第20話 パン談議
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ここまで連載できたのも読者のみなさまのおかげです。
本当にありがとうございます。
文章力も表現力も未熟で読み難いとは思いますが今後もお付き合いのほど宜しくお願い致します。
作者:ぐまのすけ
「アヴェハイム帝国への馬車が出ますよ」
御者のおじさんが待合室の人たちへ声をかける。
その声を合図に私も足取り重たく馬車へ乗り込んだ。
何でこうなったのか?
一昨日、横暴な男性に渡された手紙のせいだよ……。
部屋に戻って封を開けると面倒な相手からだった。
簡単に言うとアヴェハイム帝国の王様が私を呼んでいるらしい。
呼び出した内容は魔王との戦いにより城が壊れたから弁償しろだって。
あれは勇者と魔王が壊したんだから私は関係ないよね!?
「はぁ……、正直行きたくない……」
手紙を受け取った次の日にベルトランドさんに相談したけれど、アヴェハイム帝国から正式な呼び出しなので顔だけは出した方がよいと言う結論になった。
その結果、タルコットからアヴェハイム帝国へ直接向かう馬車はないので違う街を経由して向かっている最中なのだ。
この街からアヴェハイム帝国までは馬車で2日ほど。
途中で野営をするので料金は割高ではあるけれど仕方ない。
もちろん私が本気で走ればもっと早く到着するよ?
だけど会いに行く相手がアレじゃ本気になれるわけない。
「それでは出発します。護衛はCランク冒険者様にお願いしました」
しばらくして乗客が揃ったのか幌馬車が出発する。
乗客は私を含めて20代くらいのお姉さんが2人とお兄さんが1人、30代後半のご夫婦と10代半ばの娘さんが1人の計7人。
それに御者と今回の護衛を引き受けた冒険者3人の合計11人と大所帯だ。
お姉さん2人とお兄さんは仲良くなったみたいで盛り上がっていた。
アヴェハイムで一緒に観光をする約束も取り付けて、その後の宿も一緒に宿泊するとかでお兄さんは嬉しそうだ。
家族で乗車した人たちは農家みたいで買い付けにいくみたい。
その後は観光でどこを見て回るか楽しそうに話していたよ。
みんな楽しそうで羨ましい。
私は最近ずっと忙しくて途中から寝ちゃって気付いたら夕方だった。
馬車の揺れが直接お尻に響いて少し痛い。
「ふわぁぁ……」
口に手を当てて小さな欠伸をしていると馬車が止まって御者のおじさんが降りて来る。
「みなさん、お疲れ様でした。今日はここで野営をします。人数の関係ですいませんが寝る場合は男性は外、女性は幌馬車の中でお願いします」
布を敷いたとは言え女性を地面に寝かせるわけにはいかないよね。
こんな時は女でよかったと少し思ったよ、うん。
冒険者の人たちもテキパキと準備を進めて馬車が中央になる配置で設営が終わる。
夕食は野菜が入ったスープに硬めの干し肉と硬めのパンだ。
旅路では食事くらいしか楽しみがないけれど大量に馬車へ詰める訳でもないし、このメニューは仕方ない。
私が硬めの干し肉と格闘していると冒険者の1人が声をかけてくる。
「お嬢ちゃん、その肉はスープに浸しながら食べるんだ」
言われた通りにやってみると確かに少し水分を吸って柔らかくなる。
しかも干し肉の塩分が野菜スープに溶けだして美味しくなった気が。
「ありがとうございます」
「いや、かまわねえよ。干し肉なんてお嬢ちゃんみたいな娘はあまり食べないだろうしな」
そう言って笑うと他の冒険者たちも釣られて笑う。
「あぁ、笑ってすまん。俺はラウルでこのパーティーのリーダーだ。そしてこいつはウィルでその横がジュードだ」
ラウルさんが名前を告げると笑顔で手を上げるウィルさんとジュードさん。
3人ともおじさんだけれど鍛えた肉体がいかにも冒険者って感じで私的にはお兄さんよりこっちの冒険者さんが好み。
「私はクリムです。タルコットでパン屋をやってますよ」
「へぇ、パン屋の従業員か」
「違いますよ。私がパンを作って販売している店主です」
私がそう言うと驚く冒険者たち……と他の乗客。
いつの間にこっちの話を聞いてたの?
「どんなパンを扱っているのか聞いてもいいか?」
「えっと、もしよかったら食べます?」
私の<無限収納>には何かあった時のために大量のパンが確保してあるんだよね。
食事の時には食事パンと呼ばれる食パンを食べることが多いけれど旅をしながらパン補給の時には菓子パンかな。
御者のおじさんにお皿を1枚借りてパンを並べる。
シンプルな白パンと一緒に小さめのクロワッサンとチョコパン、お店で大人気だったチーズパンを3個ずつだ。
どうぞ?とすすめるとラウルさんがゆっくりパンに手を伸ばす。
「うぉっ、柔らかいな!」
確かに異世界、ロンシスタで流通している一般的なパンは硬くて黒っぽいか茶色っぽいのが多いんだよね。
今回の夕食に並んでたのも茶色っぽいパンだったし。
白パンを手に取って眺めると口に放り込むラウルさん。
何を言うのか私だけでなく乗客全員がラウルさんのコメントに注目だ。
「う、うまいっ!」
それを合図にウィルさんとジュードさんも食べ始める。
「何だ、この柔らかさは! しかも凄くうまい!」
「ほんとにめちゃくちゃうまいよっ!」
美味しいって言ってもらえてホッと一安心。
3人ともあっと言う間に白パンを食べ終えて次のパンに手を伸ばす。
「このパンは上の皮がパリパリしててうまいな!」
ラウルさんが食べているのはクロワッサンですね。
しっとりしてるのも好きだけどパリッとしてるのも大好きです。
「おいラウル! こっちのパンを食べてみろっ! 茶色くて柔らかいが凄く甘いぞ!」
それはチョコパンです、ウィルさん。
何か変な風に聞こえるのでその表現はちょっと……。
「……う、うまい」
ジュードさんはチーズパンを食べて感動してた。
3人とも夕食を終えたばかりだと言うのに1人4個ずつのパンを完食だよ。
そしてラウルさんが私の方を見る。
「クリムちゃん、正直こんなに美味しいパンを食べたのは初めてだよ。白いパンなんて貴族様しか食べられないからな」
「美味しいと言ってもらえて嬉しいですよ」
「今度タルコットに行く時には必ず店に寄りたいがいいか?」
「もちろんです。お待ちしていますね」
別に貴族の専属パン屋ってわけじゃないし美味しいって食べてもらえるならパン屋冥利に尽きるってものだよね。
「それで店の名前を教えてほしいんだが?」
「タルコットで『クリムのパン屋』って聞けば教えてもらえますよ」
「えっ?」
私がラウルさんにお店の名前を出すと違う方向から驚く声がする。
そっちを見ると家族で乗車したお父さんだ。
「お話し中に申し訳ありません、私はアモルドと言います。先ほど『クリムのパン屋』と聞こえた気がしたのですが?」
「言いましたよ? 私が店主ですから」
「なんとっ!?」
別にそんなに驚くようなことじゃないと思うんだけど。
気になったのでアモルドさんに聞いてみるとアヴェハイムの観光のひとつに私のお店の『クリムのパン屋』が入っていたみたい。
昔はアヴェハイムにお店を出していたけれど今はやってないって伝えるとアモルドさん家族はガッカリしてた。
こんなにパンが話題になると思っていなかったからラウルさんたちのパンしか出さなかったけれど全員が食べたそうにしている。
「みなさんも食べます?」
そう声をかけると全員が無言で頷いた。
そこの冒険者3人はさっき食べたんだから自重しなさいっての。
御者のおじさんに新しいお皿を出してもらって大量に盛り付ける。
何度も言うけれどパンを作る魔法だからお金が減る訳でもないしね。
全部で50個近くのパンを並べてみんなの前に置く。
「私がお店で出してるパンですが、どうぞ食べて下さい」
私の声を合図にみんなが一斉に手を伸ばして好きなパンを食べ始めた。
「何これっ!? 凄く柔らかいんだけど!」
「本当にこれがパンなのっ!? 信じられないよ!」
「……!」
パンの柔らかに驚くお姉さんたちと無言で食べるお兄さん。
「まさかこんな場所で『クリムのパン屋』に出会えるとは!」
「ええ、チーズパンも本当に美味しいですね!」
アモルドさんご夫婦にも大好評だ。
そっちのチーズパンは最近お店に並べた商品ですよ。
「クリムさんのパンって本当に美味しくて感激ですっ!」
アモルドさんの娘さんでリリさんも喜んでくれた。
そんなに喜んでもらえるなら別のパンを出してみようかな。
「リリさん、こっちのパンはお店に出してない新作なんだけど食べます?」
私が取り出したのはクッキー生地はサクッとして中身はふんわり柔らかい食感が大人気のパン。
「クリムさん、そのパンは何ですか?」
「これはメロンパンっていいます」
「メロンパン?」
説明するよりも食べてもらう方が早いのでリリさんに手渡した。
小さな口を大きく開けてパンを食べる。
「美味しい……、もの凄く美味しいですっ!」
リリさんの一言に全員が私の顔を見る。
わかりましたよ、出しますってば。
この後、全員分のメロンパンを取り出して並べました。
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