表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/43

第25話 駆け出し冒険者は魔具を得る

「それにしても、エル姉ちゃんをクビにしたって聞いてたから、勇者って言っても実は性格悪いんじゃないかと思ったけど、そうじゃなかったんだね。優しそうな人だったじゃない。それなのになんで、クビになったの?」


 みんなが気にはなっていたけれど、躊躇(ちゅうちょ)していた質問をするのはオルコットだった。


「う、うん。まあ、わたしのドジが原因なん……だけど」


 エルシーは深く聞いてくれるなと言わんばかりに、口ごもる。


「でも、ずっと一緒でエル姉ちゃんのドジに慣れてたんでしょう。どんなドジをしたの?」


 追撃するオルコット。

 それを止められるのは愛しの兄だけだった。


「オル、それくらいにしとけ。エル姉ちゃんにだって、言いたくないことに一つや二つはあるだろう」

「そうなの? ごめんなさい」


 ああ、トリ君ありがとう。素直なオルちゃんも大好きよ。でも、あのことはできれば墓場まで持っていきたいのよね。


「それよりも、明日は鑑定屋に行きましょう。そろそろ例の腕輪の鑑定が終わっているはずよ」


~*~*~


 その夜、オルコットはトリステンに聞いた。


「ねえ、お兄ちゃん。エル姉ちゃんと勇者ってどういう関係だったんだろう?」

「え? 冒険者仲間だったんだろう?」

「でも、勇者も言ってたけど、ポーターってそんなに重要な役目じゃないわよね。師匠や蝶子さんだったら、ぜひ仲間に戻って欲しいと思うんだろうけど、わざわざエル姉ちゃんを誘ったのって、その役目以上の何かがあるんじゃないのかな?」


 蝶子は役不足のため、なかなかパーティが決まらなかった。バードナは神父に戻ったが、冒険者であればどのパーティも欲しがっただろう。エルシーに関してはどのパーティからも雇ってもらえず、新米冒険者に押し付けられたようなものだった。


「オルは何でも恋愛の方に結びつける。そういうのは、どうかと思うぞ」

「そうかな~」

「だって、本当に勇者がエル姉ちゃんのことが好きだったら、クビになんかしないだろう」

「そっか、それもそうだよね。じゃあ、なんでわざわざ、エル姉ちゃんを誘いに来たんだろう?」

「それはわかんないよ。さあ、もう遅いから、寝るぞ」


 エルシーの知識と人脈はオルコット達からすると、非常に有益だ。しかし、勇者からすると、そんなものは同等以上のものを持っているはずだ。特にスキルも無いポーター。オルコットから見ても、あの大きく柔らかな胸以外にその他のポーターに勝るものは見いだせなかった。

 それでも勇者はわざわざ、自分たちに悪態をついてまで仲間にしようとしたポーター。

 恋愛感情がなかれば、なにか理由があるのだろうか?

 オルコットはすっきりしないまま、眠りについた。


~*~*~


「あーーー!! 寝坊した!」


 オルコットが目を覚ました時、すでに朝の家事が終わっている時間だった。

 洗濯をして、朝食を作り終わっているはずの時間。

 慌てて起き上がると、台所に急いだ。


「あら、おはよう。ごめんね。昨日はあんなことがあって、疲れたでしょう」


 すでにエルシーが洗濯も朝食の準備も終わっていた。

 オルコットは兄と二人、エルシーの家に居候させてもらっているということは忘れていない。

 家賃を払っているわけではない。だからこそ、オルコットの得意な家事で恩返しをしないといけない。


「エル姉ちゃん、ごめんなさい。これ運んだらいい?」

「大丈夫よ。それよりトリ君、起こしてきて……今日は、はちみつトースト、はちみつ多めがいいわよね」

「う、うん。ありがとう」


 どちらかといえば、昨日のことで疲れたのはエルシーのはずだった。

 それでも、何事もなかったように、いつもと変わらず明るいエルシーがそこにいた。

 トリステンを起こして、三人で一緒に食べる朝食。

 オルコットが作る朝食はいつも目玉焼きだが、エルシーが作るときは甘いスクランブルエッグ。

 田舎では砂糖があまり使えなかったオルコットは、甘いスクランブルエッグはつくらない。もう、それはオルコットにとってエルシーの味になっていた。母親とも違う、今となっては大好きなお姉ちゃんの味。

 昨夜、お兄ちゃんはエル姉ちゃんの引き抜きを止めてくれた。でも自分は何も言えなかった。


「ねえ、エル姉ちゃんは勇者パーティに戻りたい?」


 食事をしながら、オルコットは聞いた。

 はちみつがたっぷり染み込んだトーストを飲み込んでから思い切って聞いてみた。

 戻りたい、と言われたらどうしよう。言ってから、オルコットは後悔した。


「そうねえ、ドラゴン騎士団のみんな、良い人だったよ。一人を除いては……」


 エルシーはコーヒーを飲みながら、思い出していた。


「ランクが高かったから、報酬も良かったし……」

「やっぱり……」


 当然といえば当然である。誰もが憧れる、トップ冒険者パーティ。自分でも誘われれば喜んで入るだろうと、オルコットは思った。


「でも、今のドラゴン騎士団ってどんな人がいるかわからないし、わたしは今の平和の鐘のみんなも大好きだよ。だから、今はいいかな」

「エル姉ちゃん……お兄ちゃん狙ってるわけじゃないわよね」


 ブッファ!

 エルシーとトリステンは飲みかけのコーヒーを吹き出す。


「なに言ってるのよ。オルちゃん」

「だから、何でもかんでも恋愛に結びつけるな!」


 心配事が一つなくなって、思わず口に出た軽口。

 しかし、おかしいな? こんなにカッコイイお兄ちゃんのことを好きにならないなんて……。やっぱり、エル姉ちゃんはほかに好きな人がいるんじゃないんだろうか?


~*~*~


「エルシー、お前はこれをどこで手に入れたんだ?」


 鑑定屋でいきなりそう言われた。

 どこと言われても困るんだけど、まあ、いいか。


「ケルベロスの牙に引っかかっていたのを拾ったのよ」

「はぁ? お前、今は勇者パーティじゃないだろう。なんでケルベロスなんて倒せるんだよ」

「倒してなんかないわよ。拾ったっていったじゃない。それよりも鑑定結果を早く教えてよ。お金はもう払ってるんだから」


 鑑定屋の口ぶりから何かすごいものだということは予想できた。


「これは魔具だ」

「それで、なんの魔具なの?」

「かいじょうの魔具だ」


 おバカ三人は頭をかしげる。


「会場?」

「海上?」

「階上?」

「開錠ですわね。鍵を外すという意味ですわ」


 うーん、やっぱり、マリーちゃんは頭いいわね。


「嬢ちゃんの言うとおり、開錠の魔具。鍵だけでなく、種類によっては罠なんかも外せるぞ。まあ、使用者の魔力量で失敗することもあるから、あまり過信はしない方がいいがな。それで、どうする? こちらで買い取るか? 五百万マルまでなら出すぞ」

「いやいや、持って帰るわよ。わたしたちに盗賊職がいないんだから、これほど欲しかった魔具はないわよ」

「じゃあ、これがあればダンジョンで宝箱を見つけても諦めなくて済むんだ。やった!」


 これで平和の鐘の弱点、盗賊職の不在がある程度、緩和される。


「じゃあ、早速、ダンジョンに行ってこの前の宝箱を開けてみようぜ。明後日からもう、お祭りだぜ。今のうちに稼がないと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オルちゃんのブラコン具合が意外に好きです(๑>◡<๑) エルちゃんの墓場まで持って行きたいミスって?? 勇者がエルをパーティーに連れ戻したい本当の理由も気になりますね! [一言] 少しずつ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ