第15話 大量ですみません
「おーい、ドラウンくん、お客さんを連れて来ましたよ」
コルトさんとはあの場で別れて私はクレマールさんに案内してもらう。
小さな魔物や素材を扱うなら受付横の窓口でも十分らしいけれど大きい素材の場合は別室の解体作業場で行っているらしい。
確かに受付カウンターの横で魔物がバラバラに解体されていく様子はあまり見たくないもんね。
「私はあの者たちの手続きがありますので。終わったら先ほどの受付カウンターで声をかけて下さい」
「わかりました、色々とありがとうございます」
クレマールさんを見送ると別の扉から禿げ上がったおじさんが歩いて来た。
「おぅ、準備して待ってたぜ!」
熊のような大柄なおじさんでのっしのっしという効果音が頭に浮かぶ。
「こんにちは、クリムと言います。買い取りをお願いしたいんですけれど少し増えちゃって。それでも大丈夫ですか?」
「ああ、俺はここの責任者でドラウンだ。ギルド長から聞いてるから問題ねぇ。買い取り希望の魔物をここへ出してくれるか?」
ドラウンさんに言われて<無限収納>から魔物を取り出していく。
「ゴブリンが60匹とジャイアントアントが100匹くらい、キラーベア1頭とワイバーンが2匹――」
ここまで出したところで解体作業場にいた人たちが唖然としているけれど、まだ追加が残ってるんだよね。
「あと追加でギガントカメレオン1匹と変な鳥の魔物が2匹で終わりです」
最後の変な鳥は私がコルトさんと空の散歩をしている時に前から猛スピードで襲って来たので思わず蹴り飛ばしちゃったんだよね。
大きさも人間の子供くらいだし買い取り価格は期待してないけれど<無限収納>に入れてても仕方ないのでついでにお願いしておこう。
「「「……」」」
うん、全員固まった。
「ギルド長から聞いてはいたが本当に大量だな」
いち早く正気に戻ったドラウンさん。
その言葉を皮切りに現場の人たちが次々と口を開く。
「おやっさん、俺、ギガントカメレオンなんて初めて見たっすよ」
「先輩、僕なんてワイバーンも初めてです……」
やっぱりギガントカメレオンやワイバーンは珍しいみたい。
私はお金に困ってる訳じゃないけれど買い値に少し期待しちゃう。
「おいおい、これってサンダーバードか?」
空の散歩の途中で見つけた魔物はサンダーバードって名前なんだ。
見た感じそんな珍しいとも思えないんだけれどドラウンさんは大興奮してる。
「それって珍しいんですか?」
「お嬢ちゃんは知らないのか。これはサンダーバードって言って名前の通り雷を纏った魔物なんだ。強さはそうでもねぇが早すぎて倒せないから滅多に出回らないんだ」
そんな珍しい魔物だったんだ。
ドラウンさんは早いって言ってたけれど普通に蹴り飛ばせたし運がよかったのかもね。
「それじゃ早速作業に入るんだが数が多いんで2日ほどもらってもいいか?」
「ええ、大丈夫です」
宿屋もちょうど3泊で予約してて正解だったよ。
「急ぎの素材があるなら聞いておくがどうする?」
「このお肉って食べれるんですか?」
「もちろんだ! ゴブリン以外なら全部食えるぞ?」
「それじゃ少しだけ持ち帰って食べてみます」
「よし、わかった。おいお前らっ、作業にはいるぞっ! 今夜は帰れると思うな!」
あ、徹夜決定ですか。
私のせいでごめんなさい。
「失礼します、クリムさんをお連れしました」
受付カウンターへ戻ってクレマールさんに呼ばれていることを女性職員に伝えると応接室へ通される。
「クリムさん、この度はユーウィン冒険者ギルドに所属する冒険者たちがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
私が部屋に入るなり開口一番、クレマールさんに謝罪される。
「そんな、頭を上げて下さい。私は怪我をした訳ではありませんから」
「ありがとうございます」
クレマールさんの話によればヤルヴィ以下の男たちは低ランクの冒険者たちに難癖をつけて素材を巻き上げたりしていたらしい。
そしてギルドに報告すると殺すと脅されていたとか。
他にもセコイ悪だくみが色々と出てきて今も厳しい取り調べが行われている。
「あの人たちはどうなるんです?」
「ヤルヴィは死亡していますが他3人は犯罪奴隷として登録されます。あとは人手の足りない危険な場所での労働にまわされるでしょうね」
自業自得だね。
今まで散々やらかしてきたんだから。
「クリムさんが助けた男性ですが今回は厳重注意として1ヶ月の謹慎となります。その間は街への奉仕活動ということになりました」
それは仕方ないかな。
パッと見た感じあまり冒険者に向いてる気もしなかったしね。
「ところでコルトさんってどんな人なんですか?」
「ああ、彼はユーウィンで定食屋の元主人です。ある日彼の奥さんが魔物に殺されて……。それからすぐに店を閉めて冒険者に転身したようです」
よくある敵討ちってことか。
気持ちはわかるけれどコルトさんに冒険者は合ってない気がする。
「あの方は冒険者には向いてないと思うので元の定食屋に戻っていただきたいものです。美味しくて人気があったんですよ」
クレマールさんも私と同じ考えみたい。
どんな料理だったのか今度会いに行ってみようかな。
「それでは私もそろそろ帰りますね。何かあれば『光風の宿』へ使いの者をくれれば伺います」
「クリムさん、本当にありがとうございました」
そうだ、最後に忘れてた。
クレマールさんに1枚の金貨を手渡す。
「頬の傷の治療代ですよ」
「……ふふっ、ありがとうございます」
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