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3.出番が回ってきたー! そして遂に覚醒するよ!

「……回復魔法っ! あるんでしょう!?」


 大丈夫、アタシは冷静だ。

 美しい肌に、雷による火傷の特徴である雷紋を負って苦しむ日々華を抱きながら、アタシはロウナーに向かって叫んだ。


「もちろんだ。その程度ならば、白魔術師たちの治癒で命に別状はない。しかし……」

「その程度!? 日々華はっ!」

「落ち着け! のんびり治癒している暇などないということだ!」


 カチャ、カチャ、カチャ、カチャ……


 乾いた音が響く。

 それが四ツ腕の骸骨剣士による拍手だということに気づくまで、アタシは少しの時間を要した。


「見事だ。勇者サリアの剣を使ったとはいえ、魔獣ケルベロス・ハウンドをどこの馬の骨とも知れぬ娘が倒すとはな」

「骨はアンタでしょこの蜘蛛ガイコツ!」


 反射的に思ったままの悪口雑言を吐き出してしまう。うん、アタシ冷静。


「なっ……」

「何アンタ、ダイエットし過ぎで肉全部削ぎ落としたの? 体重気にし過ぎどこの女子!? もっと肉食え肉! 今時そんなガリ、ちっともそそらないよ!」


 カチャカチャと口を動かすだけで、返す言葉が出てこない骸骨剣士。

 その横で、なんか首無し甲冑騎士が震えていた。


「ふ……ふふ……蜘蛛ガイコツ……」


 笑ってるみたいだった。


「……チッ」


 骸骨剣士は舌打ちのような音を出してからアタシを見る。舌あるの?


「恐怖で狂ったか、異世界から来た娘よ。貴様の戯言などどうでもよいが、ひとつ訂正しておこう。貴様の世界ではどうか知らぬが、蜘蛛の足は八本だ。拙者は手足全部含めても六本。故に蜘蛛という比喩は当たらぬ」

こまか! んなのどーでもいいじゃん器小っちゃ! 神経質デリケートか? だからそんな痩せてんの? もっとドンと構えてなよ。やっぱ肉喰いな肉!」

「な……な」


 思いっきり挑発しながら、アタシは日々華の背中に回した手で、魔物達から隠してターニャ姫とロウナーにサインを送る。

 お願いだから伝わってよ……!


「どうやら命が惜しくないようだな、異世界の娘」

「……アンタ馬鹿? さっきからネタバレしてるの、分かってる?」

「なに?」

「どこの馬の骨か分からないとか言いながら、どうしてアタシらが異世界から来たって知ってるの? 魔物に人間の細かい区別ついてるワケ? ……アンタら、誰の指示で動いてんの?」


 九十九パーセント、ハッタリだった。

 賭けだったけど上手くハマったみたいで、魔物達に動揺らしきものが走る。

 今だ!


「姫! ロウナー!」

「お任せ下さいっ!」


 ターニャ姫がアタシから日々華を受け取り、担ぎ上げた。

 うお、お姫様ってば怪力! いや日々華は決して重くはないけどさ。


「白魔術師隊! 姫を囲みつつ、離脱する!」


 ロウナーの指示に従って白フード達も動いた。

 魔物達が突入してきた崩れた壁に向かって、移動を開始する。


「待て。行かせると思うか」

「行かせるんだよ、アタシが」


 後を追おうとした骸骨剣士の前に、アタシは立ち塞がった。

 日々華から受け取った白い剣を、中段に構えて。

 アタシが手にしても、やっぱり剣の宝珠は光らなかった。

 当然だ。日々華が光らせなかったものが、アタシで光るはずがない。

 けど、ここは絶対に通さない。


「あっ、それはっ!」


 後退しながらロウナーが、アタシが剣を持っているのを見て慌ててる。


「ロウナー! 仕方ありません、素手であの方に戦わせるつもりですか!?」


 サーシャ姫がフォローしてくれた。


「しかし!」

「この方、ヒビカさんは宝剣を鞘から抜きました! 宝珠は光らずとも、封印は解いたのです! 勇者の可能性はありますっ! ですから今は!」

「……分かりました!」

「待っ……て……佳……おいて……ない……」


 皆が離れていき際、小さく日々華の呻く声が聞こえた気がした。

 ごめんね日々華。きっと怒るよね。

 でもアタシには、これしか選択肢がなかったんだ。


「……チッ。おい、何をしているのだ」

「ん?」


 骸骨剣士はアタシから目を離さないまま、首無し騎士に向かって声をかける。


「この娘の相手は拙者がする。お前は奴らを追え」

「……わかった。その娘も、面白そうだったのだがな」


 マズい!

 アタシは皆の後を追おうとする首無し騎士の行く手を塞ごうとする。

 けどいつの間にか、四ツ腕骸骨は剣を四本、アタシに突きつけ構えていた。


「おっと、拙者の相手をしてくれるのではなかったか?」

「くっ……」

「はっ、気に入ったぞ娘。この状況で拙者を挑発し注意を引きつけ、仲間を逃すとはな。だが無駄なことだ」


 ……仕方ない。

 一瞬で、仕留める!


「ぬ?」

「ヤアアアアアアアアアアッ!」


 気勢を上げる。

 ごめん、日々華。

 アタシは謝らなくちゃいけないことがあるんだ。

 アタシが意を決した瞬間だった。


 ドゴォン!


「ゴガァアアッ!」


 背後で瓦礫が吹っ飛んで、魔物の雄叫びが聞こえた。

 さっき地下に落としたオーガ、登ってきたんだ!


「ゴガ、ゴガアアアアアッ!」

「ま、待てッ! その娘はっ」


 骸骨剣士は何か察したのか、オーガを制止する。

 けど激昂しているオーガは止まらない。


(ごめんね日々華。アタシは)


「ゴガァアア!!」


(アタシは、貴女よりも強い!!)


「胴ォォオオオッ!!」


 振り返りざま、抜き胴を放つ。

 一刀のもと、大鬼は悲鳴をあげる間もなく図体を上下に両断された。

 この剣やっぱりすごい斬れ味!


「貴様ッ!」


 その隙に、骸骨剣士が背を向けたアタシに斬りかかってきた。


「えぇいっ!」


 アタシはまだ宙に浮いていたオーガの上半身に体当たり、骸骨剣士に向かって押し出す。


「く!」


 骸骨が飛んできたオーガの体を避けた瞬間、アタシは首無し騎士に向かって駆け出した!


「しまった……! そっちに行ったぞ、気をつけろ!!」


 骸骨は首無しに向かって叫ぶ。


「何っ? 抜かれたのか!?」


 日々華たちを追っていた首無し騎士は、接近するアタシに気がつくと剣を構える。

 ……顔がないから目線が読めない!

 けど!


「やああああッ」


 首無しの間合いに飛び込む寸前で、更に加速! 相手の予測タイミングをずらした!


「な、速――」

「メェェェェン!!」


 バギィン!


 相手の防御より早く、アタシは日々華を超える神速の飛び込み面を決めた。

 ……ってアタシは馬鹿か!


「ふ、軽いな」


 首無し騎士の鎧は襟元が少し割れたけど、大したダメージは与えられてない。

 当たり前だ。

 ケルベロスもどきとオーガを真っ二つにできる切れ味の、この白い剣。

 抜き胴みたく斬り抜けばよかったのに、剣道の面打ちみたいに冴えを効かせて斬撃を止めたら、なんの意味もない! 実戦は当たれば一本じゃないんだ!


「今度は、こちらから行くぞ」


 西洋の剣術らしい斜めの構えから、首無し騎士が斬りかかってきた。


 ギィン! ギィン!!


「どうした? なかなかやるようだが、下がってばかりか?」


 ギン、ギン、ギィン!!


 こいつ……!

 顔がない、表情の読めない相手がこんなにやり難いなんて!

 アタシたち剣道の剣士は、レベルが上がれば、竹刀の動きだけじゃなく相手の目線や呼吸を読んで、打ち込みのタイミングや技を見切る。

 それがこいつには一切通じない。

 その上一撃一撃がかなり重くて、正面から受ければそのまま押し込まれる。

 アタシは相手の間合いに入らないようにしながら、斬撃を捌くしか方法がなかった。

 くそ……このままじゃ、じり貧だ!


「……拙者の獲物を横取りするな」


 ひいっ! 後ろから骸骨剣士の声が聞こえて、肝が冷える。


「お前が逃したのが悪いんだろう? 楽しませて貰っている」

「邪魔が入ったのだ。……おい娘、それより下がれば、拙者が斬るぞ」


(なっ……!?)


「と、いうことだ。どうするかな?」


 首無しは次々と斬撃を繰り出しながら、笑う。

 ちくしょう、コイツら遊んでる!

 ……決まってるだろう。下がれないなら、


(前に出るしかないんだ!)


「迂闊だ、もらった!」


 飛び込んだアタシの脳天に、首無しの斬撃が降ってきた。


 ギィン!


「むうっ!?」


 死中に活あり。剣の根本までの至近距離に飛び込めば、いくら力に差があっても相手の斬撃は充分に受け止められる!

 アタシはそのまま剣と剣が交差した点を中心に、梃子の要領で相手の力を利用。半回転して首無しと体の位置を入れ替えた!


「むううっ!?」


 西洋舞台の異世界剣技に、引き技ってある? 

 鍔迫り合いから後ろに下がりながら、アタシは剣を振りかぶった。

 くらえ、狙いは逆胴!


「ヤアッ……」


 向かって右の胴は、本来なら侍が刀の鞘を差している側。

 斬っても致命傷は与えにくく、だから剣道でも一本の判定は貰いにくい。刃筋の通った渾身の一撃でしか旗は上がらないんだ。

 だからアタシは道場の師範にこう教わった。逆胴は。


(逆胴は、渾身の力で……ぶった斬れ!!)


ォォオオオオオオ!!」

「グハァッ!?」


 首無し騎士の鎧は、見事に上下に真っ二つになった。

 そのまま地面に転がって、剣も手放される。

 勝った!


「やっ……た……」


 ホッと安堵したら。


「クソぉおお! もう一回! もう一回だ!」

「うわっキモ!?」


 二つに分かれた上半身と下半身で、鎧がジタバタと手足を動かして暴れた

 コイツこれでも生きてられんの??


「見苦しいぞ、お前」


 四ツ腕の骸骨剣士が、鎧を蹴っ飛ばした。

 そうだ、まだコイツがいるんだった……


「だって、だってこの娘、強い! もう一回やりたい!」

「子どもかお前!? いいから黙っていろ!」


 ……なにコイツ、なにこのキャラ。


「本当に見事だ、異世界の娘よ。名を聞いておこう」


 骸骨剣士はゲシッゲシッと首無しの鎧を遠くに蹴り飛ばしてから、アタシに向き直って問いかけてきた。


「……黒崎香苗」

「カナエか。いざ、尋常に勝負だ」


 四本腕がまた剣を構える。


「ちょっと待って。こういう時って普通、あんたも名乗るもんじゃないの?」


 アタシは少しでも日々華たちが逃げる時間を稼ぐため、会話を続けたかった。


「名前……を問うたのか? 人族が、拙者に?」


 骸骨剣士は驚いて、口ごもった。

 なんだ?


「え、だってこっちには聞いておいて」

「そんなもの問われるのは、何年ぶりか……拙者たちに名前はない。かつては、あったのだがな」


 何? その物憂げな間は。

 あんたたち魔物でしょ? ただの敵キャラでしょ?


「お前には関係のないことだ。では……行くぞ」


 行くぞって……ちょっと待って。

 ここまでは勢いでなんとかやって来たけど、四刀流が相手ってどう戦えばいいの!?


「ハアッ!」


 四方向からの同時斬撃!

 迷った一瞬、出遅れたアタシは剣を振りかぶりながら、飛び下がって後方に躱す。

 そして。


「チィッ!」


 剣道において打つべき機会は、相手の技の起こり(打つ直前)。

 そして、技の尽きたところだ。

 つまり今ッ!


「メェェェン!!」


 面抜き面の要領だ。今度は冴えは効かせない、そのムカつく髑髏をぶち壊す!


(え!?)


 ヌルンッと骸骨剣士はアタシの横をすり抜けた。

 速いっ!

 アタシの剣は空振り、無防備な背中を骸骨に晒している!!


「残念だな」


 ザシュッ


「あううっ……!」


 何が起こった!?

 決まってる。斬られたんだ。

 熱い。

 背中が熱い!


「か……かはっ……!」

「この世界では見ない剣術で、期待したのだがな……所詮この程度か。落胆したぞ」


 ふざ……けるな……!

 くそ、熱い、痛い、立ち上が……れない!

 体にまるで力が入らない。アタシはいつ倒れた?

 喉から血が溢れて、止まらない。

 肺をやられた!?

 アタシの顔が浸かってるの……これアタシの血!?

 こんな……こんなに……血を……流したら……


(日々華……ごめん……)


 アタシは謝らなくちゃいけない。

 あの剣道大会の決勝戦で、手加減したこと。

 ううん。したくてした、手加減じゃない。

 日々華を相手に、どうしても本当の実力で戦えなかったんだ。

 貴女との勝負になると、どうしてもここぞというところで熱くなり過ぎて、アタシは我を忘れる。

 本気を出せれば、アタシは貴女より強い。

 だから本当に日々華の親友なら、アタシは貴女への恋心を捨てて、剣士として向き合わなくちゃいけなかったんだ。

 でも、それはできなかった。

 だって、貴女を愛しているから。

 だから、竹刀を置くしかなかった。


「ひ……日々華……」

「もう一人の異世界の娘か。安心しろ、すぐに後を追わせてやる。それが我が主の命であり、見事な戦いを見せたそなたへの、せめてもの手向けだ」


(だ……め……それだけは……させない……)


 アタシは。

 アタシは、諦めた(・・・)


 ***


「はあ……まったく」


 アタシは立ち上がった。


「あーもう。顔も髪も血でベッタベタ。剣道着も。どうしよ、ここクリーニング屋とかないでしょ?」

「……へ?」


 骸骨が間抜けな声を出してるけど、そんなのどうでもいい。

 とりあえずアタシは魔力で細胞を活性化。

 背中の傷を自己治癒して、傷を塞ぎ出血で剣道着がこれ以上汚れるのを止める。


「つっても、今更って感じだよね。道着を分解して汚れ排除して、再構築……面倒くさいなーもう」

「お、おい……なんで生きている?」

「あ、でも日々華の剣道着も汚れてるだろうから、一緒に洗濯すればポイントアップ? 家事ができる女アピールになるかなぁ」

「おい聞け! 治癒魔法を使ったのか!? 致命傷だったはずだ、〈復活リザレクション〉級が必要だぞ!?」

「あー日々華、大丈夫かな……」


 アタシは〈遠視〉で確認する。


「うんうん。あの人ら、ちゃんと治癒魔法かけてくれてるな……ああでも下手くそ、あれじゃあ火傷の跡が残るって……ま、いいや。後でアタシがこっそりじっくり舐めるよーに治してあげよーっと」

「貴様ぁ! 無視するな、何者だと聞いている!!」

「ああもう……ウッザいバーカ!!」


 アタシはちょっとばかし威圧プレッシャーを込めて、骸骨を怒鳴りつけた。


「ひいぃっ!?」


 骸骨は虚脱状態になる。

 ホント馬鹿。なんでアタシを殺せるとか思ってるんだ?


「ひ……ひ……」


 ん? なんだこの馬鹿、自分の肋骨の中からなんか取り出したぞ。

 あ、それ……召喚の宝珠だ。


「ひいぃっ!」


 パリィン!


 骸骨が奇声を上げながら地面に叩きつけ、割れた宝珠から闇が溢れ出す。

 そこからズモモモ……と多数湧いてきたのは、知恵も自我も魂も持たない、土塊に宿る死霊、グールども。

 ああそういえばこの骸骨、死霊の剣士だった。こいつら呼び出せても不思議じゃない。


「ひっ……ひっ……殺せっ……殺せぇええ!」


 召喚者の命に応じて、魂を求める虚ろな愚者どもが一斉に、アタシに向かって群がりだした。

 おかしい。


(この骸骨……どうしてアタシに刃向かおうとする?)


 まあいいや。

 リハビリっていうかウォーミングアップがてら、少ーしだけ暴れることにするかな。


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