第12話 お茶目さん
「初めまして。ギルド長のクレマールです」
1人の男性職員が騒がしい冒険者たちを一喝して目の前に座る。
見た感じ細身で長身だけれど強さを感じるんだよね。
「私はクリムです。騒がせてすみません」
「いえいえ、うちの冒険者たちが先に声をかけたのでしょう」
クレマールさんがそう言いながら床に尻餅をついている冒険者を睨むと青い顔をしてギルドを出て行った。
ギルド長って肩書だからかなり実力のある人なんだろうね。
「ところでクリムさんが持ってきた魔物はすべてクリムさんが倒した魔物なのですか?」
「ええ、そうですよ」
何度も言うけれど嘘をついてもメリットないもん。
ふーむ、と唸って私の目をジッと見つめるクレマールさん。
「わかりました。クリムさんが嘘をついているようには見えません。すぐに買い取りの手配をしますけれど生憎と解体作業場が少し混雑してまして……。1時間後くらいにもう1度来ていただけますでしょうか? その間に先ほどの薬草10本を集めておいて下さい」
「では1時間後に薬草10本を持ってお邪魔しますね」
魔物の解体作業場が混雑してるなら仕方ない。
クレマールさんにお礼を言って扉へ向かうと背後から気配がしたので対処しておいた。
(なかなかお茶目な人だね)
冒険者ギルドの扉を開けてクレマールさんにぺこりと頭を下げる。
さあ薬草採取へ出発よ!
☆☆☆
「うーん、気付きましたか」
先ほどの少女が只者ではないことはすぐにわかった。
クレマール・ダンデル。
ユーウィンの冒険者ギルド長にして元Aランク冒険者だ。
「けれどあの反応速度は見事ですね」
彼女が背中を見せた時に金貨を1枚、彼女に向けて指で弾いたのだが後ろも見ずに受け止めてしまった。
しかも手のひらではなく親指と人差し指の腹の部分で摘まむように。
「彼女は私と同じAランクかBランク――」
「あれ、ギルド長。頬の傷はどうしたのですか?」
「頬の傷ですか?」
女性職員が私の頬を指さして聞いてくる。
何を言っているのかわからず頬を触ると温かい液体が指に付着した。
「おや、どこかで怪我でもしたのかな?」
何かが掠った程度の怪我だけれどどこで切ったのかわからない。
「ギルド長、こんなところに何かが刺さってますよー?」
後ろの壁に飾ってあったミスリルの盾に光る何かが刺さっている。
引っこ抜いてみると私がさっき彼女に投げた金貨だ。
しかもうっすら血液が付着している。
「……まさか私の目で捉えられないとは」
これは早めに冒険者たちへ余計な手出しをしないよう勧告しないと。
やれやれと手を振りながら自分の席へ戻って行く。
☆☆☆
「薬草が取れる森ってここかな」
ユーウィンの守衛さんに話を聞いて20分ほど歩いた森にやって来た。
地元の森ならどこに薬草が生えてるのかすぐにわかるけれど見知らぬ場所だとなかなか重労働だよ。
薬草を探しながら森の奥へ進む。
さっきまで明るかった森が進むにつれて暗くなっていく。
「見つけた!」
まずは1本目の薬草だ。
残り9本を目指してあちこち歩き回る。
そして7本目を見つけたあたりでため息をついた。
実は街を出た時から人の気配がするんだよね。
「いつまで付いて来る気なの?」
「……」
声をかけても身を潜めているつもりなのか返事がない。
「街を出た時からいたのは知ってるんけど? えっと5人くらい?」
人数を当てると木の後ろから5人の男たちが現れた。
4人は見知らぬ男たちだけど1人は知っている。
「さっきはギルドで世話になったなぁ?」
ワイバーンの件で難癖つけてきた冒険者だ。
「派手にこけてたけど怪我はない?」
「う、うるさいっ! あれは足元が滑っただけだ!」
真っ赤な顔をして喚き散らす。
せっかく心配してあげたのに。
「お前みたいなガキがあんな魔物を倒せるわけねぇ!」
「そうだ、きっと他の奴が倒した魔物を横取りしたんだろ?」
「もしかしたら女の盗賊かもしれないぞ!」
女の盗賊って……どっちが盗賊なんだか。
やっぱり私の見た目でワイバーンはマズかったかな。
「はぁ、それで私に何の用なのよ?」
「お前の持ってる素材を俺たちに寄こせ! 大人しく寄こせば命までは奪わないでやる」
「断るなら盗賊は殺しても問題ないしな」
5人の男たちのうち4人は私から素材を奪う気満々だ。
ただ1人だけ腰が引けてるのか青い顔をしてる。
「な、なぁ、ヤルヴィさん。こんなこと止めようよ……?」
「うるさい! お前だって金が欲しいから話に乗ったんだろうが!?」
「最初に聞いた時は盗賊だって言うから。だけど相手はただの女の子だよ?」
どうも盗賊退治だと聞いて付いて来たっぽい。
だけど私の姿を見て違うとわかって反対してる感じかな。
「ただのガキがあんなに魔物を倒して素材を持ってるわけないだろ!?」
「何か理由があるんだよ。これじゃこっちの方が盗賊――」
――ザシュ!
何かを斬る音がして男性が前のめりに倒れる。
背中には大きな傷があり真っ赤な血が流れ出していた。
「……な、なん、で、ヤルヴィ、さん」
「ふん。俺たちを盗賊呼ばわりするやつを生かしておくかよ」
「へっへっ、これで俺たちの分け前が増えたってことだ」
ただの仲間割れなんだけど……ちょっと気分悪い。
「おい、ヤルヴィ。こいつは俺が殺してもいいか? 弱っちいくせに指示するからムカついてたんだ」
「後始末はお前にまかせる。俺たちはガキの方を――」
――ドンッ!
「ぐはぁっ!?」
今にも剣を突き刺そうとしていた男に向かって正拳を繰り出すと勢いで吹っ飛び大きな木の幹に体を打ち付ける。
「あなたたち、仲間じゃなかったの!?っとそれよりも……」
斬れらた男性を見るとまだ意識はあるみたい。
回復薬は持っていないみたいなので<無限収納>から1本取り出して半分を傷口に振りかけると少しずつではあるが傷口が塞がってきた。
残りを口に含ませて無理やり飲ませる。
たぶん一命は取り止めたと思うけれど普通の回復薬だし早めに街へ戻って処置をしないと。
「おい、戦闘態勢を取れ! こいつただのガキじゃねぇ!」
「くそっ、仲間の仇だっ!」
仲間の1人が戦鎚を振り回して襲い掛かって来る。
そんな大きなトンカチみたいな武器でお肌に傷が付いたらどうするのよ。
「……なっ!?」
まぁ、蹴り飛ばしておいたけれどね。
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