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第10話 宿屋にパンを卸そう

今回はほのぼの?シーン多めです。

次回はもう少し無双させてみようと思います。


「助けていただいてありがとうございます」


 店内を片付けてテーブルに座るとメイテさんにお礼を言われる。

 ちなみにテオは蹴られた時の打撲で横になっているが元気だ。


「いえ、私こそ出過ぎた真似をしてすみません」

「そんなこと! クリムさんには本当に感謝しています」


 あの男たちは少し前から店に来ては大声で騒いだり宿泊客に乱暴したり迷惑行為を働いていたらしい。


「もちろん街の領主様に何度も訴えましたけどすべて却下されて何もしてくれないんです」


 これは領主か貴族が裏で何かやってる気がする。


「ハルマンドの奴が悪いんだっ!」


 私たちの話を聞いていたテオが横から口を挟んでくる。


「こら、テオ! 証拠もないのに人様の悪口を言うものではありません!」

「だって……」

「そのハルマンドって?」


 ハルマンド・ハンセン。

 ユーウィンで複数の宿屋や商店を経営している人物で気に入った土地や店があれば強引な手口で安く買い上げてしまうらしい。

 不服を訴えようにも領主様は何もしてくれないので裏では繋がっているのではないかと噂されているとか。


 そんな人物が数ヶ月前にやって来て店を譲れと言われたが亡くなったご主人と思い出のある店を手放すつもりはないと断ってから今回のような嫌がらせが始まった。


「この子が大きくなるまで頑張ろうと思うのですが客足が途絶えてしまっては……」


 メイテさんと話をしていると1人の男性が入って来る。

 さっきの仕返しかと入り口を見るとオーウェンさんだったよ。


「おぉ、クリムちゃん! やっぱり泊まってくれたんだね。さっき乱暴な男たちが投げ飛ばされたと噂を聞いたけれどクリムちゃんかな?」

「おはようございます、オーウェンさん。ってもうそんな話が広まってるんですか!?」


 確かにこの宿屋って大通りに面してるしあの男を投げ飛ばした時もたくさんの通行人に見られたもんね。


「そう言えば朝方、街の入り口付近の大きな木に吊るされて泣いていた男2人が発見されたんだ。女の恰好をした魔族にやられたと騒いでいたんだよ」


 誰が魔族なのよ!

 もっと上の方に吊るしてやればよかった。


「オーウェンさん、ごめんなさい。今月の返済ですがまだ足りなくて……」

「いや、メイテさんも大丈夫だったかい?」


 あれ、2人の様子が何だかおかしい?

 お互いが意識しているのか顔が赤いんだよね。


 ――ツンツン。


 テオに腕を突かれる。


「オーウェンのおっちゃん、僕のかあちゃんに惚れてるみたいなんだ。母ちゃんもまんざらじゃなくてさ。早く結婚すりゃいいのに」


 そういうことね。

 テオと一緒にニヤニヤしながら見ているとオーウェンさんが私の方へやって来る。


「クリムちゃんに聞きたいんだけど、あのパンってタルコットのパン屋で売ってるのかな?」


 昨日の別れ際、荷馬車に乗せてもらったお礼にパンを差し入れた。

 家に帰って娘さんと一緒に食べてすごく美味しいと大好評だったみたい。


「ぜひ宿屋で売り出してみたいんだけどパンの材料の仕入れ先を教えてもらえないか口利きをお願いできないだろうか? 商人として入手経路を聞くのは暗黙に反しているのは知っているけど宿屋を救うためにぜひ! もちろん私が話をするし十分なお礼もさせてもらうよ」


 そう言ってオーウェンさんが頭を下げる。


「別にかまいませんよ?」


 隠すこともないし美味しいと食べてもらえるなら私も嬉しい。


「おおっ、それはありがたい! 早速今から出発してお店の主人に――」

「主人は私ですよ?」


 自分の顔を指さして答えるとオーウェンさんが「えっ?」と驚いている。


「えっとクリムちゃんはパン屋の従業員ではなく?」

「あのパンを作って売っているのが私です」


 いつもの魔法の鞄(マジックバッグ)ではなく<無限収納>から焼きたてのパンを数個取り出してテーブルに並べた。


「メイテさんもテオもどうぞ。もちろんオーウェンさんも」

「……いただきます」


 2人がゆっくり手を伸ばしてパンを取る。

 オーウェンさんは知っているから2人の様子を見ていた。


「わぁ、柔らかいっ!」

「本当にとても柔らかいわ!? それに美味しそう……」


 パンを2つに割って口に入れるとゆっくり味わう。

 別に何も入ってない1番シンプルな白パンだけど最初に味を見てもらうならこの方がいい。


「……なんて美味しいパンなのかしら。うちでもお客様用に焼いているけど比べられないわ」

「僕も母ちゃんのパンは好きだけど、お姉ちゃんのパンはもっと好き!」


 そんなに喜んでもらえると照れちゃうね。

 ついでにチョコパンとレーズンパンを並べると3人が唖然としている。


「他にも10種類くらいはありますけど今はこれだけね」

「そ、そんなにパンの種類が……、これをクリムちゃんが?」


 オーウェンさんが質問している間にテオが無言でパンにかぶりついている。

 あまり急いで食べなくても誰も取らないってば。


「あの、クリムさん。この白いパンは1個おいくらでしょう?」

「お店では1個鉄貨5枚です。チョコとレーズンは銅貨1枚ですよ」

「そんなに安いんですかっ!?」


 鉄貨5枚は50円くらいで銅貨1枚は100円くらい。

 魔法で作ってるから原価0円だし大儲けするつもりはなくて普通に生活できればそれでいい。


「クリムちゃん、チョコパンの中身ってあのチョコレートかい?」

「そうですよー」


 この世界、ロンシスタでもチョコレートはあるしね。

 そう思っていたけれど少し認識が甘かった。


 ロンシスタではとても高価で裕福な貴族や商人しか口にできないほどの物だったみたい。

 それをパンに入れて1個銅貨1枚で売ってりゃ人気でるよね。

 うちのお店でも1番人気だし。


 テオなんて夢中でチョコパンばっかり食べてる。

 食べ過ぎて虫歯になっても知らないからね?


「オーウェンさん、このパンをユーウィンで売るならいくらになりますか?」

「うーん、白いパンなら1個銅貨3枚。レーズンパンは銀貨1枚でチョコパンなら銀貨3枚でも売れると思うよ」

「そんなに高いんですかっ!?」


 さすがに高すぎると思ったけれどこれでも十分に安いみたい。

 裕福な貴族や商人なら間違いなく買うとオーウェンさんが太鼓判を押す。


「クリムさん、このパンを宿屋で扱わせてもらえませんか? もちろんクリムさんの言い値で仕入れます!」


 メイテさんとテオが頭を下げる。


「いいですよ。値段は私のお店と同じで大丈夫ですか?」

「えっ、そんなに安くていいのですか!?」


 大量に買ってくれるお客さんって認識だしね。


「クリムちゃん、仕入れる数だけどどれくらいなら大丈夫かな? あれだけ美味しいパンだし大量には難しいと思うけど……?」

「あまり日持ちするわけじゃないから時間停止の魔法の鞄(マジックバッグ)があるなら100個でも200個でも大丈夫ですよ」

「ブフッ!」


 オーウェンさんが吹き出してメイテさんが呆然としている。

 何か変なことを言ったかな?


「そんなにたくさん大丈夫なのかい!?」


 仕入れるパンの数を伝えると驚いていた。

 私的にはかなり少ない数字だと思ったけれどいいのかな?


「はい、問題ないですよ。魔法で作っちゃうので」

「魔法でパンをかい?」


 テーブルの上に3種類のパンを10個ずつ魔法で作り出す。

 宿屋にパンの匂いが漂っていっぱい食べたはずのテオのお腹が鳴り出した。


 私がお店でパン窯を使っているのは「焼き立てのパン」を窯から取り出す瞬間の匂いが大好きなのだ。

 それに焼き立ての方が美味しそうな感じがするしね。


「すごいです、クリムさん!」

「お姉ちゃんすげーよ!」


 テオがキラキラした目で私を見て照れちゃうね。

 そう言えば話の中で気になったことがある。


「メイテさん、この宿屋でもパンを焼いてるって言ってましたね?」

「あ、はい。クリムさんのような美味しいパンの前だと恥ずかしいけれどお客様のためにパンは焼くようにしています」


 ふむ、それならここで焼いてもいいんじゃないかな。

 私の作るパンと同じ物ってわけにはいかないけれどね。


「メイテさん、私のパンを仕入れるのとは別に新しいパンを焼くのはどうですか? 宿屋オリジナルのパンで普通の方にも買いやすい価格にすれば」

「新しいパンですか……?」


 白い小麦を使ったパンは高価なので裕福な貴族や商人しか買えず、庶民は質の悪い小麦を使ったパンが一般的だ。


「私が材料を提供するし作り方も教えますよ?」


 一瞬、悩んだけれどすぐに心を決めたみたい。


「はい、お願いします!」


最初は5話で完結させる予定でしたけれど10話まできました。

読んでくださっているみなさまには感謝しかありません。

本当にありがとうございます。


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