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19.サービス回? いやいや待って、心の準備が……!

 どうしてこうなった?


「香苗……胸が、熱いの」


 おかしい。

 アタシは一体、何をした。


「お願い、ギュッてして……私の火照りを鎮めて」


 あああもう! まかせて!

 細かいことはもういいや衝動に任せようそれは若さ故の過ちううん誰も罪とは呼べないでしょうだって日々華はこんなに可愛いそしてベッドでアタシを求めてるなら応えるしかないじゃないかさあ抱きしめようそしてその火照りを鎮めてあげるかえって燃え上がってしまったらごめんねその時は共に果てようだから何も怖くないそうこれがこの触れ合いこそが真実のあ


「カナエ! 大変だ——ヒィッ!?」

「乙女の部屋に勝手に入ってくるんじゃないっ、デュラ坊!」

「だ、だからって魔剣ぶん投げるのはどうかと思うっ!」


 パワーアップした鎧にようやく魂が安定して定着したデュラ坊が、壁に突き刺さった魔剣ディザスターに腰を抜かしていた。


「緊急事態でもない限り、誰もこの部屋に入れるなって言ったでしょ!? それはアンタも同じ!」

「だから、その緊急事態なんだってば!」


 デュラ坊は鎧をガチャガチャ鳴らして部屋の中まで入ってくる。


「女王から連絡なんだよっ! 武装盗賊団が王都に侵入して、暴れてるから助けてほしいんだって!」

「盗賊……?」


 アタシよりも先に、デュラ坊の言葉に反応したのは日々華だった。

 熱っぽい瞳のままベッドから体を起こして、肩から寝巻きの襟がはだけて落ちるのも気にしないまま。


「女王……ターニャ姫が、私たちに助けを求めてるんだね? 戦ってほしいって」


 そう言って日々華は色っぽく唇を舐めてから、脇に立てかけていたレーヴァテインを手に取った。


「すぐに行くよ。案内して、デュラ坊くん」


 ひ、日々華さん?

 そんな好戦的な目で、貴女いったいどうしちゃったの……?


 ***


 ボン吉との〈怨霊合魔〉を解除して自分の身体に戻ったアタシは、よく分からない事態に直面していた。


「日々華が倒れた……?」


 ロウナーから聞かされた瞬間、アタシは魔王の超感覚を発動。

 ——いたっ! 兵士たちの医療用施設に寝かされてる!

 すぐに駆け出そうとしたアタシの腕を、ロウナーが掴んで止めた。


「待ってくれ」

「放してロウナー、日々華が」

「眠っているだけだから大丈夫、と言ったのは君じゃないか」

「アタシがそんなことを……?」

「今さっきの記憶がないのか」


 ロウナーはアタシの顔を見て頷く。


「忘れたフリ、じゃないみたいだね。カナエ嬢は芝居が下手だから」


 なにをっ? この名女優に対して失礼な。

 ってそんな場合じゃない!


「ちょっと待って。アタシがいない間に何があったの?」

「いない間に? ということは、君の魂はさっきまでボーンナイトの中にあって、あの六本腕の魔族と戦ってたという事だね」

「う……」


 やばい、ロウナーの追求から逃げられない。

 「魔族の身体を乗っ取って戦う」って、いくらモンスター・テイムが云々って言い訳しても、もう勇者の所業じゃないよね……


「なら、さっき彼女の言ったことは真実なんだな……」

「彼女? ねえロウナー、本当に何があったの? さっきまでアタシの身体、誰かが動かしてたってこと?」

「そうだ」


 アタシはゾクっとする。

 ありえない。

 だってアタシは黒崎香苗であると同時に、魔王バルマリアだ。

 この身体だって、転生した魔王の本体でもある。

 確かに一時的に魂の抜け殻状態になったけど、最低限の安全装置セキュリティを忘れるほどアタシは馬鹿じゃない。

 それでも魔王の肉体を乗っ取って、自由に操るなんて。そんな真似ができるヤツがいたっていうのか……

 え、ちょっと待って。


「それで? それでそのアタシは、日々華に何をしたの!?」

「君はただ頬に触れただけだ。前に魔物に呑み込まれたガルパとの戦いの最中に、ワタシにしたみたいに。そうしたら、ヒビカ嬢は気を失った」


 ディザスター・アーマーとの戦いの最中、霊体ラセツの瘴気で動けなくなっていたロウナーを助ける為に、アタシはほんの少しだけ闇属性のマナをロウナーに分け与えたんだった。

 同じようなことをして、直後に日々華が気絶した?


「——ッ!」


 今度こそ、こうしている場合じゃない。

 アタシは日々華の眠っている場所へと移動した。


「日々華っ!!」


 幸いなことに、日々華が眠るベッドは医療施設の中の個室だった。人目はない。

 あったとしても気にしなかっただろうけど。

 アタシはすぐに解析アナライズで日々華のステータスをチェックした。


「……どこにも、異常はない」


 本当に、ただ眠っているだけだ。

 魔王の解析眼は誤魔化せない。

 毒、呪い、麻痺などの身体異常、催眠、洗脳などの精神異常はもちろん、わずかな異物の混入、仮にマナレベルで一片の不純物があったとしても、見逃すことはない。


「よ、よかっ、よかった……!」


 それでもアタシは、何度も何度も日々華に解析アナライズを繰り返した。

 結論、日々華は正常。絶対に異変はない。

 でも……だったらいったい、何が起きたんだ?

 あの日々華が疲労でダウン? そんなことが……


「カナエ嬢っ!」


 ロウナーが部屋に飛び込んできた。


「ま、街中で、消えないでくれ……君は本当に正体を隠す気があるのか?」


 しまった。アタシ、空間転移したんだ。

 もう、言い訳は無駄だろう。


「ロウナー、アタシは」

「言わなくていい」

「えっ?」

「君はクロサキカナエ。この国をまたも守ってくれた救世主で、ターニャ姫とワタシ、そしてリリムを助けてくれた恩人だ」


 ロウナーはアタシに膝をついて、頭を垂れた。


「ワタシと姫、そしてアルレシア王国はこの恩を忘れない。カナエ嬢、貴女とヒビカ嬢の絶対の味方であり続けると誓おう」

「……ありがとう」


 ロウナーの言葉に嘘偽りはない。

 それは、魔王の力なんか使わなくったって確信できた。


「うん。ならお願いだ、しばらくこの国に、アタシと日々華をおいてほしい。復興にも協力するよ、なにせ『勇者』だからね」

「そうしてくれると、助かる」

「うん。したたかなロウナーには、戦力としてのアタシ達を確保できるという打算もあるだろうしね」

「否定はしない」

「あはは、大丈夫。そう言ってくれる方が信用できるよ」


 アタシ達の味方であることと、勇者として利用したいことは矛盾しない。

 こっちだってアルレシアを利用するし、同時にターニャとロウナーの味方だ。


「じゃあさっそくだけど。家を一軒、借りられないかな? アタシと日々華、それに魔物たちを少しだけ、住まわせてほしい」

「了解だ」


 そしてアタシは日々華、そしてデュラ坊やケルちー達を連れて、アルレシア王都の外れに一軒家を借りて、住むことになった。


 二日が過ぎても、日々華はなぜか目を覚まさなかった。

 繰り返し解析しても、やっぱり精神、肉体ともに異常はない。

 普通なら食事も取れずに弱っていくところだけど、それはアタシの〈体力譲渡スタミナパサー〉で問題はなかった。


(このまま、日々華が目覚めなかったらどうしよう……)


 無力だ。

 いくら魔王でも、原因が分からなければ対処のしようがない。

 困り切ったアタシが、ちょっと泣きそうになっていたその日の朝だった。


「……香苗? ……泣いてるの?」

「!! 日々華ぁっ!」


 目を覚ました!

 ふっつーに目を覚ました!

 よかっ、よかっ……本ッ当に良かったぁぁぁぁぁぁ!!


「泣いてないよ。寝過ぎだよ、日々華」


 アタシは枕元まで行って、まだ寝起きでぽやぽやしている日々華の頭を撫でる。


「寝、てた? 私が……?」

「そうだよ。ねえ日々華、いったい何があったの? 寝る前に、その、アタシに何かされたんでしょぉぉぉええええッ!?」


 不意に日々華が、アタシの腕をぐいと掴んで引っ張った!

 近づく顔と顔!

 そして!


「ンっ!?」


 ——!!

 さ、された!?

 今、今、なにされた!?

 ききき、キス!?


(ほっぺに、ちゅって……キスされたぁぁぁぁッ!)


「あはは、ズレちゃった」

「へあっ? は、ず、ズレたって」


 日々華さぁん!

 ズレたってことは、ほっぺにちゅーがズレちゃったってことは……

 本当はどこを狙ってたんですかあああ!


「あのさ、香苗」

「ふ、ふぁい……」


 ダメだ腑抜けた声しか出ない。


「私に隠してること、あるでしょう」

「にゃ、にゃんのこと……」

「モンスター・テイム? が日本の技術だなんて、聞いたことも無いよ」

「そそそれは」

「ふふふ。それもだけど……ねえ、香苗」


 蕩けたようなトロンとした瞳で、アタシを見る日々華。

 心臓が早鐘のように打つ。


「香苗……胸が、熱いの」


 おかしい。

 魂が抜けてる間のアタシは一体、何をした。


「お願い、ギュッてして……私の火照りを鎮めて」


 そして話の冒頭に戻るというわけでございますですわのことよ。

 ああもうわけわかんない。どーいうことー!


 ***


 先導するデュラ坊の後について、レーヴァテインを片手に街中を駆ける日々華。


「ま、待って日々華っ!」


 アタシは両手に兵服を持って横を走る。


「お願いっ! ちゃんと服を着よう! ね、いい子だからッ!」

「そんな場合じゃないでしょう? この国の人達が危ないんだからっ!」


 日々華は乱れた寝巻き姿のままだ。

 街の人達から注目されてるのって、絶対魔物のデュラ坊と一緒だからだけじゃないよねっ!?


「あそこだッ!」


 剣戟の音と男達の怒鳴り声が聞こえてきた。

 着いた場所は、城下町を囲む外壁のすぐ近く。壁には爆発で開いたような大穴があり、そこで少数の王国兵達と、大勢の不揃いの鎧を着た戦士、魔術師達が戦っていた。


「ハハッ! 情けねーなぁ、それでもアルレシアの兵隊さんかよ!」

「く……なぜ盗賊団ごときに、警備の手薄な場所がッ……!?」


 あらら、人数が少ないっていっても、王国兵側がボロ負けしてるじゃん。

 パッと見た感じ、武装盗賊団側は、前衛の戦士達と後衛の魔術師達がバランス良く揃ってる。

 対して王国兵側は、ディードリヒのアホのせいで黒魔術師の絶対数が足りない。

 そのへんも確かに大きい、けど。


(……盗賊団ごとき? いやいや。コイツらどこの国の正規兵よ)


 安物で不揃いの防具で擬装した程度じゃ、魔王アタシの解析眼は誤魔化せないよ?

 まあ傭兵団も盗賊団も、こっちにしてみればゴブリンとホブゴブリン程の違いもないけどね。

 さて、一瞬でゴミ掃除してや——


「待ちなさいッ! 国の大事につけこんで、人々を害そうとする不逞な輩ども!!」


 日々華さぁん!?

 ほぼ半裸のそんな格好で、前に出ないでぇぇぇッ!

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