表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

第3話 ドジっ子ポーターの家はゴミ屋敷

「げっ!? なにこれ?」


 武器屋で中古のボウガンとそれ用の矢を買った二人は、宿にあずけていた荷物を持ってエルシーの家へやって来た。

 古い家ではあるが三LDKお風呂付きと、ひとり暮らしにしては、なかなか贅沢な家であった。三人で暮らすにしても、十分な大きさだ。掃除さえされていれば。

 二人が部屋に入ると、そこには床が見えないくらいのゴミ、ゴミ、ゴミであった。


「ゴミ屋敷?」

「いやいや、ちょっと精神的に弱ってて、掃除する気力がわかなかったのよ。いつもはこうじゃないんだから、安心してね。本当よ、信じて~」


 そう言って、家に入ろうとすると足を取られてバターンとゴミの中にダイブしてしまった。


「エルシーさん、あたしたちが片付けますから、必要な物といらない物だけ判断してください」

「え、でも、ふたりはお客さんだし……」

「もう、宿も引き払っちゃったんで、この家を住めるようにしないと、あたしたちが野宿になっちゃうんです! いいですか! お兄ちゃんを野宿なんてさせないですからね!」


 ええ!? わたし、ずっとこの家に住んでるんだけど? そんなにひどい? あと、冒険者になるんだったら野宿くらい平気じゃないとダメじゃないのかな? って言ったらあの大杖で叩かれるんだろうな。


「わかったわよ。お願いします」


 オルコットの指示でトリスタンがどんどん仕分けをして、夕方にはすっかり綺麗になり人が住める家になった。

 あれ? この家ってこんなに広かったけ? オルコットちゃんもしかして超優秀? 天才?

 いえいえ、エルシーがずぼらなだけですよ。(神)


「それじゃあ、今日はお姉さんが晩ご飯を作っておくから、ふたりはお風呂に入っておいで」


 二人はお互いの顔を見て、自分がどれだけ汚れているか確認して笑いだした。


「ねえ、お兄ちゃん。あたし気になることがあるんだけど」

「オルもか? 俺もあるんだ」


 脱衣所で服を脱ぎながら、二人はずっと気になっていたことを互いに打ち明ける。


「エルシーさんって、何の冒険職なんだろう?」

「エルシーさんって、何の冒険職なのかな?」


 二人は顔を見合わせて、けらけらと笑い合った。


「あとで俺が聞いてみるよ。早くお風呂上がって手伝いしないとな、冷たっ!」


 暖かなお風呂のはずが、冷たい水風呂だった。暖かくなってきた春先とは言え、水風呂は厳しかった。


「もしかして、お風呂沸かすの忘れてたのかな?」

「あの人ならありえる。俺が火をつけてくるよ」


 トリステンは服を着ると、外に出て薪が釜の中で火を待っている状態になっているのを確認して確信する。


「やっぱり、火をつけたと思っていると思う。オル、火をつけてもらっていいかな?」


 窓を開けて、オルコットがチャッカの魔法を薪に使うと、火が燃え上がった。チャッカとは木などに火をつける魔法である。乾いた草などがあれば火付け石でも代用できる初級の魔法である。

 リステンが火が付いた薪を釜に放り込むと、勢いよく燃え始めた。


「もう少ししたら、温かくなると思うよ」

「ねえ、あたしたち、あの人について行って大丈夫なのかな?」


 お風呂が温まるのを待っている間、二人は心配になってきた。


「ちょっと、いや、相当ドジだが、あの人は悪い人じゃないと思う。俺は信じていいと思うよ。長く冒険者をやっていただけあって、俺たちには無い知識や人脈を持っているみたいだし」

「そうね。宿まで提供してくれるんだったら、しばらくはお世話になりましょう」


 二人は温かなお湯で汚れと疲れを流すと、急いでキッチンへと向かった。


「ストーップ!」


 キッチンに入るなり、スープの味付けをしようとするエルシーにストップをかける。


「な、なに? どうしたの?」

「それ、まさか、砂糖じゃないですよね」

「なに? いやねえ~さすがのわたしも自分の家でそんなヘマしないわよ」


 そう言って、入れようとした調味料を念のためぺろりと舐める。


「あ、甘い。アハハハハ。ごめんごめん、こっちだった」

「ちょっとまって、それ片栗粉じゃない? なんで塩と片栗粉を間違えられるのよ。これから先はあたしがしますので、エルシーさんはお皿の準備でもしててください」

「ごめんね、オルコットちゃん」


 オルコットが味見をしながら、手際よく料理を仕上げていく。


「いいんですよ。家事をするのは約束でしたから。それにお兄ちゃんに変な料理を食べさせるわけにはいきませんからね。さあ、出来ましたよ」


 美味しそうな料理がテーブルに並び、三人が食事をし始めると、エルシーが真っ先に口を開いた。


「明日からのことなんだけど、パーティのリーダーを決めないといけないんだけど、トリステン君でいいかな?」

「はい、ギルドのリーダー登録も俺でしてます。それと俺のことはステンでいいです。仲のいい友達はみんなそう呼びます。これから一緒のパーティとしてやっていくなら、そう呼んでくれたほうがありがたいです。オルもいいよな」

「お兄ちゃんがそう言うなら、いいよ」

「じゃあ、わたしのことも気軽にエル姉ちゃんって呼んでね。それじゃあ、平和の鐘のこれからを祝して、乾杯!」


 エルシーは自分だけビールを流し込む。二人はそれを見て、二人用に用意されているぶどうジュースを飲む。


「それで、エル姉ちゃんの冒険職は何なんですか?」

「ゲッフン! ゲフ、ゲフ!!」


 トリステンの言葉に、エルシーはむせて、鼻からビールを出す。


「大丈夫? はい、水」


 オルコットは慌てて水を渡すと、エルシーはなんとか落ち着いてしゃべれるようになった。


「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ。ちょっと驚いただけだから」

「それで、エル姉ちゃんの冒険職は何なんですか?」

「言ってなかったっけ?」

「はい」


 ああ、いろいろあってそういえば、言ってなかったわね。


「あたしと一緒の魔法職? 回復魔法使いだと嬉しいな」

「盗賊職? 強化魔法とか? まさか俺と一緒の戦闘職? 勇者といっしょだったんだから、その職でもすごかったんでしょう」


 ああ、ふたりの視線が痛い。マーヤちゃんはわたしをこのふたりに押し付けるために、あえてわたしの冒険職を言わなかったんだよね。


「……ポーターよ」


 エルシーは蚊の鳴くような声で答える。


「え!? なんて言ったの?」

「ただのポーターよ」


 エルシーは意を決して大きな声で答えた。


「タダノポーター? それって初めて聞く職ですけど、どんな職ですか? なんの上級職なんですか?」

「なにかの上級職じゃないの。ポーター、荷物持ちよ。に・も・つ・も・ち。ポーターの上級職なんてないのよ」

「荷物持ち?」


 二人は目をまん丸にして、お互い顔を見合わせる。お互いの顔を見合わせながら、エルシーの言葉をゆっくりと理解する。


「え、じゃあ、戦闘は?」

「出来るわけないじゃない」

「魔法は?」

「ポーションや毒消しなんかを渡すだけよ」

「……」

「……」


 ああ、呆れられたわ。しょうがないわよね。ガッツリ期待が高まってたんだもんね。


「これで分かりました。だから、俺たちみたいな初心者冒険者とパーティを組んでくれたんですね」

「よかったね。お兄ちゃん、騙されてたわけじゃないんだ」


 二人はホッと胸をなでおろして、元通り食事を続けはじめた。その様子をみて、逆にエルシーが驚いて質問する。


「え、いいの? わたし、ただのポーターよ。結構、ドジ踏むし……わたしパーティにいていいの?」


 その様子をみた二人は顔を見合わせて、笑い始めた。


「いいも悪いも、もう俺たちパーティでしょう。ポーターだって冒険には必要な職じゃないですか。それに長年、冒険者をしていた知識は本物でしょう? 今回のツノうさぎひとつでも、俺たちの知らないことをいっぱい知ってるじゃないですか」

「で、でも、わたし、結構、ドジだよ」

「そんなの、今日一日、一緒にいただけで十分わかっていますよ。でもわざとじゃないんでしょう。見ず知らずのあたしたちを助けてくれた、エル姉ちゃんの優しさは本物でしょう」

「逆にエル姉ちゃんが凄すぎる人で俺たちが騙されてるんじゃないかって、ビクビクしてたくらいだから安心したよ」

「そう言うわけだから、これからもよろしくね。エル姉ちゃん」


 そう言いながらにっこり笑うオルコットちゃん、マジ天使! トリステン君、イケメン! どん底のわたしに、こんな素敵な出会いを与えてくれた神様ありがとう!


「なんで涙、流してるの? 料理冷めちゃいますよ」


 ふたりが立派な冒険者になれるようにお姉ちゃん、頑張る!

感想お待ちしております。

一言だけでもお願いします。

書くのが面倒なら「面白かった!」でも「ドジっ子サイコー!」でもいいですよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのとした雰囲気のお話で主人公の個性盛り盛りなのがまた良いですね。 クスリと笑わせていただきました。
2020/05/23 08:44 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ