17.魔王顕現(仮)っ!
『どうせやるなら、存分に愉しませてもらおう!』
ドゥンッ!
アシュラは闘気を爆発させ、元は会議場だった場所に散乱していた邪魔な机とか周囲の壁を、吹っ飛ばした。
ああ! さっき殺してまだ復活させてないオークとワーウルフの遺体まで!
いやいや待って!
ああ香苗の身体もーー!!
(あっ)
ロウナーが、兵士を数人連れて戻ってきてたっ!
様子を見ていたのか、吹っ飛びそうだったアタシの身体を回収して、また避難してくれてる! ナイスゥ!
「よっし! 行くぞッ、先手必勝ぉ!」
『はて、なんだボン吉その口調は』
「! ……参りますぞ、お師匠!」
アタシは地面を蹴って、アシュラの闘気をものともせずに特攻する!
わ、ボン吉の身体軽い!
パワーは無いけど、その分速くて鋭いぞ!
「初手から奥義でござるっ! 死滅・四界八転十六斬!!」
(拙者ござるなんて言いません!)
黙ってろいっけー!
『ぬううっ!!』
ギンギンギンギンギンギンギン!!
四本腕から繰り出す疾風怒涛の連続斬りッ!
しかもその内の一本は、霊体ラセツも撃退した災厄の魔剣ディザスター。
更にボン吉の魔力に魔王の魔力もブレンドして乗せてるから、鋭さのエンチャント+1000って感じィ!
『く、くおおお……ッ!』
ギンギンギンギンギンギンギン!!
アシュラは六本の黒刀で弾くのが精一杯、防戦一方だ。
よっしゃこのまま押し切るッ!
ギンギンギンギンギンギンギン!!
ザシュッ! ドゴォン! ドカバキィン!
何この音?
やばい、そうだここは脆弱な人族の居城。
アタシとアシュラの剣撃で発生する衝撃波に耐えられず、周りの壁も床も天井も、どんどん壊れて崩れてく!
あー! オークのオク村くんとワーウルフのワン田さんの遺体が、細切れに~!
後で治す! 治すから!
『く、さすが……だが負けぬ!』
ドゴォン!!
アシュラめ、さっきの何倍もの闘気爆発を!
足場は崩壊して、城の上部も崩れる。
アタシもバランスを崩して、連続斬りに隙が生じる!
(足腰弱えぞボン吉! 後でグラウンド百周な!)
(陛下ッ! 前、前ェッ!!)
アシュラが黒刀振りかぶってる!
『お覚悟をッ! 六惨・黒天十字、三連!!』
交差した十文字の斬撃が三つ、同時に飛んできたっ!
これ一撃の威力だけでもヤベエやつ!
(絶対魔障防壁・廉価版ッ!!)
アタシは咄嗟に、ボン吉の魔力で防御壁を編んで展開する。
ドンドンドンッ!!
ドゴォォン!
おわあッ!
思いっきり吹っ飛ばされて、アタシ(ボン吉)の身体は城を飛び出し城下町を越え遥か上空にっ!
「だから軽いんだよボン吉はぁッ! 肉喰え肉ぅ!」
(今そんなこと言ってる場合ではっ!)
げっ、アシュラが空中に闘気の足場を作って、蹴り上がって追ってきた!
空中疾走だ!
『その身体では飛翔できまいッ! 一方的に斬らせてもらう!』
わわ、落下中のアタシの周りに無数の闘気の足場が?
そうか、アシュラが三つある顔のうちの一つで、呪文を使って発生させてるんだ。
飛べないアタシをこれで囲んだってことは……
『奥義ッ! 六惨十二界二十四陣獄!!』
やっぱりぃ!
アシュラはその巨体でボン吉の周囲を跳び回って、三六〇度あらゆる角度から連撃を繰り出してきた!
ギンギンギンギンギンギンギン!!
攻守逆転、さっきと真逆でアタシが防戦一方だ!
しかも真下から斬り上げられるとき、防御ごと宙に押し上げられるから、いつまでも落下できずにボン吉の身体は、空中に磔状態っ!
ギンギンギンギンギンギンギン!!
これいつまで続くんだ……一撃でも防御ミスったら、ボン吉くんの骨々ボディなんて木っ端みじんだぞ。
バキィン!
げ、斬撃を防いでたボン吉の剣が一本折れた!
ちゃんと手入れしとけ馬鹿ぁ!
『さあッ、どうされる!?』
ギンギンギンギンギンギンギン!!
バキィン!
『ここからどうなさるおつもりか!?』
ギンギンギンギンギンギンギン!!
バキィン!
一本、また一本と砕けていく剣。
それにしても、うっせえなアシュラ。
どうなさるおつもりかって、魔王だとバレるわけにいかないんだから。
ボン吉の身体でも本気出すわけには……
……ん?
「……」
『反撃されぬなら、このまま滅ぼさせて頂くッ! 陛下ァ!!』
「てンめえええええええええええ!! この、クソアシュラぁぁぁぁっ!!」
ガシィ!!
アタシはボン吉の骨を魔力でしこたま強化して、アシュラの黒刀を素手で掴む!
『な!?』
「気づいてたんなら最初っから言ええええええええッ!!!」
そしてボン吉のキャパシティを超える魔力をオーバーフローさせて、擬似的に魔王の右腕を形成した!
バギィンッ!
アシュラの黒刀なんか簡単に握り潰せる!
『ヌゥッ!!』
別の角度から二条の剣閃、でも遅いんだよ!
左腕に魔力がオーバーフロー、形成された魔王の腕が握る魔剣の一振りは、二本の黒刀も硝子のように粉砕する!
ギャリギィィンッ!
「おらぁッ!」
魔力で今度は右脚を形成ッ、これが擬似アタシの肉体による——
「魔王キック!」
『ぐほぉッ!?』
横っ腹へ蹴りを食らわせて、アシュラの巨体がくの字に曲がる。
これで終わるか、左脚も顕現ッ! 思い切り高く上げてぇ——
「魔王かかと落としィィィ!!」
『がはぁッッ!?』
ドッゴォォン!
ふいー、地面に叩き落としてやったぜ。
瓦礫に埋もれてるアシュラ。
ふふん。アタシの正体に気づきながら、黙って揶揄いやがって。
報いを受けろ!
アタシは落下地点のすぐ横に、軽やかに降り立つ。
うわちょっ、アタシ、手足だけ昔の姿で格好悪……
『まだだぁぁぁぁッ!!』
咆哮とともに瓦礫が吹っ飛び、立ち上がったアシュラの闘気が爆発する!
しつけえ!
『六惨・一閃三連ェェン!!』
残った三本の黒刀によるアシュラの全力闘気斬りが、アタシに直撃した!
ゴォォォ……ン……!
『ハアッ、ハアッ……どうだ、バルマリア陛下ッ……!! 昔の己とは違うんだ、ラセツ様の元で、厳しい修行を続けてきたッ……いくら陛下でも、勇者に誑かされて異世界に流れていた貴女に、負けはしな……なっ!?』
爆煙が晴れて、アタシの姿を認めたアシュラは、絶句する。
「なめるなよ、アシュラ」
全身余すことなく魔力をオーバーフローさせたアタシは、擬似的とはいえ、かつての姿を完全に取り戻した。
この世界、テスラ・クラクトを恐怖の渦に叩き落とし、天上の神々に戦いを挑んだ魔性の存在を統べる者。
魔界の王、闇の魂魄を支配する絶対の覇者。
「我を侮った報いは、受けてもらおう」
『おお……バルマリア……陛下……』
アシュラの頬を光るものが一筋、流れて落ちた。
え、泣いてんの!?
いやいや、泣いても許さないから!
『……この僥倖、感謝します……いざ』
アシュラは魔力を振り絞り、折れた黒刀の三本を再生させる。
六刀流・六惨の構えだ。
『いざ、尋常にィッ!』
アタシは魔力を纏っていないボン吉の骨の腕二本を体内に収納。
擬似魔王形態で、魔剣ディザスターを構える。
「ああ、尋常に」
『勝負ッ!!』
アシュラは爆発を伴う踏み込み、もう瞬間移動と言ってよい速度で間合いを詰めてきて、六方向からの同時斬撃!
『六惨・瞬転殺——』
「遅い、六芒斬りッ!」
魔剣の一太刀で、アシュラの六刀すべてを弾き返した。
『なっ!?』
「らァッ!!」
隙だらけの胴体にヤクザキック!
アシュラの巨体は遥か後方、街外れの岩山まで一直線に砂埃を上げ吹っ飛ばされる。
『ぐっ……さすが』
「さすが、じゃないよ」
アタシは即座に追いつき、倒れたアシュラの直上に飛翔する。
そして。
「真上からっ、どーん!!」
『ゴバァッ!?』
ズドドドドドドッ!!
両足揃えてアシュラの胴体にストライク!
そのまま地中深くにめり込んでいくぅ!
「このまま土ン中でゆっくりおネンネ……させてやるほど、アタシは優しくねぇッ!」
アシュラの首根っこ掴んでぇ……
「お返しはたっぷりさせてもらうッ!!」
思いっきし真上にぶん投げる!
地面突き破ってアシュラの巨体は遥か上空に!
追っかけて飛翔ッ! たーのしー!
『く……お、奥義……』
ん?
空中に飛んだアタシを囲むように、また、アシュラの闘気の足場が複数出現する。
『六惨……十二界、二十四陣ご——』
「しゃらくさい」
アタシは全方位に威圧を放った。
この姿のアタシの威圧は、それだけで魔力を帯びた衝撃波だ。
バババリバリバリバリィィィン!!
アシュラの闘気壁は、すべて一瞬で破壊される。
『なんとっ……!?』
「アシュラ、お前の技はまだまだ未熟だ。アタシが手本を見せてやろう」
今度はアタシが、アシュラの周りを球状に囲む、魔障防壁を無数に展開する。
そう、彼が展開した闘気の足場のように。
ただし、数が違う。
『こ、これは』
ニィと笑って、アタシは魔剣ディザスターを構える。
「見せてやろう。これが真の〈六惨十二界二十四陣獄〉だ」
魔障防壁の結界内で跳躍を繰り返し、アタシは全方向からの連撃を繰り出したッ!
魔界の剣技、その真骨頂を見せてあげる!
ギンギンギンッ!
『負けぬ! 腕の数が違——なッ!?』
「違うから何だってぇ?」
バキィン! ギャリィンッ! パァン!
防御した黒刀ごと、アタシの斬撃はアシュラの肉体を斬り刻む!
『な、グッ』
バキィン! ザシュ!!
『グアアッ!?』
ギャリィンズバァン!
そーれ微塵切りだぁー!
『ぐぬぅ……だが、己には無限の再生力があるッ! 如何に陛下とてッ……!』
「おお」
確かに。
腕を、脚を斬り飛ばして、胴体を両断してなんなら首を刎ねても、アシュラは即座に再生してくる。
『勇者の宝剣……いや、陛下の愛剣シュバルツェンレイカーならば違ったでしょうがッ!』
確かに魔剣ディザスター程度じゃあ、再生能力を抑えることはできないみたいだ。
『己を滅ぼすことはできませぬ! 陛下の魔力が尽きた時が、己の勝機!!』
身体を刻まれながら器用にベラベラ喋るなアシュラ。
かわいいなあ。
「アタシの魔力が尽きるって……」
アタシは魔障防壁の結界内を跳び回る速度を上げる。
『ク……!』
「何万年でも斬り刻み続けてやるけど、さ」
『う……うううっ……!?』
速度を上げる。
速く、疾く、速く。
アタシの剣閃は魔力の残照を輝かせ、球状の結界を闇色の光で満たしていく。
「悪いけど、そこまでアンタに付き合ってやるほど暇じゃないんだよねッ」
『うおぁあああ——ッ!?』
アシュラはもう、叫ぶこともできない。
闘神の身体は細断されていく。
肉片の一片すら塵と化し、その塵すらも刻んでいく。
そして、見えた——お前の核ッ!
「アタシの勝ちだ」
アシュラ、その魔族の命の源である核を、魔剣ディザスターが斬り裂き砕く。
——アルレシア王都郊外の上空で起きた爆発は、はるか遠くまでその音を轟かせた。