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第18話 クリム、タルコットへ帰る

「帰って来たよ……」


 夕方を少し過ぎた頃、ようやくタルコットへ到着。

 帰りは事件や魔物に巻き込まれることもなく平穏だったよ。

 早く家に帰りたいけれど商業ギルドへ寄らなくちゃ。


「ライマンさん、こんばんはー」


 商業ギルド長のライマンさんを見つけて声をかける。


「クリムさん、お帰りなさい。いまお戻りですか?」

「そうですよ。留守の間、お店を見ててくれてありがとうございます」


 お礼を言いながらパンのマークが入った魔法の鞄(マジックバッグ)からたくさんのパンを取り出すとギルド職員の人たちが一斉に群がって来た。


「やっとクリムさんのパンが食べれるっ!」

「みんな待ってたんですよー」


 両手にパンをたくさん抱えながらそう言ってもらえると嬉しい。

 だけどパン屋に並べるためのパンは大量にライマンさんに預けていたはず。

 そこから適当に食べていいって伝えたはずなんだけど?


「いえ、あれは『クリムのパン屋』で扱う商品ですから」


 さすが、ライマンさん。

 本当は1番食べたかったはずなのに公私混同しないところが素晴らしい。


 ちなみにパンの在庫を聞くとわずかに10個ほどだった。

 タルコットを出る前に預けたパンは600個くらいだと思う。

 それが5日でほとんど売切れちゃったとは……。


「みなさん、朝早くからお店に並んでて凄かったんですよ?」

「あれだけ凄い人気なんだから絶対にお店を拡張すべきですっ!」


 女性職員の人がその時の状況を説明してくれる。


「クリムさん、こちらにいい空き物件が……」


 ヤバい、ライマンさんが営業モードに入った。

 その前に渡すものがあるから、それを渡して退散しよっと。


「ライマンさん、少しだけどお礼です。調理済みだから職員のみんなで食べて下さいね」

「クリムさん、これは?」

「ワイバーンとギガントカメレオンのお肉を焼いたものです」

「……」



 ――リンリン。



 さっきまで賑やかだったギルド内が静かになって虫の鳴き声が聞こえる。


「あの、クリムさん。いま何のお肉って言いました?」

「ワイバーンとギガントカメレオンです」


 横で見ていた男性職員が涎を垂らしそうな勢いで見てるんだけど。

 ちなみにタルコットの商業ギルドは15人程の職員がいるので30キロのお肉を出しておいたよ。


「……ギルド長、このお肉っていくらくらいするんでしょう?」

「私も食べたことないから知らないよ」

「昔、私の彼が奮発してくれたお肉が銀貨3枚だったから……」


 ライマンさん含めてギルド職員で値段当てクイズになってた。

 教えてもいいんだけど知らない方がいいと思うよ。


「クリムさん、こんなにたくさんのお肉をいただいても?」


 ライマンさんが恐る恐る私に聞いてくる。


「もちろんです。ユーウィンで買い取りに出した時にお肉だけは大量に持って帰ったので気にしないで大丈夫ですよ」


 錬金素材や鍛冶素材になる角とか皮とかは必要ないけれどお肉だけは家でも食べたいから全部は売らなかったんだよね。

 200キロ近くのお肉を引き取ったけれどワイバーンやギガントカメレオンの大きさから考えれば微々たるものだ。


「余ったお肉はみんなで分けてお持ち帰りして下さいね」


 商業ギルドの人たちに別れを告げて次は冒険者ギルドへ向かう。




「ソフィアさん、ただいま戻りました」


 夕方を過ぎても冒険者ギルドは大勢の人たちで賑わっていた。

 依頼をクリアした人たちや素材の買い取りでギルド職員も大忙しだよ。


「クリムさん、お帰りなさい!」

「おぉ、クリムちゃんが帰って来たか!」


 冒険者ギルドは見知った人も多いからみんなが声をかけてくれる。

 まあ、そのうちのほとんどは、


「クリムさん、パンを待ってましたよ!」

「おぅ、クリムか! うちのカミさんがパンを待ってるんだ」

「パ、パンを私に下さい……」


 こんな人たちばっかりだけど。

 それでも私のパンを待ってくれているのだから嬉しいんだけどね。


 商業ギルドと同じように大量のパンを取り出すと一斉に群がって来る。

 中には接客中だと思う女性職員もいるけれど大丈夫?

 正直言ってちょっと怖い。


 こんな時に例の物を出していいのか不安になるけれど、ちょっと面白そうだし出してみることにする。


「ソフィアさん、ユーウィンで買い取りをお願いしたワイバーンのお肉を持ってきましたよ。調理済みなのでみんなで食べて下さいね」


 そう言って40キロほどのお肉を取り出す。

 冒険者ギルドは職員も多いのでお肉も少し多めだ。


 取り出すとお肉の焼けたいい匂いがギルド内を漂い始めた。

 夕食の時間なのであちこちからお腹の鳴る音で大合唱だよ。


「クリムさん、こっちのお肉は?」

「こっちはユーウィンで倒したギガントカメレオンですよ」

「……」


 うん、見慣れた光景だね。

 ギルド職員の目がお肉に釘付けになっているし。


「本当に僕たちが食べてもいいんでしょうか?」

「まさか後でお金を請求されるとか?」


 男性職員が怯えながら聞いてくる。

 そんな詐欺紛いなことはしないわよ!


「お店で食べると金貨10枚くらいって言ってたよ?」


 確かユーウィンの商人オーウェンさんがそう教えてくれた。

 金貨10枚って私のパン何個分なのやら。


「……そ、そんなに高価なんですね」

「僕、ワイバーンの肉なんて食べて帰ったら妻に怒られるかも」


 そう言いながら手を伸ばす男性職員たち。

 ちなみに女性職員たちは先に食べ始めておかわりまでしていた。

 食べ始めたら止まらないよね。


 そんな姿を見ているとソフィアさんが声をかけてくる。


「クリムさん、あのワイバーンですけれど買い取り価格ってどれくらいになったのでしょうか?」

「ワイバーン1匹金貨1000枚でした。2匹で金貨2000枚です」


 そう伝えると冒険者ギルドのあちこちから歓声と拍手が聞こえる。


「さすが、クリムちゃんだ!」

「タルコットの英雄だな!」


 違いますよ。


「私はタルコットのパン屋ですってば」


 訂正するとなぜかギルド内のあちこちから笑い声が聞こえて来る。

 そんなに笑うと出したお肉を引っ込めるよ?


 あ、最後に冒険者にもワイバーンのお肉を振る舞っておきました。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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