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第38話 駆け出し冒険者はドジっ子ポーターの実力を知る

「話ってなによ。この忙しい時に」

「ちょうど良かった、みんな居るな」

「すまねえ、ダンナ。ドロンジョだけは居場所がわからなかった」

「それはしょうがないよ。もしかしたらこの街にいないかもしれないし」


 アルスロッドは女魔法使いが欠けた元パーティメンバーを見回した。


「今日この場限りでいい。この騒動が収まるまでドラゴン騎士団を再結成しないか?」

「ちょっと、待ってくれ勇者さんよ。蝶子さんを連れて行かれてら、ぼくらはどうするんだ」

「当然、君たちも含めた形でだ。この乱戦が続けば、そのうち、こちらは個別撃破されてしまう。ボクたちドラゴン騎士団が先頭に立って指揮しないと、この戦いは終わらない気がする」


 アルスロッドの提案に真っ先に賛成したのはエルシーだった。


「いいんじゃないの? アルたちが戦えば、みんなの士気も上がるだろうし」

「良かった。エルシーが賛成してくれて。他の皆はどうだい?」

「うちのパーティも一緒だって言うなら、いいわよ。エルシーも良いって言うし」

「まあ、エルシーがいいって言うならオルコット君たちも参戦のだろう。それなら僕も手伝いましょう」

「よし、話はまとまった!」

「へ!? ちょっとまって! わたしたちもそのメンバーに入ってるの?」


 エルシーは四人プラス神々の雷のメンバーで動くものだと勘違いして、素っ頓狂な声を上げる。


「何言ってるんだ。君が一番最初に賛成してくれたじゃないか」

「いやいや、わたしたちはただのカッパーランクの冒険者よ。なんでオリハルコンとダイアモンドの混合パーティに加わるのよ」

「ああ、もう、時間がないから言っちまうが、ダンナは今、広域視野を無くしてるんだよ」


 その言葉を聞いてエルシーは納得した。そしてアルスロッドの考えに気がついてしまった。


「ああああ、あんた! 何考えてるの! バカじゃないの! 昔とは違うのよ!」

「仕方がないだろう。なくなっちゃったものは。ボクのせいじゃないんだから」


 エルシーとアルスロッドが言い争っている間、兄妹はお互いの師匠に話しかける。


「どういうことですか? 先生」

「どういうことなんですか? 師匠」


 頭にクエスチョンマークをつける弟子たちに、二人は同じ答えをする。


「エルシーの面白いところが見られるわよ」

「エルシーの珍しいところが見られるから」


 蝶子とバードナなニヤニヤしていると、エルシーが折れたようだった。


「分かった、わかったわよ。その代わり、どうなっても知らないわよ」

「安心しろ。責任はボクが取る」


 そう言うと、アルスロッドは一つ大きく息を吸った。


「全冒険者に連絡する。たった今、ドラゴン騎士団は再結成された!」


 街中に響き渡るアルスロッドの声に、あちらこちらから歓喜の声が上がる。

 最強の冒険者パーティ、ドラゴン騎士団が結成したのだ。ダンジョンで多くの冒険者の危機を助けたドラゴン騎士団。それは全冒険者の希望だった。


「そして、勇者アルスロッドの名において全冒険者に連絡する。これより新生ドラゴン騎士団はエルシーの指揮のもとアンデッドどもを駆逐する!」


 歓喜の声は驚きと戸惑いの声に変わる。


「ドラゴン騎士団に恩を感じている者が居るならば、エルシーの命令の元動いてくれ!」


 アルスロッドの言葉に平和の鐘のメンバーも驚きを隠せない。

 ただのポーターであるエルシーが指揮をする。なんのスキルもないのに。

 それも勇者パーティの指揮だけでも驚きなのに、全冒険者も含めて。

 そして、ドラゴン騎士団に助けられていない冒険者パーティなど、この街には、ほとんどいない。

 ドラゴン騎士団が唯一のオリハルコンランクになった理由のひとつ。冒険者としての功績以上に、他の冒険者パーティを何度も、そして長年、助けたことが大きい。

 そして、ほかの冒険者を助けることを主張して、アルスロッドたちに認めさせたのはエルシーだった。

 スキルのひとつもないエルシーは、人からの助けがどれだけ重要か身にしみている。だからこそ人を助ける。

 ユニークスキル『情けは人のためならず』はエルシーの生き様そのものである。

 しかし、その事は他の冒険者たちは知らないのだった。すべてはリーダーであるアルスロッドの提案によるものだと誤解している。

 エルシーに対する他の冒険者の評価は、はたで見てると面白いドジで明るいポーター。

 勇者であるアルスロッドが、そのエルシーの指示に従えと言っているのだ。驚かないわけがない。


「広域視野。戦闘をしながらでも、全体を見通せるスキル。アルスロッドは三年前にこのスキルを身につけるまで、僕たちの戦闘指揮はエルシーがしてたんですよ」

「特に強敵からの撤退戦や誰かを守る防衛戦はエルシーが得意とするところよ」


 二人は懐かしそうにトリステンたちに説明してくれる。


「だから、守りのエルシー……」

「ははは、それ言ってるのバードナだけよ」

「ほら、そこ、くっちゃべってなくてこっちきて」


 エルシーに呼ばれて、全員集合する。

 エルシーの命令の最優先事項。自分を守れ。次に市民を守れ。最後にモンスターを倒せ。

 

「現在、北と東の門が破られて、そこからモンスターが流れ込んでいる」


 サクヤは街中を走り回って集めた情報を、エルシーに報告する。


「ということは西門は今のところ大丈夫ってことね。そうだとすると」

「ああ、そうだな」

「西門は罠ね。二つの門のどちらかを閉めて、士気が上がったところで、西門から新たな軍勢が入り込んで心を折る。西門から逃げ出そうとしても、外にいるモンスターに襲われるっていう寸法ね。西の門に魔法使いを配置してちょうだい。門に爆破魔法が仕掛けられているから解除して、門を守らせて。あと、教会は開放してるわよね」

「ああ、教会は救助施設になってる。西門の件は任されたよ」


 バードナーは神々の雷の男魔法使いと一緒に西門へ向かう。


「アル、お蝶ちゃん、まず西門を閉じたあと、全勢力で北門を閉じるわよ」

「了解!」

「エルシーさん! 力になりに来ました」


 アルスロッドたちに指示を出している時に、竜人もどきボルが闇の狩人のメンバーと一緒に現れた。

 先ほどの勇者の宣言を聞いて、やってきたのだ。


「オルちゃんと一緒に市民の救助をお願いします。薬を渡すから、西門から北門へ回るように移動して」


 そう言って、大量の回復薬と聖水を渡す。


「オルちゃん、任したわよ。マリーとスティーブンさんはオルちゃんの護衛と救助の補助をお願いします」


 闇の狩人のメンバーと共にけが人がいないか、声をかけながらけが人を探す。


「サクヤ、情報を集めて」

「はいよ。どんな情報が欲しい?」

「今回の件は状況から見て、誰かが仕組んだ騒動よ」

「ああ、そうだな。首謀者を探すか?」

「いえ、『誰か』は今はいいわ。『何のため』が知りたいわ。こんな騒動を起こした理由を潰すわよ」

「エルシーらしいな。分かった。まかしとけ。全てのヒップにかけて、情報を集めて来てやる」


 サクヤはそう言うが早いか、姿を消した。


「じゃあ、トリ君。申し訳ないけど、私に付き合って」

「う、うん」


 アルスロッドからドラゴン騎士団再結成の話を聞いてから今まで、唖然としていたトリステンは声をかけられて我に返る。

 エル姉ちゃんがドラゴン騎士団だけでなく、全冒険者の指揮をする。

 何の夢だろか?

 そういえば、俺たちが戦っているときも、エル姉ちゃんは常に声をかけていてくれた。

 俺たちが気づいていなかっただけ。いや、リーダーである俺に気を使って、そうと気づかせないようにしていた。

 でも、リーダーは俺だ。パーティの方向性決め、指揮をするのは俺の役割だ。

『これからも君に勇気があれば、エルシーは君たちにとって大きな力になるだろう』

 勇者アルスロッドの言葉が蘇る。

 そのときは『勇気』の意味がわからなかった。

 自分が弱いと認める『勇気』。

 そして、エル姉ちゃんを、人を認める『勇気』。

 アルスロッドはその勇気を持っていたからこそ、勇者と呼ばれるようになったのだろうか。


「エル姉ちゃん!」

「なに?」

「俺もエル姉ちゃんみたいになる。そして、エル姉ちゃんを守れるくらい強くなる!」

「うん。トリ君が強いのは知ってるよ。お願いだから守ってね」


 ああ、なんかこの人には一生勝てない気がしてきた。

 トリステンは思わず今の状況を忘れて、笑みがこぼれる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エルちゃんの本領発揮ですね! 楽しみです(*≧∀≦*)
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