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第11話 新米冒険者たちは賢者バードナに会う

「まだ、片付いていないのだけど、空いてるところに座ってて。お茶を持ってくる」


 バードナは四人を案内して教会に戻ると、長椅子に座って待つように言って、奥に引っ込んだ。


「オルちゃん、無事で良かった。怪我はない? ポーション飲む?」

「ええ、さっきのゾンビさんに回復してもらいましたから。それより、お兄ちゃんは大丈夫なの」


 混乱はしているが、痛みも傷もなくなったオルコットは、重そうに体を動かす兄の心配をする。


「ああ、ちょっと痺れが残ってるけど、大丈夫だ。本当に無事で良かった……」

「あの後、あそこから飛び降りようとするトリ君を、抑えるの大変だったのよ」

「また、オルが一人で泣いてるんじゃないかと思ってな」


 そう言って頼れる兄の顔を恥ずかしそうに背ける。

 お兄ちゃんと言いながらその背中に抱きつくオルコット。

 ああ、よきよき、美しい兄妹愛。やっぱりこのふたりは一緒にいてこそ輝くんだよね。あの取り乱したトリ君はちょっと怖かったもんね。


「お待たせしました」


 カップとティーポット、それにクッキーまでのせたトレイを持ってやって来た。

 美味しそうな飲み物とお茶請けをもってきた、その青白く生気のない顔の男。


「ああ、持ちます」


 オルコットは慌てて、そのトレイを持とうとバードナに近づく。


「オルちゃん、ダメ!」

「きゃー!」


 エルシーの制止の言葉と男の声が重なる。


「え!?」


 バードナはトレイを持ったまま、悲鳴を上げて後ずさる。


「バードナは女性恐怖症なのよ。話すのもダメなの!!」


 落ち込んだ瞳の恐怖の色を浮かべたまま、壁際まで後退りで逃げていた。


「助けて~エルシー」

「はいはい、オルちゃん、ちょっと下がってね。危ないからそれは預かって置くわよ」


 オルコットを下がらせて、バードナからトレイを受け取ると、代わりにみんなにカップを配る。

 バードナは四人から一際離れたところで、その姿に似つかわしくなく、ビクビクと二人を見ていた。


「えっと、わたしが紹介した方が良いわよね。こっちの女性恐怖症の彼は、賢者のバードナ。わたしの昔の冒険者仲間よ」

「バードナです。今はここの神父をしています」


 背の高い男はトリステンを見ながら、ぺこりと頭を下げる。


「バードナ、こっちのふたりはわたしの今のパーティで、トリステン君とオルコットちゃんよ」

「リーダーのトリステンです。さっきはすみませんでした。そして妹を助けていただいて、ありがとうございます」


 トリステンは椅子から立って、頭を下げる。

 兄として、パーティのリーダーとして自分の役割を果たそうとするトリステンを見て、エルシーは改めて良い子だと思った。


「大丈夫ですよ。それよりも痺れはもう大丈夫ですか?」

「はい、もう大丈夫です」

「オルコットです。助けていただいて、ありがとうございました。あのう、バードナさんはなんでゾンビになったんですか?」


 落ち込んだ顔をした男は顔を真っ赤にして、もじもじと下を向いて、エルシーをチラチラと見て、助けを求めていた。


「あー、ふたりとも勘違いしてるみたいだけど、バードナはゾンビでもなんでもなく、もとからこんな顔なのよ。あら、でもちょっと痩せたんじゃない? ちゃんと食べてるの?」

「この教会を修理したり、裏の畑を作ったりして、いつも簡単なものしか食べてないからかな? そういう、エルシーは太ったね」

「あーそれで、顔に赤いペンキつけてるの? それより、あんたねー、仮にも女性に太ったね、は無いでしょう。まあ、オルちゃんのご飯が美味しくて、太ったのは事実なんだけどね。ははは。それで最後にこちらの女性は、さっきポイズンウルフに襲われていたのを助けたんだけど、私たちもよく知らないのよね」


 乱れていた美しく輝く金色の髪の毛をなんとか手グシで直して、女の子が優雅に椅子から立ち上がった。


「わたくしはマリアーヌ・ベンデルフォンです。お礼が遅くなりましたが、さきほどはありがとうございました」

「ベンデルフォン? どこかで聞いた気が?」


 エルシーがなにか思い出そうと首をひねる。


「エルシー、この街の領主ベンデルフォン様じゃないか? 依頼を受けに、何度か屋敷に行っただろう」

「あー、え!? もしかして領主様の関係者?」


 エルシーが尋ねると、そのスカートの端をひょいと持ち上げて、華麗にお辞儀をした。


「あらためまして、ベンデルフォン家五女のマリアーヌ・ベンデルフォンです。少しお尋ねしたいのですが、このあたりに一薬草という薬草が生えていると聞いてやってきたのですが、ご存知ありませんか?」

「一薬草? バードナ、あれって夏に花が咲く薬草だよね。薬草って言うからには薬用ですよね。だったら花が咲いた一薬草を乾燥させて、使うんじゃなかったっけ?」

「ええ、そうですよ。よく覚えていましたね」


 バードナーは回復魔法の使い手ではあるが、回復魔法とは傷や打撲には有効だが、病気に関しては種類によっては悪化させてしまう可能性がある。バードナの本業は神父であり、その本分は人を救うことである。そのため病気用の薬草にも詳しい。エルシーはポーターとして、バードナから預かった薬草について基本的な知識を得ていた。


「それでは今の時期の一薬草を持って帰っても無駄なのですか?」

「詳しく話を聞かせていただいていいですか?」

「……これは内緒の話なんですが、父が病気で寝込んでいるのです。もう、かれこれ三週間ほども。お医者様のいうことには、治療に多量の一薬草が必要だというのです。それで、わたくしがちょちょいと取りに来たのです」


 街から近いとは言え、まったく森へ薬草を取りに行くような服装でない。女の子はちょちょいと薬草を取りに来たようだ。護衛もなし、武器も技量もないけれど、自信だけは持っているようだ。


「なぜ、一薬草をご自身で? ギルドに依頼すればよかったんじゃないですか?」

「お父様が病気で床に伏しているなんて、知られたら大変です。お父様の足を引っ張ろうという輩はたくさんいますからね。いつも内密の依頼をしていた冒険者のパーティが最近解散してしまったようで、困っていたのですよ」

「ああ、そうなんですね。パーティが解散だなんて、タイミングが悪いですね」


 エルシーがマリアーヌの言葉に同情するしていると、バードナは何かをエルシーに伝えようと目配せをするが、全く気が付いていなかった。


「ええ、そうなのですよ。ドラゴン騎士団って、この街で一番の冒険者パーティだったらしいのですよ。ご存知ですか?」

「へー、ドラゴン騎士団って強そうな名前ですね」


 呑気に答えるエルシーの言葉は、悲鳴にかき消された。

 外から助けを求める男の声と、金属がぶつかり合う甲高い戦闘音。

 真っ先に動いたのトリステンだった。


「エル姉ちゃんはここで待機、オルはいつでも教会に逃げ込める場所で援護」


 クロスボウを持ち、腰には剣を持って教会から飛び出した。

 判断と行動は最速で。

 蝶子からの教えだった。

 オルコットを背に教会から出て見た光景は、ゴブリンと戦っている冒険者の姿だった。

 冒険者の数は四人。見る限り戦士が二人と盗賊が一人、そして魔法使いが一人。少数とは言え、バランスの良いパーティ。

 その四人がゴブリンに襲われていた。

 戦士の腹くらいの身長。緑の肌に下半身には腰みのをつけて、手には各々鉈や斧、短剣を持っていた。

 その数はざっと見て三十。四人で相手にできる数ではないのは初心者冒険者のトリステンの目にも明らかだった。

 その上、魔法使いは傷つき、残りの三人にも疲労が色濃く見える。


「あ!」


 戦士の一人が態勢を崩し、尻餅をつくのを見て、オルコットが思わず声を上げる。

 その戦士に、襲いかかろうとするゴブリンの頭に矢が刺さり、剣を抜いた少年冒険者が戦士をかばうために走る。


「目潰しするから、立て直して! オル、ライト!」


 トリステンは一匹のゴブリンの胸に剣を突き立てながら、戦士に声をかけて、魔法使いの妹に指示を出す。

 大きな光の玉でゴブリン達をひるませると、トリステンは二匹の首を切る。他の戦士二人と盗賊も態勢を立て直し、ゴブリンに襲いかかる。しかし、多勢に無勢である。一匹一匹が弱いゴブリンでも数の力は侮れない。


「マルチファイアアロー」


 男の声と同時に炎の矢が、次々とゴブリンの頭に魔法の矢が刺さり燃え上がる。たったそれだけで、十匹以上のゴブリンが倒れ、一気に半分以下に数が減る。

 オルコットのそばにいるひょろりと背の高い痩せこけた男が、次弾を準備する。


「マルチファイアアロー」


 立て続けに放たれる炎の矢にゴブリンは残り数匹に激減する。数の優位がなくなったゴブリン達は逃げ腰になっていた。


「逃がすな! あいつら繁殖力が強いから倒せるだけ倒すぞ」


 戦士たちは最後の力を振り絞ってゴブリンを追撃する。ただでさえ弱い上に逃げ腰の相手は、戦士三人の敵ではなかった。

 ほどなく、冒険者たちの勝利で戦闘は終了したのだった。

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