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18.トーク・バイ・???、そして闘いの後に。

「……なえッ……」


 やれやれ、調子に乗って。

 バカなのか、アイツ。

 まあ、そこも可愛いんだけど。


「……かな……ッ……」


 それに、アイツはアタシが存在してることに気づいてないからね。

 仕方ないといえば仕方ない。

 さて、思わず得たこの時間。

 どう使おうか。

 って……


「香苗ッ!」

「いっ、痛い痛い痛いッ!!」


 日々華がアタシに馬乗りになって、おっぱい揉んでる!?

 いや違うこれ心臓マッサージだ!


「あっ……!」

「折れるアバラ折れるッ! 生きてる、アタシ生きてるから!!」


 確かに心臓マッサージは、肋骨が折れるくらい力強く押さないといけない。

 けどあんた、その鍛え上げた肉体で全力出しちゃダメでしょ……


「香苗っ……生きてる……よかっ、よかったぁぁぁ〜!!」


 アタシに馬乗りのまま、ぎゅーっと抱きしめてくる日々華。


「しっ……しっ……心臓が止まっててっ……し、死んじゃうかとっ……思ってッ……!」


 当たってる。

 胸が、押し当てられてる。

 よかったね……アタシがアイツのままだったら、今頃また鼻血出して卒倒して、そのままあの世行きだったかも。


「カナエ様ッ!」

「カナエ嬢、よかったご無事で……!」

「おねーちゃん、よかった!」


 ターニャ、ロウナー、そしてロウナーの妹リリムちゃんが、すぐ横で安堵していた。

 あーあー、ターニャなんか顔がグシャグシャ。よっぽど心配してくれてたんだね。

 見回すと、ここは王城の正門前の広場だった。多数の兵士や文官たちが、場内から避難してきている。


「グ……グルル……」


 あ、ケルちー。

 お前、日々華を連れ出した後ですぐ戻ってきたな?

 日々華にレーヴァテインで早く戻れと脅されでもしたのか。


「グゥゥ……ルル……」

「ど、どうしたのです? ケルちー。カナエ様ですよ? 無事だったのですよ?」


 アタシを警戒して唸っているケルちーに、不思議そうに声をかけるターニャ。

 ……ケルちー、さすがはケルベロス・ハウンド。その感覚の鋭さは、地獄の番犬に相応しいね。


 ドオオォォォォン!!


 その時、街の外の方から爆音が響いてきた。


「な、なんだっ!?」

「王都の外かっ……!?」


 騒めく兵士達。

 音がした方を見れば、遠くに黒く輝く光球が見えた。


「……派手にやってるなぁ……」

「えっ、何?」


 日々華が小首を傾げて尋ねてきたけど、なんでもないよ、と短く答える。


「あのボーンナイトは、大臣が召喚した魔族と戦えるくらい強力なのですか?」


 途中まで経緯を見ていたらしいロウナーが、怪訝な顔で聞いてくる。

 もう彼女はアタシを信じてくれてるけど、不審に思ってる部分があることも間違いない。


「どうだろうね。でも、あの魔族との戦いは決着がついたみたいだ。もう大丈夫だよ」

「どうしてわかるのですか?」

「……も、モンスター・テイムの力で?」


 アイツめ、雑な言い訳をして……。

 それより、アシュラを倒したからには、すぐアイツは戻ってくるだろう。。

 いつまでもこの状態でいるのは、まずい。


「日々華」


 まだ引っついて離れない日々華の頬に、アタシはそっと触れた。


「……香苗?」

「よく聞いて。貴女は、このままじゃいけない」

「……!」


 このままじゃ、アイツの足を引っ張り続けることになる。

 それすらアイツは楽しむだろうけど、いつかアクシデントが起こらないとも限らない。

 なにしろアイツは、頭はいいけどバカだ。


「……うん。わかってる」


 頷く日々華。さすが、察してくれるね。


「だから、少しだけ渡す(・・)ね」

「渡す? 渡すって何を……ッ!?」


 ガクンと意識を失って、日々華はアタシにもたれかかった。


「ヒビカ様!?」

「どうされた、ヒビカ嬢!」

「大丈夫、心配ないよ」


 アタシは驚くターニャとロウナーに向かって、シーッと人差し指を立てる。


「眠ってるだけ。疲れてるんだよ、なにしろ昨日まで普通の高校生だったのに、急に命を懸けた戦闘を繰り返してるんだから」

「あ、ああ……」

「……それも、そうですわね」


 アタシは日々華の身体を抱き起こす。


「どこか、安全なベッドに運んであげてほしいんだけど、いいかな?」

「もちろんですわ。すみません、どなたか!」


 ターニャが衛兵を呼び寄せ、指示を出した。

 アタシはその衛兵達が持ってきた担架に日々華の身体を預ける。

 兵士達はターニャの指示を受けて運んで行った。

 ……アイツなら、男に日々華を触らせるなーとかギャンギャン騒ぐんだろうな。


「リリムもお姉ちゃん運ぶの、お手伝いする~」

「こら、お前は治療院に戻るんだ」


 ついて行こうとしたリリムの腕を、ロウナーが掴む。


「ええ~? リリムもう元気だよ」

「それでもだ! 白魔術師の人に、ちゃんと呪いが抜けてるか確認してもらって! お姉ちゃんも後から行くから!」

「ちぇっ、は~い」

「あら。ではリリム、ワタクシと一緒に途中まで参りましょう。ワタクシも魔族の脅威が去ったのでしたら、皆をまとめて今後の指示を出さないといけません」


 そう言ってターニャは、リリムの可愛い手を握って歩いていった。

 ロウナーは二人を見送ってから、アタシの方を振り向く。


「カナエ嬢」

「ん? なあに」

「申し訳ないが、ワタシもこれから忙しくなる。混乱に紛れて逃げた大臣たちの捕縛に、王城の修復、女王即位の準備。他にも王国再建の仕事が山積みだ」

「大変だね。なにか手伝えることある?」

「ある」


 そう言ってロウナーは、真剣な目でアタシを正面から見つめた。


「この質問に正直に答えてくれ。……君はカナエ嬢じゃない。誰だ?」


 ***


『——はっ』


 爆心地みたいなクレーターの真ん中で、アシュラは目を覚ました。

 肉体は、綺麗に再生してある。

 もともと再生能力の高い魔族。核さえ復活させれば、そこまで大変じゃなかった。


「おはよう、アシュラ。何かアタシに言うことは?」


 アタシは魔王モードを解除して、けどボン吉の身体には入ったまま、アシュラの横であぐらをかいていた。


『……ご無礼を致しました』

「うん」

『完敗です』

「まさか、勝てると思った?」

『ボン吉の身体が相手であれば、チャンスはあったかと』

「あるわけないでしょ。アタシを誰だと思ってんの?」

『バルマリア陛下です』

「ラセツに、告げ口する?」

『告げ口……?』


 アタシはボン吉の指で、アシュラの魂から引っぺがした呪紋を摘まんで、見せた。


『それは?』

「あんたの魂にひっついてた。おかしいと思ったんだよね。いくらラセツの命令でも、あの闘神アシュラが人族の召喚に応じて命令に従う、なんてさ」

『これを、ラセツ様が己の魂に……?』

「あいつ何を考えてんの? 本気で異世界に逃げたアタシを捕まえて、怒る為だけにこんなことしてんのかな」

『怒るため、というか……ラセツ様も会いたいんですよ、陛下に』

「だから、怒るためでしょ?」

『いやそうじゃなくて……もしかして、本気でラセツ様の気持ちが分からないんですか?』

「分かるよ。アタシがテスラ・クラクトの魔族魔物をほっぽって、サリアと異世界に駆け落ちしたから怒ってるんでしょ? 無責任だって。ほら、あいつクソ真面目だから」


 アシュラは六本の腕で頭を抱えた。

 何やってんだコイツ。


『……ラセツ様が己にまでその呪紋をつけたのは、他者が信用できなくなったから、かもしれませんね』

「どういうこと?」

『それはもう、陛下に自覚してもらうしかありません』

「ん? ん? なんでアタシが? ごめん全然わかんない」

『……とにかくです。ラセツ様は己に、アルレシア王国に召喚されたら大暴れしろ、と命じました。そうしたら、陛下が現れるかもしれないと』

「んで? 実際に現れたワケだけど。そしたらラセツはどうしろって?」

『あとはラセツ様ご本人にまかせろ、と。てっきりすぐにラセツ様もお姿を現すと思っていましたが、気配もないですね』

「ああ、アタシと日々華が昨日、霊体バラバラにしたからね。再生に手間取ってるかも」

『ええっ? ど、どうしてそんなこと!?』

「隠してるんだよ、ラセツに! アタシがバルマリアだって! でもバレそうになったから、その、つい」

『つい、で仲間の霊体バラバラにしないで下さい』

「なんだよ! お前だってアタシと本気でバトッたくせに! 滅ぼすつもりだったんだろ? アタシのこと!」

『あれは戦闘種族の本能です』

「ずっりい! じゃアタシもそれで~」

『子どもですか』

「子どもだよ! 転生先の世界じゃまだ高校生! 大人になってないんだよっ!」

『ふっ……ははっ……あはははははっ……!』


 噴き出して、大笑いし始めたアシュラ。

 何が面白かったんだ


『あはははははっ……陛下は何も変わらない……それで、どうしますか?』

「どうって、なにが?」

『いいですよ。べつに、ラセツ様には黙っていても』

「マジで?」

『はい。ですが、条件があります』

「偉そうに。なんだよ」

『ワタセヒビカは、勇者サリアの転生ですね?』

「そうだよ。……なにちょっと。お前、日々華狙い?」

『まあ、そうなりますね』


 アタシは一瞬で全身に魔力をオーバーフローさせ、擬似アーティフィシャル魔王・バルマリア形態・モードに移行する。


「殺す」

『待って待って待って下さい! そういう意味じゃありませんっ! 今のワタセヒビカは、サリアではないじゃないですか!』

『あ? どういう意味だ』

『ただの娘に興味はないんです。己は、勇者サリアと再戦したい! だから、あの娘が勇者の力を取り戻した時に、戦わせてほしいんです!』

「……サリアと?」

『はい。己にも闘神としての意地がある。いくら勇者だったとしても、人族一人に負けっぱなしは許せないんです』


 ふーん……

 まあ、わからんでもない。

 最終的に日々華は誰にも負けるわけがないし、それにアシュラは、日々華をレベルアップさせるにはちょうどいい相手かもしれない。


「……オーケー、契約成立ね」

『ありがとうございます』

「うん、日々華がいい感じで強くなったら、呼び出すから」


 魔王モードを解いて、アタシはまたボン吉の姿に戻った。


「じゃあ、アタシはそろそろ、自分の身体に戻るね。頭の中でボン吉がうるさいんだ」

『わかりました。ああ、ではボン吉を少し、己に預けませんか? もう少し陛下のお役に立てるよう、鍛え直しておきます』

「おっ、頼んだ! ……あはは、ボン吉のヤツ悲鳴あげてる」


 アタシは、ボン吉と融合している〈怨霊合魔〉の解除を始める。

 ……なんかこの術でポンポンくっついたり離れたりしてるけど、べつに簡単じゃないからね?

 特に離れるのは、カフェオレをまたコーヒーとミルクに分けるくらい大変なのだ。

 ま、それを簡単にやっちゃうのが魔王アタシの凄いとこだけど。

 えーと、ちょいちょいと。


「あーそうだ。あのヅラ大臣が持ってた巻物スクロールを回収しとくから、それでアシュラまた呼ぶから、よろしくね~」

『ヅラ大臣? ……かしこまりました』

「あ、あと! アタシの転生した名前、香苗!黒崎香苗だから! 皆の前ではバルマリアとか陛下とかでは呼ばな——」


 プツン。

 アタシのボン吉を通した視界は、ブラックアウトした。


 ***


 ん?

 柔らかい。

 なんだ胸に当たるこの柔らかい感触は。

 こ、これはっ……女の子のっ……

 女の子のおっぱいだしかもでかい!うひゃーもしかしてこれ日々華待て違うこのサイズは違うアタシが日々華のバストサイズを間違うはずがない日々華はもう少し小ぶりでも形がいいそうサイズじゃないんだよ形なんだよ美乳最高あれ待ってほんとにこれ日々華じゃないじゃあ誰のおっぱい——


 目を覚ましたら。

 お城の前で多くの人達が見てる前で。

 ロウナーがアタシを抱きしめ、泣いていた。

 ど、ど……


「わかったよ。このことは、ワタシ一人の胸に留めておく」


 どういう状況ぉぉぉ〜ッ!?

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