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27.さあ、旅の始まりだっ! って初っ端からマジですか。

 いざ、魔導帝国レフトへ!

 とは言っても超楽勝。

 ターニャと日々華を連れて、転移魔法でバビュンと飛んで。

 皇帝でも一発シメて黒幕吐かせて。

 ラセツがいたら速攻で土下座する(アタシが)。

 それで万事解決!

 後は日々華と、ひたすらイチャコラしながら異世界ライフを満喫だー!


(そんな予定だったのに……)


 どうしてこうなった!?


「その長い耳は飾りなの? 何度も言わないと分からないのかな」

「おお、分からんわ。勇者サマがなんでそないにウチを邪魔にするのか、理解できひんなぁ」

「そのウソくさい関西弁やめて」

「カンサイベンが何か分からんけど、これは帝国に魔法かけられてるんや。自分ではどうにもできまへーん」

「うざっ……香苗、香苗なら解けるんでしょ」

「あっれー? 困ったらすぐ、お姉様に頼るんですか」

「く、この、誰が」

「いやや~。お姉様、ヒビカさんが怖い~」

「だから、香苗から離れてぇっ」


 さっさと帝国に行くと思っていたら。

 なんと最初に向かうことになったのは、精霊国ラフィンだった。

 女王即位の儀礼挨拶を兼ねて、帝国の工作員に人質に取られたミュエルのお姉さん、そしてラフィンを送り届けることになったのだ。

 レフトに行くのは、その後だ。


「ターニャ、やっぱりアタシの転移魔法で行っちゃおう? この面子で長旅は……キツい……」

「すみません、これも儀式の内なんです。王国伝統の聖獣ユニコーンの引く馬車に乗って、旅をする必要があるんです……」


 今回の旅のメンバーは、アタシと日々華、ターニャ女王。

 王国騎士団の精鋭三名。

 そしてラフィン第一王女と、第二王女ミュエル。

 ミュエルの部下だった傭兵団の八名。

 四台の馬車に、御者を抜いてこの計十六名が分乗していた。

 一国の女王の行脚としては異例なほどの少人数。

 だけど、戦力的にはアタシと日々華でアルレシア全軍以上なので問題はない。

 四台の馬車のうち聖獣ユニコーンの引く馬車は一台だけで、そこにアタシと日々華、ターニャ、そして何故かミュエルが乗っていた。

 その車内で、さっきの口論が起こっているというわけですよ。


「アナタの姉はあっちの馬車でしょ? そもそも何で、アナタがこっちに乗ってるの!」

「そんなん、お姉様と一緒にいたいからに決まってるやん」

「だからぁっ! 香苗はアナタの姉じゃない」

「それくらい分かっとるわ。ウチはそう呼んでしまうくらい、カナエ様をお慕いしとるんや」

「ちょっと腕を絡ませないでよっ……香苗!」

「ふぁい!」


 きた……


「なんでこの女に、好きなようにさせてるのっ」

「いや、それはその」

「エルフだっけ? エルフだから? そんなに美人が好きなの!?」

「ちがうちがう、ちがうってば!」


 人質を取られて仕方なく行動していたミュエルに、アタシは拷問まがいのことをしてしまった。

 精神崩壊させてしまうところだったんだ。

 バルマリアとしてはともかく、黒崎香苗としてそれは、とんでもないことだった。

 その負い目が、あった。


「あのね、日々華……〈デモンズワード〉は、本来は人に使うような魔術じゃなくて。ミュエルには精神にすごいダメージを負わせちゃったんだ。再起不能になっても不思議じゃないくらいの」

「……それでこんなに、頭がおかしくなったんだね」

「人聞きの悪いこと言わんといて」


 ミュエルは日々華から病気扱いされて、舌打ちする。


「ウチの性格はもともと、こんな感じや。それにお姉様が気にすることはないで? お姉様はウチのお姉様を助けてくれたんや。それで、帝国の縛めから解放してくれた。お姉様もお姉様には感謝しとる。だからウチはお姉様だけじゃなくお姉様もお姉様とお呼びしたくなるくらい、お姉様に惚れとるんや」

「もう止めて、こっちがおかしくなる」


 お姉様を連呼されて、日々華は頭を抱えた。

 うん、アタシもおかしくなりそう。


「……それに」


 ミュエルは薄く笑って、自分の唇をペロリと舐めた。

 うお、色っぽい。


「あんなに気持ちよくしてもらったの、初めてやったから」


 そう言って、上目使いでアタシを見た。

 緑の髪がパラリと、エルフらしい整った顔立ちの前に落ちる。


「ウチはお姉様のお心にも、体にも、すっかり虜になってしまったんや」


 やべえ、ミュエルのこの顔……!

 前に中学とか高校とかで、物陰からアタシと一緒にいた日々華を見つめてた、恋する女の表情だ!

 何故かあの子たちは、アタシに告ってきたりしてたけど。みんな本当は日々華狙いだから、『将を射んとするならまず馬を射よ』的なアレだったんだよね。

 でもミュエルは、きっと違う。

 日々華にはすげえ態度悪くて、アタシにひっついてくる。

 ああ……この子はデモンズワードで、本当に壊れちゃったんだ……


「き、気持ちよくって……虜って……」


 あ、日々華がミュエルの言葉を聞いて、ワナワナしてる。

 兵服と一緒に支給してもらった皮手袋が、握りしめた拳でギシギシいってる。

 違うんだってば……!


「香苗」

「はいっ」


 どうしよう、めっちゃ怒ってる。

 日々華に嫌われたら生きていけない。


「大丈夫だからね。私にまかせて」

「え?」


 日々華はそう言うと、またキッとミュエルを睨んだ。


「ミュエル、魔法で頭が壊れたあなたには同情するけど」

「だから壊れてへんって。素や」

「いつまでも香苗の誠実さにつけこんで、甘えられても迷惑なの」


 日々華はミュエルの腕をグイッと掴むと、走っている馬車の扉を開けて一緒に外に飛び出した!

 えええ!?


「ヒビカ様ッ!? 御者さん、ユニコーンを止めて下さいっ! 早く!」


 驚いたターニャが指示を出す。

 すぐにアタシ達が乗っていたユニコーンの馬車は止まり、前後の三台の馬車も停止した。


「……なんのつもりや」


 日々華はもちろん、ミュエルも女だてらに傭兵団の隊長を務めるくらいの精霊剣士だ。

 走る馬車から飛び降りたくらいで、二人とも怪我することもなく着地していた。

 周りに何もない、荒野のど真ん中で日々華とミュエルは睨み合う。


「これ以上、香苗に迷惑をかけないで」

「お姉様がウチのこと、迷惑言うたんか?」

「香苗は優しいの。自分のせいで傷つけてしまった人に、そんなこと思ってても言えない」


 いやあの、アタシ魔王なんすけど……

 遅れて馬車から降りたアタシとターニャ、そして同行していたみんなが、ハラハラして離れたところから見てる。

 いや、傭兵団の連中はニヤニヤしてるな。

 あいつらめ、前に日々華にボコボコにされたから、根に持ってやがるな?


「お姉様が言ってないなら。どうしてあんたに、そないな事が分かるんや」

「私は香苗の昔からの親友。分かるに決まってるわ」

「親友、ねえ……」


 含みのあるの物言いで、ミュエルは笑う。


「少なくとも、あんたの方はそれだけじゃなさそうやな」

「……黙れ」


 ミュエルお願い、それ以上日々華を挑発しないで。

 でもアタシが間に入ったら、余計にこじらせちゃう。


「それに、いくらヒビカさんの方がお熱でも。お姉様の方はどうやろなぁ。意外と迷惑に思われとるんは、ジブンの方かもしれへんで?」


 なんてこと言うんだ!

 アタシは日々華を愛してるっちゅーねん!

 ああもう言葉うつる!


「……お前に何が分かる」

「怖いなあ、ヒビカさん。なら聞くけどな、ジブンはお姉様に」


 ミュエルはすらり長い指先を、自分の唇にすっと当てた。


「ウチがされたみたいに情熱的なキス、されたことあるか?」


 ブッチン!!


 わー、人がブチ切れる音が物理的に聞こえたー。

 日々華は左手の手袋を外して……ミュエルに向かって投げつけた!


「ヒビカさん!?」


 その動作の意味するところは、テスラ・クラクトでも地球と同じだった。

 決闘、だ。


「……ジブン、意味分かってやってますの?」

「ターニャ女王。決闘をお認め下さい」


 日々華は視線をミュエルからそらさず、はっきりと言った。


「私が勝てば、ミュエル。あなたは今後一切、香苗に近づかないで」

「本気なんか」

「もちろん」


 慌てたのは、ターニャだった。


「だ、ダメです、ヒビカ様! 止めて下さいカナエ様ッ!」

「アタシが止めても、かえって揉めるよ……」


 ゴメン、この状況でアタシは無力です。


「安心してターニャ、殺したりしないから。レーヴァテインも使わない」


 日々華は鞘ごと宝剣を腰から外すと、地面に突き立てた。

 ミュエルは一瞬、驚いて目を見開く。


「ハッ、ヒビカさん。ジブン確か魔法も使えへんのやろ? 殴り合いで決闘するんか?」

「勘違いしないで。あなたはその剣……精霊剣だっけ? それを使っていい」

「なっ……!」

「実力差を考えたら、当然でしょ? 王都での戦いの結果を忘れた?」

「……ずいぶん舐められたもんやな、ウチも」


 ミュエルは鞘から、精霊剣を抜いた。

 大地と鉱物を司る精霊、ティーターンの宿りし剣。

 前にそれこそ日々華が破壊したが、そこは鉱物を自在に操る精霊の力で、今は完全に修復されている。


「やったるわ。けどな、ウチもさすがに無手の相手と決闘する気にはならへん。……ブラドン!」

「了解、隊長!」


 ブラドンと呼ばれたミュエルの傭兵仲間の一人が、自分のブロード・ソードを鞘ごと投げる。

 日々華はそれをパシッと掴んだ。


「ティーターンの力で硬化した剣や。それで文句は言わせへんで」

「後悔するよ」


 日々華はすらりと剣を抜いた。


「や、やめて下さい二人とも! ……王女殿下!」


 ターニャは妹の所業を黙ってみているだけのラフィン第一王女に、駆け寄る。


「妹さんを止めて下さい! こんな決闘、国際問題になりますわ!」

「女王陛下、申し訳ございません。こんなこと言える立場ではないのですが……」


 王女は申し訳なさそうに告げる。


「こうなった妹は、誰にも止められません。それに大恩ある方ではありますが、人族に正々堂々の決闘を挑まれたのです。誇りあるエルフとしては、拒絶するわけには参りません」

「そんなっ!」


 ターニャは真っ青になったけど、それでもさすが一国を預かる女王。

 覚悟を決めたみたいだ。


「わ、わかりました。では、アルレシア王国女王、ターニャ・エル・アルレシアの名のもとに、決闘を認めましょう。ですが!」


 バッと右手を挙げて、ターニャは宣言する。


「命を奪い合いは、厳にこれを禁じます! いいですね」

「安心しい、女王陛下。ウチがどれだけお姉様のお役に立てるか、証明したるだけや」


 ミュエルは精霊剣を構える。そして。


「ああ、そうだ。ウチが勝った時の話をしてへんかったな」

「必要ないでしょ。ありえないから」


 日々華の挑発に、ミュエルはニッと笑う。


「ウチが勝ったら。この旅の間ずっと、カナエお姉様の同じテントで寝るのはウチってことで」


 日々華の頭にカッと血が昇ったのが、見ていたアタシにも分かった。

 怒ってくれるの嬉しいけど!

 日々華あぶない、それミュエルの作戦——


「〈ティーターン〉ッ!!」


 ミュエルの精霊魔法が、炸裂した。

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[良い点] 百合ってるなぁ〜
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