第13話 クリムvsギガントカメレオン
戦鎚とはウォーハンマーのことらしいです。
大きなトンカチ程度に考えていました。
「まだやるの?」
他の男たちも武器を手に私と距離を取る。
よく見ると全員が同じ武器の戦鎚オタクだったよ。
しかもデザインもそれぞれ違って戦鎚のバーゲンセールみたい。
「あの、バランス悪くない?」
「う、うるさいっ!」
普通、パーティを組む時ってバランス取るよね?
相手がゴーレムみたいな大型の魔物ならアリだと思うけれど私みたいな小さくて素早い魔物だったらどうするんだろう?
男たちが戦鎚を振り回している姿を想像してやる気が削がれる。
「こんなのにちょっとでも本気になった私がバカだったよ……」
「なんだと! 戦鎚をバカにするなっ!」
だから戦鎚はバカにしてないってば!
言葉が通じない相手とはやりにくいったらない。
「はぁ、本当に面倒になってきた……。いいから1度にかかって来なさい。相手してあげるから」
手のひらを上に向けて指を軽く曲げ挑発すると顔を真っ赤にしたヤルヴィたちが襲い掛かって来た。
そのうちの1人は泣いてるし、私の方が悪者みたいじゃない!
――ズズンッ!
3本の戦鎚を片手で受け止めると驚いてその場に立ち尽くす3人。
斬られた男性も意識が戻ったのか私を見て呆然としている。
「……お、お前は何なんだ?」
「あの冒険者ギルドで聞いてたでしょ? Fランクの見習い冒険者よ」
あ、嘘だって顔をした。
「くっ、このままで終われるかっ!」
そう言ってヤルヴィが大きくジャンプする。
そのまま戦鎚の重量に重力を加えて私を攻撃するつもりだったのだろう。
ヤルヴィは空中に飛んでそのまま落ちてくることなく浮いたまま。
正確には上半身を魔物に食われて浮いているのだ。
『シュルゥゥーー!』
ゴキリと鈍い音の後にヤルヴィを半分咥えた魔物はそのまま一気に丸のみしてしまった。
「あ、あれはギガントカメレオン!?」
「何でそんな魔物がこんな場所にいるんだよ!」
「に、逃げろーーっ!」
ヤルヴィを失った他の男たちは武器を放り捨てて逃げてしまう。
「ちょっと、怪我してる男性も一緒に運びなさいよー!?」
私の声も空しく男たちは消えていった。
そんなに早く走れるならもう少し軽い武器を使えばいいのに。
「あ、あの、お嬢さん。こんなことに巻き込んで本当にごめんよ」
仲間に裏切られた男性がよろよろと立ち上がって私に謝罪する。
回復薬で傷口は多少塞がったけれど完治したわけではない。
そのせいか今も立ち上がるのがやっとの状態だ。
「ここは僕が囮になるからキミは早く逃げて」
「ええ、何を言ってるのよ?」
「あの魔物は脅威度Aに匹敵する魔物だ。キミが強いのはわかったけれどあの魔物は強さの桁が違うんだよ」
脅威度Aっていうとワイバーンより少し強いくらいかな。
「僕たちがキミを巻き込んでしまったから当然の報いだよ。ひとつだけお願いがあるんだけど街に戻ったら娘にこれを渡してほしい」
そう言って私に小さなお守りを手渡してくる。
くたびれた感じがするけれど、とても大切にしているのがわかる。
「僕の名前はコルト。家の場所は冒険者ギルドで聞けば教えてくれるよ」
近くに落ちていた剣を拾ってフラフラとギガントカメレオンに近づくコルトさん。
最初は襲って来た側だったけれど事情を知らずに騙されたっぽいし無駄死にさせるのも気がひける。
「コルトさん、ちょっと待って」
「何をしてるんだい! 僕が囮になるといっても餌になってる間だけなんだよ!? その間に早く逃げて!」
そう叫ぶコルトさんを手で遮ってギガントカメレオンの前に出る。
相手もヤルヴィだけでは腹が膨れないらしく私たちを狙っていた。
――シュッ!
カメレオンらしく長い舌が高速で伸びて来る。
狙っているのは弱っているコルトさんだ。
「ひいっ!」
自分が狙われたのがわかったのか小さな叫び声が聞こえる。
「そうはいかないよ」
コルトさんを捕まえようとしていた長い舌を片手で掴む。
「うわっ、気持ち悪いっ!」
生暖かい上にネバネバしてて凄く気持ち悪い。
ギガントカメレオンも舌が戻って来ないと思わなかったみたいで頭を左右に激しく振って抵抗している。
「ううっ、もう限界っ!」
手のひらに伝わる感触に我慢できず手放してしまう。
舌が戻って安心したのか今度は私を警戒して姿が徐々に消えていく。
消えるなんてズルいと思うんですけど!?
とは言えギガントカメレオンも必死みたいだし仕方ないか。
「消えてるつもりでも私には見えてるんだけどね」
またネバネバ攻撃がくる前にさっさと片付けよう。
足に力を入れて一気に空高く飛び上がるとギガントカメレオンの脳天目掛けて両ひざでダイブする。
ちょっと嫌な感触が両ひざに伝わったけれど倒したかな。
――ズズゥン。
ギガントカメレオンが地面に落ちると大きな地響きがする。
「さっ、コルトさん、終わったよー」
「……」
コルトさんに声をかけるけれど驚いて固まったまま。
こんな感じも慣れちゃったよ。
普通の人は私の力を目の当たりにすると驚いて逃げることが多い。
けれど稀に少年のように目をキラキラさせながら私を見ている人もいるんだよね。
「お嬢さん……、カッコイイ!」
コルトさんは後者でした。
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