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第1話 パン屋の少女

小説を書き始めたばかりです。


※9月6日、クリムの容姿を追記しました。

※9月1日、パンの値段を修正しました。

「きゃーーっ!」


 森の中に私の大きな悲鳴が響き渡った。

 視線の先には2メートルを超える大きな牙の猪(ファングボア)がこちらを睨んでいる。


「あ、あぁ……」


 森の奥は危険だから深入りするなと言われていたのに薬草が足りなくてつい足を延ばして彼らの縄張りを侵してしまった。

 ファングボアは興奮しているのか今にも襲ってきそうな雰囲気だ。

 早く逃げたいのに恐怖で腰が抜けてしまい体が動かない。



 ――フワッ。



 その時、頭上から何かが降りて来て私の視線が遮られる。


「大丈夫ですか?」


 声の主が冒険者なら助かるかもしれない!

 そう願って顔を上げると冒険者とは真逆の1人の少女が立っていた。


「もしかして怪我をしてるんじゃ?」


 ファングボアが見えていないのか少女が私に声をかけてくるが今はそんな場合ではない。

 私が悲鳴をあげたせいで少女がここへ来たのなら私の責任だ。


「は、早く逃げないと、あなたも殺さ――」


 最後まで言い終わらないうちに私と少女の姿を見て弱者だと判断したのかファングボアが襲い掛かって来た。


「きゃーーっ!」


 私の人生はここで終わったんだと思いながら恐怖で顔を伏せてしまう。

 しかしいくら待ってもファングボアが襲ってくる様子がない。

 恐る恐る顔を上げるとなぜか地面に倒れているファングボア。

 その横では少女は私に向かって笑顔を浮かべていた。


「もう、大丈夫ですよ。ところでファングボアだけどもらっていいですか?」

「……あ、はい、どうぞ」


 何が起きたのか訳もわからず私は頷くしかできない。


「やったぁ! この辺りは薬草も多いけど魔物も多いから気を付けて下さいね」

「あ、ありがとうございます」


 私が何とかお礼を伝えるとにっこり笑ってファングボアを担いで歩き出す少女。

 あまりに不自然な光景に思わず私は少女に声をかける。


「あの、あなたは冒険者なのですか?」

「え、私ですか? 私はただの――」




 ☆☆☆




「いらっしゃいませ!」


 小さなお店の扉に開店の看板をぶら下げる。


「よぉ、店主! 今日もアレを5個もらうぜ?」

「私は白いのと中に干した果物が入ったのを頂戴!」

「俺は昨日は買えなかったんだ! 今日こそは――」


 朝7時過ぎで周辺のお店もまだ開店していないにもかかわらず大勢の人たちが小さなお店に並んでいる。


「やっぱりクリムの店のパンはうめぇよな!」

「そうそう! 安くて美味しいなんて私たちにとって神様みたいなお店よね」


 私の名前はクリム、今年で16歳になった。

 タルコットと呼ばれる街で「クリムのパン屋」という小さなお店をやっている。


 ネーミングセンスがない?

 知ってるからほっといてよね。


 これでも元は日本人だったけれど起きたら異世界だった。

 しかも髪は肩より少し長めのウェーブでまさかの金色!?

 背は日本人の頃とあまり変わってないから160センチくらい。


 神様らしき人物と会話をしたけれど正直あまり覚えていない。


「いらっしゃい、タニアさん。白パン4個とレーズンパン2個で銅貨4枚ね。マルランさん、今日は起きれたんだね? 昨日買えなかったチョコパン3個で銅貨3枚だよ」


 こんな感じで行列を捌いて終わるころには1時間以上も経っていた。


「うーん、朝のラッシュも終わったー」


 お店の外に出て腕を上げて大きく伸びをする。

 ちょうど他のお店も開店し始めたので挨拶を交わす。


「クリムちゃん、おはよう。相変わらず朝から賑やかだね」

「あ、ダリンさんおはようございます。いつも朝からうるさくてごめんなさい」


 私はそう言ってダリンさん用に取ってあるパンを手渡した。


「いやー、いつも悪いね」

「いえ、こちらこそ本当に助かってますから」


 パン屋に行列ができるたびに隣近所の入り口を塞いで悩んでいたけれど開店するまでなら大丈夫だよと容認してもらっているのだ。

 そのお礼として迷惑をかけているお店には毎日パンを配っている。

 中にはもらいすぎだよお金を払おうとする人もいるけれど迷惑をかけているのは私の方だしね。


「さて、お店は一時閉店して準備をしようかな」


 お得意様へパンを届けるためにパン窯に火を入れて準備を始める。

 そして持っていくためのパン生地を魔法で作り出す。


 ――パンを作る魔法。


 これが神様にもらった私のスキル。

 正式名称があったと思うけれど私はパンが焼ければそれでいいから覚えていない。

 魔法で焼き上がったパンも作れるけれどやっぱりパン窯から取り出した時の匂いは最高だもんね。


 時間をかけてパンを焼くと魔法の鞄(マジックバッグ)に入れていく。

 神様からもらった<無限収納(ストレージ)>と呼ばれる容量無制限に時間停止のオマケ付きのスキルもあるけれど私はパンのマークをデザインした魔法の鞄(マジックバッグ)の方が好きなのだ。

 合計100個ほどのパンを焼きあげてお店を後にする。


「こんにちはー」


 最初に向かったのはこの街の冒険者ギルド。

 午前中はたくさんの冒険者で賑わっていてギルド職員は大忙しだ。


「ソフィアさん、今日もパンをお持ちしましたよ」

「クリムさん、おはようございます。お待ちしていました」


 いつものカウンターへ向かって魔法の鞄(マジックバッグ)からパンが入った袋を取り出す、

 すると焼き立ての良い匂いがギルド内に漂って仕事をしていた女性職員たちが私のところへやって来た。


「クリムさん、来るのが遅いよっ!」

「ほんと、朝からお腹を空かせて待っていたんですからね!」

「ごめんなさい、今朝はお店も忙しかったの」

「ふふっ、冗談ですよ。でもお腹を空かせていたのは本当ですよ」


 お気に入りのパンを数個ずつ選んで自分の席へ戻って行く女性職員たち。

 そんな様子を見て職員長のソフィアさんがため息をつく。


「はぁ、あの子たちったら……。でもクリムさんのパンは本当に美味しいから気持ちもわかるんですけれどね」

「ありがとうございます。そうだ、ソフィアさんご要望の――」

「おいっ、そこのガキ!」


 大きな声がギルドに響き渡り静まり返る。

 声のする方を振り返ると3人のガラの悪い男たちが立っていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

書き始めた当初は全5話程度のプロローグ的な内容でしたけれど、たくさんの方に読んで評価をいただきそのまま連載中です。

ブックマークや評価をいただけると作者はとても喜びます!



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