ、僕は嫌だよっ! お金と荷物を渡せば殺さないって言ってるんだ!」
おいおい、その荷物の中には仲良くなったお姉さんも入ってるよ?
けれどお兄さんを責めることはできない。
みんな命が大事なのだからお兄さんの行動が間違っているとは言えないし。
ただお兄さんの真逆の言葉にお姉さんは愕然としているけれど。
アモルドさんは奥さんとリリさんを抱きしめて言葉を交わしていた。
もしかしたら死ぬかもしれない、最後の言葉になるかもしれない。
しばらくして覚悟を決めたアモルドさんが私の方を向く。
「クリムさんもここでジッとしていて下さい。護衛のみなさんもいますし私も戦いますから。もしもの時は女性たちを連れて――」
「あ、大丈夫ですよ。アモルドさんはここにいてご家族やお姉さんたちを守ってあげて下さい。私が行きますから」
その中にお兄さんは入ってない。
だって私自身も盗賊に渡そうとしたんだしね。
「い、いや、娘と同じくらいのクリムさんを行かせるわけには……」
「アモルドさん、誰かが怪我をした時のために回復薬をいくつか渡しておきますから遠慮なく使って下さいね」
何か言おうとするアモルドさんを手で遮って<無限収納>から10本ほどの回復薬を取り出して渡しておく。
「それじゃ、行って来ますねー」
近くへ遊びに行くような軽い感じで幌馬車を飛び出した。
☆☆☆
「ラウルさん、状況はどうですか?」
幌馬車の外へ出て盗賊たちと対峙しているラウルさんに声をかける。
すると私の姿を見て驚いたのか声を荒げた。
「バ、バカ野郎っ! 外に出て来るんじゃない!」
うん、怒られた。
「クリムちゃん、何をしてるんだよっ! 早く馬車の中へっ!」
「後は俺たちに任せてくれっ!」
パーティメンバーのウィルさんやジュードさんにも怒られた。
今日はいろんな人に怒られる日だね。
私の姿を見た盗賊たちが何かを言っている。
「やっぱり女がいたか。若くて俺の好みだな。おいそこのお嬢ちゃん、抵抗しなけりゃ殺さないし悪いようにもしねぇ!」
「まあ俺らが気持ちよくなるんだけどな! うはは」
そう言って大笑いする下品な盗賊たち。
私にも相手を選ぶ権利くらいあるっての!
変態盗賊の声を無視してラウルさんに話しかける。
「ラウルさん、私も冒険者です。冒険者カードも持ってます」
「なに、クリムちゃんが冒険者だと? 本当なら助かるが無理するなよ?」
「ありがとうございます。ところで今はどんな感じですか?」
ラウルさんに状況を聞くとあまり良くないらしい。
「奴らの装備を見ると元はどこかの国の兵士だな。そいつらの国が戦争に負けてそのまま盗賊になったんだろう。他にも傭兵や脱走兵なんかもいるかもしれん」
いわゆる敗残兵と言われる奴らだけれど近くの戦争ってまさか……。
何となくひとつの国を思い出すと盗賊たちが口を開く。
「俺たちは元アヴェハイム帝国の兵士だ! ただの盗賊だと思って舐めるなよ?」
ニヤッと笑う盗賊たち。
これから向かう国の元兵士だと聞いてなんだか疲れてきた。
盗賊たちが雑魚ではないと知って身を引き締めるラウルさんたちに声をかける。
「私は前の盗賊を相手しますね」
幌馬車の後方をラウルさんたちに任せて私は前へ向かう。
そんな様子に慌ててラウルさんが声をかけてきた。
「お、おいっ、クリムちゃん1人で行くのか!?」
「前の方は盗賊も少なそうなので私1人でも大丈夫ですよ」
私がそう言うと盗賊たちがバカにしたように笑い出す。
「おいおい、前の奴が羨ましいぜ!」
「本当だな! あいつら我慢できずに女と始めてるかもしれないぜ?」
「それなら俺も前に移動するぞ」
私の姿を見て完全に甘く見ている盗賊たち。
ラウルさんたちが心配して私を見ているので腕をグッと上げて大丈夫だとアピールしておいた。
「さてやりますかね」
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