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第17話 新米冒険者の小さな依頼人

「さて、どんなクエストがあるかな」


 そこにはギルドでクエストを探す平和の鐘のメンバーがいた。

 初めてダンジョンに挑戦するにあたって、クエストを探していたのだった。

 カッパーランクの捜索範囲である第一階層向けのクエスト。


「トリステン君、今度ダンジョンに潜るなら気をつけてね。何故だか第一階層でケルベロスが発見されているのよ。通常ならゴールドランク以上が三パーティーで当たる危険な相手です。たとえ見つけても逃げてくださいね」

「なんでケルベロスが!?」

「エル姉ちゃん、ケルベロスって?」


 ケルベロスとは地獄の門番と言われる巨大な狼。三首を持ちその各々が別々の魔法を口から吐く。氷、雷そして地獄の炎。その真っ黒な毛は魔法も剣も弾く。門番と言われるだけあって、基本的に同じ場所から動かず、自分のエリアに入った者のみを襲いかかる。そのため、見かけた段階で、近寄りさえしなければ危険性は低い。


「何かダンジョンに変化があったってことなのかな? 他には情報ないの?」

「ああ、ゾンビは増えたみたいよ。死んだあとでも、ゾンビの毒は効くから、普通は生き残った人が死体を連れて帰るはずなんだけど、このところ全滅する冒険者が増えたみたいよ」

「どうしてなんですか? マーヤさん」


 マーヤはちょっと言いにくそうにエルシーを見る。


「え!? あたし?」

「あなたっていうよりも、勇者の不在よ。勇者パーティがダンジョン深くに行く途中に、その他のパーティを救ったり、強いモンスターを狩ってくれていたから、パーティの全滅率が下がっていたのよ。その勇者パーティがいなくなったにも関わらず、みんな今までと同じようにダンジョンに潜るものだから……」


 勇者の不在の影響がこんなところに現れていた。

 やはりダンジョンの危険性は、以前に比べて上がっているようだ。初めてのダンジョンで無理なクエストを受けて、みんなを危険な目に合わせるわけにはいかない。経験を積むための簡単な依頼。それならば。


「最初は、ダンジョン草の採取にしましょう。多めに採取しておけば、オルちゃんの魔力回復にも使えるから」

「はい、確かにクエスト登録しました」

「え!?」


 エルシーが考え込んでいるうちにトリステンがクエストを登録してしまった。

 またか~。

 クエスト内容はオーク、三匹の討伐。ゴブリンよりも強いモンスター。豚と人の融合したモンスター。ゴブリンともども繁殖力が強いが、ゴブリンのように群れで動かない。通常単独行動、多くて二、三匹である。


「また~勝手に登録しちゃって~。マーヤちゃん、あと、ダンジョン草も登録しておいて。今回は最悪、クエスト完了しなくても帰ってきますからね」

「大丈夫だよ。エル姉ちゃん。無理はしないから」

「へっ、またお前らか! ガキども。あ!? なんでカッパークラスのクエストなんか見てんだよ」


 そこには、エルシーがゴブリンの血をぶっかけた戦士、タラスケがクエストを探しに来ていた。


「俺たちはカッパーランクに上がったんだよ。おっさんたちなんざ、すぐに追い抜いてやるんだからな」

「へ! 言ってやがれ。こっちとら、新しいメンバー様が入って、戦力が大幅にアップしたんだよ。あいつらがいたら、ゴールドランクも夢じゃないぜ。お前らはちまちまと、カッパークラスのクエストでもしてな。軽くケルベロスでも狩ってくるかな。わはっはっは」


 高笑いをしながら、ギルドから出て行ってしまった。

 それを見送ったトリステンは不思議そうな顔をしていた。


「なんだあいつは?」

「ああいう輩は無視よ。それより無理しないって約束よ。きゃっ!」


 そう言ってギルドのドアを開けた瞬間、女の子がそこにした。

 真っ黒な髪を二つの三つ編みにしたエルシーの腰ほどまでの小さな女の子。

 思わず、蹴りそうになり、体をひねって避けようとして態勢を崩す。

 バキッ!

 エルシーの大きな体がドアにぶつかると、音を立てて壊れてしまった。


「あ! またやった!」


 マーヤがカウンターから叫び声を上げる。


「エル姉ちゃん、大丈夫?」

「エルお姉さま、お怪我は?」

「怪我を見せて!」


 三人は異口同音にエルシーを心配する。

 ドアにぶつかったエルシーはむくりと起き上がると、驚いて立ち尽くす小さな女の子を、着ているベージュのワンピースの上から触り、怪我がないか確認する。


「ごめんなさい。怪我はない?」

「は、はい。あたしは大丈夫です。それよりもお姉さんの方こそ、血が……」


 転んだ時にドアに頭をぶつけたのか頭から血を流していた。

 そこで初めて自分が怪我をした事の気がついた。


「あたた……」

「エル姉ちゃん、動かないで。キュア!」


 オルコットはバードナから習った回復魔法を使うと、エルシーの出血はすぐに止まった。ボサボサの前髪に隠れている傷も塞がったようだ。


「ありがとう、オルちゃん。魔法も上手くなったわよね。それより、お嬢ちゃんはなんで、ギルドの前なんかに?」

「あのう、お願いがあって……」

「あ、またあなたなの? うちにお願いするなら、お金が必要なのよ」


 マーヤがカウンターから出てくると、少女に向かって話しかける。


「お金を持ってきました。お願いです。ポチを探してください」


 そう言って、小さな女の子は両手にお金を持っていた。小銭を含めた約五百マル。おそらくは女の子の全財産だろう。


「お嬢ちゃん、それじゃあ、誰も依頼を受けてくれないわよ。ごめんね」

「お願いします。早く見つけててあげないと、あの子どこかで泣いてると思うんです。お願いします」


 女の子は今にも泣き出しそうに瞳に涙を浮かべていた。


「どうしたの? マーヤちゃん」

「この子の犬がダンジョンに入っちゃったみたいなのよ。それを見つけて欲しいんだって。でも、こんな金額だと、うちじゃあ取り扱えないし」


 マーヤは困っていた。決してマーヤは非情ではない。ただ仕事としてギルドの受付をしている以上、お金が合わなければ受けることはできない。


「どんな犬?」


 女の子の涙を浮かべている澄んだブラウンアイにタオルを当てて、オルコットが尋ねる。


「真っ黒くて大きいの。ポチって呼ぶと、長い尻尾をふりふりして寄ってくるの。あと、このお人形が大好きなの」


 そう言って、ボロ切れで作られた人形を見せる。ところどころ噛み跡が付いて、使い込まれていた。


「ちょっと、オルコットちゃん?」

「お兄ちゃん、いいわよね」

「どっちにしろ、ダンジョンに行くんだし、一緒だろう」

「お金は?」

「いらないわよ。その代わりポチが帰ってきたら、おもいっきり可愛がってあげてね」


 そう言って女の子の頭を撫でるオルコットにうん、と飛びっきりの笑顔を見せる依頼主だった。

 あら、オルちゃん。前金いただいちゃったみたいね。


「だそうよ。マーヤちゃん」

「お金が絡まないなら、ギルドは何も関与のしようがないわよ。ただし、うちで受けたクエストもちゃんとこなすのよ。保険が使えなくなるから」

「わかってるわよ。さて、帰ってダンジョンに行く準備をするわよ。明日の朝には初ダンジョンよ!」


 そう言って、ギルドから帰ろうとしたエルシーの肩をガシッと掴む手がひとつ。


「エ・ル・シー。ドアの修理代!」


 マーヤはエルシーの体当たりで壊れたドアを指差して、メガネをキラリと光らせる。

 見逃して~またお金が~わたしのお酒代~。


 こうして小さな依頼人サーシャの依頼を受けた平和の鐘のメンバーは、明日、初ダンジョンに挑むのであった。

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