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第16話 トリステンは新しい武器を手に入れる

「こんにちは、ゾーゲン親方いますか?」


 エルシーは武器屋の無骨なドアを挨拶しながら開けと、そこには背がエルシーと同じくらいの坊主頭の男が店番をしていた。


「いらっしゃい、エルシーさん。親方なら裏の鍛冶場にいますよ」


 この武器屋は鍛冶場と工房、そして販売店が一緒になっている。ゾーゲン親方をはじめ数人の職人で全てをまかなっている、中堅規模の店になっている。親方の腕は確かで、弟子入り希望者も後を立たないのだが、よくある頑固親父のために、やめてしまう弟子も多く、規模はあまり大きくない。


「じゃあ、勝手に裏に行くね」


 勝手知ったる馴染みの店。エルシーは店番の返事を待たずに奥へと入っていってしまった。

 トリステンたちは初めての店にちょっと緊張しながらも、エルシーについていく。

 研ぎ直しや調整、装飾関係をしている工房の脇を抜け、モクモクと煙が立っている鍛冶場のドアを開ける。


「親方~お客さんですよ~」


 エルシーがノックもせず、鍛冶場に入ると、そこは熱気のこもった、石炭と鉄の匂い立ち込める男の職場。

 そこに上半身裸の男女が二人。胸に包帯を巻いている女性が悲鳴を上げる。


「きゃ!」

「オルちゃん、マリーちゃん、見ちゃダメ!」


 慌ててオルコットの目隠しをするエルシー。マリアーヌにはスティーブンが目隠しをする。

 そこにいたのは着物の上半身をはだけている蝶子と白髪まじりにいかつい顔、筋肉隆々の上半身の男、ゾーゲン親方だった。


「よう、エルシー、久しぶりじゃねえか。ちょいと太ったんじゃねえか? 少しは筋肉つけろよ」


 ゾーゲン親方は片刃の反りのついた刀を片手に、開口一番、エルシーの体つきの話をする。

 エルシーはそれを無視して、慌てて服を着直す蝶子に話しかける。


「お蝶ちゃん! まさかあなた、この間言ってたこと本気にしたんじゃないんでしょうね?」

「ち、ちがうわよ。新しい刀を打ってもらっていたの。実際に刀を振ってみてゾーゲンさんに筋肉の動きなんか確認してもらってただけよ」


 熱気のせいか、慌てたせいか真っ赤になって否定する蝶子。


「そうなの? ……で、実際どこまで行ったの? 抱きついた? ふたりきりだったんでしょう。キスぐらいしたの?」

「うるさい! そんなことできるわけないじゃない」


 こそこそと話す二人。


「おい、エルシー、冷やかしなら帰ってくれ、これでも忙しいだぞ。こっちとら。あと、あちこっち触るんじゃねえぞ。お前が触るとなんでか爆発するんだからな」

「ああ、ごめんなさい。親方。紹介するね。この子達がわたしの新しい仲間なの」

「エル姉ちゃん、そろそろ、目隠し外してもらってもいい?」


 ずっとオルコットの目隠しをしていたのを忘れていたエルシーは、慌てて手を離す。


「トリステンと申します。パーティーのリーダーで、戦士をしてます。ランクがカッパーになったので、自分用の武器を買いに来ました」


 トリステンはずっと蝶子を見ていたが、我に返ったように、親方に挨拶をする。

 あれ? わたし、目隠ししなきゃいけないのって、トリ君とスティーブンさんの方だったんじゃない?


「ほう、小僧がいっちょまえに、リーダーかい。おめえにゃまだ、うちの武器は早いんじゃないか?」


 ジロジロとトリステンの体つきを見ていた。


「親方、フルオーダー品じゃなくてセミオーダーでお願い。それにトリくんは、お蝶ちゃんの弟子だよ」

「本当かい。蝶子」

「あ、はい。私の手が空いている時に手ほどきしてます」

「ほほう、そうかいそうかい」


 ゾーゲンはトリステンの腕や腰などを触りながら、次々と質問する。


「まだまだ、成長期だな。よし、分かった。武器の種類は? 両手、片手どっちだ? 斬る、薙ぐ、突く、叩くのどれを主に使う? 自分で砥げるか?」

「武器は片手剣です。カウンター主体なので突きが多いです。家で包丁は砥いでました」

「そうかそうか、それで、そこの妹さんが崖から落ちそうになって、武器を捨てなきゃならなくなったら……」

「オルを救います」


 トリステンは即答だった。

 武器職人の前で武器を捨てると即答した。職人が魂を込めて時間と技術と経験をかけて作り上げる武器を。

 通常の冒険者であれば嘘でもどちらも選べないとか、どちらも取る。たまに、武器を取ると言ってゾーゲンの機嫌を取ろうとする。それだけ、ゾーゲンが自分が造った武器に対して愛着と誇りを持っている事は有名である。


「ほう、武器職人の前でいい根性だな。小僧」

「オルでなくても、エル姉ちゃんでもマリーでも師匠でも、あなただとしても俺は躊躇なく武器を捨てます。俺に仲間の命以上に大切なものはありません。気に入らなければ武器は結構です」


 そう言ってトリステンは頭を下げる。


「ほう、わしまで助けてくれるか、剛気な性格しとるの。お前の弟子は」

「いい弟子でしょう」


 蝶子は嬉しそうにゾーゲンに微笑みかける。


「トリ君、合格みたいよ」


 エルシーは困った顔でゾーゲンたちの会話を聞いていたトリステンに答え合わせをする。


「親方は、なにより嘘が嫌いなのよ。あと、仲間を大事にしない人も」

「武器なんぞ、いくらでもワシが作ってやる。しかし、こっちもプライドかけて造ってるんじゃ。正直に意見を言ってもらわんと、良い物もできん。試すようなことを言ってすまんのう。ワシに遠慮して嘘つく連中も多いもんでな。しかし、ワシまで助けるって言ってくれたのは、これまででお前で二人目だ」


 そう言って、親子以上年が離れているトリステンにゾーゲンは頭を下げる。


「ちょっと待っとれ、ワシ自ら、選んでやる」


 そう言ってゾーゲンはエルシーたちを置いて、店へ行ってしまった。

 トリステンとオルコットは興味津々で蝶子に鍛冶場のことを聞いてい親方を待っていた。


「エルシーさん、ゾーゲンさんが言っていた一人目って、どなたかご存知ですか?」


 それまで静かにしていたマリーがエルシーに話しかける。

 下手に触って親方に怒られないように、端に座ったままのエルシー。


「多分、勇者よ。初めてここに来た時に、同じように答えてたって聞いたから」

「そういえば、エルシーさんは長年冒険者をしているんですよね」

「まあ……一応ね。そこのお蝶ちゃんも一緒だったのよ。あと呼び方はエル姉ちゃんでいいわよ」

「はい、分かりましたわ。エルお姉さま」

「そういえば、マリーちゃんはなんで冒険者になろうと思ったの?」


 トリステンとオルコットには明確な目的がある。強くなり、村を守りたいと。

 しかし、マリーは領主の娘として何不自由なく育っていたはず。一攫千金のチャンスがあるとは言え、危険と隣り合わせの冒険者になったのだろうか? 


「それは……」

「おう、待たせたな!」


 マリーが口を開こうとしたときゾーゲンが剣を片手に戻ってきた。

 それは黒い光沢を放つ片手用の両刃剣だった。


「軽いですね」


 ゾーゲンから剣を受け取ったトリステンが呟く。

 その色合い、大きさから予想していた剣の重さよりも半分ほどの重さだった。

 軽く振ってみると、思ったように動く。軽すぎず、重すぎず、今のトリステンにとってちょうどいい重さだった。


「どうだ、小僧。何か不具合があるか?」

「すごくいいです。すごく振りやすいです。ただ、少し柄を太くできますか?」

「おう、一枚、滑り止めを巻けばいいか?」

「お願いします」


 柄に革の滑り止めを巻き始めた親方にエルシーはそっと声をかける。


「親方、それっていくら?」

「ああ、これか? 三百万マルだな」

「三百万マル!?」


 通常の片手剣であれば安いもので十万マル、高くて五十万マル。親方の持ってきた剣を一目見て、普通の剣ではないと分かった。しかし、ここまで高価だったとは予想以上だった。


「黒龍のウロコを使った特別製だ。これでも格安だぜ」


 黒龍。

 一年ほど前、エルシーたち勇者パーティが満身創痍になりながら、なんとか撤退させたモンスターである。

 その戦いで黒龍自体もかなりの深手を負い、幾つかの素材を落としていった。

 黒龍のウロコはそのうちの一つだった。


「逆にいいの? そんな希少な武器」

「武器っていうのは使ってなんぼ。そして渡すならワシが気に入った相手がいいだけだ」


 あ~、お酒減らすか~それだけで足りるかな? しょうがない、貯金を崩すか~。

 嬉しそうにその剣を振り回すトリステンを見て今更、購入できないとは言い出せないエルシーは頭を悩ませていた。


「お金、ご都合いたしましょうか?」


 マリアーヌがエルシーにそっと声をかける。


「大丈夫よ。わたしが言い出したことだから」

「そうですか。差し出がましいことを言ってしまって、すみません。お姉さま」

「ごめんね。心配させちゃって。ありがとう」


 そう、あたしはお姉ちゃんなんだからしっかりしないとね。

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