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6.彼女と駆け落ち中にとんでもないことになってたので、方針を決めました。

「何でそんな事になってんのっ!?」

「バウ、バウバウゥ」

「ゴガァ、ゴゴガァ」

「ああもう。ケルちー、オガ助! いいかげん離れろウザい!」


 ボン吉たちの説明を聞きながら。

 アタシはケルベロス・ハウンドのケルちーと、オーガ・ロードのオガ助も復活させ、呪縛からも解放した。

 正気を取り戻した魔物たちはアタシの顔を見るなり喜んで、ベタベタすり寄ってきてウザいことこの上ない。


「今、大事な話をしてんだから! お座り!」

「バウ!」

「ゴガァ!」


 軽めに威圧をかけて、ようやくおとなしくなった。オガ助とか正座してる。


「陛下……ふがいない拙者たちをお許し下さい」

「ごめんなさい」


 骸骨剣士のボン吉と、デュラハーンのデュラ坊が頭を下げた。デュラ坊は頭ないけど。


「いや、べつにお前らのせいじゃないけど……つか、アタシがいきなし駆け落……いなくなったせいっつーか」


 アタシは罪悪感もあって、言葉を濁した。


「まさか、ラセツも行方不明とはなー……死んだはずないんだけどなぁ」


 ボン吉たちが話した、アタシがいなくなった後の経緯はこうだった。

 アタシ、魔王バルマリアと副王ラセツがいなくなり、魔王軍は瓦解。

 現在、この世界テスラ・クラクトのほとんどは人族が支配していた。

 だが同時に勇者サリアもいなくなってしまった為、強大な魔物に対する切り札もまた失われていた。

 そして近年、また魔物が組織だって活動を始めた。

 頻繁に人を、集落を、街を、そして国を襲うようになってきたという。


「嘘なんですよ!」

「拙者たちは陛下を失い、人族相手に戦を仕掛けるのは止めたんです。もう地味でいいから、日陰で細々やっていこうと!」

「どんだけヘタレだよっ!」


 いわく、テスラ・クラクトの軍事国家アルレシア王国の宰相が、禁断の古代魔法を復活させたらしい。

 それは魔物や魔族を奴隷として使役する秘術。

 その宰相は多数の魔物たちを秘術で支配し、マッチポンプ的に危機を作り出し、それに先頭を切って対応することで自らの地位を向上させているようだった。


「アルレシアの宰相って……あのさっきの小デブか?」

「そうです。ディードリヒ閣下……ああクソ、癖で閣下とか……あのムカつく人族、僕たちを古代魔法で隷属させて、好きに操ってたんです!」


 昔に戻って一人称が僕になってる、デュラ坊。

 ってそんなことはどうでもいい。

 あの小物で小デブの小生意気宰相が、禁断の古代魔法を復活させた?

 魔物たちを使役してる?


「……マジでえ? 確かに欲深そうな男だけど。とてもじゃないけど、んな実力者には見えなかったなあ」

「本当ですよ!」

「今日、勇者召喚の儀式を襲撃したのだって、 アイツに命令されたからなんです!」

「えっ」

「結界の一部に穴を開けておくから、そこから侵入して召喚された異世界人を殺せって!」

「実際に結界に穴は開いておりました」


 ああそうか。確かに魔物の軍勢が現れて、それに対応するのは自分の手柄でなくては意味がない。勇者なんて存在がまた出てきて、美味しいところを掻っ攫われてはたまらないということだろう。

 だけど、ならそもそも勇者召喚なんてしなければいい話だ。

 さっき、あいつは勇者召喚の儀式の全権は自分が握ってるとか言ってた。だったらわざと失敗とかすればいいだけだ。

 何か、儀式をしなくてはならない理由があったのか。


「……って、ちょっと待って」


 結局、ボン吉たちの襲撃はアタシに邪魔されて失敗した。

 だけど、それで諦めるか?

 わざとだろうけど、今回の王国の護衛部隊は、戦士職も外されごく小規模。しかも黒魔術師たちはほぼ全員殺されている。

 勇者を殺したいとしたら、まだまだ奴にとって好機は続いてるってことじゃないのか!?


「ねえ、今回動いてる魔物ってお前らだけ?」

「あ、ええと……」

「神殿の近くに別働隊が。不測の事態があれば、ディードリヒの指示で動く手筈でした」

「それ早く言えバカッ! サリ……日々華が危ないッ!!」


 迂闊だった。

 アタシが遠視で確認すると、すでに日々華たちは魔物の一団に取り囲まれている!


「くっそ!」

「あっ」

「バルマリア様ッ」


 アタシはすぐに日々華たちのところに駆け出した。

 やろうと思えば魔法陣なしでも空間転移はできる。けど、覚醒したてで魔力がまだ一部休眠中。人族の体に魔王の魔力が完全には馴染んでない状態だ。

 さらにボン吉たち四体の魔物を死から復活させ呪いを解いたから、残りの魔力は温存しておきたい。


「大丈夫、日々華なら……!」


 遠視で見た日々華は、気迫に満ちていた。

 あの状態の日々華なら、たとえ未知の魔物相手にも簡単に遅れをとることはない。

そう確信しながらも、アタシは急いで山の中を駆けた。


 ***


「私には分かる。香苗が私をおいて、死ぬはずがないんだ! だから……一刻も早くコイツらを倒して助けに行く!」

「お、落ち着いて下さい、ヒビカさんっ!」

「そうだっ! 幸いこの魔物どもはさっきより低レベルだ、防御陣で耐えながら救援を待って」

「そんな悠長なことを言ってる場合!? 早くこのバリアみたいなの消して! 私は、香苗を助けに行くんだ!!」


 うう……日々華、そんなにもアタシの事を……嬉しいよう。嬉しいよう。


「……何をしてるんですか? 陛下」

「ボン吉ぃ、日々華が、日々華がね。アタシを助けにきてくれるんだって!」

「それで、陛下は何を」

「遠くから見守って、喜びを噛み締め中……」


 転移なんてしなくても、アタシが本気で駆ければこんな距離ほんの一瞬。

 木々の陰から覗いて見れば、白魔術師達が例の攻性防御陣を張って、魔物たちの攻撃を防いでいるところだった。

 ロウナーが言った通り、別働隊の魔物たちは低級なゴブリンやホブゴブリンが中心で、ボン吉やデュラ坊、ケルちー、オガ助に比べれば弱いヤツばかりだった。

 これならすぐに危険はないと安堵したところで、ボン吉達が追いついてきたのだ。


「……バルマリア様」

「バウゥ」


 なんだよデュラ坊、ケルちー。

もうちょい浸らせてよ、日々華に想われるこの幸せに。


「あの、そもそも……どうして勇者召喚で、バルマリア様が異世界から現れたのですか?」


 ぎくぅ!


「それは拙者も気になっておりました。それと、あそこにいるもう一人の異世界少女。あれが勇者ではないのですか?」


 ぎくぎくぅ!!


「どうしてバルマリア様が、勇者と仲良くしてるんですか」

「お前ら」

「……はい」

「ゴガァ?」

「アタシのこと、信じる?」


 シンプルなアタシの問いかけに、みんな目の色が変わった。一体は眼球が無いし、一体は顔がな(以下略。


「無論です、陛下」

「バルマリア様にどこまでも、ついてきます!」

「バウ!」

「ゴガ!」


 まったく馬鹿な連中だ。

 アタシはお前らを見捨てて、平和な異世界でのうのうと暮らしてたっていうのに。


「よし、なら本当のことを言うね。アタシと一緒に来たあの子、渡瀬日々華は確かに勇者サリアの生まれ変わりだよ」

「やはりですか」

「そしてアタシは、その日々華に惚れてる」

「……は?」

「……へ?」

「……バウ?」

「……ゴガ? 」


 うん、呆気にとられて言葉も出ないみたいだ。

 今のうちに畳み掛けよう。


「アタシは、勇者と一緒に異世界の日本に転生してたんだ。だからこっちで勇者が召喚されて、もれなくアタシもついてきた。魂に命綱をつけてたからね、いつでも日々華を守る為に」

「は、はあ……」

「だから、これからも日々華を守っていく。けど安心して。お前ら魔族、魔物たちも悪いようにはしない」


 それだけは約束する。


「必ずみんなでまた楽しく暮らせるように、してみせるから」

「は、はあ、しかし」

「勇者は、僕たちの敵じゃ……」

「今のあの子は、ただの日々華。転生した時に勇者としての力は厳重に封印したからね。だから宝剣レーヴァテインを手にしても、宝珠は光らなかった」


 それでも剣を鞘から抜けたのは気になる。

けど記憶も戻る気配はないし、大した問題じゃないだろう。


「それと今のアタシも、正確にはもうバルマリアじゃない。魔王の力は残してるけど、存在としての核は『黒崎香苗』っていう、日々華と同じただの女子高生だよ。だからお前らも、アタシのことは香苗カナエって呼んでほしいな」

「か、カナエ様……?」

「うん、ありがと。……アタシはこれから日々華と行動しながら、裏で動いてディードリヒをなんとかする。魔王の記憶は封印し直してね」

「記憶を封印!? なんでですか!?」

「バウワウ!」

「だって、異世界召喚された主人公勇者の仲間が、魔王なんておかしいじゃない?」

「……は? しゅ、主人公!?」

「……ウガガ?」 

「勇者は異世界を旅しながら、仲間と少しずつ友情を深め、ともに戦っていく! それがイイじゃんロマンじゃん! その仲間が魔王じゃ意味分かんないでしょ!?」

「いや、あの、その」

「そして絶対絶命の大ピンチに、試されるアタシたちの絆! そして試練を乗り越えた時に気づく。二人を繋いでいたもの、それは友情ではなく、愛そのものだったことに……きゃあ! 最高!」

「……バゥゥ……」


 おいケルちー、今ドン引きしたな?

 身悶えするアタシに今ドン引きしただろ?

 いい度胸だ。魔王に向かってその態度、もっぺん文字通りの地獄の番犬に戻してやろうかぁ!?


「へ、陛下……それは」

「カ・ナ・エ!」

「か、カナエ様!」


 アタシに睨まれ訂正されて、ボン吉は慌てて訂正する。

 危ない、あやうく素が出るところだった。

 というか『バルマリア』も『黒崎香苗』も、今のアタシにはどっちも素だな。うまいこと融合できた。日本で育った香苗アタシが、魔王バルマリアに近いメンタリティに育つとは意外だった。


「ではカナエ様、魔王の力も封印されるということですか? それはあまりに危険では」

「うん。だから封印は記憶だけで、力の方は無くさないつもり。じゃなきゃ醍醐味の『俺TUEE』が出来ないもんね!」

「ゴガァ? ゴガゴガァ……?」

「僕もだよオガ助。……カナエ様が何を言ってるか、全然分からない……」


 混乱しているオガ助とデュラ坊。ちっ、察しの悪いやつらだ。


「……しかしカナエ様。それでは魔王の記憶を封印された後で、整合性がつかなくて混乱されるのでは?」

「うん。だからその辺のフォローをお前らに頼みたいんだ」

「グガァ!?」

「バウバウゥ!?」


 目をひん剥くオガ助とケルちー。

 ボン吉とデュラ坊はなんか後ずさりしてる。


「陛下、それはあまりに無茶振り……」

「だから、カ・ナ・エ! 魔王の記憶が眠ったら、敬語もやめてよ? 呼び捨ても許してあげるから」

「し、しかし……」

「大丈夫、大丈夫。どうにもなんなかったらまた起きるからさ。どうせ日々華が魔族や魔物のみんなを倒したら、後からアタシが復活させて呪い解かなきゃだし」

「その時には、起きて下さる?」

「うん」

「ならわざわざ記憶を封印しなくとも、あの少女の前では忘れたフリをしていればよいだけでは……」

「やだつまんない。それじゃせっかくの異世界転移ラノベシチュを楽しめない」

「お願いですから拙者たちに分かる言葉でお話し下さい!」

「相変わらず細かいなあ、ボン吉。ハゲるよ? あ、元から生えてないか」

「陛下ぁ!」

「だからカナエ! 大丈夫だから。記憶眠らせても、お前らのことは絶対の味方になったって、認識しとく」


 そこまで話した時、叫ぶような声が聞こえてきた。日々華だ。


「——もういいよ! このバリアを消してくれないのなら、無理矢理にでもっ!」

「待ってっ、危険ですヒビカさんッ!」


 マズい! お姫様の制止も聞かないで、日々華は攻性防御陣から強引に出る気だ。身体ごと突っ込んだら、今度は火傷どころじゃ済まない!


「じゃ、後はよろしくっ!」

「あ、待っ——」

「バウッ!」

「ゴガァ!」

「は、はいっ!」


 アタシはレーヴァテインを手に木陰から飛び出すのと同時に、『バルマリアの記憶』を封印した。


 ***


 ——あのバカ!


「日々華ぁっ!」


 ゴブリンの群れに囲まれてるクセに、防御陣から出ようとしている日々華。

 そのピンチが視界に飛び込んできて、アタシは手にしていた白い剣を投げつけた。


 ドシュン!

 ドゴォン!!


 ゴブリンの群れの一部が吹き飛ばされた。その余波で白魔術師たちの防御陣も消失。地面にクレーターみたいな大穴が開いている。


「……ありっ?」


 何この威力。アタシ、剣を日々華に投げ渡そうとしただけなんだけど。

 妙に力が入った感覚があったので、とっさに目標をゴブリンの群れに変えてほんと良かった。


「な、なんっ……」

「い、い、一体、なにが……」


 ロウナーにターニャ姫、それに白魔術師たちが茫然自失している。


「……香苗っ!」


 飛来した剣の軌道を追って視線を向けた日々華が、アタシに気づいた。


「香苗、本当に香苗なの!? ……良かった……良かった、生きてっ……!」


 日々華が、アタシの無事を喜んで泣いている。

 シャッターチャンス!

 なのにアタシのスマホは遥か異世界武道館のロッカー! ガッデム!

 ってそれどころじゃない!


「日々華、剣を取って! ゴブリンたちがまだっ!」


 爆散を免れたゴブリン、ホブゴブリンの群れが、防御陣の無くなった日々華たちに向かって距離を縮めている!


「ウギャギャ!」

「グギャ!」

「くっ……させない!」


 日々華はアタシの声に素早く反応して駆け出し、クレーターの中心に突き刺さった白い剣を引き抜いた。


「来いッ! 化け物たち、お前達の相手はこの私だっ!」


 剣を振りかぶった構えで、気勢を上げる日々華。

 って……上段の構え!?

 日々華は一瞬アタシの方を見て、ニッと笑う。


(まさかこの状況で……自分も上段を使えるってアタシに見せたいの!?)


 剣神の乱舞が始まった。


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