第14話 女の子の憧れ
「本当にクリムさんは何者なんですか?」
ギガントカメレオンの戦闘が終わって一休み。
地面に座ってパンを食べながらコルトさんの質問に答える。
ちゃんと自己紹介も済ませたよ。
「私はただのパン屋ですよ?」
「こんなに強いのにパン屋なんてもったいないよ!」
過去にも言われたけれど冒険者に興味はないのよね。
パンを焼いてのんびり暮らしたいだけなのだ。
さてギガントカメレオンも<無限収納>に放り込んだし街へ戻りますか。
残ってた薬草も座った場所に偶然生えてて10本揃ったし。
「コルトさん、背中の傷はどうですか?」
「ああ、だいぶマシになったけど街まで歩いて帰るのは厳しいかな。僕のことなら気にせずクリムさんは先に街へ戻るといいよ」
後からゆっくり帰ると言われても怪我人を森の中へ放置するのは危険すぎる。
さっきまでギガントカメレオンが暴れてたから魔物の気配はないけれど、しばらくしたら動き出すと思うし。
「ふぅ、仕方ないかな」
立ち上がってお尻の埃をササッとはらう。
持ち帰る荷物も持ったしコルトさんの荷物も一時的に私の<無限収納>へ入れてある。
「それじゃいくよ?」
「え、え、何を……!?」
コルトさんの背中に手を回して上半身を支え、もう一方の腕を両膝の下から支えて持ち上げた。
いわゆる「お姫様抱っこ」と呼ばれる状態の逆バージョン。
(うぅ、私がされたかった……)
女の子の憧れだったお姫様抱っこでまさか男性を抱っこするとは。
いつか私にも素敵な王子様が現れると信じよう、うん。
両足にグッと力を入れて屈み込む。
「あ、あの……、さすがにこれは僕も恥ずか――」
――ドンッ!
大きくジャンプすると周辺の木々よりはるか高くまで飛び上がる。
「うわわぁぁーーっ!?」
私の耳元で叫び声をあげるコルトさん。
言ってなかった私も悪いけれど首に抱き付くのは勘弁して。
近所の人に見られたらきっと誤解されるよ。
「コルトさん、景色はどうですか?」
せっかく空高く飛んでいるんだから景色を見てほしい。
腕の中のコルトさんをチラッと見ると目をギュッと閉じて体を硬直させている。
あなたは乙女なのかとツッコみたい!
せめて可愛い少年なら抱き心地を楽しめるんだけど……。
もう1度、腕の中のコルトさんを見る。
(うん、ないわー)
何度かジャンプを繰り返して無事にユーウィンの街へ到着した。
コルトさんを地面に降ろすと少しふらついている。
「クリムさん、本当にありがとう」
顔を赤くしながらお礼を言われた。
年上好きの私としてはちょっとグッとくるね……ってそうじゃない。
「いえ、それよりも早く治療して下さい!」
「そうしたいけれど先にやることがあるからね」
2人で顔を見合わせて無言で頷きながら冒険者ギルドへ向かう。
☆☆☆
その頃、ユーウィンの冒険者ギルドは騒然としていた。
「だから、あのメスガキが俺たちを襲って来たんだっ!」
「ああ、こいつの言う通りだ。しかも仲間を2人も殺したんだぞ!」
ギルド長のクレマールさんに向かって大声で捲し立てる3人の男たち。
森の中で少女に襲われたと言う。
ギルド職員では対応できない内容なのでギルド長が話を聞く。
「もう1度、その時の状況を聞かせてもらえますか?」
そう尋ねると男たちはその時の状況を語るが何かがおかしい。
3人の男たちが言う少女とはクリムさんのことでしょう。
けれど彼女には男たちを襲う理由が見当たらない。
それよりもギガントカメレオンの姿を見たという報告が気になります。
もし本当なら早急に緊急依頼を出さなければ。
どうしたものかと悩んでいると扉が勢いよく開き1人の少女が立っていた。
「クレマールさん、試験の薬草10本取って来ましたよ」
ユーウィンの冒険者ギルドへ入ると全員が私の顔を見る。
何か変な物でも付いてるのかな?
「お、お前はさっきのガキっ!?」
私の顔を見て驚く3人の男たち。
もしかして私が死んだと思ってたのかも。
「ギルド長、早くこいつを捕まえてくれっ! ヤルヴィもコルトもこいつに殺されたんだっ!」
大声で叫ぶ男たちに対して冷静に私の顔を見るクレマールさん。
「クリムさん、本当にあなたが彼らの仲間を殺したのですか?」
「違いますよ。私が薬草を探している時に彼らに襲われました」
私がそう答えると男たちが喚いているので証人を呼ぶ。
「コルトさん、入って来て下さい」
入り口付近で待機していたコルトさんが中に入って来る。
「お、お前はコルト!?」
「なんで生きて……」
コルトさんの顔を見て慌てだす3人の男たち。
逃げようとする素振りを見せるがすでにギルドの入り口は複数の冒険者たちが塞いでいる。
「ギルド長、私がすべてお話します」
すべてを話し終えて3人の男たちは捕まった。
コルトさん自身も彼らと同罪だと処罰を望んだけれど私が却下した。
「被害者のクリムさんが違うと言うので私たちがコルトさんを捕まえる義務はありませんよ。もしご自身が悪いと思うなら、しっかり街のために貢献して下さい」
クレマールさんなりの情状酌量ってやつだね。
元々はコルトさんも騙された側だし、私にしたことと言えば後をついて来たくらいで攻撃には参加してないから別にいいんじゃない?
「ところで彼らが森の中でギガントカメレオンを見たと言っていましたが本当ですか?」
クレマールさんが私に向かって聞いてくる。
「本当ですよ? 男たちの仲間が襲われたので」
「ふーむ、そうですか……。では緊急依頼の手続きを――」
「あ、もう倒しましたけどマズかったですかね?」
私がそう言うとずっと話を聞いていた冒険者たちが驚く。
「お、おい、ギガントカメレオンを倒したって聞こえたぞ?」
「あんな子供が……、マジかよ……」
証拠が必要かなと<無限収納>からギガントカメレオンの頭がニュッと出たところでギルド内に女性たちの叫び声が響き渡る。
「こ、ここで出さなくて大丈夫です!」
クレマールさんに止められました。
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